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23話 骨の味

篠原 明人「呼んだ?」

未来ちゃんによる地獄の説教タイムが終わって放課後、私は学校をブラブラしていた。

バスケットボール部員で毎日のように練習している花梨とは別れ、帰りにどこかで遊ばないかと未来ちゃんを誘おうとしたが既に帰宅した後だった。

手持ち無沙汰となった私は暇をつぶすべく何か面白いことを求めて学校をブラブラしていた。


『今日こそ聞いてもらうよアヤ!』


『ん? 何を?』


『そこから!?』


そういえばここ数日ルーが何か長々と喋っていたような……?


『いい? まず魔法少女が最初にするべきことは──』


「あれ、綾お姉様?」


「茜ちゃん? 珍しいね」


自分の城である生徒会室から出てるなんて……。

日傘を持った茜ちゃんはこれから屋上に行くところなのかバスケットと小さな本を持っていた。

もはやピクニック気分だが屋上で日傘を指しながら読書でもするのだろう。


「綾お姉様もどうですか?」


「……ちょうど暇を持て余していたところだし、いいけど」


でも茜ちゃんとイベント起こしたら闇の雫(ダークティアーズ)関連の事件に巻き込まれそうで怖いのだが。

この前だって気付けば闇の雫(ダークティアーズ)を倒さなきゃいけないみたいな事態になってたし……。


「じゃあ行きましょうか綾お姉様」







バスケットの中に入っていたのはビスケットとマフィン、そして飲み物だった。

学校の屋上で日傘でまだ少し肌寒い季節を感じながら飲み食いし、運動部の雄たけびを聞く。

一番最後だけはいらないが、前世でもこんな時間があった。

主に妻達に誘われて参加したお茶会なのだが……まじ女の戦いだった。


あ、やめてリーシャ腕に抱きつかないでエルカが恐ろしい形相で睨んで──反対側の腕に抱きついて対抗するな!


「う、うぅ」


「綾お姉様どうかしましたか?」


「わ、私の為に争わないで……」


「はい?」


ハーレムなんて嫌いだ……つうか勇者の義務で作られたハーレムなんてもうごめんだ。

義務になった『お勤め』があんなにだるくて面倒なものだとは思わなかった。


『その時変身によって生み出される衣装をバトルドレスと呼び──』


「バトルドレス?」


ルーの長々とした独り言に思わず呟いた言葉を茜ちゃんは聞き、首を傾げながら言った。


「魔法少女の戦闘コスチュームのことですね。 そういえば綾お姉様はこの前の時、制服で戦ってましたが着ないんですか?」


「え? …………必要なの?」


「むしろ必要じゃないと仰る綾お姉様が茜には不思議なのですが」


そうなのだろうか


『ねぇねぇルー、バトルドレスってどんな役割があるの?』


『もうその話37回目なんだけど! ……ま、まぁいいや』


ルーはバトルドレスについて語り始めた。

曰くバトルドレスのおかげで命が救われた。

曰くバトルドレスのおかげで魔法が使えた。

曰くバトルドレスのおかげでスタイルが良くなった。

曰くバトルドレスのおかげで彼氏が出来た。


『そう、バトルドレスは凄いんだよ!』


『胡散臭いなぁ』


『なんで!?』


いや命が救われたとか魔法が使えたまではいいんだけど、後半がちょっと。

スタイルが良くなったって何?


『バトルドレスのインナーがぴっちりしてるから身体のバランスが補正されるのさ』


『なんかどっかのゲームで聞いたなぁそれ』


なんだっけ……。


『彼氏が出来たってアヤも知ってる人じゃないか』


『え?』


『ヨリコさ。 第三次聖魔大戦でゲットして生まれたのがアヤなんだし』


『それってバトルドレス関係あるの!?』


あんまり関係ないような気がする。


『関係あるよ! バトルドレスは着用者の魅力を最大限にまで引き出すのさ!』


『なにそれ』


『ようするに着用者に最も似合っている服が出てくるってことさ……まぁ選ぶのは女神様なんだけど』


聞こえてる!

後半聞こえてるから?!


「なくても戦えるからいいんじゃない?」


「えっと、本気ですか?」


なんでそんなこと聞くんだろうか。


「茜達桜木グループの私兵が着用している戦闘服を見たことありますか?」


「いや」


「たぶん普通に見てたと思うんですけど……」


戦闘中に服装なんて見ないしなぁ……あの場では人間か闇の雫(ダークティアーズ)かを見分けられれば良かったし。


「あれらは魔法少女のバトルドレスを参考に作られているのですよ。 全ての衝撃や斬撃に強い耐性を持っているのでコピーして劣化しているとはいえかなりの性能なんです」


『ねぇルー。 バトルドレスってそんなに性能高いの?』


『マグマに落ちても5秒くらい平気なくらい凄いよ』


『その想定が斜め上過ぎるけど確かに凄いね……』


『あと宇宙に放り出されても呼吸できるのもバトルドレスのおかげだね!』


『やめろバカ! そんな機能つけたら宇宙人が攻めてきて戦うハメになっちゃうかもしれないでしょ!』


『え、う、うん?』


まったくルーは何も分かってない。

確かにバトルドレスは便利そうだが、宇宙戦を想定してるとかマジでやめて欲しい。

宇宙といったらロボものに決まっているのに生身で出て行ってどうするというのだ。

じゃあI○はどうなんだと言われたら私はあれはロボじゃないと断言する。

毎回思うんだけどなんで○Sは外部バッテリーとかつけて巨大化、超火力とかやらないんだろう……どうせ女の子の顔が露出してないと売れないからだろうけど。


「────」


「ん?」


ふと、何かの叫び声が聞こえた。

運動部の出す声とはまた違った雄叫びがふと耳に届き、思わずグラウンドの人間を確認してしまう。


「はぁ……またですか」


「また?」


何がまたなんだろうか。

この雄叫びと何か関係が?


「はい、毎度のようにやってるんですよ。 アレには困ったものです」


「誰が何やってるの?」


茜ちゃんは嫌そうな顔をしながらグラウンド──の端、その向こうを指した。

そこは芝生で覆われたグラウンドの外周部で、よく野球のボールが転がっている場所なのだ。

魔法で身体能力を向上させ、上がった視力と聴力でその部分を注意深く見て──見なかったら良かったと後悔した。


『くっ、やるな! だが……勝つのは俺だっ!! エンドレスアイススフィア!』


『あいつはいったい何と戦っているんだ……?』


「いやあああぁぁぁぁぁぁ!?」


そこにいたのは見えないエアエネミーと戦っている篠原 明人だった。

タイミングよく運動部の誰かの呟きも拾ってしまい、私の混乱は有頂天に達した。


「綾お姉様!? 落ち着いてくださいっ!」


「なんで!? というか何やってんのあいつ!?」


そう言うと茜ちゃんは疲れたように溜息を吐いた。

まるで何度も篠原 明人に手を焼かされているかのように。


「なんでも」


「…………ぅ」


聞きたくないが、聞かなくてはならない。

これは過去の私がしたことで、逃避するには────義務で納得しようとしたけど、やっぱり聞きたくない!?


黒き者(los negros)と言う地球人には見えない化け物だそうです」


黒き者(los negros)……まごうことなき厨二ネームだった。

というか英語ではない段階で何語か分からないが、たぶんドイツ語とかそのへんだろう。

だって篠原 明人って厨二病だし、ドイツ語とか好きそうだ。

というか黒き者ってスルトの別名だっけ確か。


「いつからやってるの、あれ?」


「…………停学になる一週間前からです」


「それって入学して半月ちょっとの話だよね!?」


ちょっと入学早々エンジン全開すぎやしないだろうか。

もう少し休んでていいのよ?


『くっ、まだ倒れないのか……』


「何に苦戦してるの篠原 明人は」


「さぁ……黒き者(los negros)じゃないですか?」


手にもった竹刀を振り回して独り言を呟く篠原 明人に戦慄しつつビスケットを食べようと──


「落ち着いてください綾お姉様、それビスケットじゃありません。 日傘です……あの、齧らないでください」


大丈夫だ、私は落ち着いている。

それにしてもこのビスケット硬……本当に硬いなおい!?


「ってこれ日傘だーっ!?」


「あの、綾お姉様生徒会室に行ってゆっくり休みましょう?」


まだだ……私はまだ知らなくてはならないことがある!


「あの厨二病患者がしてることってどれくらいの人に知られてるの?」


「そりゃあもうやり始めた初日から、運動部の皆さんに」


…………どういうことさ


「今でこそ端っこのほうで厨二してますが、当初は運動部が練習しているにも関わらず、グラウンドのど真ん中で始めてたんですよ」


「あいつは謙虚って言葉を知らないのか!?」


当然の如く邪魔だったので文句を言った運動部員と篠原 明人は争った。


『あー、ちょっと君。 剣道部かい?』


『なんだ女。 我は剣道などと生易しいものはやっておらん』


『いや女って先輩なんだけど……とにかく邪魔だし別のところでやってくれる?』


補足するとこの学校は今年から共学になったので二年生から上は全て女子生徒だ。

彼女達は迷惑な篠原 明人を他所に移動させようとしたらしい……最終的には物理的に。

さすがの篠原 明人も女に竹刀を振ったりは出来なかったようで、渋々今の場所に落ち着いたみたいだ。


『宿主の立場を考えて立ち退いてやっただけだ』


とは篠原 明人の言葉だが──立場を考えているならその厨二発言をするのはやめて欲しい。

バトルドレス:初期の頃はマジカルドレスだったが持っている品々の接頭に全て『マジカル』がついていることに文句を言われた為この名称になった。ピッチリなのはインナーだけでかなりフリフリの少女趣味。

宇宙人:出てこない

エンドレスアイススフィア:氷の力を宿したスフィアを魔力の続く限り生成し相手にぶつける技。相手は死ぬ


『落ち着いてアヤ。 手も震えすぎて何書いてんのか分かんないよ』

「役に立たない魔法だ……」

「…………オウチニカルゥ」

次回、『黒の……』

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