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9話 解き放て、ダークサンダー!

ダークサンダー、それは闇の雷


新キャラです。

あと次回予告もつけておきました。

第二試合──1組との試合はどうしようかと私は悩んだ末、結局休むことにした。

最初の試合で体調不良で休んだのでその日のうちに運動をするのは外聞が良くないからだ。

私は脳筋君に「屋内でゆっくりしてるね」と伝え、校舎に入った。

新入生歓迎会の最中なので一年生の殆どはスポーツに勤しんでおり、二、三年生は部活紹介を終え既に帰宅している。

なので校舎の中はガランと誰もいなくなっていて、歩いているだけで足音が遠く鳴り響いた。


「あれ? ひょっとしてこれってチャンス?」


誰もいないということは必然的に目撃者がいないということだ。

気配を探ってみるが確かに校舎には職員室を除いて誰もいない。

その職員室にしても空けるわけにはいかないので待機している先生らしき人物が二人いる程度だ。


「…………やっぱり二人だけかな?」


この校舎に殆ど人がいない故に気配を察するのは普段より容易なので人数すらハッキリと分かる。


「じゃあ今のうちに結界張っておこうかな」


この場合の結界とは、術者の任意で侵入の禁止を出来るものだ。

なぜそんなものを張らなければいけないのかというと……脳筋君のせいである。


「校舎に闇の雫(ダークティアーズ)とやらが入り込んでくるとか本当にやめて欲しいよ」


私の記憶ではそのような厨二的なモンスターは存在しない。

なので少なくとも篠原 明人は闇の雫(ダークティアーズ)に遭遇したことはないということだ。

ならば最低でも校舎に出没しないようにしなければ私という存在と篠原 明人の間に矛盾が生じてしまう。

まぁそれだけではなく


「絶対にバトルなんてしないよ!」


本当に命を賭けた殺し合いは前世だけでお腹いっぱいだ。

お願いだから平穏に過ごさせて欲しい。


「触媒がないから出力殆ど出ないけど……とりあえず基点は屋上でいいかな」


張れればとりあえずいいや、といった考えのもと屋上へと向かう。

ドアを開ければそこは転落防止用のフェンスの張られた屋上に真ん中には小さな庭があった。


「こういうのって維持費がかかるよね? お金持ちなのかなこの学校」


庭の中央に鎮座しているスプリンクラー……はどこの学校でもあるものなのだろうか。


「どうなんだろ?」


少なくとも資金繰りに困っているという話は噂レベルでしか聞いたことがないが……。

とにかく今は結界だ。

結界は術者が直接一時的に張るタイプと触媒と魔力の供給ラインを使って持続的に張るタイプがある。

私が張るのは当然後者で、ある程度魔力が溜められていざという時に結界を張れるものだ。


「媒介はどうしよう」


基本的に媒介はなんでもいい……最悪形さえ整えればその辺の石ころでもなんとかなる。

重要なことは誰かがそれに触って動かしたり壊したりしないことだ。

この屋上だとそのようなオブジェクトは……


「そういえば貯水タンクがいいかな」


屋上の出入り口へと振り替えり、梯子の先にある貯水タンクに目を向ける。

あれなら誰かが動かすこともないし、壊すこともありえないだろう。


そう決めた私は梯子に足をかけ、校舎で一番高い場所へと手を伸ばした──その時、目が合った。


「え」


「え」


見上げるとそこには小柄で目元を髪で隠した女の子が目を見開いていた。

貯水タンクの傍で休憩でもしてたのか、その手には本が握られている。


「だ、誰ですか!?」


「いやあなたこそ誰よ」


自分が言えたギリではないが、新入生歓迎会で誰もがスポーツで楽しんでいる最中になぜこんなところにいるのだろうか。

さらに梯子に足をかけて登ると、貯水タンクの傍にペットボトルとタオル、そして日傘が置かれていることに気付く。


「日傘ってあなた……」


「ち、違います! これは……そう、置いてあったんです!」


「いや無理あるよそれ」


サボってたであろうその少女は慌てて日傘を畳むと小さな身体に隠すようにして背の影に置いた。

どう考えても隠すのが遅いが、少女は本気で誤魔化そうとしている。

隠れながらも見つかったら言い訳のつかないほど堂々としていた少女はどうしようもなく往生際が悪かった。


「じゃあ何してたの?」


「え。 …………そう、このタンクの調子を見てたんですっ!」


「じゃあその涎の跡は水しぶきでも跳んだの?」


「ふぇっ!?」


慌てて少女が口元に手を寄せて確認する……が


「騙しましたねっ!」


「…………私を糾弾する前に誤魔化すか開き直るかしたほうがいいと思うんだけど」


「はっ!」


どうしようこの子。

篠原 明人や脳筋君とはまた違ったアホだ。

素でポンコツだ。


「だいたい体操服ですらないって……」


制服姿の少女は汗もかいていないので新入生歓迎会のスポーツに参加していたとは思えない。


「こ、これが茜の体操服なんです!」


「茜ちゃんって言うんだ」


「っ!? 誘導尋問なんて酷いです!」


…………だんだん面倒になってきた。

とりあえずこの少女には屋上から去ってもらって貯水タンクを媒介にして結界を張らなければならない。

一歩梯子を登りきり、少女に一歩近づく。


「っ」


すると少女もそれに合わせて一歩後ずさった。

さらに一歩踏み込むと少女もまた一歩下がる。


「…………」


「ふーっ!」


何か威嚇までし始めた。

アホ属性に小動物属性ってどれだけ詰め込む気なんだろう。

しかしこう睨み合っていては話が進まない。

何とか説得して階下に行ってもらわなければ。


「ねぇ茜ちゃん、ちょっとだけ屋上から出てくれる?」


「近づかないでください! そ、それ以上近づいたら……」


近づいたら?


そう疑問に思うと同時に茜ちゃんは傘の先を私に向け、こう叫んだ。


「ダークサンダーで消し飛ばします!」


「…………ダーク、サンダー?」


だー、く、さん、だー。

一体どこの部族の言葉だろうか。

最初と最後にダーがついていることから法則性を見いだせそうだ。


「ダークサンダーです。 闇属性の雷魔法です!」


「…………」


えっと、なんだその……もしかしてこの子もあの馬鹿(厨二病)と同じなのだろうか。

畳んだ日傘の先端がプルプル震えているあたりイッパイイッパイなんだろうけど、いかんせん発言が痛い。

まぁ確かに闇属性というのはかなり特殊な属性で、他の属性を侵食するという特性がある。

だから闇属性の水魔法やら闇属性の土魔法があるのだが……。


「茜ちゃん、良い子だからどいてくれる?」


「ひっ!?」


厨二病を患った自分の恥部である前世を先程まで直視していたのが原因で私の怒りは再燃した。

バットであのコンチクショウの頭を割れなかったので鬱憤が溜まっているのだ。


「来ないでっ……っ、来ないでくだひゃい!」


もはや目尻に涙を浮かべながらジリジリと後退する茜ちゃんは絶体絶命という四文字熟語が似合う少女と化していた。

それに対し笑顔ながらも目がまったく笑っておらず、ジリジリとにじり寄る私はたぶん修羅と化してたに違いない。


「や、やぁです!」


涙目で首をフルフルと振る彼女に一瞬だけ良心が戻ってきて、自分の言動を思いなおし反省しようとしたが──


「だだだだだ、だーくさんだーですよ!」


「放てば?ダークサンダー」


私を怒らせる呪文、厨二病を解き放ってしまったことから良心は怒りに飲まれてしまった。


「いいんですかっ! 本当に放ちますよダークサンダー!」


「だから早くやりなよ」


「危ないんですよ! 黒こげになっちゃいますよ!?」


イライラしてきた。

花梨に勧められて見た『イオナ○ン』のフラッシュを思い出した……どうせオチはMP切れとか言い出すんだろう。


「はいはい。 黒焦げになっちゃうね」


「っ! 『安寧の闇よ!』」


「はいはい安寧のダークフォースブリザード」


「────っ!!!! 『彼の命を焦がす鉄槌の(イカズチ)を放て!』」


え?

なんか傘の先端に魔力が集まってきてるんだけど。

え?

…………え?


「ダーク……」


「ちょ、まっ……」


「サンダーッ!!!!」


その日、屋上で逢引したら独神が嫉妬して天から黒い雷を落とし殺してしまうという怪談が出来た。







傘の先端に集められた魔力が最高潮に達した時、なりふり構わず梯子も使わず屋上の花壇へ身を投げたのが功を成したのか、服には焦げ目もついていない完全回避が成功した。

しかし運悪く私がダイブした前後にスプリンクラーが作動していたようで、変わりに私の体操服はびしょ濡れだ。

当然ながら下着も透けており、男子がいれば目潰ししているレベルだ。


「殺す気かぁーっ!?」


「ひ、ひぃっ!? お化けですっ!?」


スプリンクラーから水を直接被ったことによって私の超ロングヘアーがぺトッと身体に張り付き、さらに梯子を一秒とかけることなく駆け上がったことから茜ちゃんはどことなく貞子を連想したらしい。

だが当の私はそのような細事を気にする余裕などなくマジで魔法を放った茜ちゃんを問い詰めることしか頭になかった。


「だって! やってもいいって言ったじゃないですか!」


「包丁で刺していいよ、って言われて本当に刺す馬鹿はいないでしょ馬鹿ーっ!」


「馬鹿って何ですか! だいたい最初に茜を馬鹿にしたあなたが悪いんです!」


「ダークサンダー何て大真面目に言われたら普通ダークサンダー(笑)って思うでしょ!」


「それは偏見ですよ! 現に茜はダークサンダーがちゃんと使えます!」


この醜き言い争いは教師が雷が落ちたと思い慌てて屋上を確認しにくるまで続いた。

「これが……絆の力だ!」

「桜木 茜……隣のクラス」

「…………哺乳類なのそれ?」


次回、『絆の力』

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