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第十九話『共通点』

「これくらいかな、私が貴方に今話したいのは。それにもう目的地に着くしね」

 デパートの頭が小さく見えていた。

「ん?どうしたの。変な顔して」

 咲が僕を見上げる。僕と咲の身長差は約六十センチ、自然と咲は上目遣いになり、僕は変な顔に。どうして上目遣いって、こんなに破壊力を持っているんだろうか。哲学的な質問は尽きない。咲はそんな僕をじとーっと見ていた。

「俺は大人、大人……」

 頭をぶんぶんと振った。僕の中でモラルとかが、倫理観を争って戦っている。咲が上目遣いでこっちを見ているかぎり、モラルの勝ち目は薄そうだ。

「でも本当は二十二歳だし……大丈夫なのかも」

 だんだん問題無いような気がしてきた。大丈夫なのかな、僕。……大丈夫だよな、僕。

「どうしたの?さっきより変な顔ひどくなってるわよ」

 咲は不思議そうに首を傾げる。

「ううん、なんでもない、なんでもない」

「ふーん」

 正直に変な顔になった理由を言うべきなのか、当然父についての理由を。自分がどんどん無表情になっていく。元の人相が良くないこともあいまって、そこいらの不良よりよほど恐い表情になっているだろう。そして咲の顔をじろりと眺めていた。

 ゆっくりと覚悟を決める。

「もしかしたら、気づいているかもしれないけど……」

 デパートの入り口が近づいて、僕は歩を止めた。どうせなら、その人の『結末』も含めてしっかりと聞いてほしい。

「なに?恐い顔して。あっ変な顔の理由教えてくれるのかしら?」

 咲も足を止める。

「うーん、じゃあ中に入ったら、喫茶に入らないか? そこで話すから」

「そうね、なら早く行きましょう。膳は急げよ」

 少女はいそいそと再び歩きはじめた。

 

 喫茶は満席だった。僕はカウンターの紙に名前を書きつけ、席待ちのためにおいてあるだろう椅子に腰を落ち着ける。

「なんかどきどきするな」

 僕はそわそわと指でリズムを取っていた。

「そうかしら? もしかして私と一緒だから?」

 あからさまに冗談だとわかる調子だったが、半分は的を射ていた。このシチュエーションでは仕方ない、喫茶店にこんな形で来るのははじめてだ、何より咲の整った顔立ちに、見た目よりいくつも大人びた振る舞い、少女なのに女性らしすぎる。実年齢二十二歳なのだからしかたないことではあるのだが。

 だらだらと考えを巡らせている間に、一組のカップルが店から出てきた。

 続いて出てきた店員がカウンターの紙を見て、きょろきょろと回りを見る。

「2名でお待ちのカザミ様、カザミ様」

 僕は軽く手を上げて立ち上がる。

「席の準備ができましたので御案内いたします」

 店員の男性は僕の方へ来ると、一緒にいた咲を見て、表情を曇らせた。しかし、僕がジロリと睨むと、何も言わず席へと案内をはじめた。

 咲は何も気づいていないようだ。気づかないほうがいいこともある、特にそれが無駄に人を傷付けるのなら。僕はその点にかけては敏感だと自負している。その理由を知っているのは流ひとりだった、――今日までは。

 

 案内された席に僕と咲は向かい合って座わる。

 コーヒーを2つだけ頼み、店員が行ったことを確認してから、僕は話はじめた。

「そんなに期待しても、たいしたことはないよ……。話す前から気付いているかもしんないし」

「いいわよ、いいわよ。もったいぶらないで、早く言って」

「うん、咲の話に細長い男……出てきたよね?」

「守のこと?」

「そう……そいつ。そいつ、俺の父さんなんだ。苗字一緒だから気づいてただろうけど……」

「世の中って思うより狭いのね、まさかとは思ったけど、そんなあまりにも低い確率、偶然苗字が一緒だとしか思わなかった……」咲は懐かしそうに空を仰いだ。

「守さんは今でも元気?名刺にあった番号に電話しても、もう使われてなかったから」

 咲は思いだしたように僕に尋ねる。

「……」

 僕は俯いてじっとしていた。――このままではダメだとわかっていたけど、動けなかった。

「どうしたの? 守さん病気とか?」

 咲は表情を曇らせる。

「はは……」

 僕は乾いた笑い声を上げた。病気だったら……。そんな思いが僕にはあった。

「父さんは、僕が8歳だったかな。それぐらいの時に……」

 一度、視線を下に落とし、再び咲の顔に視線を戻す。

「――死んだんだ」

 

「……ごめん」

 咲はただただ俯いた。

「気にするなよ。写真でしか見たことないし、気づいたときにはいなかったしな」

 嘘を付いた。顔写真でしか見た事ないことは本当。でも、いないという実感は心の深いところにあった。ただそれを表に出さないだけ、それだけだ。

「聞いてもいいのかな。……言いたくないなら、言わなくてもいいのよ。守さんはどうして亡くなったのかなって。それに気づいた時にはいなかったってのも――どうして?」

「交通事故だったんだよ」

 苦いようなそんな感情が浮かんで消える。

「……僕以外は皆死んだ。母さんも父さんも」

 淋しさが込み上げてくる。

「それだけじゃなくて、そのときに僕は……」

 ぐっと歯に力がこもった。

「記憶を失くしたんだよ」

 窓に映る僕は、どこまでも無表情だった。

 僕がこの話をしたのは二人目。それはできるかぎり避けるよう努力してきたから。だれにも話すつもりはなかった。どうして咲には話してしまったのだろう?答えは神のみぞ知る、そんなわけ無い。きっと僕自身のなかに答えはある。

 

「……ごめん」

 同じセリフを言って咲はまた俯く。

「謝らないで」

 咲の目を見て僕は言う。

「君は僕に……自分の過去を知ってほしいと、そう言ってくれたんだから」

 僕は歪な笑顔を浮かべた。咲はなぜか頬を染めていたが、急にひらめいたように表情を変える。

 

 店員が僕の前に置いたコーヒーを、僕はぐいと一口飲んで咲を見る。

 咲は目の前の様子を全く気にも止めず、自分の世界にもぐってしまっていた。

最近自動車学校通ってて疲労が半端ないです。

そのため次話投稿は遅くなりそうな予感です。

大学入学式までに免許とれない気がします。

ちなみに教官に長いこと、この仕事やっとるけどここまで下手なんは久しぶりやと言われました。

めっさへこみました。


今回は久しぶりに読人視点に戻りました。

ブランクで読人の性格変わってしまってないかいな と疑問が込み上げてきますが。知らない振りします。

それではまた次話で会いましょう。


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