37話 置き去り
後々どこか修正するかもしれません
旧校舎はかなり古い木造建てで、廊下を歩くとコンコンではなくギシギシと木材が軋む音がする。
少し前に茜に聞いたのだがこれは桜木グループの保有する訓練所が地下にある関係で、一般人が無闇に旧校舎へ足を踏み入れないようにする為にわざと
そのままにしているらしい。
そうなると当然危ない床などがあるのだが、特に危険な場所は事前に茜ちゃんから聞いている。
少なくとも人間が廊下を歩いているだけで床が抜けるようなことはないのだとか。
「そういえばさ」
「なんや?」
「なんでこの旧校舎って取り壊されないの? もう使う予定ないんでしょ?」
単に地下室への入り口のカモフラージュとして残されてるらしいです。
そんな裏事情を話せない私はいざという時に花梨を守るために出来る限り花梨の身体にくっついて歩いている。
……そう、いざという時に守る為。
けっして私が怖いわけではない。
「ウチが聞いた情報によるとやな、呪いのせいらしいで」
「ひぃっ!? そそそそそ、そんなわけにゃいにゃ!」
「にゃ?」
「あー、綾のことは気にしないであげて。 この子怖い体験してる最中は奇行のオンパレードだから」
失敬な、それではまるで私が怖い体験をしている真っ最中みたいじゃないか。
「怖くないよ!」
「はいはい。 それじゃあアタシから離れてよ。 さっきから暑い」
「私は怖くないよ? でも床がギシギシ言ってて危ないし、もし仮に幽霊が出てきたら私が守らないといけないしだからこの距離が一番最適なわけであ
って──」
「うわ……綾ちゃん可愛ぇ」
「アタシもそう思うけど、子供の頃は大嫌いだったね」
なんで?と聞く未来ちゃんに花梨は溜息交じりに答えた。
「アタシ達は公園とかでよく遊んでたけど小学校は別だったんだよね。 それでよく綾から学校の愚痴を聞いてたんだけど」
「うん」
「クラスの男子が怖い話を聞かせてくるって涙目で話してきたんだよ。 …………当時は媚を売ってるとしか感じなかったね」
「あー、確かに媚を売ってる子って嫌われるもんな」
具体的に誰がとは口に出さないのは陰口が好きではないというのもあるだろう。
だが所詮媚を売っているかどうかという判断は主観だ。
本人がその気はなくても知らず知らずのうちに売っている可能性もある。
「その頃はちょうど綾と大喧嘩した後だったからさ。 綾のやってたことを何でも悪い方に考えてたんだ」
「ふーん、大変やったんな」
「──だから仮に窓から襲いかかってきても私が花梨と窓の間に入れば即座に撃退できるし!」
「「…………」」
あれ、二人が顔を見合わせてるけどどうしたんだろう。
「…………計算でやってたらアタシも本当に嫌いになれたんだけどなぁ」
「完全に素やもんな」
「?」
よく分からないが私の何かのことを話しているのは分かったが、経験上問い詰めても答えてくれなさそうだ。
「媚を売ってるといえばあんなこともあったっけ」
「あんなこと?」
「小学校の頃、綾の家でやった豆撒きでさ……」
「花梨!?」
なぜに花梨が私の恥ずかしい過去をバラそうとしているのだ!?
私は別に鬼に扮したパパに脅かされてマジ泣きとかしてないよホントに!
あれはただ目から汗が出てきただけなんだよっ!
「あれは別に怖かったわけじゃなくてただ驚いただけで……」
「じゃあその夜にアタシの布団にもぐりこんできたのは?」
「…………ほら、寒かったから」
自分でも空々しい言い訳だと自覚できるが、そういうことにしてくれるらしく花梨は視線を教室へと向けた。
割れた窓ガラスから中を見てみると隅に椅子と机が積まれている。
昔懐かしい木のボードに鉄製の四本の足とボードの下に教科書や筆箱を入れる空間で構成されている学校机だ。。
新校舎ではデザインも一新され環境にも優しい素材を使われているので使わなくなったものを旧校舎にそのまま置いているのだろう。
「う」
「どしたの急に立ち止まって」
不思議そうに花梨が尋ねてくるが、私にとってはそれどころではない。
準備で忙しかったから行く暇がなかったのだから仕方ないのだけど、我慢して最悪の展開に陥るのも不味い。
「……お花を摘みに参りますわ」
「なぜにお穣口調……着いていかなくて大丈夫?」
「っ!? 大丈夫に決まってるでしょ馬鹿っ!!!」
いやホントはついてきてもらおうかなとちょっと考えたけど、売り言葉に買い言葉だ。
もはや幼馴染に頼るという選択肢はない。
「先に行ってて」
「ホンマ大丈夫なん? 待ってるで?」
「大丈夫っ!」
『…………いきなり十字架を地面にばら撒いてボクを掴んだと思ったらトイレって』
「い、いいでしょ? 窮屈そうだから出してあげただけなんだし」
小動物と一緒にトイレに入るのは羞恥心がヤメロと訴えかけていたが、こんな雰囲気バリバリの夜の旧校舎で一人になるほうが嫌だ。
いや別に怖いわけじゃなくてこういった敵地ではツーマンセルを崩すのは良くなくて例え小動物でも一緒にいればいざという時に茜ちゃんと連絡が取れ
るのが強みだしなんだかんだでルーって少しなら魔法も使えて足手まといにはならないし──
『心の中で言い訳してるけど、変身してたらある程度ボクに考えてることが伝わるからね?』
「はっ!?」
私は今、魔法少女に変身している
ルーがいるとはいえ一人になってつい怖くてバトルドレスという名の鎧を身に纏ったわけでは断じてない。
「確か戦闘時における作戦を円滑に進めるタメだっけ?」
『そうだよ。 アヤが許可出してないと無理だけど』
そういえばかなり前に許可出してそのままにしておいたんだった。
変身する機会があまりにも少ないので別にいいけど。
ピリリリリリ
「ひぃっ!?」
『アヤ、電話だよ……ビビリだね本当に』
「何か言った!?」
『別に』
失礼なことを言う奴だな。
とにかく今も鳴っているスマフォを尻ポケットから取り出して画面を見る。
「……花梨?」
もしかして何か進展でもあったのだろうか。
首を傾げながら電話に出ると、想像通り花梨の声が聞こえる。
『ねぇ綾、今どこ?』
心なしか声色が悪い気がするが……はて?
「2Fのトイレだけど? それがどうかし──」
『いやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!』
ブツン
急に聞こえた悲鳴と切れた通話に驚きスマフォを落とす。
慌てて拾い上げ折り返し電話をかけるが、待っても待っても繋がらない。
未来ちゃんにもかけてみるがそちらも同じだ。
「…………」
まさか。
そんな言葉を呟きかけて気力でねじ伏せトイレから慌て気味に出る。
『どうしたんだい慌てて』
「だってトイレだよ? 花子さんだよ? 鏡があるんだよ!?」
『そういえば学校で定番の心霊スポットだったね』
分かってるなら聞かないで欲しい。
ふと廊下の窓から外を見ると花梨と未来ちゃんの二人が猛スピードで校舎から出て行く姿が見えた。
「…………」
まさか。
今度はその後に「見捨てられた?」と言いたくなった。
「え、なんで? まさか私、囮にされてるの?」
『顔が青いよアヤ』
「ひっ」
脳に直接語りかけられたその声にびくつき……すぐにルーの念話であることに気がつく。
「脅かさないでよ!」
『はぁ』
あ、何か呆れてるコイツ!
『何があったのかな? 幼馴染の子も関西弁の子もかなり慌ててたみたいだけど』
「私の居場所を聞いた後、悲鳴が聞こえたけど」
さっぱり分からない。
溜息を吐いて花梨のスマフォの場所を探知して彼女達がどこに行ったのか確かめようとして
「あれ? ……まだ校舎にある」
逃げる時に落とし──え?
『動いてるね』
「…………」
思わず花梨と未来ちゃんが出て行った方向を見て、画面の地図を見てと交互に確かめる。
旧校舎に今いるのは私とルーだけのはずだ。
ならば花梨のスマフォはいったい誰が動かしているのだろうか。
その答えを出した私は顔から血が引いていくのを感じ、フラリと尻餅をついた。
『あ。 校舎の端で止まった』
「…………帰っていい?」
『何しにきたのさ……確かめるだけ確かめてこようよ』
「ル、ルーが確かめてきてくれない?」
『いいけど、そうしたらアヤが一人で帰ることになるんだけど』
それだけは勘弁して欲しい。
忙しなく視線を動かして周囲を最大限に警戒しながら私はルーを抱きかかえて廊下のど真ん中をすり足で動く。
「窓っ! ルーは窓を見て! 私は教室を警戒するから!」
『闇の雫と戦ってる時より警戒してるって……』
だぁくてぃあぁず?
……あ、そうか
「えっと……いた」
『ん?』
「気配を探ってみるとこの旧校舎に誰かが確かに一人いる。 しかもスマフォの位置と同じ位置に」
よく考えたら私達以外にもう一人いるはずなのだ。
私、花梨、未来ちゃんにルーの他に行方不明になった一人が。
なんだ別に変なことじゃないじゃないか。
「でもやけに気配が薄いね……」
『三日間も帰ってないらしいからね。 衰弱してるんじゃない?』
なるほどそれは確かだ。
やがて私は旧校舎の一室である図工室で行方不明となった少女を見つけ保護した。
発見した時はスナックの空袋が周囲にポイ捨てされており、理由は分からないが図工室でこの三日間生きていたのだろう。
後に茜ちゃんから聞いた話では記憶の混濁が激しく三日間のことは何も憶えていないとのことだった。
僅かなスナックのみで腹を満たしていたのか栄養が激しく偏っていて衰弱していたが、何も食べていないよりはだいぶマシですぐに復学できるとか。
「蓋を開ければなんてことのない事件だったね花梨、未来ちゃん」
あの少女も散々騒がせておいてただの家出だから、結末とはえてしてこんなものだろう納得した。
『(あの発見直後の衰弱具合を考えるとスマフォが移動した時に廊下を出歩いていたとは考え辛い。 それに幼馴染の子と関西弁の子が悲鳴をあげた理
由も分かってない……二人は二人でそのことをなかったことにしようとしてるのかダンマリか。 気付いたらうるさいだろうし黙っておこう)』
「これにて、事件解決っ!」
「う、うん」
「……せ、せやな」
『やれやれ』
やっぱり幽霊なんていないのさ!
プロットと違う展開なので二人が薄情に……まぁきっと綾への信頼の裏返しでしょうタブン
あと何やらフラグが乱立してますが回収するのいつになるんだろこれ




