19話 交わる過去と未来
前回から一週間キングクリムゾンしてます。
コ○ン君じゃないんだから毎日事件なんて起きませんよっと。
停学。
それは悪夢の囁き。
停学。
それは罪への罰。
停学。
それは……
「天国だよ!」
「…………うん、そやね」
「ねぇ未来。 綾に何があったか知ってる? シン・エターナルが停学になってから怪しい笑みで停学停学言ってるんだけど」
停学という響きは素晴らしい。
この一週間、篠原 明人が登校していないのでいたって平穏な日々を満喫している。
そろそろ停学明けということで奴が再び学校へ訪れるのだが、私は気分が良い。
思えば入学式からこっち、篠原 明人のせいでずっとストレスが溜まりイライラしていたのだ。
よくよく考えたら魔法少女とかやる意味ないんじゃないかとか、闇の雫と戦う時に仮面とかフードつけてれば正体を隠せたん
じゃないかとか上手く出来た気がする。
それもこれも全部、篠原 明人のせいだが今なら私は黒歴史と向き合い打倒することが出来るだろう。
そう……いざとなれば奴を冤罪で停学にすればいいのだ!
そうすれば私はその期間の間、精神の安寧をはかることができる。
過去改変による私への影響が少し気になるが、私の精神の安定に比べたらどうでもいいことだ。
…………心の中で言い訳してみたけど、やっぱり駄目な気がする。
と、とりあえず今の私は全ての犯罪を許せそうなほどに穏やかな心を持っている。
時代が時代なら聖女とでも呼ばれていたことだろう!
『そう、今の私は平成のマリア様!』
『テンションが高すぎるよアヤ。 念話で叫ぶ程度の理性はあるみたいだけど』
『だって今日は篠原 明人が登校してくる日だけど、写生会で動物園に行くから前世の奇行を見なくていいし』
『君の前世だっけ? 今も信じ難いけど、そんなに嫌な奴なのかい?』
結局ルーは私が生まれ変わった存在であることを半信半疑ながらも認めてくれた。
なにやら子供の遊びに付き合ってロールプレイしてあげてる風な声をたまに出すのが癇に障るが、まぁいい。
『嫌な奴ってレベルじゃないよ! 私の汚点……全ての黒歴史は彼から始まった!』
『でも世界を救った勇者になるんでしょ? そんな人間が汚点だなんて』
『いいや、私が改心したのは異世界召喚後のとある事件があったからなんだよ。 今の篠原 明人はただの厨二病なの!』
だいたいトラのプリントをした制服ってお前どこの番長だよ、ブレザーだけど。
サングラスとか学校につけていくものじゃないし、指貫グローブとか意味なくつけてても蒸すだけだろうに。
銀髪にしたことを思い出したことで連鎖的に脳裏に過ぎったのはカラコンをつけて登校することだった。
かなり昔の話なので曖昧だが、カラコンをつけて登校しようとしたのを憶えている。
いやぁ……初めてだと目にレンズ入れるの滅茶苦茶怖かったなぁ。
「今の私だと絶対に眼鏡娘になっちゃうよ」
「…………? 綾さ、目が悪くなったの?」
いえ目が悪くなったら眼鏡をかけるだろうなぁ、という想定です。
とにかく今日は写生会で、絵を描くだけで後は動物を見てればいいという平和な日だ。
「今日の写生会は平和に過ごせそうだね」
「お天気お姉さんも晴れ言うてたしな」
「そういえば未来さ、お弁当はちゃんと持って来てるよね?」
「当たり前や。 会心の出来やで!」
「「おー!」」
未来ちゃん、実は家事スキルが高く料理も得意だ。
関西弁で家事得意って行ったら何か某闇の魔術書を持った魔法少女を思い出すけど、そもそも未来ちゃんは茶髪じゃないし両親もちゃんといる。
あとぶっちゃけ言えば魔力がすんげぇ少ないので間違っても闇の雫と戦うためにミケルケル王国の使者と契約したりはしない
。
「楽しみだなぁ。 私は料理少ししか出来ないから」
「綾のもアタシに比べれば結構いけるじゃん」
「いや花梨に比べられてもなぁ……作れるのゆで卵くらいじゃないの?」
「失敬な。 ゆで卵なら前に電子レンジで作ろうとして失敗してる!」
「どういう意味で失敬なんや!?」
花梨の意味がわからない出来ない自慢に呆れながらも電車の切符を買う。
写生会は現地集合でそれぞれが交通機関を使って自分の足で集合地点に向かっている。
中には親に送ってもらう人もいるだろうが、そもそも学校からそこまで遠い場所ではないのでバスか電車で行く人が多いだろう。
自転車という手段もなくはないが、事前にその動物園には小さい駐輪場しかないので使わないようにと連絡されている。
電車のホームにも制服を着たウチの生徒らしき人物がチラホラといた。
『一学校の生徒が自転車で駐輪場をいっぱいにして一般客が使えないようになったら大問題、か』
『生徒が多いっていうのも良い事ばかりじゃないんだね』
『多いっていうか……私たちの学校はそこまで大きいわけじゃないよ? 普通だし』
『それでも一集団としては大規模だと思うよ。 僕達じゃこう纏まった行動はしないからね』
小動物からすればそんなものなのか。
「それにしてもどこで絵を描こうか?」
「あ、私可愛いのがいい!」
「綾ちゃん可愛いの好きなん? いやウチも好きやけど、凄い食いつきやな……何がいいん?」
そうだなぁ……。
「猫!」
「綾。 動物園に猫はいないよ。 猫科ならいるけど」
「……犬!」
「いや同じやし」
「鳩っ!」
「なんでそんなどこでも見れるもんばっかり選ぶの」
「じゃあイルカ!」
「水族館行って来い」
あう、花梨が冷たい……。
「綾は置いておいて、未来とアタシで決めるか」
「え」
「いつまでもふざけてる綾ちゃんが悪いんやで」
…………ちょっとふざけただけなのに、酷い。
現地につくと動物園の入り口にいた各クラスの担任のうち自分の先生のところに向かい少し話した後、入場する。
入り口で生徒が出席したかどうかを確かめているのだろう。
帰りは絵を描き終わったなら自由に帰ってよしとのことなので、やろうと思えば一時間でてきとうに書いて帰ることも出来る。
「んー……あの小鳥は?」
動物園のMAPを片手に動物達を見つつ三人であれこれ話し合う。
「可愛いと思うけど、鳥って難易度高くない? ジッとしてる生き物じゃないし」
「さすが綾ちゃんやな。 鳩とか寝言言ってた少女と同一人物とは思えんわ」
未来ちゃんの毒に目をそっと逸らして動物を見ると、小鳥が作られた足場でピピピピ鳴いてた。
…………
「ねぇ花梨に未来ちゃん」
「なに?」
「なんや?」
「事後にベッドで起きた後さ、雀の鳴く声がすると朝チュンだよね?」
「…………まぁそうやな」
「じゃああの鳥が鳴く声がしたらなんて言うんだろう」
未来ちゃんは「ん?」とクビを傾げた後、小鳥を凝視して一言呟いた。
「…………朝ピー?」
「卑猥なのか下品なのか良く分からないね」
呆れたように花梨が言うが、たぶん彼女は前者を想像してる。
いやだって顔が少し赤いし。
「あ、ほら虎だよ虎!」
わざとらしく声をあげた花梨は虎がいるらしい檻に向かって走り出した。
その様子に私は思わず未来ちゃんと顔を合わせ──
「「ふふふ」」
同時に笑みを零した。
「ねぇ花梨、何を想像したのかなぁ?」
「なっ、いつのまに回り込ん──」
「ウチも聞かせて欲しいやけど……」
走り出した花梨への回り込み技、通称『魔王からは逃げられない!』をして驚愕で足を止めたところを未来ちゃんが後ろから捕獲。
ついでと言わんばかりに大きめの胸をガッチリと掴み、いい具合に羞恥を煽っていた。
「は、離せ!」
「朝ピーで何を考えたの花梨は? ねぇ、私に教えてよ」
「何も考えてない!」
「じゃあなんで顔が赤いん?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる花梨はますます顔を赤くし、助けを求めるように周囲を見やる。
だが助けなどあるわけがない彼女はしばらくして全てを諦めたかのように私を見て……ニヤリと哂った。
「綾が悪いんだからね」
「え?」
いったい何の話なのだろうか。
そりゃあ今回の話の発端は私だが、その怪しい笑みはなんだ。
どうも嫌な予感がする私は自分自身に(ハッタリだよ!)と言い聞かせて真っ直ぐに花梨を見た。
『ねぇアヤ』
その時、小動物が声をあげた。
いつものように鞄に入れてるルーだが、私が誰かと話している時は静かにしている。
だが今日に限っては違うのか声をあげた──私は花梨の視線に対抗する為にもルーに黙っててもらおうとした。
『何よ! 今忙しいんだか──』
『そうじゃなくてさ。 後ろ』
後ろ?
「おはようシン・エターナル! ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「え? え? …………え?」
いやまさかそんな……馬鹿な。
「はたまたご冗談を花梨さん」
「そう思うなら後ろ向いてみなよ」
「み、未来ちゃん? 嘘だよね? 嘘だと言ってよ未来ちゃん!」
「明人、もう髪染めたらあかんで? 小母さんと小父さんは笑って流してたけど、さすがに進級できなかったら怒るで」
対する未来ちゃんは苦笑しながら私の後ろに向かって話しかけた。
まだ手で胸をホールドしているのでどこか間抜けだが、私にとってそれは死刑にも等しい宣告だった。
おそるおそる振り向くと……虎がいた。
虎を視界に収めながら背中の制服にプリントされた虎をこちらに見せ付ける男がいた。
そしてクビを横に向け、視線だけこちらに寄越すと低い声で言った。
「ほう、我の名を見知らぬ人間が知っているとは。 我も有名になったものだな」
「…………」
おわた
「何いってんだコイツ」
「それは宿主の話だ」
「よし!」
次回、『憑依』