34話 ぼーりんぐでい
滅びの呪文
「ねぇねぇルー。 ルーの故郷ってどんなところなの?」
『いきなりだね。 どうしたんだい?』
「いやね、私達ってなんだかんだでもう一月以上一緒に寝てるじゃない? 所詮小動物と見下してたけどさすがに親近感湧いてきて」
『そんなふうに思ってたのかい!?』
いやだって最近見たアニメの関係でどことなくキュ○べぇを思い出すから下等生物の先入観が強くて……。
「ごめんね?」
『いいけどさ……それでボクの故郷だっけ?』
「うん」
以前ルーが言っていたが、基本的にルーの世界にはルーと同じ種族の生き物しかいないらしい。
そんな小動物オンリーの世界はどういうふうにまわっているのか気になったのだ。
『ボクの産まれた世界に名前はないんだ。 ただ一つの国、ミケルケル王国があるだけ』
「ん? どういう世界なの?」
『正確には世界というよりは次元の狭間の一角を改造して安定させる為に地球へ接続してるんだよ。 だから異世界というよりは地球にある異空間だね』
ああ、だからミケルケル王国と地球を簡単に行き来できるのか。
私の考えでは世界間移動は基本的に無理だと思っていたので納得である。
『そして作られた空間だから当然大地はないし、ただ空間があるだけなんだ。 そこに生物が生きる為に必要な水や空気を(勝手に)他の世界から集めて人工的な浮遊する大地を作り、城と街を作ったんだよ。 それがミケルケル王国……女神様が作り上げた領地さ』
「それは凄いね……」
仮にも神を名乗るくせに自分は自国に引き篭もり小学生を魔法少女にして戦わせているから馬鹿にしてたけど、女神様はかなりの力を持っているらしい。
というかそんなに強いならお前が戦えよと思うけど、きっとやむにやまれぬ事情があるに違いない。
『住人は殆どがボクの種族で、あとは女神様と人間が数人いる程度だね』
「へぇ……少し行ってみたいかも」
闇の雫を倒したことで私はマジカルドルという給料を得ているはずなのでミケルケル王国で買い物が出来るはずだ。
となれば行くことが簡単なら日帰りで観光してきてもいいかもしれない。
『別にいいけど、これだけは守って欲しいことがあるんだ』
「ん? 何?」
『うん……絶対にミケルケル王国で「バ○ス」とか「目がああぁぁぁ!」とか言っちゃダメだよ』
「…………ラ○ュタ?」
『見た目が完全に浮いてる城だから来た子供達がよくそう言って……女神様が激怒するんだ。 私の城を壊したいのかって』
確かに言いたくなる気持ちは分かる──が、一から頑張ってミケルケル王国を作り上げた女神様にとってそれは無視できない暴言らしい。
「言ったらどうなるの?」
『…………この前も8歳の新人の魔法少女の子が言っちゃったんだけど……』
ゴクリ
『…………ま、まぁアヤには関係ないよね。 分別つくんだから』
「最後まで言ってよ!? そこで止められると逆に怖いよ!!」
告白
平穏な日々とは何事にも変えがたい財産だ。
私はこの世界に産まれてから何度もそう思うようになった。
近頃は平穏どころか魔法少女やらされて紛争地帯を素足で走りまわされるような事態になっているが、それを除けば平穏だ。
こらそこ嵐の前の静けさとかうるさい。
とにかく私はこの平穏な日常が大好きだ。
一瞬某少佐の演説で平和を語ろうと思ったが長すぎるので面倒だしやめた。
で、だ……私は平穏が好きだがこれだけはと好きになれないものも当然ある。
「如月さん好きだ! オレと、付き合ってくれ…………っ!!!」
「木星に私の名前の書いた旗を刺して来れたら考えてあげる」
告白イベントだ。
花梨には気付かれないようにしているが、この学校に入学してから6人目……まだ二ヶ月くらいしかたってないことを考えればありえない頻度だ。
というか感性が男の私に告白するなんてコイツら体目当て丸出しじゃないか。
『…………いやアヤの小動物丸出しな仕草が原因だと思うけど』
「何か言った?」
『なんでもない』
「…………?」
ルーに悪態をつかれた気がするが、たぶん気のせいだろう。
しかしこう告白イベントが連発すると複雑な気分だ。
前世の篠原 明人だった頃は厨二病を煩っていたので当然だが告白されたことはない。
勇者になった後は求婚いっぱい来たけど、結局権力目当てで仕方なく各王族と結婚しただけだし。
一応本妻の子には告白して結婚したけど、純粋に気持ちだけで告白されるのは女になってからなんだよね。
…………納得いかない!
いや厨二病患ってる時がモテモテだったらもっと納得いかないけど!
「はぁ……今回はあっさりしてて良かった」
いつもはもっと食い下がってくる。
押しに弱いと思われているのだろうか私は。
『別に付き合ってあげてもいいんじゃないかな。 お試し期間みたいにさ』
『私もそう思ってたけどさ』
『そうなの?』
中学校時代、私は一度だけとある男の子と付き合ったことがある。
その子は勉強もスポーツも出来てクラスの中心人物だっただけに告白された時は頭を抱えたものだ。
付き合っても断っても角が立つ人物は本当に面倒臭い。
それでその子は押しに押した結果、お試しということで一ヶ月付き合うことになった。
最初は一週間だったが食い下がられ結局は一ヶ月に……あれ、やっぱり私、押しに弱いような?
『うん、なんていうか映画見に行ったりピクニック行ったりでかなり頑張ってくれたんだ』
『良い子じゃないか』
私もそう思う。
でもねぇ
『一緒にいて楽しくないのなんの……もうね、デートって意識するだけで全ての笑みが消え去る』
頑張ってテンションあげたんだけど、それでも楽しめなかった。
結局半月でその子のほうが諦め別れたんだけど、それ以来どんなに押されても期間限定で付き合う気はない。
なんせその後相手が勝手に諦めたのに彼の事を好きだった子に責められたのでかなり面倒だった。
『まぁこれくらいの時期ならまだマシなんだよね』
『どういうこと?』
『学年の終わりになるにつれて告白する人って私をよく知る人ってことが大半だから……熱意が違う』
それに比べればさっきの人の言葉は薄っぺらい。
本当に本気で口説かれるとか勘弁してくれ。
中学校卒業間近になればもはや地獄だった。
「如月さん俺だーっ! 結婚してくれー!」
「A:俺と結婚する! B:俺と婚約する! さぁどっち!?」
「姉ちゃんの瞳にかんぴゃ──」
間違えた、最後のは家にいる変態だった。
割と本気で目潰ししたら三日くらい眼帯してたから再生能力にも限界があるっていうのは本当らしい。
逆に言えば両目を潰せば三日大人しくなるということだ。
いやそれよりも目って再生できるものなの?
ちなみにこの十年後、とある一人の男が宇宙飛行士になったのだがきっと関係ない。
関係ないったら関係ない。
ギャンブル
「なーなー、麻雀やろー」
放課後の教室でダラダラ三人で駄弁っていると、未来ちゃんの一言からそれは始まった。
ギャンブルは身を滅ぼす。
そんな格言があるように引き際を見極められない人間がギャンブルにはまると借金を背負うはめになる。
特に熱くなりやすい人間は要注意だ。
「麻雀って……危険察知したりリーチするとなぜかドラがいっぱい乗ったり牌の裏が透けて見えたりするあれ?」
「いや花を咲かせたらあがったり月とか海の底がどうのとかタコス食べたら運気が上がるあれじゃないの?」
「どっちも合ってるけどその認識ってどうなんや」
そんなこと言われても麻雀なんてやったことないし。
というか女子高生が集まって麻雀ってどこか不良チックな雰囲気が出るのではなかろうか。
「昭和じゃないんだし麻雀はないよね。 というか私と花梨と未来ちゃんだけじゃ一人足りなくない?」
「ふふふ、そこは抜かりないでぇ! さぁ!」
バーン!という効果音と共にドアから現れたのは一人の少女!
「だれだっけ?」
見覚えはあるのだが。
「紫カレーの子、渚ちゃんや」
「渚……よろしく」
紫カレーちゃんこと渚ちゃんがどうでもよさそうにスマートフォンを弄りながら椅子に座って挨拶する。
明らかに乗り気じゃないけど、未来ちゃんはどうしてこの子を連れてきたのだろうか。
「当然負けたら罰ゲームやで!」
「「え」」
私と花梨ちゃんの言葉が重なったのを無視して、どこから持ってきたのか持ち運び出来る麻雀牌を繋げた机の上に広げ始めた。
「そうやなぁ……10000点ごとに一枚!」
「野口さんだよね? 野口英雄さんのことだよね!?」
「何言ってんの? 衣服に決まってるやん」
賭けるのは金銭ではなく己のプライド。
見れば渚ちゃんもスマートフォンに落としていた目を驚愕で見開き、こちらを見ていた。
「東風戦一局ごとに判定なー。 あ、箱点は三枚やから」
…………未来ちゃんが何を言っているのか分からない。
「ちょっとルールブック確認していい?」
「あ、アタシも」
スマートフォンでググって麻雀のルールを確認する間、未来ちゃんは麻雀牌のセットをしている。
渚ちゃんは「帰りたい」と嘆き呟くが誰も聞いてくれないことを悟るや大人しく席に座っている。
「それじゃ始まるでー」
私にはよく分からなかったが親をサイコロで決めた未来ちゃんが私を親だと言った。
とりあえず山にある一つを取って──
「あ」
隣の牌に手がぶつかってしまい、山が崩れてしまう。
これどうすんだ、と思い未来ちゃんを見ると──ニヤニヤしていた。
「チョンボ。 皆に4000点払いな」
「えっ」
勝負の世界は非情だった。
麻雀は何か次話に続くみたいな終わりかたしてますけど続きません。
いやそこそこリクエストあったら書くかもしれませんけど。
ただあくまでネタなのでちゃんとした麻雀描写を求めてはダメです。