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第十五話『サキとサク』咲編

 咲はその日いつもより元気よく家を飛び出した。

 待ち合わせ場所に集まってから、上級生とともに学校へ向かう。それが咲の通う小学校のルールだった。待ち合わせ場所には、もうちらほらと生徒の姿が見えはじめていた。

「おはよー」

 咲が待ちあわせ場所に駆けていく。

「あっ咲ちゃん、おはよー」

 一人のおっとりとした少女が返事を返した。

「おっ(さく)ちゃん。いつも早いね」

 咲は朔の肩をポンポンと叩いた。

「どっちかというと、いつも咲ちゃんが遅いんじゃないの?」

 朔は純真な瞳を咲に向ける。

「だって朝早く起きるの、苦手なんだもん」

 咲は恥ずかしそうに指をこねていた。

「でも今日は早かったね。やっぱり誕生日だから?」

「うん、それで学校から帰ったら父さんと母さんと一緒にデパートに行くんだ。楽しみでいつもより眼が冷めちゃった」

「私も咲ちゃんのためにプレゼント持ってきたのよ」

 そう言って朔は持っていた小包を咲に手渡した。

「ありがとう。今、開けてもいい?」

 咲は中に何が入っているのか想像をめぐらした。プレゼントというものは、開けるまでの行程も楽しいものである。

「いいよ。気に入ってくれるといいんだけど」

 朔はすこし不安そうだった。でも開けてすぐの、咲の反応を見てすぐに笑顔になった。

「可愛いい!私絶対に大事にする」

 中から出てきたのはクマのぬいぐるみであった。

 咲はすぐにもらったぬいぐるみを抱きしめる。咲はこのぬいぐるみが朔との友情の証のようなものにも思えた。

「よかった。気に入ってくれたみたいで。大事にしてね」

「うん。それで、このぬいぐるみの名前、朔ちゃんにきめてほしいんだ。いいかな?」

「えへへ。でも今思いつかないから、放課後までに考えとく」

 朔は照れを隠しきれずに、少し赤い顔に笑顔を浮かべてそう言った。

「はいはい、みんな、もう出発するよ」六年生の声が響く。

 下級生の皆は、のろのろと一列になり道なりに進み始めた。ところどころ、二列になって話をしながら歩いている姿も見られるが、班のルールもあまり厳しくなく、そのままのろのろ学校まで歩いた。

  咲も朔と話しながらだらだらと歩いた。だらだらといっても咲からすれば、いつもよりきびきび歩いているつもりだった。。

 

 キンコーンカーンコーン

 ベルが授業の終わりと放課後の始まりを告げた。

 咲は授業をいつもより何倍も長く感じていた。

「ねえ咲ちゃん?咲ちゃんってば!」

「うん……」

「だから咲ちゃん!」

「あれ朔ちゃん……一体何の用?」

「何の用って、もう。授業終わってるよ?」

「へッいつの間に?もしや私ってエスパー?」

 咲は真剣な表情でそう言った。

「咲ちゃんまだ寝てるの?」

 朔は心配そうな表情を浮かべる。

「寝てないよ。少しぼーっとしてただけだよ」

「なんか怪しいな。絶対に寝てたと思うけど。どうせ認めないと思うからもういいけどね。でも、いくら誕生日だからって授業中は寝ちゃだめだよ。それに咲ちゃん、お父さんとお母さんと買い物にいくんじゃないの?」

「そうだ、そうだ。じゃあ朔ちゃん帰ろう」咲はそう言って、入り口に向かって急いで歩きだそうとする。

「待ってよ。まだ話終わってないよ」

「ほえ?」そう言って咲が振り返る。

「ぬいぐるみの名前!咲ちゃんが決めてほしいって言ってくれたんじゃない!」

「そういやそうだった……すっかり忘れてたよ。ごめん、ごめん。それでどんな名前になったの?」

「クマの『キック』でどうかな?咲ちゃんと私の名前から平仮名で一文字ずつ取ったんだ!」朔は心配そうな目で、咲のことを見ていた。

「うん、いいと思う。じゃあオマエは今日からキックだからね!」咲はぬいぐるみが入った箱をバシバシたたいた。

「じゃあ帰ろうか?早く行きたいんでしょ?それに咲ちゃんの家族、もう待っているかもしれないし」

「そうだね。はやく帰ろう!」二人は教室を後にした。

 

 二人は今、通学路を並んで歩いていた。それは二人の毎日の光景だった。

「そういや私は買い物に行くけど、朔ちゃんは帰ったら何するの?なにか予定とかあるの?」 咲は朔の顔を見て返答を待っていた。

「う〜ん。特にないかな。私からしたら普通の日だからね。妹と、公園にでも行って遊ぼうかな」

 朔はこともなさげにそう言った。

「あいかわらず姉妹で仲がいいねえ」

 咲は一人っ子だったから、兄弟姉妹というものに少し憧れがある。それがないものねだりであると咲はいつか気づくだろう。

「そう?毎日一緒にいるんだから喧嘩もするし、そんないいもんでもないと思うけど」

 朔は咲が一人っ子であることを知っていた。だから咲が憧れを抱いていることもなんとなく気づいていた。それだからこそ咲にも姉妹がいるのもいいことばかりではないと知っておいてほしかった。

「でも私と朔ちゃんだって毎日一緒にいるじゃない。喧嘩も何回もしたけど。それでも私は朔ちゃんに居てくれて良かった。だから妹だってそんなものだと思ってたんだ。ちがうのかな?」

 咲は真剣な表情だった、朔はそのことに驚いた。咲の言い分も間違いではなかったというのもあった。

「そう言われればそうだね。ただ、いいことばかりじゃないって、それを咲ちゃんにも知っておいてほしかったのよ」朔はどう言っていいか分からなかった、だから正直に言った。

「うーん。そうなのかな?」咲はイマイチ納得しきれていないようだった。

「でも説明もうまくできそうにないよ」

 朔は、困った顔を浮かべた。

「いいよいいよ、そんなに気にしなくても」

 咲はいつものへらへらしているそんな表情に戻った。

「咲ちゃんがそう言うならいいけど。でも一人っ子には一人っ子のいいところがあると思うからそれは覚えといてよ。私も咲ちゃんをうらやましく思うこともあるんだからね」

「ごめんね。へんなこと聞いて。でもありがとう。なんとなく分かった気がするよ」

「それはよかった」

 朔は笑顔を浮かべた。

  二人の足は曲がり角の前で止まる。

「じゃ、また明日ね。朔ちゃんにも、なんか買ってくる」

 咲は笑顔で曲がり角を曲がって行った。

「そんな気にしないでいいよ。それより楽しんできてね。じゃまた明日」そうして二人は分かれた。いつもとなにも変わらなかった。

  しかし『いつも』と『とくべつ』の境なんて後からでしかわからないものだった。

  そのことを咲が知るにはまだすこし時間があった。

ずいぶんと期間が空いていたような気がします。話をなかなか思いつかなかったんですよ。ちなみに今回は咲編の前編ってところです。後編は比較的決まっているのですぐかけそうです。あんまり自信もないので断言はできませんけど。

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