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第二十六話『補完』

 リリリリリ……

 安っぽい長机の上で携帯電話が音をまき散らし、震えた。

 画面にはタイムと、大よそ人の名前には思えないような単語が表示されている。

 机の前で足を組んでいた男が、ゆっくりと手を伸ばす。六畳くらいのその部屋にはその男ひとりしかいない。ゴツゴツとした大きな手がそれをむんずとつかむと、ピッと一声鳴いて静かになった。

「もしもし……、ああ、ソニックだ」かけてきた相手と同じく、あからさまに偽名とわかる名前でその男は電話に出た、男は筋肉質で、まるで兵隊のような体型をしている、当然、ヘルメットや迷彩服などは着ていない、代わりに真っ黒な服で身を固めていた。

「サミュエル・ウェラー? 誰だ、そいつ」

 ソニックと名乗る男は不機嫌そうな顔を浮かべる。

「ああ、トランプ使いか……で、そいつがどうかしたか」

 その男について、いくつか頭に浮かんだ。殺人狂の元軍人。変態のゲス野郎。

 ソニックは二年ほど前に彼と戦い瀕死の重傷をおっていた。いまでも太ももにはナイフでの刺し傷がくっきり残っていて、男の名を聞くたびズキズキ痛む。いくつかの痛みと共に戦闘の記憶も帰ってくる

 能力レベルBマイナス、戦闘レベルAマイナスかだったか。

「……ああ、なんでもない、それでそのクソヤローがどうかしたかよ?」

 ソニックの目には憎悪の火が灯っていた。

「んあ、捕まえただとお前がか?」

「そうか、お前んとこの新人が……」

 ソニックは楽しそうに笑った。

「それで俺にどうしろと?」

「……ほうそういうことか、ならいいだろう。すぐに行く、俺が着くまで適当に男を見張っておいてくれ」

 そう言うと男は颯爽と立ち上がった。

 

ソニックは白い建物から出て、黒いバンに乗りエンジンをかける。白い建物は小さいアパート並みの大きさで、ゲートには中国式気功研究所とあまりに胡散臭い名が打たれていた。

 それが丸っきりの嘘だと知っているソニックは、笑う代わりに鼻をふんと鳴らした。

 車を止めゲートにカードを通す。がこんとゲートが開き、車はすでに暗い道を公園に向かって走り始めた。

 

漣公園と書かれた柱を確認して、車を道路に寄せて止める。車から出ると冷たい風が吹いた。入口には何かを引きずった跡が二つある、ひとつはタイムがトランプ使いを運んだものだろう、だがもう一つは……? 怪しく思いながらその不気味な跡を辿る、すこし歩くと手を振る少女の姿が見えた。

「こっちこっち」

 少女の足元には、昔自分が捕まえ損ねた男が白目をむいて倒れ、となりのベンチには青年が寝かされていた。

「早くFOEを掛けて、持ってきているのでしょう?」

 近づくと少女は偉そうに言った。彼女が上司である以上、しぶしぶと従う。ベルトにぶら下げたポーチに手を突っ込み、普通より一回り大きな手錠を取り出す。それを、地面に転がった男に掛けた。その手錠には超越者のチカラをある程度封じる効果があるらしい。

「これで一安心ね……」

 少女は張り詰めた空気を解いて、地面にへたり込む。

「ありがとう、ソニック」

「構わん……それよりタイム、トランプ使いを倒したのはこいつか?」

 地面に倒れている少年をソニックは指差した。

「そうよ……エンプティ、一応未確認物質(メンバー)よ」

「こいつを倒すだけのチカラってことは、『次元』が発現してから長いのか? こいつは、そう甘い敵ではないからな」

 タイムは少しだけ考えるような仕草を見せると、

「先週――まだたった一週間よ」

 とため息をつくように言った。

「そうか、一週間か」

 ソニックが初めて嬉しそうな顔を浮かべた。

「『戦闘班』には渡さないからね」

 タイムが目を細めた。『戦闘班』とは未確認物資内における自治組織を意味する。

「それは彼が考えることだろう。それで彼の『個人』は? それくらいは質問してもいいのだろう?」

 悩むようにタイムは首をかしげると、しぶしぶ一言だけ漏らした。

「……彼に『個人』はない」

「まだわからないということか? それならスキャナにでも見てもらうといい、お前が呼べばすぐに来てくれるだろう?」

 ソニックが嬉しそうにシニカルに笑う。

「そんな意味じゃないわよ、そのまま、そのままの意味よ。スキャナにも見てもらったけど、彼には本当に『個人』がないのよ」

 ソニックは目を見開き、しばしの沈黙の後、口を開いた。

「ほう……それは珍しい。『個人』のない超越者か」

「でしょうね。でも彼のことは私に任せて、然るべき時には組織に報告するから」

「――いいだろう」

 しかし彼は気づいた、彼女の言動と現実との矛盾点に。

「……ならどうやって」

「何がよ?」

タイムは「もう譲らない」そんな意思を瞳に映していた。

「どうして生きている? お前の力では無理だろう……お前の能力がSランクなのは操るものが時間であるからであって、お前の『個人』自体はほとんど無力なはず、そうだろう?」

 追い詰めるつもりでソニックはまくしたてる。

「さあわからない」

 しかし、タイムはそれ以上言うつもりはないと、口を閉ざしてソニックから少年へと視線を移した。

「言うつもりはないか……。いいだろう、今は聞かないでおいてやる。それでそいつをこれからどうするんだ、そこにほっておくわけにもいかないだろう」

 ソニックの顔に心配という様子はまるでなかった。

「私の家で面倒をみるわ」

「そうか。それならお前の家までは運んでやろう」 

「あら……それはどうも。それなら、お言葉に甘えましょうか」

 ソニックは二人の男を両肩に担ぐと車に向けて歩き始めた。その後ろには少女が続いていた。

 

 ブロロロ

 タイムの家に少年を運びいれ、ソニックは今、未確認物質の本部に向かっていた。

 車は山道を走っている。道は森に挟まれて、進むほど森が濃くなった。

 変化の無い道をただただ走る、このまま山道を抜けると本部がある。

 もうすぐ着くと気を抜いたときに、急に木の隙間から何か黒い物体が飛んできた。それはあまりに突然で、避けることもできず、そのまま衝突した。

 ガンと音がしてフロントガラスに大きなひびが入り、突発的にブレーキを踏む。タイヤから煙をあげて、車は急停止した。

 ドアを開いて外に出た数秒後、ドンと大砲のような音が響いて、車が爆発し、熱い風と衝撃が吹きぬけた。頭を手で囲い、しゃがみ込んで熱から身を守った。

 体を起こしたときには、黒い車はもうスクラップだった、中にいたトランプ使いもあの燃えている車の残骸の中で生きてはいないだろう。

 残骸を見下ろしていると、何かがカツカツと歩いてきた。その何かは事故の原因だった。

「よく生きていたわね」

 明らかにボイスチェンジャーを使用している、女性の声。

「……お前は?」

 見上げると、そこには眼の部分を丸く、口の部分を薄い三日月形にくり抜かれた真っ白な仮面があった。

「ウェイブっていえば分かるかしら……」

 腕を組み、そいつは何でもないように立っていた。

「お前――本当に……居たのか」

「今、目の前に居るでしょう」

 三日月を通して見える口元がにやりと歪んだ。

 ソニックは噤んだ口を開く。

「……なぜ、仲間に手をかけた?」

 ソニックの目に青い炎が灯った、それはほんの一瞬のことだった。

「いろいろ話されると迷惑だから、まあ私からすればどうでもいいんだけどね、命令よ、命令、組織のね。ま、冥土の土産に教えてあげる、あいつは私の逆鱗に触れたのよ、気付かぬ内にだろうけどね」

 仮面の奥の瞳がきゅっと小さくなり、最強の超越者は動き始めた。

 

 三十秒後、そこには二つの死体が転がっていた。片方は真っ黒に焦げていたが、もう片方に外傷はなかった。

今回は読人が意識を失っている間の補完部分です。

いろいろ新たな言葉が出てきているので説明文みたくなってしまったことに少し反省です。また書き直すかもです。

※内容をいじったりはしないのでご安心を。あくまでもいじるのは書き方描写だけです。

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