第二十一話『失われた環』
「ごめんねえ。こんな遅くまで付き合わせちゃって」
咲は殊勝なようにみえるが、咲の目には深く「気にしないでよ」と映りこんでいた。
僕は黙って歩き続ける。日も暮れて、通りには誰もいない。高校生? と小学生? の二人組かつ真っ暗な状況は、かなりの不自然さで犯罪のニオイがプンプンがしていた。警察に見つかれば補導は確定かもしれない。
さてさてそんなことより、今僕の両手には、大きな紙袋が二つある。
『大きな』が『二つ』である。ちなみに袋の中には咲の日用品だったり、咲の趣味の品だったり、咲の――だったり、――だったりが入っている。全て喫茶店を出た後に咲が購入したものだから、僕は荷物持ちをさせられているわけだ。
スキャンはこうなることを見越して断ったのだろうか、彼女のことだから確信はないのだが。
とにかく、荷物が重い。例えるならアトラス? しかも咲自身、小さい身体に限界というほどの荷物を持っているので、身体の大きな僕は文句も言えず軽い板ばさみ状態だ。精一杯平静を装ってはいるが、けっこう瀬戸際だった。腕はもうプルプルし始めている。
「ねえ、すこし休まない?」
声を出す余裕すらなくなっていた僕は、ただうなずいて、ふらふらと公園のベンチへ向かい、すぐにベンチに腰掛けた。腕をぷらぷら振っていると、
「読人、ちょっと荷物見てて」
そう言って咲は荷物をベンチに並べ、さっさと公園の外へと歩いていってしまった。どうしたのだろうと思ったが、荷物も置いたままで置いて行かれることもないと、ベンチに座って咲を待っていた。なんとなく手持ち無沙汰になって辺りを漠然と見渡す、ジャングルジムに滑り台に鉄棒、それに砂場、子供は時間帯もあり、ひとりもいない。
「ふあーあ、咲は何してんだろ?」
ケータイを見るともう七時を過ぎていた。
不意に夢の光景がフラッシュバックする。夢に見た公園が今自分のいる場所だと、急に気づいた。ここが? 確かに既視感はあった。しかし、それはこの公園の近くを何度も通ったからだと思っていた、でもそれは違っていたらしい。
でも、どうして、いつ? 答えは出ない。
「ひゃあ」
頬になにか熱いものが当たる。顔を上げると、咲が缶の紅茶を二本持って、にやにやとこっちを見ていた、素っ頓狂な声を上げてしまった自分が恥ずかしい。
「まだ家まで半分、寝るにはまだ早いわよ。それは今日付き合ってくれたお礼」咲は缶の紅茶を僕の手においた。
「まだ半分かあ、ふああ」
僕は背を伸ばす。
「今日は楽しかった。ぜーったいにまた一緒に行きましょう」咲が見た目相応に見えた、もしかしたら、それが本当の彼女なのかもしれない、僕は大きく頷いた。
「そろそろ行くか」
咲が飲み終わった頃を見計らって、僕は立ち上がる。咲も荷物を見て、うんざりしながら、立ち上がり荷物を手に持った。
「初めまして、我が女神」
後ろから聞こえた声に驚いて振り向くと、スーツ姿の金髪の男が立っていた。真っ白な肌が暗闇に不気味に浮かび上がり、髪は長い、鼻は高く、顔は美形で、背はスラリと高い。しかし、それでも男がカッコイイとどうしても思えなかった。目が腐った魚のように濁っていた。
「何が『マイゴッデス』よ。その呼び方、貴方、失われた環でしょう?」
咲は嘲笑う。何が咲をそうさせるのか僕にはわからないが、ミッシングリンク、その言葉を聞いた男が眉はピクリと動かした。
「ご名答。ならば」
男は端整な顔を不気味に歪めて笑う。その顔は、男が敵であることを高々と宣言していた。咲は僕へ一度だけ目配せをする。
僕は自分にできることを考え、『共通』発動させて男を見た、オーラは『白く』、男は超越者だった。つまり共通しか使えない僕にできることは何もない、ならば逃げるしかない。咲の行動を息を潜めて待った。
ドクドクドクと心臓が高鳴り、鼓動はどんどん速く強くなる。そして最高潮まで達した時、咲は公園の外に向かって走り出した。僕もそれに続くように走り出す。
「くくく、逃げろ、逃げろ」
男は追いかける素振りも見せず、ポケットに手を突っ込み、トランプの束を取り出して、悠長にシャッフルしていた。
そして、裏向けのまま五枚カードを引き、一枚を選び表に向ける。
カードは『ハートのエース』。男はニンマリと笑うと、カードを破り捨て、事実として目に見えぬ早さで消えた。破り捨てられたカードは燃えあがり、地面につくことはなかった。
後ろをちらちらと見ながら走る。しかし男が追って来る気配はない、巻けたのだろうか。
それでも咲があまりに無心に走り続けるので、僕も走った。スピードは落とさない、相手は超越者だ、気は抜けない。しかし頭の隅ではどこかわくわくしていた。そんな気持ちもも、すぐに途切れた。それは公園の出口にある『漣公園』と書かれた柱を見たから、当然柱のせいではない。そこに、もたれていた男、そいつに驚いたのだ。
その男は後ろにいるはずの金髪の男、そいつは暇そうにトランプをいじくっていた。
少し間が開いてしまいましたが、久しぶりの投稿でした。久しぶりの投稿でキャラクターの性格が変わってないか心配です。
変なところがあったらどんどん言ってきてください。参考にさせてもらいます。