巡査・頭山怛朗の活躍(第三話 迷宮入り殺人事件解決)
「今頃、何しに来た」と、男は言った。「あれからもう五年たつぞ! 五年前のあの日、午後十一時は間違いなく寝ていた。あの糞野郎が殺された祝いの記念日だからはっきり覚えている。おれはあの糞野郎、殺された当然な糞野郎のため妻も娘もなくしたのだ。その上、糞野郎、あの事故の原因を女房の信号無視にしやがった。糞野郎、殺されて当然の人間が殺されたのだ。いい気味だ。でも、おれは殺していない。おれはあの糞野郎が殺された夜の十一時、向かいのアパート住人二人が酔っ払って大きな声で次の日に釣りに出かける相談をするのをベッドで聞いた。迷惑だなと思っていたら、どっちらかの奥さんに叱られて静かになった。そう証言し、おれのアリバイが証明された。残念だがおれはあの糞野郎を殺していない。それと絶対、妻は信号無視していない! あの糞野郎が信号無視をしたのだ。それが妻のせいになっている……」
その時男の携帯が鳴り、巡査・頭山怛朗が言った。「スマホをお持ちです!? 五年前は? 」
「当然、持っていたよ! 」と、男が言った。「あんた、バナナマンの日村に似ているな! 」
「よく言われます」と巡査が答えた。相棒の警部補が笑った。
「あなたは五年前、死亡事故の目撃証言した。警察は高級乗用車に乗っていた山野幹夫氏の信号無視と思っていた。山野氏は優良ドライバーとはほど遠かったし、死んだ杉下さんの方は無事故無違反だった。唯一の目撃者のあなたは曖昧な証言をしていたが、翌朝になると杉下さんの信号無視だと言い出した。警察は“間違いないか? ”と何度も確認したが、“間違いない”と言った」とバナナマンの日村似の巡査が言った。
「間違いない! おれは嘘はついていない」と、男は言った。でも、その目はうつろだった。
「当時、あなたの息子さんは就職先が見つからずに会社訪問を続けていた」と、巡査が続けた。
「そんなことあんたに関係ないだろう!? 」男は明らかに動揺したいた。
「ところが事故後、あなたは酒に酔った拍子に“息子の就職が決まった”と言った。詳しく聞くと山野氏の会社と言った。ところが山野一家が殺されるとそんな話はしなくなった。結局、息子さんはどこに就職できず今でもフリーター……」と警部補。
「余計なお世話だ。警察のプライバシーの侵害だぞ 」と、男が喚いたが目に涙が浮かんでいた。
「あの事故で奥さんと娘さんを亡くした杉下さんは、まだ、あの事故を忘れられない。特に事故の原因が奥さんのせいになっているのを苦しんでいる」と、巡査。
「おれには関係ない! 帰ってくれ」
次の日の朝、男はK署の交通課の窓口に立った。
「あなたの奥さんの事故で奥さんの信号無視を証言した男性が、殺された山野氏に息子を“自分の会社で採用し、その後も面倒を見る”ことを条件に偽証するように頼まれ、偽証したと申し出てきました。やはり、山野幹夫氏の信号無視が原因でした。奥さんの汚名は晴らされました。今日はそれをお伝えに来ました」と、警部補が言った。
「それから山野氏が殺された夜のあなたのアリバイですが、スマホの録音機能を使えば留守中に何があったか聞くことができます」と、バナナマンの日村似の巡査が言った。「でも、山野氏が殺されて五年たった今となっては、あなたが実際にベッドの中にいたのか、それともいなかったのか? どちらにせよそれを証明するのは不可能です。それに、山野氏はあまりにも評判が悪い人でした。あなた以外にも山野氏を恨んでいる人が大勢で、悲しんでいる人は皆無! アリバイが曖昧な人も多い。でも、決定的な証拠は一切ありません。もう、殺人犯が“私が殺りました”と自首してくるのを待っているしかありません……」。
「おい、巡査! 余計な事は言わなくていい」警部補が笑いながら言った。
「巡査さん、あなたお名前は? 」と、男が言った。
バナナマンの日村似の巡査がゆっくり言った。「とうやまたつろう。でも、女房や近しい人には、頭山怛朗を読み替えて“ずさんだつろう”と呼ばれています。普段はU交番にいます」
翌日、男はU交番に山野幹夫殺しを自首した。