キラービーを食べる
「今日も休業か」
軽くため息とつくと同時に、自分はこの場を後にした。今日も店の看板を確認しに店の前に来て『臨時休業』の看板を確認したからだ。
だが、そんな店のドアの前に立つと、中から実に美味しい香ばしい匂いがしてくる。
「ん、あと少しかもな」
そう思い、自分は明日の開店を期待し、この場を去ることにした。
ここは魔界、多くの怪物を始め、多くの魔族が住む場所。
自分はそんな魔界ぬ住む1人の魔族だ。名前はバルトと言う。
魔族の中でも上位に位置する自分だが、ここ最近興味が尽きない料理屋がある。
「美味食堂」という小さいが中々に美味しい料理を出す店だ。
正直、魔界の料理など普通は肉をただ焼いた物に、酒というのが一般的だ。人間界のような小洒落た料理などそもそもないし、口に入ればみな同じだ。
と、今までは思っていた。
しかし、ある時入ったこの「美味食堂」はそんな魔界の常識の食堂とはまるで違っていた料理の次元が違っていた。
いや、確かに出されたのは魔界でも普通の食材だ。いや、中にはあまりにも不味くて誰も食べなかったような食材まである。
突き詰めれば今まで食材と思えなかった物までこの店では料理として上がる。
自分にはそれが信じられなかった。
しかし、一端店に入ると、その信じられないような食材をメニューを他の常連と思われる魔族達が次々と注文してるではないか、それが信じられ無かった。
しかも皆、美味しそうに食べていた。
自分も、その光景にその料理を思わず頼むと、まるで絵画のような美しい皿が目の前に運ばれてくる。
例えば先日食べた食材も実にすばらしかった。今でも思い出す度に口の中に唾液がでてしまう。
そうだ・・・先日食べたのはグリフォン。魔界でもグリフォンは実に強力で普通肉屋でもそうそう並ぶことはない。
しかし、並んだとしてもグリフォンの肉は非常に安値で売られる。
グリフォンの嘴や爪などは錬金や魔法の触媒としては高く売買されるが、その肉は錬金や魔法の触媒としては役に立つことはない。そもそもその肉は固くて不味いのが魔界の常識だ。
そんなグリフォンの肉を普通の酒場で出しても誰も頼まないだろう。
しかしこの「美味食堂」では違う。
先日頼んだのは『グリフォンのモモ肉濃厚ステーキ』だ。
まず見た目がすばらしい、熱く焼いた鉄板の上に厚く切られたグリフォンのモモ肉、その横には魔界産の赤い野菜「ニルシュ」と呼ばれる。あまり味のない野菜と、緑色の「ディース」と呼ばれる豆
赤と緑と肉の茶色、まずは見た目で楽しましてくれるでは無いか!
そして、それらの野菜達もこの店にかかればすばらしい宝石に変化する。
まず赤い「ニルシュ」を口に入れると実に甘い、まるで口の中に多くの花が咲くようなすばらしい味が広がる。
そして緑色の豆である「ディース」これを口に入れるとこれも甘い。しかし「ニルシュ」のような多くを主張するような甘さではなく、優しくふんわり包むこむような優しい甘さだ。
「ニルシュ」「ディース」を一口ずつ楽しんだ後は本命のグリフォンのモモ肉に取りかかる。
まずはナイフをいれてみる。
「おぉっ」
自分としてはグリフォンのモモ肉は固くて食べるのに苦労すると思っていたのだが、この肉は普通にナイフで切れるではないか。
そして一口大に切った肉にソースをつけ口の中にいれる。するとすばらしいほど濃厚な肉のうま味が肉汁とともにあふれてくる。
そしてそれに濃厚なソースが絡み合い芳醇で豊かなすばらしい味になる。
「この旨味は・・・・キノコか・・」
濃厚なソースのどこを見てもキノコの形は見当たらない。しかしキノコの味がソースの中に見え隠れしている。
そこに存在はしている、だが出しゃばりはせず濃厚にして、、しっかりと主役であるグリフォンのモモ肉を引き出す、実にいい名脇役だ。
「うむ、美味い」
そうして十分にその食事を堪能する、それがここ最近の私の最大の楽しみだ。
無論、毎日その店はやっているわけではなく、逆にあまり営業する日のほうが遙かに少ない。
しかし、ひとたび営業中の看板が上がれば、そこには今まで見たことも想像した事も無い料理がテーブルに上がる。
しかも、その料理は 1回材料がきれて店が閉まると次の料理になり二度と会えない幻の料理になるのだ。
1回でもその店の営業を見逃せば、もう二度と会えない料理なのだ。
だから私は毎日、店の前まで来ては今日は営業してるのかどうか確認しに来る。
そのタイミングはなんとなくその店のドアの前の匂いでわかる。開店直前になると、その店の前から実に良い匂いがしてくる。
この調子だと早ければ明日開店しそうだ。
そう、やはりその予想は当たった。
翌日店に来たら、店主が開店の準備をしていた。既に店の前では数人の先客が既に列をなして並んでいた。
本日のメニューは
『キラービー(蜂の子)の炙り塩』『キラービーのピリ辛唐揚げ』
実に美味しそうだ。 さぁ早速 食べようじゃないか