40話 りあるふぁいと、れでぃーごー!
戦略性はあるものの運要素が強いパーティーゲームは私の圧倒的敗北に終わった。
なんとか善戦はしたのだが終盤になる頃には既に挽回しようがないほどの差だ。
思えば普段ゲームで花梨を虐めて、さらに今日は未来ちゃんを虐めたのが悪かったのか。
フルボッコで私の所持金はマイナスになり借金を負うはめとなる。
『元勇者が借金なんて笑い話にもならないね』
『り、リアルマネーなら既に一番だもん』
『魔法なんてズル使ってるからでしょ』
ボディーガードの仕事は基本的に身体能力を魔法で上昇させ、また知覚系の魔法も常駐させている。
だからこそ依頼達成率が今の所100%を記録しているのだが、それが高所得の理由なのでえばるのは確かに間違いかもしれない。
「綾ちゃんホント弱いんやな」
「完全に運要素のみだと綾はたいていの勝負に負けるからね」
「そうなん?」
正確に言えば運要素のみのコンピュータゲームでは、だ。
やったことないけどスクラッチタイプの宝クジだったら勘だけであてる自信がある。
だけど変数と確率管理されているゲームはちょっと……そこまで悪い数字は出ないのだが普通より運が悪い。
なので今回のように二人がかりでかかられるとか不利な状況で戦えばまず間違いなく負けるのだ。
『じゃあバイトなんてしなくて宝くじで稼げばいいんじゃないの?』
『やだよギャンブルで稼ぐなんて。 そういうのって目をつけられたらお終いなんだからね』
一度や二度、中額くらいなら大丈夫だろうがギャンブルで利益を出すのはあまり賢いとはいえない。
まず前提としてギャンブルは主催者側が儲かる仕組みを作っているのだ。
そこに常に勝つような稼ぎかたをすれば目をつけられるのも当然だ。
小額のみでチマチマ稼ぐという手段もあるがそれはそれで目をつけられそうなので手は出していない。
『だいたい元勇者がギャンブルってそっちのほうがシャレになんないよ』
『え? でもこの前やったゲームだと勇者がカジノ行ったり他人の家のタンスをあさったり──』
『現実だとそれ勇者じゃなくて泥棒だから』
まったく前世で私は他人の家のタンスをあさったりなんかしてな──
『…………そういえばしたような』
『ほら、やっぱり勇者スタイルじゃないか』
『いやでもあれは浮気調査で証拠集めの為に仕方なく!』
『何で異世界で勇者じゃなくて探偵の真似事してるのさ』
『ルー、お金は無限に湧くわけじゃないんだよ』
そりゃあ自分を召喚した国は金銭的な支援をしてくれたけど他国に渡っていくにつれてそれはなくなっていくのだ。
あの世界の移動手段といえば馬で、最速は竜だ。
竜騎士を動員してお金を届けるという選択肢もなくはなかったがそもそも竜騎士は国の中でも最強の軍隊の一つで、魔物の対処に忙しいのに遠出させる余
裕なんてなかった。
なので必然的に遠方ではお金を稼ぐ手段が必要だったのだ。
『それにしてもさ』
『なにかな?』
『…………パーティーゲーム、いつになったら終わるのかな? 今度は友情破壊ゲームになってるけど』
『さぁ』
既に四回戦になりつつあるパーティゲームの初期設定をする花梨と未来ちゃんを遠い目でみつめる。
間に休憩として夕食を食べて現在の時刻は夜中の二時。
今日は篠原 明人の部屋を漁ろうと思っていたのだが出来るのだろうか。
『……ちょっと使い魔に様子を見させてくるかな』
二人に気付かれないように小さく魔法を詠唱。
後ろ手に使い魔のフェアリーを召喚しようとして──
『あれ?』
『どうしたの?』
『……召喚できない』
おかしいな。
そこまで難しい魔法じゃないので失敗しないと思うのだが。
『既にワーウルフを召喚してるからじゃない?』
『えー? 使い魔ってそもそも手軽に呼べる軍隊のことを指すんだよ? まぁ専属の使い魔は別だけど』
常に自身の傍に仕えさせるタイプのものは使い道が違うだけだが、召喚魔法は複数召喚して戦力を割り増しする手法だ。
だから召喚できるのがワーウルフ一体だけというのはありえないのだが。
『ここはアヤのいた世界じゃないからね。 何か理が違っても不思議じゃないよ』
『そんなもんかな』
あまり考えずに初期設定を終え、二人の操作を眺める。
そしてふとルーが疑問を口にした。
『こう、電気操作的なものでデータ弄ったりできないの?』
『ルー、私のことなんだと思ってるの? 出来るわけないでしょ』
雷魔法で回路をショートさせるなら出来るがデータに干渉するとか無理。
だいたい何度も言っているが私は基本的に魔法を使うことしか出来ない。
「私、才能ないからなぁ……」
「え、才能?」
「何言ってるん。 お菓子作るの上手やん」
あれは材料費が凄く高いだけです。
それはおいといて偵察行動に優れているフェアリーを呼び出せないとなると自分の足で確かめにいかなくてはいけない。
だけどもう明日に支障が出るほどの時刻になってもまだまだ二人は遊ぶ気のようだ。
魔法で眠らせようか?
いやでも緊急時以外に魔法を他人、それも魔法を使えない一般人に使うのはよくない。
いわゆる秘匿義務というもので魔法というものは隠されてあるべきものだ。
寝ている間なら意識がないのでバレようがないが今使えば怪しまれてしまう。
…………おかしい。
「いまさら?」って言われたような気がする。
『精神的に危うくなったらいつも使ってるよ』
『まじで!?』
『運良くばれてないみたいだけどね』
でもそんな記憶ないし、ルーの気のせいじゃない?
魔法って精神集中が大事だからそんな精神的に不安定な状態できちんとした魔法が使えるわけがないし。
『そうなのかい?』
『魔法少女は違うの?』
『魔法少女はマジカルクリスタルを使って魔法を使うからね。 だから正確に言えば体内に持っている魔導具で魔法を使っているんだ。 だから基本的に
魔法が失敗するってことはないよ。 イマジネーションでバリエーション作ったりテンションで強度を上げたりは出来るけど』
ふーん……道理でゲームでコマンド選択するみたいに魔法を使えるわけだ。
ある程度融通は利かせられるけど、純粋に別の魔法を使うことは出来ないと。
『ならスリープの魔法をばれないようにしつつ……』
『それなら魔法『ハイド』で魔法を透明化すればいいよ!』
『ポイントいくつ使うの?』
『綾でも簡単にとれるくらい低いよ。 ただ魔力値が高い人には見えちゃうのと闇の雫には意味がないのと10分くらい魔法の起動
準備時間に身体が淡く光るのが問題だけど』
『役に立たないなそれ!?』
何の為に作ったんだろう。
『使うのはOBの人だね。 ほら、綾の異常な行動を隠蔽してくれた小学校の担任の先生も使ってたよ。 『高速起動』っていう魔法の待機時間を短縮す
るスキルと一緒に使ってるけど』
『ようするにそんなスキルをとらないと実用性ないってことじゃ……とにかくどうしようか』
篠原 明人の部屋を確認したいのは当然だが、二人を誤魔化して外に出るのは難しい。
別に二年生になるまで半年以上あるので今日くらいは休んでもいいかな。
「ところで綾さ、何その名前。 いやいいんだけどさ」
「え?」
「アキトになってるんやけど」
…………。
完全に無意識で自分の前世での名前を入力してしまったようだ。
気付けば既にゲームは始まっており、今更設定しなおすのも面倒なのでそのまま行くことにする。
職業は安定性の高いファイターを選び、こちらを集中攻撃する気満々の二人がどんなことをしてもそこそこ対応できる。
逆に花梨はマジシャンで未来ちゃんはウォリアーと完全にこちらを殺しにきてる。
私の精神年齢が高く前世で何かと我慢を強いられる英雄貴族なんてしてなければ間違いなくキレて二人とのリアルファイトが開催されただろう。
『のわりにはイライラしてるみたいだけど』
画面の中で花梨のフィールド魔法が私のキャラに襲い掛かる。
『…………』
足止めを食らったところで未来ちゃんの強襲。
アキトは無残に殺され装備品を奪い取られた。
『あ、あや?』
数ターン待ち復活するも未来ちゃんの使った魔法により僻地にワープさせられる。
『(ピキピキ)』
いやぁ、怒ってないよ?
だって私、大人だもん。
前世で知らない村人に「なんでもっと早く助けに来てくれなかったんだ!」と石を投げられ罵られた時も我慢できたんだし。
んなもん知らねぇよ人に頼る前にまず自分で何とかしようとしろよ!とか言わなかったし。
助けたのに罵られるとまじで魔法をぶっ放したくなる……その晩仲間に酒を勧められて何とか持ち直したけど。
とにかく私の堪忍袋は切れにくいからこんなことでキレたりはしな──
画面の中でアキトが遠距離攻撃魔法に晒され、弱っていく。
当然私の顔に青筋が浮かぶ。
「…………」
やがて遠距離攻撃魔法でアキトの命が落とされると同時にバキィッと手の中でコントローラーがひしゃげる音がし、それに気付いた二人がぎょっとして振
り返る。
私の手の中で握りつぶされたコントローラーを見て呆然とし、次に私の顔を見て顔面が蒼白になる。
「土下座」
「え、ここは普通正座とかやないん?」
「すいませんでしたぁ!」
花梨はすぐさま土下座して謝ったが未来ちゃんは天性の気質かついツッコミを入れてしまう。
しかしそれが私の導火線に火をつけるどころか火炎放射器で爆弾ごと燃やす愚行で──
「尻を……尻を出しなさいっ!」
夜中だというのにその叫びは近所に響き渡り、数日間様々な尻に関する噂が流れるのであった。
ど○ぽん:友情破壊ゲーム。いくつか極悪コンボというべき魔法やアイテムの組み合わせが存在し、それが行われれば瞬く間に平和なゲーム大会はリアルファイトに移行する。友情をとるか金をとるか、常にその二択を迫られるこのゲームをプレイするのは注意しなければならない。