ゾンビを食べる
「うーーん」
前回スケルトンを調理し、一応成功したといえるだろう。しかし、こうなると次はゾンビという気持ちがふつふつと沸いてくる。
いや、ゾンビはスケルトンと違い肉は付いているのだが・・・肉は腐っててても食えるものなのか?
いや、その前に人肉だろう? 自分のモラル的というか、それはダメという気がするのだ。
あ、いや前と同じ草食系動物ならいいのか。牛や豚のゾンビならいいのか?
いや、目玉が落ちそうになり、内蔵が腐り、肉も腐り・・・そんな物腐った死肉なんて食えるのか?
最初から選択肢としてダメだろう!
いや、しかしそれでも、うーん。
人の居ない厨房の中で腕を組み、必死に思案を巡らせる。
現実に肉を腐らせて食う料理なんてあるのか?
流石に腐った肉なんて人は食えないだろう、そもそも腹壊すじゃん!
あ、でも・・・・・・・・・・あ、あ、あったわ、そんな肉!
「キビヤック!!」
それはグリーンランドやアラスカ州のエスキモー民族が作る伝統的な肉の漬物の一種。つまりは肉の発酵食品
キビヤックの場合は、海鳥をアザラシの中に詰めこみ、地中に長期間埋めて作る。つまり腐敗ではなく、発酵、つまり乳酸菌発酵したゾンビならいけるかもしれない。いわゆるゾンビを漬け物として腐らせる。いわゆる発酵食品と考えればいい。
思い浮かんだのなら早速実行に移す。
まず、原料となる海鳥を冷やす。で、 アザラシの腹を裂き、内臓と肉をすべて取り出す。袋状の空になったアザラシの内部に海鳥を(羽などをむしらず)そのままの形程詰め込み、縫う。
これを地面に掘った穴に埋め、熟成する。
この世界にアザラシはないけど、代わりの皮ならいくらでもある。
用意したのはサンドワームの子供の皮。いわゆる地中を這う巨大なミミズだ。サンドワームは強大な物になれば数十メートルをゆうに超えるらしいのだが、今回はそんな巨大な物は必要もないし用意もできない。
用意したのはアザラシと同程度の大きさ厚みを持つサンドワームだ。
まぁこれが一番アザラシに近いし、元々地中の生き物だ。地中での密封性も高いと考えての事だ。
で、まずははサンドワームの子供の皮に基本となる海鳥を始め、何種かの鳥、小動物などを入れ、乳酸発酵しやすいように米のとぎ汁+黒糖やヨーグルトなど各種思いつく限りの組み合わせで色々試す。
いろいろな組み合わせで15種ほど試して地下に埋めてる。
結果として・・・・・苦痛です。失敗? いや違います。これは苦痛です。
正直、こんなにきついとは思わなかった。
いや作業もそうなんですけど、何がきついって臭い? 味?
まず、悪臭ともいえる異常な臭いがきつい。
元々キビヤックも悪臭を放つ食品、しかし食べたら案外美味い。
つまりは、すさまじい悪臭ともいえる臭いも放ちつつも全部口に入れて試食するわけですけから・・それが美味しいならともかく、失敗例だった場合のあの口いっぱいに広がる腐敗臭が自分を一気に地獄に叩き落とすわけです。
で、次に試食しようにも舌が完全に試食で馬鹿になっているわけで、それが回復するのにまず時間がかかりますし、それに次の試食品を口に入れようと思っても、右手が食材を口に入れようとするのを無意識に嫌がるんです。
美味しい食材ならこんなことないんですけど、今回ばかりは試食があまりにもきつい。
そもそもなぜこんな事になったのか?
今回の挑戦では腐敗しないように縫い口をちゃんと消毒したつもりが、実際には腐敗してたり・・・
キビヤックはそもそも氷の大地に埋めるもので、常温だど発酵が想定より早すぎ腐りきってたりしたんでしょうね
発酵はしたが、強烈なアンモニア臭がし、味もアンモニア臭しかになかったりとね。
完全な試行錯誤のハズレだらけの結果になった。
そんな中でも多少は? と思ったのが何と『火トカゲ』だった。
海鳥もまぁ良かったのだが、あのクサヤにも勝る強烈な発酵臭はどうしても消せなかった。
しかし『火トカゲ』は元々高温の火山地帯に生息する炎を吐くトカゲだ。
その為、体の構造も我々の常識の外にある構造なのだろう、無論体の腐った(この場合は発酵だが)異臭もきつくなく、十分万人に耐えると思われた。
これなら美味く調理すればいけるかもな。
「じゃ早速、臭み消しだな」
まずは定番、その小ぶりの体を切り分ける。一応ゾンビ化して腐ってるので
元々固い『火トカゲ』の身は驚くほど柔らかい。 それを崩れないように豆乳につけ、臭みを消す。
動物系の乳(いわゆる牛乳など)もこの世界にはあるのだが、この世界の乳はどうも動物臭がきつく、あまり臭い消しなどに向かない。
元々の世界でもヤギ乳など牛と比べても動物臭が強いと感じたし、品種改良してない普通のこの世界の生物の乳はもっと臭みが強い。
なので臭み抜きには豆乳が一番効果的だ。
さっそく臭みを消した火トカゲのゾンビ肉を軽くポワレしてみる。
軽くソテーしても良いのだが、この臭みを徹底的に改良するならフランス料理の技法がいいのだろう。
鍋で、ソンビ肉に軽くフォンを入れて蒸しに近い形で焼く。
ゾンビ肉と特製のフォンでポワレしてみた肉。早速食べて見る。
ナイフを入れると、たしかにソンビ・・・異常な程火トカゲの肉にしては柔らかい。火トカゲは火に強い種だけに加熱してもその肉は生肉としての性質を維持する。
無論焼こうが、蒸そうが、更に低温調理も全く焼くに立たない。
元々溶岩地帯に住む種だけあって『加熱』はまったく意味がない。しかし今回は発酵、あの固い火トカゲの肉はすばらしく軟らかくなっている。
口に入れるとまるで肉ではないようにさらりと溶けていく。まるで優しいチーズケーキのようだ。
「美味い」
美味い。だが、やっぱりゾンビ、後味にやっぱり多少の臭みの後味がかすかに残る。
うーん、こうなると後は癖のあるソースにするかな。
こんな肉に会うのは・・・定番のキノコのソースじゃあわないかもな。
シャンビリアンソースとかカレーソースとかかな?
シャンビリアンソースはタマネギを使用した肉用のステーキだ。この世界にはタマネギはないが、似たような食材はある。ただこれだけでは臭みに負けるのでXO醤風に乾物を会わせ酒で煮詰める。
もう片方のカレーソースは臭み消として最強の部類に入るソースだ。しかしこの世界にターメリックはないので、色は若干黄色系ではなく、赤系になるのだがまぁこれも仕方が無い。
そして両者試食。
その味はクリーミィで旨味がしっかりと出ている。しかも癖のあるソースの為、臭みは全く感じられない。今回はソンビという食材というより調理法になったが、実にそれが今回の食材にマッチしていた。
その肉は口のなかでさらりと溶け、まるでケーキのような優しい食感。淡い優しい肉に強固な旨味のソーフが溶け合ってる。
実に旨い。
ただ、こうなるとソース違いの料理だけになるな。いや待てよ、そもそも火トカゲなんだし焼く必要ないんじゃないか?
そこで両者生のままで両者のソースを試す。
結果としてカレーソースなら生肉でも合うのが分かった。
今回はゾンビと言うことで腐敗臭をポワレで更に臭みを消したが、もしかしたらカレーなら生でも十分なのかも?
生肉のカレーソースなら臭みはなく、逆にアクセントとなり、実にいい味に仕上がっていた。
結果、案外いけるとう結果に達した。
「これなら店に出せそうだ」
さぁ、今日も久々の開店だ。
本日は『火トカゲのソンビ肉XOシャンビリアンソース』と『火トカゲのソンビ肉(生)カレーソース』だ。
さぁ皆さんいらっしゃいませ!