35話 HENTAIでい
変態注意報
今回変態成分かなり多めです
「平和だ」
最近平和すぎる。
私は戦慄と共に部屋の隅で視線を鋭くした。
『…………別にいいじゃないか』
「ルーはおかしいと思わないの?」
『なにが』
どうやらルーは気付いていないらしい。
今朝、ママが不思議そうな顔をしていたがこの小動物の感性は鈍いようだ。
「これが嵐の前の静けさ……」
『いやだから何なのさ』
「忘れたの? この家に潜む変態の事を…………!」
『いや潜むって……でも確かに最近リョウ、真面目だね』
あの変態、近頃変態していないのだ。
呼吸するかのように変態していたあの変態が変態しなくなったら変態じゃなくなるじゃないか!
「だから変態される前に変態を変態するしかない!」
『混乱するのは分かるけど落ち着こうよ』
被害がないからそんな暢気でいられるんだよルーは!
「いい? 私が最後に変態を三枚に下ろしたのは一週間前」
『あー、ついに刃物で攻撃した日のことだね』
今までは何だかんだでその身一つで制裁していたがとうとう武器を持つにいたった。
林間学校で使うかなと思っていたけど使わなかった新品のサバイバルナイフの切れ味は良かった。
「それからというものの変態は基本的に部屋に引き篭もってる……出てくるのは食事と家事の手伝いをする時だけ」
『単にアヤのことが怖くなっただけじゃあ……ちなみに意外だろうけど、実はアヤよりお手伝いしてるんだよ』
「私の下着の為に、って最初にカッコでついてる時点で褒めたくない」
合法的に下着を触り、しかも匂いを嗅いでたのを目撃した時の私の怒りはプライスレス。
「昨日なんて」
『ん?』
「私の部屋の前にパンツ置いといたのに……反応すらしないなんて屈辱っ…………!!!」
『待ってアヤ。 目的と手段が入れ替わってる』
いつもは興味津々な癖にスルーされたら滅茶苦茶腹立つ!
せっかく電撃床のトラップを仕上げたというのに!
「そのせいで今朝、寝起きに電撃を浴びることになったじゃない!」
『…………人生楽しそうだね』
楽しくない!
「でも下着以上の餌となるといったい……」
『一つしかないんじゃない?』
「え?」
『ん』
器用に右前足を私をスッと指すルー。
えっと…………
「足?」
『いやアヤ自身。 裸で寝れば釣れるよたぶん』
「女の子を何だと思ってるの!?」
『じゃあ自室の前に自分のパンツ置くとかやめようよ。 女の子レベル下がっちゃうよ』
ぬ……確かに今考えてみればちょっと非常識だったかもしれない。
「じゃあブラでいいかな」
『まったく分かってない!?』
しかしどうやって変態の動向を探ればいいのだろうか。
とりあえず変態の部屋の前まで移動し、ルーを胸に抱えて考える。
「…………盗撮か」
『いやいやいや、いきなり犯罪に走るのはどうかと──』
「大丈夫だよルー。 自分の家にカメラ仕掛けるのは犯罪じゃないから」
『どうしてそんな豆知識知ってるのさ……』
だいたいその程度で犯罪だったら私はとっくに変態を牢にぶち込んでいる。
いや中学生で未成年だから少年院か?
でもさすがにあれでもパパの子供だから前科つけるとパパ悲しむだろうしなぁ……ママは「あらまぁ」とか言って困った顔するだけだろうけど。
そういえば最近パパに会ってない。
いつも海外で働いていて長期休みにまとめて休みをとってこの家に泊まるのだが、かなりのナイスガイだ。
次に会うのは夏休みだと思うけど、帰る時に変態も持って帰ってくれないかなぁ?
『マサノブも忙しい身だからね。 というかリョウも忙しいはずなんだけど……何で地球にいるんだろ?』
中学生のくせに変態って忙しい身なの?
家では変態してる姿しか見てないから到底信じられないのだが。
むしろパパの住んでるところで迷惑をかけてパパが保護者として謝ってる姿が簡単に想像できてしまう。
「──────ア!!!」
「ん? 何か言った?」
『何も言ってないよ』
おかしいな、何か声が聞こえたような気がしたんだが。
耳を澄ませると確かに何かくぐもった声が聞こえた。
…………変態の部屋の中から聞こえる。
それが気になってドアに近づくと今度はベチーンベチーンと断続的に何かを叩く音がした。
「?」
部屋の中で変態が何かをしている。
それだけ分かった私はルーを足元に下ろして恐る恐るドアに耳をくっつけた。
足元でルーが同様に獣耳をドアにくっつけているが、ケモミミの癖に人間と聴力が同等なのだろうか。
「──りする──ア!!!」
「???」
やはり聞こえない。
そういえばママが防音設備のある部屋がこの家にあるとか言ってたような気がするけど、ここのことだったのか?
何のために、と聞いたことがあるが元々この家はママが買ったもので建築には一切関わってなかったらしい。
なので当時の私も「ふーん、そうなんだ」と軽く流したのだが……最近やけに静かだと思ったのはこの防音設備のせいか。
「ルー、バトルドレスって確か感覚のブーストあったよね?」
『アヤ、魔法少女っていうのは使命なんだ。 敵も出てないのに家でポンポン変身するのはボクとしては──』
「召喚」
また説教が始まったので足で踏んづけて黙らせてから右手を掲げ、バトルドレスを着た。
変身した直後、変態の動向を気にせずとりあえず制裁すればいいんじゃね?と過激な思想が過ぎるが、あれでも弟だ。
現行犯ならともかく怪しいだけで罰するのは良くない。
『とか言いながら昨夜罠張ってたんじゃグェッ!』
「何か言った?」
『…………』
黙ったルーを確認すると静かに足をどけて今度こそと耳をドアにくっつける。
小動物が後ろですねてるけど明日になれば機嫌が直ってるだろうし置いておく。
『まぁいいけどさ。 変身してたらアヤの五感は共有できるし…………でもアヤのボクに対する扱いの酷さはかなりだと思うんだ。 まったく暴力オブザイヤーだよ』
イヤーの前はジだよ、と言うのは無粋なのだろうか。
「───くりする──ピア!!!」
「…………」
意識を集中する。
目を閉じ全感覚を聴力を残しシャットダウンするとやがてその変態の声が高々に頭の中で響き渡った。
「びっくりするほどユートピア!!」
「…………???」
バチーンバチーンと定期的に何かを叩く音も継続している。
しかしいったい中で何が行われているのだろうか。
「びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア!!」
同じ言葉を繰り返しながらバチーンバチーンと音が鳴り響く部屋がまるで異界のように思え、思わず後ずさる。
『…………除霊?』
「え?」
『なんでもない』
「んー?? まぁいいけど……ルーは変態が中で何をやってるのか分かるの?」
『身も凍るような儀式さ……リョウは今、戦ってるんだ。 自分とね』
「えっと?」
ルーが遠い目をして語ってるけど、私にはサッパリだ。
「よく分かんないんだけど、私はどうしたらいいのかな?」
『中で行われている儀式をアヤが見たらどう思うか分からないから、放っておいたほうがいいんじゃないかな?』
「でもそれだと何で変態が最近大人しいのか分からないよ」
あくまで目標は忘れていない。
変態が大人しい原因を探り、あわよくば永遠に大人しくさせておく為に私は今ここにいる。
だが中で何が行われているのかを把握しないことには私が安心できないのだ。
「ねぇルー。 一つ聞きたいんだけど」
『何かな?』
「それって変態行為?」
『…………』
そっと視線を逸らしたルーの仕草から全てを悟った私は頭痛を感じながら自室へと戻った。
本当は制裁したいが部屋の中でやっているということは変態のプライバシーの範囲ということだ。
さすがに弟の部屋に勝手にズカズカ入り込んで偶然見た変態行為を鬼の首をとったかのように責めるのは姉としてダメだ。
変態は弟に値しない変態だが、だからといって私が姉に値しない人間になることはない。
「んー……まぁしばらく見守ってみようかな」
数日後、宅配で送られてきた変態アテの荷物の項目の中の品名に『エロゲ(姉もの)』と書かれていたのを目撃した私の怒りは燃えあがった。
しかもダンボールを開けてみるとただの姉ものではなく、陵辱エロゲだったのが私に聖剣を召喚させた原因だろう。
変態は単に日本の姉ものエロゲにはまってただけで、下着のトラップを回避したのは賢者タイムと重なっただけだった。
さらに悪かったのはエロゲを片手に私に問い詰められた変態が「勝手に開けるなよ!」と逆ギレして私(の持っていたエロゲを奪う為)に襲い掛かってきたことだ。
後に『宅配テロ事件』とルーによって名付けられたこの事態は変態リョウの二週間における病院生活で幕を閉じるのだった。
びっくりするほどユートピア:ぐぐってください
宅配テロ:エログッズが中身の分かる形で宅配され家族に見られること