22話 ステータス
二話ぐらい挟んで何か学校イベントおこします。
写生会の次の小イベントってなんだろう
この前の写生会の帰り道、なんか花梨と未来ちゃんに距離をとられてハブられたという悲しいボッチ体験から数日。
特に休日でもない今日は当然ながら登校日で途中合流した花梨と共に教室へと入った。
相変わらずクラスに入って最初に眼に入るのは脳筋君である。
身体が大きいのでクラスの端にでもいない限り目立つ──いや、それはそれで逆に目立ちそうだ。
戦国時代に行けば「我輩の鎧は筋肉で十分」とかほざきはじめそうなキャラなので心身ともに濃いやつだ。
「うぬぅ、今日も良い天気だな委員長」
「うんそうだね。 あ、近寄んないで臭いから」
今日は臭い日か……。
元気良く挨拶した脳筋君を袖にして着席、そして鞄から教科書を取り出して机に入れる。
私と脳筋君のやりとりだけを聞くと、とんでもない傲慢な女に私が思われるだろうが脳筋君が臭いのは事実だ。
さすが脳筋キャラというべきか、なんと彼は稀に早く学校につくとグランドで筋トレをして時間を潰すのだ。
タオルで汗は拭いてるようだが、匂いは当然消えず漢臭くて女子は近寄りたがらない。
問題は脳筋君がそれをまったく気にせず注意されたりウザがられても馬鹿笑いで流すことだ。
少しは改善しようとしろ脳筋!
『筋肉君は今日も元気そうだね』
『…………ねぇ』
『なんだい?』
『前から聞こうと思ってたんだけど、いつも私と一緒にいる意味あるの? あと最近私の鞄が住処みたいになってない?』
なんと小動物のルーは私が登校する際、必ず鞄に入ってついてくるのだ。
私服で出かける時は内部が柔らかい鞄を持ってきて『僕も連れて行って!』と強制的に同行する。
正直どうでもいい生き物なので最初の頃は気にしてなかったのだがどんどん鬱陶しくなってきた。
『何言ってるんだいアヤ。 魔法少女とそのお供は切っても切れない絆で結ばれてるのさ!』
『それ鞄の紐とかじゃないの』
革製の。
『違うよ! だいたいアヤの感知能力が低すぎるからいけないんだ!』
『…………』
私の魔力感知能力ははっきり言って一般的な新米魔法少女以下だ。
新米魔法少女は普通10歳前後くらいなので小学生以下といわれてちょっとショックをうけるが、仕方のない話だ。
だいたい記録によれば私の家の周辺でも度々闇の雫との戦いがあったらしいので、それに気付かず暢気に日常を過ごしていた
のでもはや私の感知能力は信用ならない。
前世ではそういうのは私じゃなくて他の人の役割だったし……だいたい感知なんか出来なくても死ぬわけじゃないし。
『いや魔法戦だと出来ないとやばいから』
『そう? 何とかなるよ』
人間やめるレベルで強くなるのに必要なのは感知能力じゃなくて勘だし。
『感覚的に最適の選択肢を選べない奴はいつまでたっても一流止まりだよ』
『一流でいいと思うけど』
『その一流を息をするかのように殺せるのが超一流。 どんな魔法の天才でも勘がなければ殺すのは簡単だし』
確かに決まった型や最適化された動きを身に着ければやがて一流になれるだろう。
だが思考すら出来ないほどに激しい戦闘をすることになれば彼らはとても脆い。
思考が出来ないということは決まった型を繰り出すしか選択がないからだ。
一方勘が鋭ければ一瞬でどんな技を繰り出せばいいのか、はたまた防御か回避すればいいのか考える前に行動することが出来る。
まぁ一流レベルまではどっこいどっこいの戦い方だが人間をやめるに最も必要な要素だといえるだろう。
『じゃあアヤは勘がいいってこと?』
『正確に言えば生存本能が強いって言えばいいのかな』
『ふーん……ところでアヤ。 魔法少女の話だけ──』
「おーい、席に着け」
『あ、先生だ。 ルー、何か言った?』
『…………』
最近ルーが魔法少女がどうのとか言い初めてよく邪魔がはいる。
そのたびに口を閉じてるのだが、いったい何の話だろうか。
そういえば寝る前とかも何か喋ってたような気がするけど何の話だったんだろう。
まぁいいや。
一時間目は数学かぁ……超得意だし寝てても大丈夫だね。
先生はテストで点数をとってれば内職しててもいいっていうくらいだし許されるはずだ。
さて、鞄から取り出したタオルを机において枕にして……
『もう我慢できない! いい、アヤ? これから魔法少女の話をするからちゃんと聞い──』
「zzz……」
授業の終わりを告げるチャイムがなり、数学の先生が教室から出て行くとクラスは喧騒に包まれた。
それと同時に顔をあげた私は凝り固まった身体をノビをして解すと、一応出していた数学の教科書を机にしまう。
『いい、分かったアヤ!?』
『え、何の話?』
『────』
ん?ルーが絶句してるみたいだけど……ハテ?
「おはよう綾。 今日もグッスリ寝てたけど、睡眠時間足りてないの?」
「んー、足りてるけどまだ成長したいからもっと寝たい」
胸はもう成長しなくてもいいけど身長は女子の中でも平均なので前世が男子だった身としてはもう少し欲しいくらいだ。
「アタシはもう成長しなくてもいいよ……」
自分の胸元に視線をやり悲しそうに呟く花梨を冷めた眼で見つつ私は言った。
「未来ちゃんに聞かれて殺されても知らないからね」
「ひぃっ!?」
貧乳代表の未来ちゃんは巨乳への憧れが裏返り憎悪している。
たまにだがまるでこの世全ての巨乳よ滅びろと言わんばかりに花梨の胸を睨みつけてるのだが……阿修羅の如き怒顔にいつも二人で引いている。
「いやだってアタシは成長してもバスケの邪魔になるだけだし……」
「確かに運動する時は邪魔だよね」
闇の雫と戦った時も前世と比べて身体能力が低かったこともあるが気になったのは胸と髪だ。
太ももまで伸びてる超ロングなヘアーは勢いよく背後へ振り向くと……なんと慣性によって髪が顔の真ん前に来て視界を隠すのだ。
間違って剣で斬りそうになったことも何度かあったし、鼻にかかって戦闘中にも関わらずクシャミもでた。
そして次に邪魔だったのが胸だ。
いやぶっちゃけ私のは揺れるというほどないし、平均的だという自負もあるのだが……戦闘中はとにかく揺れる。
最後のほうとかはもう千切れちゃうんじゃないかと心配するほど痛かったし、家に帰って見て見てたらめっちゃ赤くなってて動揺した。
不慣れながら治療魔法を施してその時は何とかなったが、次に戦うような機会があればスポーツブラを着用したいところだ。
スパ○ボで女パイロットの胸がよく揺れてるのを前世で見たけど、胸が膨らみ始めてからは情欲が湧く前に痛そうだと思うようになってしまった。
「そういえば未来ちゃんが前言ってたんだけど」
「何を?」
「花梨のおっぱい、ミサイルになってどっか飛んでいかないかなぁとか……まぁ大きい胸が妬ましいんだろうけど」
「ひゃぅ!?」
思わずといった様子で自分の胸を両手でガードして後ずさる花梨を見て未来ちゃんの貧乳を思う。
「確かに貧乳だけどあれはあれで需要があると思う。 別にまな板だっていいじゃない、ステータスだもの」
「っ! っ!?」
ん?
どうしたんだろう花梨、急に首を振り出して。
よく見ると顔は真っ青で汗がダラダラと出ており、両手でガードしてる胸をさらに強固にするかのごとく強く抱きしめている。
「へー、貧乳はステータスなん?」
「らしいよ? 私はよく分かんないけど……」
「綾ちゃんはちゃんと胸あるもんな、ウチと違って」
「いやいらないんだけどね実際。 邪魔なだけだし大きくなったらブラ新しいの買わないといけないし……あれ?」
私は今、誰と話しているのだろうか。
気がつくと花梨は教室の隅へと移動しており、右手で胸を、左手で頭をガードしつつ遠巻きにコチラを見ていた。
さらにはクラスメイトもそんな花梨にあてられたのかあからさまに距離をとっている。
そしてその視線は全て同じ所へと注がれている……背後?
「何見てるのさ花り…………」
「おはよう綾ちゃん」
修羅だ。
修羅がいる。
般若の如く壮絶な笑みを浮かべ、その手には肉切り包丁の幻が見える彼女の名は……
「み、未来ちゃん」
「うん。 貧乳代表の未来ちゃんやで」
いやあの……
「ちゃうねん」
「何がや?」
「いや花梨がもうおっぱいは成長しなくていいっていうから!」
「ちょっ! あああああ綾!?」
これぞ秘儀、変わり身の術。
速攻魔法で攻撃対象を花梨へと移すことが出来るのだ。
「へぇ……」
「────っ!?」
未来ちゃんがニタリと怪しげな表情を作ると花梨はまるで最初のフィールドに出たら魔王が出現したように絶望した。
頭の中で辞世の句を読み始めた花梨ちゃんを確認せずに私から未来ちゃんが視線を逸らしたその隙に──
「どこ行くんや?」
「なっ!」
タイミングは完璧だったにも関わらず未来ちゃんはまるで悟りかと思うほどに私の逃走経路にスッと移動した。
身体能力は前世に比べて格段に落ちているがそれでもただが一般人から逃げられないわけが……
「綾ちゃん」
「…………」
「花梨ちゃん」
「はいぃ!」
「正座」
「「すいませんでしたぁ!」」
その説教は授業合間の休憩時間の度に行われ、昼休みが終わった頃にやっと私たちは解放された。
花梨がどこか恨めしげに私を睨んでいたが、弁明する気力は既に尽きていたのだった。
綾→言っちゃえばニュー○イプ
「わ、私の為に争わないで……」
『胡散臭いなぁ』
「いやあああぁぁぁぁぁぁ!?」
次回、『骨の味』