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31話 料理

グツグツと鍋に入っているカレーを小皿にとって味見をしつつ調味料で味を整える。

前もって魔法でチェックしておいたがキノコは全て毒がない──が、ちょっと味が予想外な方向だった。

美味しいのだが予想していた味とは違うものだったので路線変更して味を調えているのだが、思ったより時間がかかった。

隣では篠原 明人が怪しい笑みを浮かべていたが出来る限り視界に入れないようにしている。


「ククク……」


なにやら『黒魔法大全』と書かれた黒く分厚い本を片手にローブを纏っているが、私には関係ない。

例の指貫グローブの手の甲部分に新しく五芒星が赤色で書かれているが、いつものことなのでスルー…………できるかっ!


「おい貴様。 マンドラゴラはどこだ」


「ジャガイモはもう入れたけど」


「違う、マンドラゴラだ!」


「……自分で探して」


おい班の人を困らせてるんじゃない。

何かコッチに助けを求めるように見てるじゃないか。

しかしやはり林間学校といえばカレーなのだろうか……他の班の人たちもだいたいがカレーだ。

まぁ野外で凝った料理を作るのが面倒だったというのもあるんだけど。

その点、カレーは最低限まな板と包丁と鍋とお玉さえあれば作れるし、誰が作ってもハズレはない。


「いや、例外がいたか」


スッと隣の鍋を覗き見るとそこにはやはりというべきか紫色のカレーらしき代物がグツグツ煮えていた。

腹立つことに紫色の煙を出してるくせに匂いは良い。

いったい何を入れたら料理が紫色になるんだ。

というか私のかつての料理スキルってここまで酷かっただろうか……肉料理とかはかなり得意なんだけど。


「ふっ、そこの女。 我のこの『黒き海神』が気になるのか」


いつのまに(紫だが)カレーが海の神様になったのだろうか。

あと何でもかんでも黒ってつければ格好良くなるとでも思ったら大間違いだぞ。


「…………えっと、うん」


瞬時に30通りくらいの罵倒と10通りの論破を思いついたが気力でねじ伏せてさしあたりのない相槌を打つ。

私はあくまで一般生徒Aなので篠原 明人の記憶に残らないようにしなければならない。


あれ、その理論なら無視したほうが印象に残らなかったのでは?

篠原 明人の普段の言動から察するにスルーされるのは当たり前だと思うし。


「この『黒き海神』は魔界にある特殊な材料を鍋に入れて三日三晩煮込むものだ。 ちなみに普通の鍋だと材料の魔力に耐え切れず自己崩壊するから、我のこの鍋はオリハルコンで作られている」


へー、オリハルコンかぁ。

そういえば前世でオリハルコンとかミスリルみたいな謎金属って見なかったなぁ。

魔法を使う上で最も適した金属は銀だったし……銀って凄く重いんだよね。

杖とかにも普通に使われてるから日本ではヒョロそうなイメージのある魔法使いなのに筋肉が結構あるのだ。

というか筋肉がないと銀製の武器を振り回すことなんて出来ないし。


「篠原君。 それウチの鍋」


「すり替えておいたのさ……貴様には速すぎて見えなかっただろうがな」


「まぁいいけど」


班の人の女の子も篠原 明人の奇行に慣れているのかスルー力が半端ない。


「ふっ、この俺の料理を食えるとは貴様も幸運だな」


「ふぅん」


「かつて魔界では多くの王族が我の料理を求めて争ったものだ。 一口食すごとに力が増す我の料理はあまりにも危険すぎるということで我が師匠からは禁止令が出されていたのだが、師匠は既に我へ技術の全てを継承して逝った。 いつか信頼できる友が出来たときだけしか料理を作らないと約束して……ししょおおおおおお!」


「篠原君、塩とって。 隠し味にいい」


「…………ふん、自分で取るがいい」


「そう」


「だが気をつけろ。 この塩は魔界の海からとれた特別製だ……迂闊に入れすぎると中毒を起こす危険性がある」


「少量だし大丈夫」


やばい何この女の子……スルー力高すぎて惚れそう。

私の右手は今も暴発しそうだというのにこの子は篠原 明人を歯牙にもかけていない。

まるで珍しい猿が言葉を喋ってるけどどうでもいいやと思ってるような顔だ!


「なに?」


「弟子にして!」


「…………」


向けられた蔑んだ瞳に傷つくけどよくよく考えたら篠原 明人を見る目と同じだった。

もうちょっと戯言続けて罵ってもらおうかなと考え始めた辺りで正気に戻ったので、彼女と話してみることに。


「ごめん冗談。 いや本当にごめん」


「謝らなくてもいい」


「そうじゃなくて。 篠原 明人の相手をさせてごめん……」


本当に申し訳ない。


「…………? なんでアナタが謝るの?」


「あ、そういえばそうだね」


私の前世とはいえ、来世である私が謝るのも変な話だ。

でもそれは昔起こした犯罪をもう過ぎたことからだと馴れ馴れしく被害者の家族に接するような心境だ。

自分で言っててなんだけど、例えが分かりにくい。


「何を話している女ども。 我を打倒する作戦会議か? だが無駄なことだ……我は常に44重結界を張っている。 なぜかって? 我には敵が多いからな、常に暗殺には気を使っているのだよ」


「「へー」」


あ、はもった。

ちょっと嬉しい。


ペラペラ設定を垂れ流す篠原 明人を放っておき、女の子の手元を見る。

そこにはやはり紫色の鍋が堂々と鎮座しており、グツグツとあがっている紫色の煙がどこかジョークのように感じる。


「大丈夫なのそれ?」


「なにが?」


「いや紫色だし……」


私の疑問に女の子は首を限界まで傾げて質問の意図を考えたが、分からなかったらしくキョトンとした表情で私に聞いた。


「何か変?」


「え? だってそこにいる篠原 明人が作ったんでしょ?」


「アナタが何を言っているのか分からない。 篠原君は横で見てただけ」


なんだって!?

ということはまさかこの紫カレー(?)の製作者は……この女の子なのか!

…………え、ギャグじゃなくて?


「篠原君はカレーが焦げないようにかき回す役」


「重要だもんね。 で、何入れたの?」


「普通の具」


明らかに普通の色じゃなくなってるから聞いてるんですけど。


「それは我が水竜の血を入れたからだ!」


水竜の血って紫色なのか。

篠原 明人の戯言はさておき……仮称クールさんは何も疑問に思っていないようで、カレーに何かを投入し続けている。

さりげなくベンチで待機している篠原 明人のメンバーらしき人達を見ると、皆が急ごしらえで作った木製の十字架に祈りを捧げていた。

三人とも男なので篠原 明人の班はクールさんだけが女の子のようだが、彼らはきっと女の子の手料理が食べたかったが故に彼女を料理人に任命したのだろう。

だが初の女の子の手料理だと思って蓋を開けてみればそこには天災とかが入ってましたなパンドラ的な気分なのだろう。


「貴様もやるな女。 我のアシスタント、見事だったぞ」


「そう」


いやアンタ鍋かき混ぜてただけって聞いたから。







あれから美味しくカレーを食べる私達の横で失神した篠原 明人班を仕方なく彼らのテントに運んで私達はそれぞれのテントで夜を過ごしていた。

大自然の中というのは心が洗われるようだが、脳筋君と少年のテントはすぐ隣なので彼らが何を話しているのか聞こえるのが台無しだ。


「もう男子ったらエッチね!」


「…………未来ちゃんいきなりどうしたの」


「いや男子達があまりにも不甲斐ないからボケたんや」


今、隣のテントからは荒たげた男の息遣いが聞こえる。

まるで激しい運動をしているかのように夜空へハァハァと鳴り響くそれは誰が聞いてもソッチ方向の想像をしてしまう。

が、少年の声を聞くにそれはありえなかった。


『こんな狭い場所で筋トレすんなよ』

『ぬぅ。 だが筋肉は一日にして成らずという名言が──』

『汗臭いんだよ、勘弁してくれ』


「「「…………」」」


少年には同情するが、女の子陣営の私達にはどうしようもないので自分で頑張って欲しい。


『というか春先なのにテント内がめちゃくちゃ暑いんだけど』

『我輩の筋肉の熱なのだ』

『お前の存在が暑苦しいっつってんだよ』

『訂正するのだ! 我輩が暑苦しいのは認めるが、我輩の筋肉は暑苦しくない!』

『お前にとって筋肉は付属パーツか何かなのか?』


「そういえば今、綾の家にリョウ君がきてるんだって?」


「…………」


「リョウ君って誰なん?」


「綾の弟だよ。 滅茶苦茶可愛かったんだけど……日曜日に会いに行ってもいい?」


「ウチも会いたいなぁ」


そういえばママと花梨のところのおばさんって結構頻繁に連絡取り合ってたっけ。

たぶんそういった経緯で花梨も聞いたんだろうけど、どうしよう。

まさかバカ正直に会わせるわけにもいかないし……久々に会った年下の男の子が変態になってたとかショックが大きすぎる。

あの子花梨にも懐いてたし、花梨も可愛がってたからなぁ。


「そのうちね」


…………帰ったら調教しないと。

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