第5話 ギルド
アンジェの所属するというアグニアのギルド『ホワイトファング』
かなりの手練れが多く在籍するアグニア内No.1ギルドであり、その仕事内容は多岐に渡る。その仕事ぶりはライゼルド中に名を響かせるほどらしい。
「ただいまーー!!」
明るい声でドアを開きながらアンジェが言う。
すると建物の至る所から声があがる。
「おかえりー‼」
「アンジェか!お疲れさん‼」
「お帰り、仕事はどうだった?」
「おいアンジェ!そいつは何だ!彼氏でもできたか!」
「おかえりなさい〜」
様々な挨拶が掛けられるがしれっと何か聞こえたぞ?
…あのおっさん覚えておこう。
建物の中には木で出来たテーブルや椅子が並び、横の方には酒瓶が並べられたバーがある。テーブルについて数人で呑んでいる鎧をまとった男性や渋い感じの男性、さっきのおっさん、たまに女性も混じっている。バーにはお酒を注いでいるお姉さんなどもいる。
ギルド内を色々とみているとアンジェがバーのお姉さんに声を掛けた。
「ルミナ〜、おじいちゃんいるかな?」
「あら、マスターなら今出かけてるわよ。もうすぐ帰ってくると思うけど、どうして?」
「えっとね、森でヒトが落ちてきて、ユートも状況が分からないみたいだからおじいちゃんならわかるかなって思って。」
うーむ、間違ってはいないんだがその説明は変な人のイメージを付けるんじゃないか?
「そう、それは大変ねえ。私はルミナよ。よろしく。」
「水薙佑斗だ、よろしく、ルミナ」
「ただいま帰ったぞ‼皆の者、土産じゃ‼」
ドーン、と勢いよくドアが開けられる。中に入ってきたのはマントを羽織った小柄な、というか子供並みの身長しかない老人、尖った耳を持つ頭の白髪は薄くなっており、ひ弱そうなイメージを受けるが、その体が持っているものをみて佑斗は驚愕した。
「あいつは…さっきの…?」
そう、さっき佑斗とアンジェが森で出会った体長2〜3メートルはあろうかという巨大猪を片腕だけで持ち上げているのである。
「ほれっ。」
床に猪を放り投げる。床に落ちた瞬間、床板がメリメリ音を鳴らすほどの重量はあるわけだ。一体このじいさん何者だ?
驚いた目で老人を見ていると、老人がこちらを向き、目が合う。
「お?見知らぬものがおるのぉ。新入りか?」
「おじいちゃんに用があってきたの、ユートっていうんだよ‼」
「ふむ…。」
何?つまりこのじいさんがこのギルドのマスターということか。えらく小さいじいさんだが…。
「見た目で判断してはいかんぞ?異界の若者。」
「なっ!?何でそのことを!?」
「前に一度、別の世界から来た、と言う輩に会ってのう。そやつが纏っていた気配をお主からも感じるのでな。ずいぶん昔のことで行方などはさっぱりじゃが。」
「…」
つまり、この世界で生きていくしかないということか。自分の選んだことだから仕方が無いといえば仕方が無いのだが。
「とりあえずは自己紹介からじゃな、わしはホワイトファングのマスターじゃ。マスターでもじいさんとでもじいちゃんとでも好きに呼ぶがいい」
「水薙佑斗です。」
「そうか、ユウトか、よろしく。」
「よろしくお願いします、マスター」
そういってマスターが差し出した手を握る。
「ところでユウト、行く所も無いのであればこのギルドに入らないかね?」
「わふっ!そうだよ、入りなよユート‼楽しいよ‼」
たしかにそうするのがこの世界で生活するのに役立ちそうだ。
「それじゃあ、よろしくお願いします。」
「そうか、後で手続きをしよう。所でお主、自分の「ランク」などはわかっているかのう?」
「ランク?聞いたことが無いですね。」
「ランクっていうのはね、この世界での強さを表す指標で、1から10までで分けられてるんじゃ。それに応じて仕事を受けることができる。」
「そのランクはどうやって測るのですか?」
「ふむ、普通はランク選別大会というのがあるのじゃが、次の大会は半年後なのじゃ。どうしたものか…」
半年後…そんなに待たないといけないのか。
そんなことを考えていると不意にマスターが顔をあげた。
「よし、わしが直接どの位のものか測ってやろう。お前たち、テーブルなどを端に寄せてくれ。ルミナ、防御魔法で建物を護っておいてくれんか?」
「マスター、本気?」
「なに、こちらからは攻撃はせんよ、手加減してやるから本気でかかってこい‼」
そう言うとマスターは着ていたマントを脱いで投げ捨てた。
呆れた顔でルミナが呟く。
「まったく、無茶をいうんだからマスターも…守護魔法展開」
その言葉と共にルミナの手から光が放たれ、壁や床に光の防壁をつくっていく。
これはやるしかないのだろう。
背中の鞘から剣を抜き、両手で構える。
マスターは樫でできた杖を持ったまま立っているだけだ。
「それじゃあ…行きますよッ‼」
声とともに地面を踏みしめ、一気に相手との距離を詰める。
「はあァァァァッッ‼」
体重とスピードをのせたまま思い切り剣を振るう。
どうやら前の世界にいた時よりも身体能力はかなり向上してるようだ。間合いを詰めるスピードも剣を振る筋力も、それこそ普通の人間ではあり得ないレベルで。女神の言うサービスとはこのことだろう。
しかし、渾身の一撃は軽く躱される。
「このッ!」
すかさず二太刀、三太刀と斬りつけていくが全て見切られ躱される。
このまま単純に攻撃しただけでは躱されるだけだ、そう判断し一旦距離をとる。
「ほれほれどうした、もう終わりかユウト?そんなんじゃ全然足りんのう。」
イラッっとする口調で煽ってくるマスター。挑発だとわかっていてものってしまう。
「だったら、これでッ‼」
強く地面を蹴り空中へ飛んだ、そのまま頭上にある梁を蹴って一気に上から相手へ一直線に突っ込んでいく。
「おおおおォォォォ‼」
その時だった、突然剣に白い炎のようなものがたちのぼった。白銀の炎を纏ったまま剣を振り下ろす。
「むうっ!?」
マスターも驚いた様子で杖を構えて振り下ろされた白炎の剣を受け止める。
その瞬間、轟音とともに光が放たれ辺りを包み込んだ。
少し増量 眠気がヤバい