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43話 蘇る禁忌

必殺!アキ君スマイル!

ご飯を食べ終わった私は苦しいお腹を撫でながら茜ちゃんが敷いたレジャーシートの上で横になっていた。


『何も無理して食べなくてもいいじゃないか』


「女の子の手料理は全部食べないと駄目……」


前世でお姫様方が正妻に対抗心を燃やして料理を──待てフウ、なんだその黒いのは焦げてるのかというかツンとした匂いが……え?ヌマトカゲに毒見さ


せた?いやヌマトカゲは毒を食べて体内に溜める魔も……いや違う。別にフウの料理が毒だといいたいわけじゃ────落ち着けエルカ見てるだけで目が


痛くなってくるそのカラフルな炒飯っぽいものを置…………唐辛子でさらに赤くするな!──やめろアリア!そのオリーブオイルの中にパスタが沈んでる


ペペロンチーノを深皿に盛るな!パスタを茹でるってお湯でだから!


「──様? お姉様?」


「はっ!」


第一回ドキドキプリンセス料理大会!吐血もあるよ!の悪夢を見てたようだ……魔王すら倒したのに危うく嫁の料理によって毒殺されるところだった。


「それでお姉様、頼みがあるのですが」


頼みって何だろうか。

わざわざ屋上まで連れ出して話すことに心当たりが──いや闇の雫(ダークティアーズ)か?


「何かな?」


「実はですね──」


珍しい茜ちゃんからのお願い。

何かと私を慕ってくれるので可愛く思ってるし、何より前世で敵対していたとはいえ殺してしまったという後ろめたい点も存在する。

いや私は騎士でもないし普段なら殺した相手に敬意を払うとかまったくしないのだが、実際目の前にしたら考えるものがある。

とにかく茜ちゃんの頼みはよっぽどのことがない限り聞いてあげ……


「学園祭の間、男装をして茜の婚約者のフリをして欲しいのです」


「ごめん無理」


「即答!?」


「だ、男装だけは……男装だけはする訳にはいかないのよ」


それは過去の過ち。

私はとある事件から自らへの罰としてズボンを買っていない。

その全てがスカートであり、トップスも身体のラインを隠すようなものは買っていない。


「そこを曲げて何とか!」


「ぅ……話を聞いてからで決めさせて…………」


「はい!」


一つ。

茜ちゃんのお父さんは組織の中でもトップの人物であり、当然権力もある。

二つ。

しかし権力があっても独裁ではないのでそれなりに義務というものも存在する。

三つ。

その義務の中に優秀な者を生み組織幹部の有能さを維持するものがある。つまりは茜ちゃんにも婚約者がいる。


「その婚約をどうにかしたいからどうにかして欲しいって?」


「はい……さすがに茜も組織に属する以上、簡単に断るわけにはいかないのですよ」


苦々しい表情で語る茜ちゃんだが嘘は言っていないようだ。


「そんなに嫌な人なの?」


「いえ良い人ですし親切です。 ですがちょっと生理的に……」


「そういえば茜ちゃん、人間不信だったね」


忘れてたが茜ちゃんは前世での出来事から人間という生物に恐怖を感じている。


「え? それはもう別に──」


「あ、ごめんね。 こういう事言うのは失礼だよね」


「──まぁそれでいいです」


ん?茜ちゃんが別の意味で苦々しい感じになったが、何だろう。

聞き返すには少し遅いし……いいか別に。


「それで茜の婚約者のフリ、してくれますか?」


「…………」


私は前世、望まぬ結婚をさせられた。

老若美醜問わず、とかなり前に語ったと思うが全員が全員美少女だ。

世界を救った勇者に下手な人間は送り込めないし、その繋がりを強くしたい各国は当然王族を送り込んできた。

しかし世界を救ったタイミングで『俺』と近い年齢の未婚の女性を揃えられるかは運次第だったので10歳の子が嫁いできたりしたが──とにかく彼女達


を『俺』は愛していたが、別に望んで結婚したわけではない。

むしろ各国の姫との結婚が決まった時は何としてでも阻止しようとしたものだ。


人間不信の茜ちゃんが良い人と言い切る婚約者、おそらく本当に悪い人ではないのだろう。

その人に会ってみないと断言は出来ないが前世の経験から、茜ちゃんがその人と結婚すれば幸せな結婚生活は築けるはずだ。

だけど


「はぁ。 分かったよ」


「ホントですか!?」


私が前世で大丈夫だったからと彼女を突き放すことは出来ない。

それに彼女は人間不信だしその対象と結婚するというのはストレスだろう。

ならばせめてそれを払拭できるだけの時間を作らせてあげるべきだ。


「ただし! 今回だけだし空いてる時間のみだよ? ……本当に男装は駄目なの」


「えっと、何かあったのですか?」


「…………」


「いえ言いにくいなら別に……」


私自身もまだこの事に関しては割り切れていない。

というかトラウマだ……今でもために夢に見る。

いや今朝に既に見たか。


「私が小さい時……それは小さな過ちから始まったの」






私は子供時代、転せ──じゃなくて兄を含む年上の男(父さんの側近のゲイルさんとか)に囲まれて育ったから男の子のように振舞っていた。

両親、特に父は私以外が男の子だったので女の子として生まれた私を猫可愛がりしており、買ってくれる服装もヒラヒラしたものばかりだった。

それに反発した私は今はもう名前も顔も覚えていない兄を誑かし、ボーイッシュな服装ばかりを買わせていたものだ。

というか最近になって色々思い出したけど、本当にあの兄はどこ行ったんだろ。

どうせなら家にいる弟のほうが行方不明になればよかったのに。


「あのな妹よ。 お兄ちゃん、その格好はちょっと感心できな……」


「そんなこというお兄ちゃんきらい」


「超似合ってるぞ妹よ! ちょっと買ってくる!」


ちょろかった。

いや誤解しないで欲しいのだがあの頃の私は中途半端な時期だったので色々と自制が効いてなかったんだ。

そういえばあのお兄ちゃんをぞんざいに扱う一方で凄く懐いてたけど、アポなしで会いに行けば大抵出かけてたのは今考えればバイトしてたのかな。

道理でポンポン色々貢い……もとい、プレゼントしてくれたわけだね。


「ふふん。 あー、あー……よし完璧だね」


鏡を覗き込めばそこには美少年がいたの。

これぞ完璧な男性スタイル、私は開放感を抱きながら街へ一人散歩に出かけた。

そしてたどり着いたのがいつも遊んでいる公園で、綺麗なところなんだ。


「あそこにいるのは花梨じゃないか」


見ると女の子達に混じって花梨がおままごとをしているのが見えた。

私が嫌がるからそういう遊びは基本的に私を除いてやって……断じてはぶられてるわけじゃないよ。

だけど幼馴染であり親友が私を置いて皆と楽しく遊んでいるのはちょっと気に入らなかった。

丁度花梨はトイレに行くようなので待ち伏せして驚かせてみよう。

その些細なことが全ての始まりだった。


「やぁ」


「ふぇ? だ、だれ?」


「おや、分からないかい?」


男装をしているが別に化粧をしているわけでもないので私の顔をよく知っている花梨ならすぐに気付くと思ったのだ。


「う、うん」


そこで悪戯心が沸いた。沸いてしまった。


「ボクの名前はアキ。 キミは?」


「…………かりん」


「かりん、可愛らしいキミの為にあるかのような美しい名だ」


「ふぇ!?」


子供を褒める時は複雑な言葉を使わず単純に可愛いとか分かりやすく褒めるのがコツだ。

複雑な言い回しで褒めて「○○ってどういう意味ー?」って聞かれて説明するのはギャグで滑ってネタを説明させられるのに似た羞恥を感じる。


いやちょっと過去に色々あってその時のお世辞を言う性格が前面に出たというか……お願いだからここはスルーして。


「かりん、もしこの後で暇があるならボクとデートしないかい?」


「で、でもアタシたちあったばかりだし」


「心配いらないさ。 全てボクに委ねればいい」


うん、どこのホストだって思ったでしょ?

私もそう思うけど、この時は幼馴染を騙せてるという高揚感でいっぱいだったんだ。


「かりん」


静かに手を差し伸べた。

そして必殺アキ君スマイル(前世では嫁達に爆笑されたけど、美少年アキ君なら効果は抜群だ)を花梨にしたんだ。

うん、一瞬で花梨の顔がリンゴみたいに真っ赤に染まったね。

ちなみにアキ君スマイルは前世の友人であったコウタから習った。

本家コウタスマイルは私の比じゃないくらい凄くて、通りすがりの年頃の女の子を一瞬で見惚れさせるという最強のナンパ法だった。

とは言うものの本人は完全なシスコンなので女には興味なかったらしいが。

…………あれ、シスコン?

私の兄といいコウタといい、世の兄はシスコンなのが定めなのだろうか……いや貴族では兄妹で殺しあうとかよくあることだったし、ないか。


ともあれそれから一週間に一度、男を演じることに快楽を得た私は歯止めをかけることが出来ず花梨に会いに行った。


そして悲劇は起こった。


「大好きですアキ君! アタシと付き合ってくださいっ!」


「…………えっ?」


その発想はなかった。

いや情けない話だが当時は男のように振る舞いながらも自分が女だとも自覚していたので必然的に女は恋愛対象外だった……まぁ男もだけど。

その後どうなったのかって?

半泣きで正体を教えたら号泣されて花梨、家に引き篭もった。

一週間花梨の母が慰めて何とか持ち直したが、それ以来私がボーイッシュな服を着てると凄い眼で見てくる。

いやぁ、この私が一般人から睨みつけられただけで背中が冷や汗でグッショリになったんだからよほど負い目があるんだと思う。

逆襲として真夜中の校舎、七不思議巡りにビデオカメラ片手に一人歩かされた。

そういえば何が起こったんだっけあの夜?

えっと確かトイレで赤だの青だの聞かれて青って答えたら腕が伸びてきたり謎の力で動く人体模型が襲い掛かってきたり下半身がない女の子がテケテケと


音をたてて嗤いながら追いかけてきたり逃げ帰ろうとした瞬間全ての出入り口に鍵をかけられて窓はなぜか机をぶん投げても壊れな──







「やめてとめてやめてとめて出して暗い怖い寒い誰かっ!? ぽまーど! ぽまーどぉぉぉぉ!!!!」


「お姉様? お姉様ーっ!?」

花梨との思い出回

あまり男言葉が出たりしないもの実はこの辺りが原因だったりもします


コウタ:前世において異世界から来たらしい弓使い。魔王討伐後、アキトの代わりに自分の世界に帰った。妹命と公言しており、読者様方には誰なのかお察しの状態かと思われる

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