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第十八話『残酷な現実』咲編

 目を開くと、真っ白な天井が見えた。

 咲は自分の存在を確認するように、自分の体を手でなぞっていた。

 自分の体に付いた沢山の電極に違和感を覚える。なぜ、こんなものが自分の体に張り付いているのだろう?それが電極であるとは、幼い咲には分からなかったが、これが張り付いている自分が普通の状態でないことは、なんとなく理解できた。

 それ以外には自分の体に変わった様子がないことが分かると、ここはどこなのか、そんな疑問に囚われ、咲は体を起こし、回りを見た。

 部屋にある家具はベッドが一つだけで、あとは何もない。それ以外には白い壁にドアが一つ付いているだけだった。やたらと白い壁が、自然と咲に病院を連想させた。

 咲はじっとしていられなくなり、ベッドから下りドアを開けようと試みた、開かなかったが、それでもがたがたとゆすっていた。

 ガラッ

 急にドアが開く。

「うわっ」

 咲はドアの動きに合わせてに壁の方へ倒れた。

 勢いを殺せないまま壁が近づいてきて、ぶつかると思って、覚悟して目を閉じた。

「……あれ?」

「何をしているんです?」

 全体に細長いイメージのする男だった。咲が壁にぶつからなかったのは彼が受け止めたかららしい。白衣を纏い、白髪交じりの髪は少しウェーブが掛かっていて、細長い顔には細いメガネがかけてあった。

 その男に咲は、不思議とあまり嫌な印象を持たなかった。なによりも瞳から彼の人柄を感じた。しかし、彼の表情は険しかった。男はつかつかと咲に近づいてくる。

「ベッドに座ってもらえますか?」

 淡々と事務作業のようにそう告げる。

 男に従って、咲はベッドに腰掛けた。

「では初めに、私は風見守(まもる)です。以後お見知りおきを」

 守は軽く頭を下げた。

「貴方が時宮咲ですね。勝手ながら、調べさせてもらいました。それで……貴方は自分が何をしたか」

 守は細い目を一層細くする。

「――それを理解していますか?」

 守は今までよりも低い声で尋ねた。

 返答はなかったが、咲の表情は全てを物語っていた。

「知らない……様ですね」

 守は肩をなでおろした。。

「それはそれで、貴方は大きな傷を負ってしまうのですが…」

 守の顔は険しいものから、とても優しいものに代わっていた。

「それより、ここはどこ?」

 咲はいまいち、状況の深刻さを把握していなかった。

「先に言っておくべきでしたね。ここは超常研究所隔離棟と呼ばれるところです。たぶん分かりませんよね、ここ、一応国家機密ですし」

 守は笑ってみせる。

「それよりも、貴方にはもっと受け入れなければならない大切なことがあるんです」

 再び険しい顔に戻った。咲は表情のころころと変わる男だなと思い、またそれが自分の父に似ていると思った。

「貴方の『個人』も安定しているみたいですし、きっともう大丈夫でしょう」

 守はいきなり立ち上がる。

「ついて来てもらえますか? すべてを説明しましょう」

 彼は顔を伏せた。

「ただし、幼い貴方には到底信じられるものではないかもしれない。もしかしたら私はまだ、貴方に教えるべきではないかもしれない。でも、私の心のどこかは、貴方に知らせるべきだと言っている。だからついて来てください」

 そうして歩き出した。

 真っ白な廊下を、目的地目指して。

 上がったり下がったり、咲は自分がどこにいるのか、すぐにわからなくなった、もとより大きな意味で言えば、初めから自分がどこにいるのかわかってはいないのだけれど。廊下を歩き続けて、10分くらい経ったころだろうか、ふいに守が振り返って、咲を見た。

「ここです」

 そこには『特別処置室』と書かれてあった。当然まだ幼い咲には、読めなかったが、手術室のようだと咲は思った。

「では中に入りますよ」

 心配しているような、不安なような、それらが全て混じったような、そんな表情を、守は顔に貼り付けていた。

 プシュー

 守がカードを通すと自動でドアが開いた。

 そこには二人の人物がいて、二人とも咲のよく知る人物だった。

 それは自分の両親だった。

 父は靴を脱ごうとしたまま、母は電話を片手に持ったまま。まるで、銅像のように固まってしまっていた。咲は悪い冗談を聞かされたような、そんな気分だった。

「残念ながら、それは二人ともご本人です」

 守は残酷だとわかりながら、咲に現実を告げる。

 動けなくなった咲の頬に、涙がつーと流れた。

 その部屋で時を刻むのは涙の流れだけだった。

 

 咲の涙が止まったころ、守は咲につぶやいた。

「貴方の両親は死んでいません。ただ時が止まっている状態です。これを元に戻すことは、ほとんど不可能です。ただし貴方ならできるかもしれない。なぜなら時を止めたのも、貴方だからです」

 現実を突きつけた守自身、傷ついていた。

「貴方のチカラは特別なものですが、貴方一人だけのものではありません。私のいる『この組織』も、そのチカラを解明することを目的としています。貴方は『ここ』で、当分過ごすことになるでしょう。しかし嘆いてはいけません。貴方にはまだ可能性がある」

 守は笑顔で締めくくって、咲に一枚の紙を突き出す。

「これは私の名刺です。今話した内容は、幼い貴方にはまだ難しいかもしれません。要するに希望を捨てるな、私はそう言いたい。もし何か困ったら、私にいつでも連絡してください。力になります」

 言い終わると、守は部屋の外から、研究員を呼び咲にその人に付いて行くように促した。

 

 その後、咲は『未確認物質』で暮らすことになる。

 組織には同じような境遇の者も多く、中にはその後、咲と深い関係を持つことになるスキャナもいた。彼らのための施設も多くあり、生活としては悪くなかった。

 組織は、彼女に養女になるという選択肢も与えた。

 しかし彼女はそれを拒み、組織の一員になることを選んだ。

 それは両親を救うため……

 

 

 組織がなぜ、超越者に手を尽くすのか、咲は疑問に思い、それを知る。

 でもそれはまた別のお話。

これで一応咲編は一応終了です。

次話からは読人視点に戻ります。しかしまた隙を見つけては咲またはスキャナの昔話も入れていこうと思います。

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