25話 ポーズ
20130616 とある誤字と一文修正
変身……それは魔法少女のお約束。
変身しない魔法少女はもはや魔法少女であらず、ただの魔法使いだ。
だが変身することにより魔法使いは魔法少女へとジョブチェンジし、人々へ夢と希望を振りまくこととなる。
「で、どうやって変身するの?」
『…………やっと変身する気になったんだ』
「本当はする気なかったんだけど、防御力高そうだし便利かなって。 仮面とかつけてれば別人名乗れそうだし」
とある理由から私は基本女物の服を着ているが、それでも慣れているわけではない。
花梨と買い物に行くとたまに買わされるのだが……自分が着て似合わないからって私に着せるのはやめてほしいものだ。
とにかくルーに見せられたサンプルによると魔法少女服はかなり明るい色が使われており、フリルなどもついていることからわりと少女趣味なのだが……私の趣味じゃない。
しかしだからこそ顔さえ隠せば私と結びつけるのは難しくなる。
『はいこれ』
「……なにこれ?」
どこから取り出したのかルーは私にカプセルを手渡す。
まさかとは思うが最近の魔法少女は変身する度にこの薬っぽいものを飲まなくてはいけないのだろうか。
変身する時の掛け声は「ケミカルレボリューション!」。
薬物で変身する魔法少女なんて嫌過ぎる。
『一度飲むだけで大丈夫だよ。 このカプセルの中には女神様がデザインしたバトルドレスの魔法式が入ってるんだ』
「へぇ……」
注意深くカプセルの中を感じ取ると確かに魔力を感じる。
相変わらず術式はちんぷんかんぷんだがかなり精密であることは分かった。
『これを飲めば十日後に変身できるようになるって』
「……長くない?」
私のイメージでは契約後すぐに変身できるものなんだが……ピンチの時に初変身ってお約束だし。
『女神様がはりきって作ったんだよ。 術式がかなり精巧な分、バトルドレスの構築に時間がかかるんだ。 普通なら三時間とかそのくらいだよ』
「みじかっ!?」
というかなんで女神様そんなに張り切ってんだよ!?
私も三時間くらいので十分だよ!
「はぁ……どんなデザインなの?」
『さぁ? 女神様に聞かないと分からないし、聞いても教えてくれないと思うよ』
だけど聞いてみないことにはこのカプセルを飲むのは躊躇われる。
「念話とか出来ないの?」
『出来たらいいね』
「…………」
マスコットのくせに本当に役に立たないなおい。
『それにしてもなんで突然バトルドレスを着る気になったの? 僕としてはありがたいんだけど』
「…………ママから最近、闇の雫が活性化してるって聞いたんだけど」
『それは正しくないね。 10年以上に出現してからどんどん活発になってる』
「同じことだよ。 本当は放っておく気だったけど、今以上酷くなったら篠原 明人に勘付かれるかもしれない」
となれば乗り気ではないがたまに闇の雫狩りに参加しなければならないだろう。
少なくとも桜木高校、もしくは篠原 明人宅周辺を戦場にする場合は積極的に戦うことになる。
そう説明しながら私はカプセルを飲み込み部屋を出る。
「ママ」
「あら、ちゃんと飲めたかしら? マジカルクリスタルの時はかなり手間取ってたけど」
「大丈夫だよ。 大きさも形も違うし……」
カプセル状というのは錠剤でもよく使われている通り形状的に飲み込みやすくなっているのだ。
マジカルクリスタルは飲み込むにしてはちょっと大きすぎ……あれ?
「ねぇママ」
「なぁに?」
「魔法少女って基本的に8歳くらいからなるのが一般的なんだよね?」
「そうよー。 魔力って日々使えば上がるってわけじゃないんだけど逆に使わないと下がっていくのよ」
もちろん適度に使えば魔力は身長のように伸びていくが、使わなければ必要のないものだと判断し少なくなっていくらしい。
異世界だと生活基盤に魔法が必要不可欠だったので今まで知らなかったが。
「私でもマジカルクリスタル飲み込むの苦労したんだけど、子供だともっと苦労するんじゃない?」
「だって綾が使ったマジカルクリスタルは特殊だったんだもの」
「え?」
特殊って何がだろうか。
「旧型のを改造したものだったのよ、あれ」
「旧型……ってまさか!」
あの子宮に入れるって言ってた奴かぁ……って飲み込んでも大丈夫だったのそれ!?
「ちょっと無茶な改造したから大きくなりすぎちゃったのよ……でも良かったわぁ、無駄にならなくて」
「えええぇぇぇぇぇ!?」
『ヨリコ……実の娘相手に人体実験って何やってるのさ』
呆れた声をルーが出すが、その意見は私のそれを代弁していた。
いや確かに昔から色々はっちゃけてる母親だが、自分へ与えられるその愛は本物のはずだ。
それに誰かに安全かどうか分からないものを使わせて危険かどうか確認するなんて人として外れた行為は──
『ねぇママー?』
『なぁに?』
『なんでパパ、ぴくぴくしてたおれてるの? おめめもまっしろだし』
『それはね綾。 ママ特性のお料理を食べて感激してるからよ……やっぱりサンドワームの肉は駄目ね』
『さんどわぁむ? あ、しってる! ぜんせですながいっぱいのところにでてきた!』
…………あれ、おかしいな。
私のママはもっと常識的なはずだったんだけど。
「理論上は大丈夫だったわよ。 そもそも無害なものしかいれてないから大丈夫よ」
「というかママが作ったの!?」
「あれ、言ってなかった? ママは副業で魔導具作ってるのよ」
え、まじ?
「第三次聖魔大戦で活躍したから、予備戦力として登録されてるのよ」
へ、へぇ……ということはママはまだ魔法少女に変身できるのか。
出来れば私の前では変身しないでほしい、娘からの心からの願いだ。
トラウマが増えちゃうし。
「あ、そうそう大事な事を忘れてたわね! 綾、変身できるようになったらでいいんだけど」
「うん」
「変身する時はポーズを決めなさい」
「…………うん?」
いったいどういう意味なのだろうか。
いや、というかポーズ?
「何の意味が?」
たしかに魔法少女のアニメや仮○ラ○ダーとかで変身ポーズはとても重要なものだ。
子供達が真似することでそのキャラになりきることができるし、もはや伝統と化したそれは魔法少女と切って離せないものでもある。
だがそれと私がポーズすることに何の意味があるのだろうか。
「綾、そこに座りなさい」
「え?」
なんでママ怒ってるんだろう?
疑問と不満で混乱しながら指差された椅子に座る。
「魔法少女がポーズもなしに変身するなんて魔法少女をバカにしてるわ」
「いやだから何の意味が──」
「意味はあるわよ! でもそれ以上に意義があるのよ!」
「え、えぇー……」
私の中のお淑やかで完璧な女像であったママが崩れていく。
後でルーに聞いたのだが、魔法少女キャリアの長いママは魔法少女のこだわりが普通に比べてかなり強いらしい。
『ヨリコ、それだけじゃアヤも納得しないよ……いいかいアヤ? 確かに一見ポーズは無駄に思える動作だけど、ちゃんと意味はあるんだ』
まさか魔法少女の変身ポーズに意味があるなんて……たまに変身ポーズなしで変身したりするからてっきり本当の意味でポーズなのかと思ってた。
○面ライ○ーだってバイクに乗りながら変身とかするし。
『知っての通りバトルドレスはかなり高性能な防護服さ。 結局は命を守る為の最終防御結界だからね……自然と性能は高くなるのさ』
「で、ポーズの意味は?」
『そんな高性能な結界を綾はいちいち起動してると思うかい?』
私の言葉を無視して聞かれた質問に私は怒りを抑えながらも考え──
「魔法は高度な程、起動までに時間がかかるのは大原則」
『そう。 だからこそバトルドレスを変身する度にいちいち作ってたら時間がかかってしょうがない……そこで女神様は発想を逆転したのさ』
つまりはいちいちバトルドレスを展開するのではなく、日常的にバトルドレスを展開するという方法だ。
普段はバトルドレスを魔力状態にして一般人には見えないようにしておき、戦う時になったら特定のポーズをとることによりバトルドレスが反応、物質化するのだ。
これの素晴らしいところは所有者の危機意識によって自動的に物質化してくれることもあり、魔法少女が日常生活で事故死することはまずないといっていい。
『ただ問題は見る人が見れば一目で魔法少女だって分かることなんだけどね。 高濃度の魔力を身に纏ってるから隠しようがないんだ』
「ということは私もそうなるの?」
『今はバトルドレスが構成されている段階だけど、どんどん纏う魔力は増えていくはずだよ。 というかこの街にも3人魔法少女がいるんだけど……気付かなかったの?』
「…………」
まじでか。
いや知ってるけど、そんな分かりやすいほどに魔力を纏っているらしいのにまるで気付かないって私の感知能力少しは仕事しろ。
『あ、変身ポーズは女神様が決めてるから安心していいよ』
「それ安心できないよね!?」
どうか恥ずかしいものではありませんように……10日後が怖い。
人体実験:言い訳しておくと理論的には大丈夫だったし、害があるような術式もいれてないし、保険もしてあるのでママはマッドではない
サンドワーム:砂地に住む想像通りの生き物。毒はないがかなり独特の辛味があり、適切な手順で調理しなければ食べられるものではなく、仮に調理できても美味しくない
ポーズ:実家でたまに見ていつも思うんですけど、魔法少女の変身シーンって長すぎる気がするんですよね。毎回同じ変身シーン使いまわしのくせして。まぁ子供にはそっちのほうがウケるんでしょうけど