スライムを食べる
「ふむ」
今日の食材にひとめひと目みて、少し考える。
まな板に載っているのは生後1年ほど・・まだ子供といっていいスライムだ。
これが今日の自分の挑戦だ。
市場でひと目みて、今までにまるで予想だにしなかった食材に意欲が沸く。是非この食材を調理したい。そう思ったのだ。
普通スライムは食べない。食べにくいし、そもそも味も悪い。それでも市場に売っているのは多くの錬金術の材料になるからだ。
しかし、それをあえて食べてみる。なんと心躍る事だろう。
これは一度挑戦してみる価値があると感じたのだ!
「ふむ、まずは生だな」
目の前のスライムは市場で既に諦めている状態だ。つまり死んでいる状態。
だが、綺麗に締めており、新鮮で実に状態がいい。
(養殖のスライムかもな・・・)
これは是非まずは生で試すべきだろう。
まずは定番、包丁で薄くスライスしてみる事にしよう。
包丁をまずスライムの身に入れて見る。
「案外、固いな」
まだ新鮮なスライムは実に弾力があり、軽く入れた包丁を跳ね返してしまう。思い切って強く包丁を入れるとやっとその身に包丁が入る。
包丁がスライムの身に入ると、その切れ目からどろりとした液体が流れてくる。
かなりどろりとした感じだ。
「まるで、摺り下ろしたばかりの自然薯だな」
それをスプーンですくい口にいれると、かるいレモンのような酸っぱさに、多少の泥のようなアクを感じる。
「ふむ、食えないことはないが、実にドロくさい。これじゃ誰も好んで食わないはずだ。
ふむ・・・まずは泥抜きかな?しかし、スライムの泥抜きなどどうすればいいんだろう?」
コレが川魚や貝なら生きたまま餌をあたえずしばらく1週間ほど放置するのだが、目の前にあるスライムはすでに死んでいる。泥抜きは無理だろう。
「仕方ない、今度は生きたままのスライムを買ってくるか。多少高いが買えない事はないだろう」
一週間後、目の前には絞めたばかりのスライムがまな板の上に置かれていた。
これは一週間前に生きたままのスライムを購入。そのまま餌を与えずにしばらく綺麗な水のある場所で放置したものだ。
早速、包丁を入れてみる。
「前回と同じ自然薯のような、とろりとした感じだな」
今回も同様にまずはスライムを切ってみた。その身をスプーンですくってみると、かるいレモンのような酸っぱさはあるが、以前の泥臭さは消えていた。後に残るのはさわやかな水の透き通るような後味だ。
「アク抜きはこれで正解だな」
思ったより上品な味に満足する。これで食材に問題はない。早速料理にかかるとしよう。
まずは、スライムの皮を剥ぎ、一口大の大きさに切り分ける。
ちなみに今回、スライムを軽く湯通しした後、冷水で冷やしてみた。
たぶんないと思うが、一応・・・生は怖いので衛生上の問題と、その方が多少硬くなり、食べやすくなるからだ。さすがにドロリとした状態のままでは食べにくい。
そして別途切り分けたスライムの皮に飾り包丁を入れ、食べやすくする一工夫をする。そしてその皮を特製のたれにつけ込む。
醤油ベースに柑橘系の果汁を混ぜた特性のタレだ。一応アクセントを付けるため、一味唐辛子もほんの少し入れてある。
このスライムの皮、案外固いのだが軟骨よりも若干柔らかい程度で食べられないことは無い。しかも食べてみると案外歯触りと食べ応えがいい。
難点としては味が無いことだが、それはこのたれにつけ込むことで下味をつける事にする。
あとはそれを串に通して炭で焼けば、その味はさらに旨くなる。
まぁアレだ焼き鳥やに出てくるナンコツ・・・あんな感じだ。ただ自分的にはこっちの方が美味いと思ってしまう。
さてスライムの皮の次は身・・・・本命だ。
スライムの身はさわやかなレモン味、とりあえずはゆでた後、冷水で冷やしてみたが、他の手法も試すべきだろう。
「まずは蒸してみるか」
陶器の小さ容器にスライムの身を入れて、軽く蒸してみる。
「こんなもんかな?」
蒸籠の中にあるスライムの蒸し身、それをそっとスプーンで救う。
「おっ?いいかも」
それは綺麗に固まっていた。味はそのままさわやかなレモン味。
だが、食感がいちいち。そのスライムの蒸し身は茶碗蒸しや、プリンのようななめらかな食感ではなく、ぼぞぼそとし食感で口触りが悪かった。
「ふむ、蒸し時間がが長すぎたかな? もう少し早くするか」
それから数度の挑戦。
結果スライムの身はレモンの味がする少し堅めのプリンに変化していた。
「不味くはない・・・・いや美味いとは思うが、うーん」
確かにゆでた後、冷水で冷やしたときよりは美味しい。
ただコレを店に出せるかと言うとまだ合格点には至らないと感じる。
「味が薄く単調だな、それにスライムの皮串の濃厚な味には合わない。それに魔界の方は濃いめの味が好きだしな。・・なら焼くか」
蒸して固めたスライムの身に軽く片栗粉をまぶすと、さっとプライパンで焼く。そして焼いてる途中に両面に特製の塩だれをハケで塗る。
しばらく焼いた後、ひっくり返し又片面に塩だれをハケで塗る。
両面に焦げ目を付けたあとは、蓋をし、弱火でじっくりと焼く。
「そろそろかな?」
蓋を開けるとそには軽いレモンの風味と塩の風味が漂うスライムの身。
それを皿に移し、その身に軽くソースをかける。
近くの森で取れた果実の実で作った特製のソースだ。その果実のソースは淡泊な身に実にあうのだ。
できあがったスライムの身にナイフを入れる。
焼いて多少引き締まったとはいえ、まだまだ十分に柔らかいスライムの身にすっとナイフが入った。
切り分けたスライムの身に特製ソースをつけて直ぐに口の中に入れる。
「うん、これは美味い」
まるで上品な魚の白身のステーキだ。しかもまだ十分にみずみずしく、さわやかな後味、しかし十分にうま味を感じる。
これが果実のソースに実にあう。
「これなら店に出せそうだ」
さぁ、今日も久々の開店だ。
本日は『スライムのソテー果実ソース』と『スライムの串皮炭火焼き』だ。
さぁ皆さんいらっしゃいませ!