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4話 過去への誘い

実は前世の私には幼馴染がいる。

それも可愛い女の子の、だ。

まぁ厨二病が深刻化してからは超嫌われてたけど。


「本当にいつから明人はああなっちゃったんやろか? ウチがいけなかったん?」


「…………」


目の前で懺悔してる関西弁の女の子は島田 未来。

篠原 明人の幼馴染で絶縁中だが何だかんだで世話をやいていたりするらしい。

前世では鬱陶しいとしか思っていなかったがマジでごめんなさい、私がご迷惑おかけしました。


「この前は自己紹介だけだから大丈夫やと思ってたのに、シン=エターナルがどうのとか言い出すし……」


グサリ、と再び言葉の棘が突き刺さるが今最も傷ついているのは未来だ。


なぜこんなことになったのか。

入学式から少し日が経ち今日は通常授業開始日だ。

とはいうものの初日なので殆ど教科担当の先生との顔合わせが殆どを占めており、入学式の次のメインイベントは新入生歓迎会である。


そして昼休み、花梨と一緒にご飯を食べ終えると私は一人フラリと中庭に来た。

今日は良い天気だしマナ濃度も高いのでとても気分が良い。

篠原 明人のことを忘れて少し昼寝するくらい許されるだろう……そう思いベンチの端に座った時、反対側に女の子が俯いていることに気付いた。

既視感を体験しつつその少女のことを思い出そうとうんうん唸っていると少女が大きく溜息を吐いた。

仕方がないので話を聞いてみようかと挨拶をしたのが運の尽きだった。


「何とか真人間にせなと思って話しかけたら『女、俺に近づくな。 怪我するぜ』とかもうわけわからんわ!」


グサッ


「今日やって授業中にいきなり『フフッ……おっと失礼、思い出し笑いだ』とか言って教室の空気凍らすし!」


グサグサッ


「最後にお昼休みが始まった直後に『一時さらばだ諸君、私はこれから世界の平和を守ってくる!』って叫んで普通にドア開けてでてったし!」


グサグサグサッ


「綾ちゃんどう思うそんな男? ウチ、そろそろ我慢ならんねんけど!」


「え? そ、そうだね」


ごめんなさい自分の前世です。

なんて言えればどれだけ良いか。

というか前世とはいえ厨二病時代は既に50年以上前の記憶なので覚えているのはおおまかなものだけだ。

細かい黒歴史はあまり覚えていなかったのだが……これは酷い。


「あ、暖かく見守ってあげればいいじゃないかな? そのうち目が覚めるよきっと」


異世界召喚された後にだけど。


「そうかなぁ」


「厨二病は中学二年生の男子に一番多いから厨二なんだよ。 その人の病気がいつ始まったかは分かんないけど、いつか真人間になってくれると思う」


召喚される前はずっと厨二病だけど。


「そうやな……ありがとな綾ちゃん。 おかげで少し楽になったわ」


「ううん未来ちゃん。 私は未来ちゃんが本当に良い子だって分かってるから。 相談ならいつでも乗るからメール交換しよ?」


主に度が過ぎた黒歴史を報告してくれるとか。

知りたいような知りたくないような微妙な心境だが、もしそれが世に残ってしまうような代物ならば知らなければならない。


「はぁ、今日は明人大丈夫やろか。 おじさんとおばさんが出かけてるけど、料理なんて出来んやろうし……」


「今の話を詳しく」


未来ちゃんから早速得た情報はこのうえなく良質のものだ。

これからどうやって計画を実行に移そうかと考えていた段階でまさかの千載一遇。







「お友達になった記念にお泊り会しようよ!」


私は出会った初日にこんなことほざいてくる奴がいれば幻の左で返答することだろう。

だが彼女、未来ちゃんは最初「え、なんで?」と言っていたがすぐに笑顔で頷いてくれた。

そのあとすぐに泣かれたので慰めながら理由を聞いてみると


「ちゃうねん……明人のせいにするわけやないんやけど、ウチ友達がおらんねん」


いやそれ遠まわしに篠原 明人のせいだって言ってない?


どうも未来ちゃんが友達がいないのは身近に厨二病患者がいるせいらしい。

最初のほうこそ彼女には普通に友達もいたのだが幼馴染が厨二を発症させてから事態は激変。

厨二になっても俺達友達だよ!と言わんばかりに(篠原 明人基準で)普通に話しかけてくる幼馴染のせいで友達は離れていった。

しかも幼馴染だったので実は付き合っているという噂がひそひそと流れていたこともあり、未来ちゃんも黒魔術とかやってそうだとか思われて敬遠されてたらしい。


いや本当にごめんなさい私の前世がご迷惑を……。


未来ちゃんが泣いたのは久しぶりに友達が出来たかららしい。

幼馴染のせいで友達を失った未来ちゃんはこのままだと幼馴染としか親交が出来ないと判断し、幼馴染を遠ざけていたのだがすぐに状況は変わらず今日やっと友達が出来たと。


「実は明人と同じクラスになったとき、また一年友達がおらん生活が始まると思っとったんや……ってなんで土下座してるん?」


「いや…………あの……心の底からごめんなさい」


「なんで綾ちゃんが謝るん? 変な子やな」


泣きながら笑う未来ちゃんに更に罪悪感が募る。

ごめんなさい、変な子です。

ごめんなさい、友達がいなくなったのは前世の私のせいです。

ごめんなさい、実は友達になろうって言ったのは滅茶苦茶打算ありです。

直視する黒歴史に幼馴染への罪悪感……この学園生活でストレスがマッハなのだがはたして私は奴が異世界召喚されるまで乗り切れるのだろうか。


「綾ちゃんスマフォ出してーな」


QRコードで交換やー、未来ちゃんが私に見せたQRコードを確認してカメラを起動する。

そういえばスマートフォンって赤外線通信なくなったよね。

赤外線通信って日本独自の文化で外国ではあんまり人気がないらしい。


「うん、表示された。 名前は島田 未来……住所教えてくれる? 遊びに行くのに必要だから」


「そうやな。 貸りるで」


ピッピッピと手馴れた様子で未来ちゃんはプロフィールの欄に住所を書き込むと私のアドレスを登録した。

それを見て嬉しそうにする未来ちゃんに涙を誘うものを感じつつ今日の計画について考える。

すなわち────優先度決定計画だ。







夜、寝静まった家の窓が静かに開けられた。

その家で眠っている物は誰も気付かず、ベッドの上を見ると平和そうに「えへへ」と寝言をムニャムニャ言いつつ気持ち良さそうに寝ている。


「ごめんね未来ちゃん」


睡眠魔法『スリープ』。

あまり魔法が得意とはいえない綾だが補助魔法はそこそこ得意だ。

なんとこの魔法を使えばパーティの女仲間の眠りを深くして色町に行くことが可能だったのだ!

…………本当に最低な理由だと思うけど、今は役に立っているんだから気にしないことにする。


「えっと、奴の部屋は……」


50年以上前とはいえ自分が住んでいた家の部屋くらいは覚えている。

10年以上住んでいた我が家なのだ……分からないはずがない。


「…………」


鍵は持っていないが庭から入れるリビングの鍵が壊れかけており、数回窓を揺らしてやるだけでロックは外れるのだ。

庭に侵入して何か異変がないか周囲を警戒しながらゆっくり見渡す。


「あ、トマトだ。 私嫌いだって言ってたのに育ててるんだもんねぇ……嫌いだったなぁ、この庭」


つい漏れ出る独り言に首を振って流れ出そうな涙を堪える。


「感傷は後……今はやることを先に」


窓をガタガタと数回揺らしロックを外すとすぐに中に入って閉める。

未来ちゃんからの情報通り気配を探ってみた結果、家にいるのは篠原 明人一人のようだ。

場所は同じ一階の……向こうは確か洗面所だったっけ?

かすかに明かりがこちらに漏れている。


『ふん! …………違うな。 ふん! …………お、よくない?』


「…………?」


何をやっているのだろうか。

本来の計画なら既に寝ている篠原 明人の寝室に忍び込み『スリープ』をかけ眠りを深くした後ゆっくり家捜しをする予定だったのだ。

一応彼が何をしているのかを把握しておく必要がある。


「…………」


足音を鳴らさないように慎重に進みながらコッソリ洗面所を覗き込む。

そこには……


「ふん! いやもっとこう、眉をキリッとして……ふん!」


(か、かっこいいポーズの練習をしているーっ!?)


様々なポーズを鏡の前でとっては一喜一憂している篠原 明人を目撃した私のテンションは下がった。

家捜しをしていると感傷に浸ったり古傷を抉られたりでテンションは下がる一方なんだろうなと思っていたけど、これは予想外だ。

どうやらどこまでも前世というのは私の邪魔をするらしい。


(どうする、アイツが寝るまで待つ? でも未来ちゃんの眠りを深くしているといっても限度があるしなぁ)


未来ちゃんの魔法耐性がどれだけあるか分からないが出来るだけ早く戻るのが吉だろう。

となれば……


(召喚に応じよ、ワーウルフ)


召喚魔法で見張りをさせる。

地面に淡く光る魔法陣が張られるとそこからせり上がるようにして出現したのは銀の毛を持つワーウルフ……狼男だ。

召喚魔法というと契約した使い魔を召喚するイメージがあるがそれは第一召喚魔法だ。

第二召喚魔法は種族そのものとの契約で契約主は種族から兵士を借り受けることが出来る。

まぁ契約にもランクがあって私のワーウルフへのランクだとせいぜい小間使いくらいにしか使えないが、別に構わないだろう。


「あの男を見張ってて。 この部屋から出ようとしたら知らせてちょうだい」


了解した、と頷くワーウルフに「殺しちゃ駄目だよ」と念を刺して二階に上がる。

ワーウルフは亜人と呼ばれる人種だが少し魔物よりなところもあるので、少々頭が弱い。

ハイワーウルフと呼ばれるワーウルフのリーダー的存在のみが種と統率するに相応しい頭脳をしているのだが……。

さすがに100匹に1匹くらいの割合しか産まれないといわれているハイワーウルフを借り受けるのはランクが足りなさ過ぎる。

だいたい頭の良いワーウルフなんて呼んだらいつ契約したんだと問い詰められるに違いないのでどちらにせよ呼びたくはないが。


「さて……」


ここが、かつての私の部屋だ。

何の変哲もない普通の木製の扉に鉄の取っ手。

だがこの先に私の黒歴史(かこ)が……。


「いざ!」

お気に入りの台詞です。

(か、かっこいいポーズの練習をしているーっ!?)

投稿する前にふと思い出しましたがグ○グルにも光魔法でカッコ○イポーズってありましたね。修行法があれでしたが。

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