第二十八話『僕のボク』
目を覚ますと、やたらファンシーな部屋にいた。
自分だけがその部屋で浮いていて、なぜこんなところで寝ているのか疑問だ。
それでも、頭がクリアになっていく内にすべてを思い出して、僕の体は動かなくなってしまう、ここが誰の部屋か思い出してしまったのだ。ここは咲の部屋だった。そしてそう思うと、僕の体は緊張なのか、何なのか、言うことを聞かなくなった。
そのことと、未だに赤い僕の顔が、彼女が特別な存在になってしまっていることを証明していた。
なんとなく気づいていたのに、十二才にの姿をした少女に心を傾ける自分を僕は異常だと思った、いや思おうとしていた。とにかく僕は、無理やりになにかをごまかそうとしていた。
結果だけを言うなら、ゲームのリセットボタンを押すように、僕は頭をふるふると振って、考えることを放棄した。本当はもっと深く考えるべきことだった、僕のためにも彼女のためにも。しかし、その時は急いで考えるべきことがあって、それを言い訳にしてしまった。
言い訳にしたのは、一つの問い。その問いは初めから答えが決まっていて、その答えをどう選ぶかすら決まっていた。なのに未だ、考えるべき問いだった。
僕の選ぶ答えは、『望んで』彼女と共に暮らすこと。『望んだ』理由は邪なものではなく、しっかりとしたものだった、なのに彼女に言いだす決心がつかない。僕が考えるべきはそのことだった。
いくら考えても何が足りないのか分からず、気付くと何かを確かめるように、『望んだ』理由に辿り着いた昨日の夜のできごとに意識を飛ばしていた。
始まりは、寝ている僕の頭に響いた誰かの声、その声は意地悪そうな響き持っていて、なぜか自分の声に似ていた。
「オマエハ彼女ヲスキナノカ?」
「嫌いでは……ない」
「チガウ。俺ガ聞イテルノハ、ソウジャナイ」
「なら何を聞いているんだ?」
「オマエハ、何ヲ聞イテイルトオモウ? ワカッテイルンダロウ? 俺ガ誰デ何ヲ聞イテイルノカ」
「……」
「ナライイ。ナラ流ハドウダ? 咲ト共ニ生キテ、流ハホッタラカシカ?」
「どうして流なんだ、あいつは今関係ないだろ」
「ソウカ、本当ニソウナンダナ? 本当ニ関係ナイナラ、ソレモイイ」
「一体何が言いたい? 俺はお前なんて知らないし、あいつは本当に関係ない」
「ソウ思イタイダケダロウ? タダ、コノママジャオマエニハ何モ守レナイ。オマエニハ理由ガ足リナインダ。ナゼ咲ト暮ラシ、ナゼ流ニ触レヨウトシナイノカ。オマエハ知ッテイルハズダ、彼女ノ『危ウサ』モ『奥ニ持ツモノ』モ。ソレナノニナゼ、ナゼ、ナゼ、ナze、naze、naze……」
「違う! 流には触れないんじゃない、俺がまだあいつに相応しくない、それだけだ。それに流が持つものや、お前についても知らなくとも、あいつが大切な奴だってことくらいはもう気づいてる、もうあいつを裏切らないし、もう泣かせてもやらない。咲と暮らすのは、彼女も同じだけ大切だからだ。俺が咲と暮らすのは、自分を守るためじゃない、咲を守るためだ」
「ホウ、全テヲ忘レタ訳デハナイノダナ。ソウダ、オマエハ、アイツニハ相応ワシクナイ。ダガ、ソレデモ両方ガ危ナイ時ニ、オマエハ近クニイル咲ヲ守ルノダロウ?」
「……それも違う。どちらも守ってみせる」
言い終わってやっと気づいた、僕が何を守りたくて、どうしたいのか。
しかし気付かなかったこともあった、それは自分が辿り着いたその答えがもっとも険しくて、チカラを持つものしか選ぶことのできない答えだということ。
初めて辿り着いた大きな選択に、自分が大きくなった気がした。
そこまでが昨日の夜、眠りについてからの夢か現実かわからない、どこかの話。
なのになぜ言い出す決心がつかないのか? 思い返した今では簡単なことだった。
守ると誓ったのにチカラが足りないのだ、だから言いだせない。
僕は『エンプティ』、今はまだ、ただの空っぽでチカラはない、それでは決心はつかないはずだ。でも今は決心を、前借りをしてでもつけなくてはならなかった。
そして僕は気付く。それなら空っぽのところを、咲と流、守りたいものを全て、守れるチカラで埋めてしまおうと。何もないなら、どんなものでも置くことできる、そう信じることが今ならできた。
チカラを手に入れるという約束を、言い出す決心に変えて、僕は今日を始めるべく立ち上がった。
お世話になった布団を丁寧に畳み、部屋を後にする。廊下に出るといくつかの扉と下への階段がある。どちらも初めて見る光景だ、意識のないときに運ばれたのだから当然なのだが、とにかくどこへ行けばいいかは分からない。なんとなく勝手に扉を開けるのは悪い気がして、消去法的に階段を降りた。
「初めて言うけど、スキャナは大丈夫よね?」
階段を降りてすぐの扉から元気そうな咲の声が聞こえた。どうも咲を探して、右往左往する必要はなくなったみたいだ。
「おっけーおっけー。No problem」
やたら英語の発音のいい声はスキャナのようだ、こんな朝早くから来ているのか、それより日本語に比べて英語の発音が良すぎないか。
疑問を頭に浮かべつつ、声の聞こえてくるドアを開く。
部屋には大きなテーブルがあり、そこには二人の女性がいた。そのうち銀髪の方はドアに背を向けて、もう一人は銀髪に向かい合うように座って、朝食を食べていた。
「ん、おはよう、読人」
目が合うと、咲は満面の笑みで挨拶をくれる。
「おっおう、おはよう」
見えない銃で心を撃たれつつも何とか挨拶を返した。
やっと僕に気づいただろう銀髪が、体を捻って顔をこちらに向ける、口には半分の大きさのトーストが挟まっている。
「スキャナもおはよう。朝早いんだな、ここら辺に住んでいるのか? まだ始発も動いてないだろ」
どう見積もっても車を運転できるようには見えない。
「ん、ごっくん。うん、おっはー。えっとねー、わたしもここにすんでるんだよ」
「ここ?」
すごい嫌な予感がする。
「あれ言ってなかっかしら? スキャナもここに住んでいるのよ、やったね、両手に花よ」
そう言って咲が笑う。わざと黙っていたとしか思えない……。
まあ確かに二つとも綺麗な花だけど、一つは銀で、一つは青の花だろうなとか思ったけど。
でもその前に倫理的にまずくないか? いやでも二人とも自分のことを毛ほどにも思ってはいないだろうし、変な心配はいらないとは思うけど。
そのとき僕は、そんな鈍感で的外れなことを思っていた。
今現在深夜一時です。なんとか書きましたがもう眠たくてなんかよくわかんない状況です。ちなみに明日テストなんで、もう寝ようと思います。それでは次話をお楽しみに。
全くあとがきらしくなくすいません。