24話 黒の……
篠原 明人「何勘違いしてやがる……まだ俺のバ(ry」
やがて黒き者は時空を支配し、神すらも滅ぼすだろう
そして只人は黒き者を崇める意志なき人形となりてただ衰退を怠惰に極めることとなる。
そこには生も死も喜びも恐怖すらなく、ただ崇拝の為の牧場があるだけなのだから。
──黒の預言書より抜粋──
「…………」
『女の子なのに酷い顔してるよアヤ……白眼むいてるし』
黒の預言書──未来ちゃんが言うには篠原 明人が授業中にニヤニヤしながら書いていた本のタイトルだ。
そこには溢れんばかりの厨二設定が書かれており、読んだ私の心をドリルのようにガリガリ削り取る。
まだ1ページ目だというのに既に家に帰って寝たい気分だ。
『アヤ、早くしたほうがいい。 もうすぐ勇者君が帰ってくる』
黒き者とやらの設定が判明する篠原 明人とエアエネミーの死闘から数日、さりげなく未来ちゃんから情報収集していった結果たどり着いたのが『黒の預言書』だ。
というか黒き者といい黒き預言書といい、どうして厨二病患者は黒に並々ならぬ感心があるのだろうか。
そのうち『黒き影』とか頭の悪いこと言い始めそうだ。
とにかく、と私は震える手を懸命に抑えながらメモ帳をポケットから取り出す。
「くくく、黒の予言ちょ……預ぎゅ…………ゃきゅえんちょ!」
『落ち着いてアヤ。 手も震えすぎて何書いてんのか分かんないよ』
黒の預言書
優先度:S
備考:記すことさえはばかられる……
何度か書き直してようやく読める文字でかけたメモ帳をしまい、学校の気配を探る。
授業中である今は当然ながら多くの気配が各クラスにあり、廊下には誰もいない。
篠原 明人の居場所をズバリ当てるには気配が多すぎるので無理だが、彼が所属している二組は音楽室に行っている。
そのことも踏まえて…………よし、誰も近くにいない。
『当たり前だよ。 人避けの結界張ってるし』
『先に言ってよそれ!?』
何のために気を張りながら黒の預言書を読んでたと思ってるんだコイツは!
『完全な魔法じゃないからねぇ』
人避けの結界は基本的に強い効果を及ぼすが、条件が重なるにつれて発見するのは容易くなる。
例えばその結界の張られている地点を目的としている場合。
そこが普段から過ごしている場所──自分の部屋だったり。
魔法による撹乱に先天的に強かったりしたり。
まだ細かいところを言えばいくつかあるが、とにかくこの教室に張るという行為は一番目と二番目に当たる。
『教室に帰ろうとするのは当たり前のことでしょ? 無意識に働きかける魔法だから意識的に歩けば簡単にたどり着けるんだよ』
「役に立たない魔法だ……」
『元々戦闘地帯に人が立ち寄らないようにするためのものだからね』
ふーん…………あ。
「…………閃いた!」
『前に余計な事ってつきそうな気がするんだけど……』
「これを篠原 明人の家に張れば家宅捜査が容易に……」
『だからそういう場所には使えないって言ってるでしょ!?』
ルーが丁寧にこの魔法の効力を話してくれるが、使う専門の私にはサッパリだ。
だがルーが言うには魔法少女がこの魔法を悪用することだけは避けたい、それが女神様の意向だとか。
つまりもっと強い人避けの結界も張れるけど日常で使うぶんにはこのレベルで十分だということだろう。
「まぁいいや……とりあえずこれを鞄に戻し──」
授業毎に黒の預言書に書いているのか、鞄を開いた時の一番上に置かれていたのだが──鞄の中って何が入ってるのだろうか。
篠原 明人の部屋には教科書を置いているスペースがなかった……つまり、彼は教科書を学校においているのだ。
ならば鞄には何を入れているのか気になるところだが。
『アヤ? どうしたんだい黙って』
「…………篠原 明人はまだ帰ってこない」
音楽室には相変わらず多くの気配があり、廊下には誰の気配も存在しない。
身体がだるいので保健室にいるはずの私は不良の気分を味わいながら人の持ち物を漁って……改めて文章にすると人間として駄目な気がする。
「結界はまだ張っておいて」
『まだ探すのかい? 引き際を考えたほうがいいんじゃないかな』
「黙ってて」
可愛いからって容赦しねぇぞ。
そんな意志を篭めて睨みつけると冷や汗を流しながらルーは静かに目を逸らした。
確かに私は可愛い動物には弱いが、それと躾は別の話だ。
自分の愛犬が躾がなっていなくて人に迷惑をかけるなんてことは私だけじゃなくて犬にとっても可哀想なのだ。
飼い主であるのならばペットにやって良い事とやって悪い事を教えなければならない。
『僕はペットじゃな──』
「ルー、さっき言ったばかりなのに二度目はないよ」
魔法で手に電撃を纏わせながらジロリと見ると、ルーは震え上がりながら黙った。
これでお尻をペチンペチン叩くとまじで痛いらしく、誰もが従順になるのだ。
まぁやりすぎると失禁したりそれが快感になったり、はたまたドMになったりするけど……。
……別に前世で失敗したりなんてしてないんだから。
『…………』
私も別に「ワタクシを躾けてくださいまし明人様!」とか言ってくれる子が欲しいわけじゃないのでアッサリ電撃を引っ込めた。
ちなみに断じてその台詞は前世で言われたとかじゃない。そう、断じて違うのだ。
ルーが黙ってくれたので気を取り直し鞄を開ける。
一月半前に篠原宅に侵入し篠原 明人の部屋を漁った日を思い出すが、前世とはいえ私のものなので特に罪悪感とかはわかなかった。
とはいえ篠原夫妻が共に一晩以上外出する日が分かってないのでまだ侵入は一度のみだが。
「よし!」
心も決まった。
例え厨二の遺産が出てきても私は心惑わされない。
「っ!」
思い切って学生鞄のジッパーを開け、その中身を──
『どうしたんだいアヤ。 急に体育座りして……』
「…………オウチニカルゥ」
『幼児退行!?』
ヤレヤレと溜息を吐いてルーが鞄から取り出したそれは──私の精神を砕いたものだった。
『何この小瓶? 魔水って書いてあるんだけど……真水のジョークか何か?』
少なくとも魔力は感知できないんだけど。
そうルーが呟くがその言葉が傷ついた私の心へさらに深い傷を負わせる。
なんだよ魔水って……設定では篠原 明人は元魔人なんだっけ?
持ち物に魔でもつけておけばいいかみたいなノリでつけたんじゃないだろうなアイツ。
『魔刀って柄に彫られてるんだけどこのペーパーナイフ』
「刀ですらないよね!?」
『あ、こっちは魔薬──』
「麻薬!?」
『いや魔薬。 魔法の薬だね……欠片も魔力感じないけど』
私には分からないが、魔道具の類を銘打ってるくせにやはり魔力はないらしい。
ならば普通の物にそれっぽい名前をつけているだけだろう。
それがどうしたという話だが──だから私の心を抉るんだけどね!
『うわ、草入ってるよ。 たぶんこれも魔草とか名付けてるんじゃない?』
「変な理解示さないでよ!」
やばい、ルーが変な方向に知恵をつけはじめてきた。
このままでは私の前世である黒歴史をネタに自宅で苛めら──たら躾けたらいいか。
『ひぃっ! ア、アヤ? 何でビリペンの刑の準備を……?』
「ふふふ……」
『わ、嗤ってる……アヤの心がどんどん濁ってる!?』
このまま魔女になれそうな気分かしら。
「あれ?」
ふとした拍子に何かがひっかかった。
よく考えたら何かがおかしいが、何がおかしいのかが分からない。
思い出しそうで思い出せないようにもどかしさを感じながらルーが取り出していた厨二グッズを鞄の中に戻した。
その際にチラリと見えたほかのグッズは見なかったことにする。
そろそろ保健室に行かなければ怪しまれるかもしれない──私は二組を出て保健室に向かいながらいつのまにか鞄の中にすっぽり入った小動物を見る。
『そういえばルー、転生について調べてくれた?』
『…………まぁね』
転生のことに関して多少の知識があったらしいルーに調査を頼んだのだが、そろそろ結果を知りたい。
どこか言い辛そうにルーはしているが、どういう情報にせよ知らないということは避けたかった。
『転生をする時、人は浄化される』
『別に浄化ってのは比喩で転生する時に魂は情報が失われるんだ』
『そこまでは聞いた。 なんで失われるのかが知りたい』
『分からないよそんなの』
おい
『そういう法則なんだ。 地球には空気がある。 宇宙には星がある。 そういうレベルの話だから僕にも説明できないよ』
もし詳しく説明するならミケルケル王国から辞書並みに分厚いレポートを持ってくるけどどうする?
そう聞かれた私は首をブンブン振り、話を促す。
『で、その情報で主に失われるのは魂の外殻部分──つまり生前の記憶部分なんだよね』
『私が記憶を持っているのはその外殻部分が無事だったからってこと?』
『そうだけど。 僕もこれ以上は分からないかな』
つまり何も分かってないということだ。
まじでこの小動物役にたたねぇ……両手で持っている鞄をジロリと睨むが、ルーは完全に外が見えていないので私の様子に気付いていない。
魔法少女になったのもミケルケル王国の知識を頼れるからだったのだが、無意味だったようだ。
残ったのはお腹の中にあるらしいマジカルクリスタル……そういえば変身ってどうすればいいんだろう?
酷い顔:顔芸。作画崩壊ともいう
(余計なこと)閃いた!:某総理のAA
電撃尻叩き:露出趣味かドMになるか服従心を植えつけられるか、はたまた全てか……
濁ってる:魔女にはなりません
魂云々:どうでもいい
次回予告はあまりにも反応がないのでもういいや