31.5話 聖剣
31話と同時投稿です。
バトル&オマケ回なので読まなくても次話でフォローします。
丑三つ時となり既に花梨と未来ちゃんの二人が寝ている中、私は何かが頬を叩く感触に意識が覚醒した。
とはいうものの元々寝起きが良くないので自分を叩いた人物をポケーッと見ているだけだが。
『起きてアヤ! 闇の雫がいっぱい出たんだ!』
「…………」
その言葉に私は一気に身が引き締まり、戦闘準備を──
「……zzz」
『それでも寝るの!?』
人間は三大欲求を我慢することは出来ても抗いがたい誘惑なのには違いない。
だから私が睡眠欲に負けるのは仕方がないのだ。
『起きないと勇者君の黒いノートを教室の壇上に置いておくよ?』
「ひぃっ!? 起きます!」
恐ろしい宣告に私は思わず寝袋から一瞬で這い出て立ち上がり敬礼した。
やっと意識がハッキリしたが、どうも状況がつかめない。
というかそんなに怖い顔してなんなのさルー。
『この山を闇の雫が囲ってる!』
「…………えっと?」
『早く変身を!』
変身って魔法少女に?
「え、なんで?」
『?』
「だって篠原 明人はこのテント場にいるんでしょ? なら能力者に任せて入ってきそうなら迎撃すればいいじゃない」
『確かに能力者達が既に出てるけど、それでも絶対じゃないんだ。 だからアヤにはその穴を埋めて──』
どうもルーは私の言っていることを理解していないらしい。
「ねぇルー。 私、戦いたくないんだけど」
『何だって?』
「だって篠原 明人さえ守れれば私は無事なんだし……幸い花梨も未来ちゃんも近くにいる。 むしろ迎撃に向かったら二人が危険だし」
『でも闇の雫の数が普通じゃない! このままじゃ能力者の人たちも危ないよ』
えー……だって彼ら、それでお金もらってるんでしょ?
所詮部外者の私が口というか手を出すのもなぁ。
でも能力者の人たちが死んだら結局こっちが危ないし手も足りなくなるよね。
「んー…………でも別に知り合いでもなんでもないしなぁ」
気配を探ってみると脳筋君と少年は既に戦いに出ているらしく隣のテントにはいない。
一度戦ったことがある私としては脳筋君が闇の雫に負ける要素はないと思っている。
少年?まぁ死なないといいかな。
『マジカルクリスタルを成長させなくていいのかい? 使わないとスキルポイントは手に入らないよ』
「それって私の場合意味ないんじゃない? 攻撃魔法は自前だし」
『変身してるだけでも成長はするのさ。 身体を通して出る魔力を少しずつ吸って成長するからね。 言っておくけど闇の雫と
戦うタメに変身した時だからね』
どういう基準で判定しているんだろ。
家で延々と変身してるだけでポイントもらえたら嬉しかったんだけど。
でもたしかにイビルアイ3の為にスキルポイントは欲しいなぁ。
「じゃあ行こうかな」
『…………人命より別の物を優先する魔法少女って』
ルーがまるで幻想を打ち砕かれたかのようにへこんでいるが、どうしたのだろうか。
別に戦闘中はルーが役に立つわけではないのでどうでもいいが……。
テントの外に出て私は右手を挙げてキーワードを言った。
「召喚」
赤いドレスを身にまとった私は予め持ってきていた仮面を被り、闇の雫の気配を確かめる。
『いやまって。 なにその仮面』
「正体隠せるかなって」
『格好悪い。 魔法少女なのに可愛くない!』
「戦闘衣装に見栄えを気にするのが間違ってる」
強ければいいのだ強ければ。
私はネットゲーム等で装備が自由にカスタマイズ出来るとどんなに見た目が悪くても性能で選ぶタイプだ。
見た目装備で着飾っているキャラなんて自分以外に腐る程いるんだからそいつらで補えばいいだけだ。
「それにこの仮面は頑丈になるエンチャントをしているんだよ。 これで顔の防御力は高くなった!」
『女の子としての魅力は凄く低くなったけどね』
うるさい黙れ。
戦場に出るとそこは地獄だった。
闇の雫の気配がやたらするなぁ、と思っていたが私はかなり楽観的だったらしい。
「うわ、虫みたいに湧いてるね」
『なんでこんなにいっぱいなんだろう?』
やはりルーにとってもここまでの規模は初めてのようで戸惑っている。
能力者達も戦列を組み対抗しているが圧倒的な物量に押されつつある。
「今まで出てこなかったのは戦力を溜め込んでいたってこと?」
『わからない。 闇の雫はあんまり頭が良くないみたいだから……』
過去闇の雫が戦術のようなものをとったことはないらしい。
なので知能は動物レベルと思われていたようだが、ここまで大規模な戦いを起こすからには何か理由が──
『ねぇアヤ』
「今考えてる」
『闇の雫がアヤを狙ってる。 しかもこの場にいる全部の闇の雫が』
「…………え?」
気がつくと能力者達を無視するようにしてこちらに激走する闇の雫の軍団がいた。
逃がさんという意志をもって私を取り囲みつつある闇の雫に頬が引き攣る。
「っ」
白兵戦において最も避けなくてはならないこと、それは敵から完全に囲まれることだ。
いくら最強の力を持っていても四方八方から攻撃を食らえばやがては力尽きてしまう。
勇者は条件さえ整えば国を相手取っても勝つことは可能だが、逆に言えば条件さえ整えればただの兵士が勇者を倒すことも可能なのだ。
囲まれることを避ける為に私は勢いよく能力者の集団へと走り出した。
彼らと一緒に戦うことによって攻撃目標を分散させるのが目的だ。
ぶっちゃけ外道の一言だがこのままだと99%な自分の生存率が70%くらいにまで落ちてしまうので彼らには命を張ってもらいたい。
「フレイムエンチャント!」
流れるように詠唱を終え、自分の四肢に炎を纏わりつかせる。
そのまま能力者達と合流すべく闇の雫の一団を突破する為に殴りつけた。
以前闇の雫と戦った時は借り物の剣を使ったが、やはり手ごたえがおかしい。
まるで泥人形を殴っているかのような感触だが、攻撃してくる時は非常に硬くなる。
脆いというのは弱さにも思えてくるが闇の雫は身体が半分程削られても生きているので逆に長所にもなる。
なんせ闇の雫は攻撃されてもまるで怯まずそのまま攻撃してくるのだ。
私の得意な連続攻撃は相手が仰け反ることを前提としているのでやりにくい相手である。
「フレイムデストラクション!」
自身を中心として炎柱を巻き上げ、周囲の闇の雫を焼き尽くして周囲の確認もせずにまた走り出す。
直後、すぐ後ろが黒で埋め尽くされるのを感じ能力者の集団との距離を測る。
彼らも闇の雫を追撃する為にこちらへ向かっている闇の雫を追っているが、それでもまだ遠い。
「キリがなさそうだけど……燃えろ!」
一番簡単な炎魔法を無詠唱で発動させて虚空より炎球を発生させる。
何発かを振り返らず後方に発射すると少したって爆発音が聞こえた。
前方の闇の雫にも使いたいが炎球を打ち出す下級魔法『フレイム』は着弾と同時に爆発するのが難点だ。
それゆえに威力は高いのだが、爆煙で着弾地点がまったく見えないので視界に制限がかかるのが痛い。
「焼け!」
下級魔法『フレイムウェーブ』、ぶっちゃけ言えば火炎放射だ。
フレイムと比べて瞬間的な威力はなくまた魔力を篭めても威力が上がり辛いので雑魚にしか使えない魔法だが今回のケースには良いだろう。
──と思っていたのだが
『アヤ!』
「なっ!?」
フレイムウェーブがまるで効いてないかのように飛び出してきた闇の雫の集団に私は動揺しながら距離を取ろうとし、すぐに失
敗したことに気付いた。
囲まれた──しかも逃げ場のない程に。
上級魔法で薙ぎ払えればいいが、私が実戦レベルで使えるのは中級までだ。
私の詠唱時間を稼いでくれる誰かがいるなら話は別だが能力者と離れている現状、それは期待できそうにない。
「…………」
どうして闇の雫は私を狙っているのだろうか。
気付けば山中にいた闇の雫の気配が全て私の周囲に集まっているのだが……。
『アヤ、僕が囮になる。 だから君は──』
ルーがくだらないことを言っているが、それに耳を貸す道理はない。
しかし世の中奇跡がそう簡単に起こるわけではない。
私を助けに能力者達の誰かがこの場に飛び込んでくるわけ──
「うあああぁぁぁぁぁ!」
「…………少年」
飛び込んできた。
どういうわけか空を飛んで……というか飛ばされて。
警戒しているのか闇の雫がジリジリと慎重に詰め寄ってきているので時間には少し余裕があるが、どうしようホント。
確かに助けが来たらいいなぁ、と思っていたけど少年とか頼りなさ過ぎる。
つうか誰だ、コイツ寄越したの。
「いてて……あ、綾さん!」
「何しにきたの? まさか助けにとか言わないよね?」
「え」
「本当にそうなの? バカなの? アホなの? 死ぬの?」
「なんでだろう……援軍のつもりで豪に頼みこんで飛ばしてもらったのに逆に罵られてる」
少年は役に立たないというか正直邪魔だ。
これだと広範囲殲滅の魔法が使えない。
少年一人で周囲の闇の雫から私を守れるとは思えないし、どうしよう。
以前の私ならどうしていた?
勇者アキトだったら?
いやそんな仮定に意味はない。
なぜなら勇者アキトは聖剣を持っていたが私は持ってないからだ。
「本当にそう?」
聖剣は異次元に置かれ、必要に応じて使用者の召喚に応じる。
私はアキトの転生体ではあるがアキトではないので聖剣を召喚することは不可能だと思っていたが、本当に不可能なのか?
どういう原理で聖剣が担い手を選んでいるのかは分からないが、今の私には本当に資格がないのか。
「やってみるしかないか」
もうそれしか手はなさそうだ。
少年が懸命に闇の雫と戦っているけど、あんまり敵と接近戦してると魔法撃つ時に邪魔だから離れて欲しい。
私は変身する時のように右手を挙げ、意識を集中した。
呼び出すのは聖剣『ファークルス』……私が勇者であった頃の象徴だ。
ザザッ──
ノイズのようなものが走る音が聞こえる。
まるでそれは不協和音のようで私は不快感を覚えるが何かが引っかかるような感覚が手に伝わった。
ザザザザザッ
余計にノイズが酷くなる。
しかし確かに私の手には何か手応えが生まれ始めている。
『アヤ!』
「綾さん!」
視界が黒に染まる。
酷い雑音とルーと少年の遠い声が鳴り響き、闇の雫の手や口が視界を埋め尽くす。
だがついにこの手で──慣れ親しんだ感触をしっかりと掴み取ることができた。
「ファークルス!」
『フレイムデストラクション』
炎柱を作り出し周囲の敵を焼き払う魔法。
それは詠唱を破棄して作られた中級魔法で、襲い掛かってきた闇の雫を焼き尽くした。
「っ」
少し遅かったのか身体には切り傷や噛まれた後が残っているが、この程度で済んでよかった。
私は右手に納まっている銀色の聖剣『ファークルス』を握りこんだ。
気付けばノイズは収まっていた。
「少年」
「は、はい」
「大人しくしててね」
殲滅戦は得意だ──勇者アキトの頃から。
昔の感覚を思い出しながら私は魔法の詠唱を始めた。
『アポカリプス』
ファークルスの力で無詠唱となった上級魔法が戦場を支配した。
「…………」
『ほら早く』
「…………『グロウプラント!』」
闇の雫に向かって放った上級魔法、それを食らった奴らが撤退したのはすぐだった。
撤退という戦術をかつて闇の雫が使った前例はなかったので能力者達は何か話し合っていたが、そんなことはどうでもいい。
重要なのは──『アポカリプス』で山のとある一帯を焼き尽くしてしまったことだ。
すぐに水魔法で山火事は防いだのだが燃えカスになった木々はどうしようもなかった。
そこでルーが私に今回で得たスキルポイントを使わせて得たのが『グロウプラント』。
植物を魔力で成長させる魔法で、自然を元に戻す力を持っている。
これで私は徹夜で焼け野原となった場所を元に戻しているのだが──徹夜とかキツイ。
「『グロウプラント!』」
『もっと早く。 このままじゃ日が明けちゃうよ』
「うにゃー!」
頑張って倒したのに何という扱いだろうか。
やっぱり能力者達を放って寝ていればよかった!
フレイム:初級炎魔法で、イメージした形で炎を形成できるが最も効率の良い炎球が一番使われる。
フレイムウェーブ:初級炎魔法で、持続性のある火炎放射器。
アポカリプス:コロナから派生可能な上級炎魔法。
ファークルス:勇者アキトの所持した第一の聖剣




