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41話 リベンジ

良い朝だ。

まるで正月に新品のパンツを穿いたかのようにサッパリとした。


「まぁ正月前にゲットするショーツって福袋から出た残念なやつだけだけど」


目の前の現実から逃避する為についついネタに走ってしまった。

ビリペンの刑──手に電撃魔法を纏わせたお尻ペンペンの刑のことだ。

ポ○モン風にいえば『効果は抜群だ!』と出るくらい罰としては効果的なそれだが一つだけ副作用がある。


「えへへ……」


「(ブルブル)」


「…………」


お尻を高く突き出した形で頬に涎の痕を残した締りの無い表情でベッドに突っ伏して寝ている未来ちゃん。

いつから起きてたのか部屋の隅でブルブル震えて恐怖に顔を引き攣らせている花梨。


やってしまった。


前世で妻の一人をドMにしてしまったこのお仕置きは多用するべきではない。

というか出来るなら避けるべき罰なのだがあまりにも効果的すぎるのでカッとなったらついやってしまうようだ。

私はされたことがないから分からないが、前世のドM妻曰く


『最初叩かれてる時は屈辱的だったんだけど電撃がいい具合にあれな感じで足がピクピク動くの。 そしてだんだん痛覚が麻痺してきて残るのは痺れるような快感──それでアキト様、次の夜伽ですが三角木──』


間違えた。

いや間違えてないけど最後のは違う。

私の夜の営みは全てノーマルで断じてエスでエムな生活は送っていなかった。


そして未来ちゃんのこの反応は……お仕置きを終えて部屋に放置した次の日の朝に様子を見に行った時のドM妻、そして杖の仲間のミィと同じだった。

女として終わっており、健全な少年が見れば興奮する前にひくことだろう。

今、未来ちゃんの両親が突然この部屋に入ってきたら私と花梨は島田家に出入り禁止になるかもしれないレベルだ。


ふと震えている花梨に視線を送るとさらに身体を震わせながら怯えるように後ずさる。


何もしないっての。







起きた直後は焦点の合わない目を虚空に彷徨わせた後、しばらくして真っ赤になり布団に潜り込んだ未来ちゃんは表面上何事もなかったかのように朝食をとった。

彼女はどうやら取り返しがついたようだ……稀に前世のドM妻のように一晩ではまっちゃう人ははまっちゃうからなぁ。

ミィの場合はその素養は低かったようでドM妻のような中毒症状を引き起こして何かにつけてお仕置きして欲しそうになるまでには至らなかった

それでもたまーに物欲しそうな顔でこちらをジッとみつめてたこともあるけど。

ちなみに一週間毎晩ビリペンの刑をすればどんなドSでもドMに出来る自信が私にはある。


『そんな自信つけてどうするのさ』


『いや現実逃避しないとやってらんなくて』


辛かったなー……プレイ用の鞭や蝋燭、緊縛用のロープとかを発注欄で見た時は旅に出ようかなと考えたなー。

チラリと朝のニュースをボーっと見ている未来ちゃんを盗み見る。

…………たぶん、大丈夫。たぶん。


なんとか記憶を消せないかとルーに記憶操作の魔法を今取れるかどうか聞いてみたのだが、全然ポイントが足りないらしい。

何でも他人に干渉する魔法というのは非常に高度でそれ相応にポイントを消費するんだとか。


『だけど君が望むなら僕がやってもいいよ?』


『出来るの!?』


『まぁ僕は魔法使いのお供だからね。 一応問題が起こったときの対処もボクの仕事さ。 それに認識阻害でアヤが雷を手に纏ってるのも誤魔化してたんだよ?』


『え……』


『まさか普通の人間は手から放電するなんて思ってないよねアヤ? いいけどさ……だけど一つ問題が』


そういう台詞って必ず後に何かとんでもない問題いうよね。

嫌な予感をしつつその先を促してみると


『ハッキリ言って認識阻害を一晩中使ってて魔力が全然足りないから何かしらの方法でアヤがボクに魔力供給してくれないと』


『は? …………いや無理でしょ』


魔力というのはDNAのようなものだ。

加工して高純度の魔力にすれば供給することは可能だが、直接となると不可能。

言うなれば肌に合わないというやつだ。

出来なくもないかもしれないがそもそも燃料が違うので魔法の使い勝手は変わるし意図せぬ暴発もありえる。

まぁ方法がないでもないが、そもそも人間には出来ない方法だし……いやひょっとしたら出来るかもしれないけど私はやりたくない。

その技法がサキュバスの得意技ってあたりでもう選考外だ。

あ、でも妹命の仲間だった弓使いコウタは「性魔法、習得できたぜ!」って言ってたな。

理論上は性魔法を習得できていても使うとなれば話は別なのだが、相手がいなかったから実験はスライムでしたらしいけど。

紅一点だったミィはともかく私を含んだ他の男達は慰めるのに大変だった。

というかスライム相手に性魔法って今更だけど何をしたんだろう本当に。


『他には吸血鬼が吸血行為で魔力を回復させることが出来るけど、あれって確かそういう器官持ってるからだし』


『大丈夫だよ! ボクは魔法使いのお供。 だからどんな人の魔力であっても自分に適合させて使うことができるのさ!』


『本当に!?』


今日は今まで役に立ってなかった小動物が役立つ小動物に見えた!

ごめんね、今まで綺麗なキュ○べぇとか思ってて。


『じゃあアヤ、魔力玉を作ろうか』


『え?』


『だから魔力玉だよ。 スフィアって言えばいいのかな? 純粋に自分の魔力を外部で凝縮させるんだ』


『…………どうやるの?』


『…………? いや魔法少女なら出来るはずだけど……標準機能の一部だし』


そもそもちょっとでもそれが出来ないと変身出来ないし。

そんなルーの呟きに私は表情を硬くする。


『え? できないの!?』


『うううううるさいっ!』


『いや待ってならどうして変身出来──あ、そっか。 元々魔法使えるからか。 じゃあ魔力玉の作り方知らなくても変身出来るね』


『何納得してるの! ルーなんてやっぱり綺麗なキ○ウべぇだよ!』


『なにその不名誉なあだ名!?』


やはり役に立たない小動物だった。

そう確信すると共に決意する。

もうこの小動物には頼らないと。


「ほんな、綾ちゃん行こうな」


玄関で靴を履き終えた未来ちゃんが既に外に立っている花梨と共に私のことを呼ぶ。

今日はこの後三人でショッピングに行くのだ。







二人についてウィンドウショッピングしながら午前中を潰し、もうすぐお昼時だねと言いながらビル内を探索中。

話題は学校で噂されているカップルについて──恋話とか私にはレベルが高すぎるので相槌をうつ程度に収める。

この二人、自分達の恋愛ごとはスルーだけど他人の恋愛は大好きなんだよね。


「でも怪しいって言っても噂レベルでしょ?」


「それが違うんや……なんと休日に二人でデートしてる姿が目撃されてるんやで!」


女の子怖い。

というかデートしてるくらいそっとしてあげようよ!

恐ろしきは女の子の情報網か好奇心かはたまた両方か……。


「あ、ゲームセンター……綾ちゃん、昨日のリベンジや!」


「ん?」


確かにゲームセンターだ。

やたらピカピカしてて雑音が酷く少し煙草臭い。

しかしゲームセンターかぁ、行くのは前世も含めて初めてだな。


「まずはレースゲームや!」


「昨日も推してたよねそのジャンル?」


「昨夜はコテンパンにやられたけど、今日は賭けような」


「何を?」


「そうやなぁ……三回先に負けたほうが今日一日語尾に『にゃー♪』もしくは『にゃん♪』をつけること」


自信でもあるのだろうか?

まぁそんなに自虐したいなら別にいいけどさ。


「ふっふっふっ、ウチの実力を思い知らせてやるっ!」


100円玉を二枚投入し、未来ちゃんの隣の席に座る。

ついでに花梨もその隣に座り三人で対戦することに。

マ○オカートというかレースゲーム自体あんまりやったことないけど、どうしよう。

一般人とはスペックが違いすぎて負ける気がしないというのも問題だ。

昨日みたいにヘソを曲げた二人に集中攻撃をもらっても嫌だし……差はそんなにつけないで勝ったほうがいいのかな。


そんな悩みを抱きながら始めたレースゲームは私の予想外となる結果になった。


「なん……だと……?」


「わーい! 綾ちゃんに勝ったー!」


「初めてだったけど面白いね」


上から画面に映る2位の輝きに驚き震える私、堂々と一位をとり喜ぶ未来ちゃん、4位だけど満足そうな花梨。

馬鹿な……この私が、かつて魔王すら滅ぼし最強の存在といわれた私がたかが一般人に運ゲー以外で負けただって!?


「綾ちゃんの敗因はたった一つ……テメェはウチを怒らせたっ!」


「尻出せ」


「いやああごめんなさいいいいいいいい!」


調子乗ってる前世幼馴染に天誅を下そうとしたら泣いて謝られた。

平気な顔して朝食食べてたけどやっぱり辛かったんだなビリペンの刑。

まぁ嵌るよりはマシだけどさ。


「でもレースゲームってこういうもんかぁ……」


未来ちゃんはどれだけやり込んだのかは知らないが、コースの特徴を完全に掴んでいるように見えた。

一方私は完全に初見だったので一週目で未来ちゃんに差をつけられ、二週目で少しコツを掴むがさらに引き離され、三週目が始まった時には絶望的な程の距離があった。

あと10回くらい同じコースをすれば未来ちゃんと良い勝負が出来そうだけど、マ○オカートは妨害要素もあるのでそれを考えるともっとかかる気がする。


「これで二回やで。 さて次は……」


「待って。 次は私が選ぶ番じゃないと不公平だよ」


このままでは明らかに未来ちゃんがやり込んだゲームで惨敗をしてしまう。

いや一般人に負けるわけがないけど、万が一があるし。


『アヤ必死だね』


『うるさい!』


さて……無難に昨日やった格闘ゲー──え?


「こ、故障中?」


ギ○ティギアの筐体の画面に張られている一枚の紙。

それには故障中と書かれており、電源は切られている。


「…………か、格闘ゲームならなんでもいいか」


その隣にあった北○の拳というマッチョさんが画面に映っている格闘ゲームを指定する。

すると未来ちゃんがニタァと笑みを浮かべた──が、私も不適な笑みを浮かべる。


「私に格闘ゲームで勝とうなんて十年早いよ!」


「その慢心、打ち砕くでぇ!」


Fight!


……

…………

………………


「ば、馬鹿な!?」


「ふふーん」


無難にケ○シロウとかいう格闘ゲームでは癖がなさそうな主人公っぽいの選んだにも関わらずのフルボッコ。

未来ちゃんが使っているキャラはシ○でガード不能技が多い……何だこのゲーム。


「なんてドリブル!? しかも開幕同時で一撃必殺が投げ技から繋がるってどういうこと!?」


「ふふふ、アヤちゃんこのゲームはやな……なんと完全なコンボゲーなんや。 間違っても初心者が上級者に勝つことはない類の」


私は知らず知らずのうちに死地へと向かってしまったというのか!?


「じゃあ次はやな……」


未来ちゃんの視線がレースゲームのほうへと再び向けられる。

このままでは不味い──もう私の後に敗北は許されない!


「待って未来ちゃん」


「何や?」


「同じ種類のゲームをやってもつまらないから、違うのにしよう」


「「…………」」


花梨と未来ちゃんがジト目で私を見る……な、なんだよぅ!


「はぁ。 まぁええで」


「よし!」


「じゃああれや」


未来ちゃんが指差した方向にあるあれは──


「ク、クイズ? まぁ別に構わな──」


「何寝ぼけたこと言ってんのや」


「ひょ?」


未来ちゃんはクイズゲームの筐体のさらにその向こう……クレーンゲームを指差していた。


「…………」


嘘だ……こんな現実はありえない。

猫語で一日を過ごすなんてきっと夢に違いない。


「あ、綾の脳が目の前の現実を拒否して妄想に浸ってる」


「よく分かるんやな……まぁ行くで」


お花畑をルンルン気分でスキップしていた私だが、未来ちゃんに手を引っ張られて我に返ると顔を真っ青にしてクレーンの前に立っていた。


「先にとれたほうが勝ちな。 ハンデで綾ちゃんから先でええで」


「いいいい一度目で取れれば問題ないし!」


震える手を押さえながら筐体にお金を入れると軽快な音と共に二つのボタンのうちの一つが光り輝いた。

即ち横ボタンが!


「(ゴクリ)」


私は覚悟を決めて、そのボタンを押す。

すると間抜けな機械音と共にアームが動き出した。


「こいつ、動くぞ!?」


「動くに決まってるでしょ」


冷静な花梨のツッコミすら聞こえず、今の私の全神経は目の前のアームに注がれていた。

今の私は機械だ──ただ一つのぬいぐるみを掴み取る、精密な機械なのだ!


「すごい、5倍以上のエネルギーゲインがある!!!」


「なぁ花梨ちゃん。 綾ちゃん、どれだけてんぱってんの?」


「んーと、前にジュースとアルコール間違えて飲んだ時と同じくらいかな、多分」


「こ こ だ!!!」


次に『たて』と書かれているボタンを押し、奥行きを計算しながらそのタイミングを測りとる。

今の私にはただボタン一つとアーム、そしてぬいぐるみの三つしか存在していない。

その中で私は確かにぬいぐるみの声を聞き取った。


『見せてもらおう……異世界の勇者の性能とやらを!』


『ふっ……後悔するなよシ──茜ちゃん!』


なぜか出てくる茜ちゃんの名前に疑問すら抱かずに私は目をカッと見開いてボタンから手を離した。

最高のタイミングで放ったそのアームはぬいぐるみへと真っ直ぐ伸びていき──








「そろそろお腹空いたね」


「そやなー」


「さぁご飯を食べにいくにゃん!」


勇者であってもどうにもならない現実というのは存在する。

私は今世でそれをしっかりと実感できたのであった。

綾、慢心を打ち砕かれるの巻き

感想でも言われてましたがゲームの大多数はいくらスペック高くても熟練者に初心者が勝てるわけがありません


ちなみに未来ちゃんはドM化しません


性魔法:お察しの通りの魔法。異世界の教会では悪魔の魔法(間違ってない)とされており、ばれると異端査問会が開かれる

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