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2話 きっとフラグ

改めて黒歴史を消すことを誓った私は心配する花梨を落ち着けてから桜木高校に入った。

もはや遠い過去の記憶なので細かい建物の配置などはうっすらとしか憶えていないが新入生が迷わないように案内係をしている生徒会の人達のおかげで迷うことなく進むべき道を歩いている。


「同じクラスだといいねー」


「そうだね」


頷き返し遠くに見える看板と人ごみを見る。

どうやらあそこにはクラス分けの用紙が張られているようで、新入生達はざわめきつつ看板の文字を必死で読んでいた。


「私の受験番号は774番で、花梨は775番だっけ?」


「綾のはナナシ、そしてアタシはその次の番号だから覚えやすいよね」


受験票が送られてきた当初は花梨とこの番号のことで盛り上がったが、喉下過ぎればただ覚えやすいだけである。


でも良かった。


私は今日始まって……いや、ここ最近になって何度目かになる安堵の息を零す。

如月 綾、認めたくはないが桜木高校における有名人となる存在だ。

これは前世における篠原 明人による知識なのでまず間違いないだろう。

だからこそ桜木高校を受験して合格するのは既に知っている結末で、花梨と違い私はあまり心配していなかった。


そして今日はそのいくつかの前世の記憶から分かっていることがあり、それが私に安堵の息を零させたのだ。


本当に良かった……篠原と一緒のクラスじゃなくて!


そう、不思議と桜木高校で有名だったらしい如月 綾だが入学当初の篠原明人にはあまり彼女の記憶はない。

というのも彼はボッチだったからだ。

いや幼馴染がいてクラスも一緒だったのだが、篠原 明人に男友達は一人もいない。


「あ、やばい泣けてきた」


「どうしたの綾? 急に泣き出して……」


困惑する花梨に大丈夫だと伝えてそのままクラス分けの用紙を『二組』を除いて探す。

いくら明人に友達がいないからといって学校の有名人である私が一緒のクラスならばもう少し何か憶えていてもいいだろう。


…………なんか考えてて自意識過剰みたいな思考だと思ったよ。


とにかく前世の私は如月 綾と親交はなかった。

だからクラスが同じなわけがないのだ。


「やった綾! アタシ達同じクラスだよっ!」


「ホント? じゃあ行こっか」


「……クールだね綾」


とはいうものの二年に上がれば同じクラスになることも約束されているわけだが……あ、やっぱり泣けてくる。






それからほどなくして入学式が終わり、名前順に振り分けられた席に座る私達四組が自己紹介をしていた。

出席番号順にする自己紹介で私の名前は如月の『き』だから早めに出番が回ってくることとなる。

緊張した表情で自己紹介する子、柔らかな笑みを浮かべてする子など差は様々だ。

そして私の出番がやってきた。


「如月 綾だよ。 趣味はアクセサリー作りで特技は運動全般。 部活に入る気はないけど、体育の時間ではよろしくね」


言うべきことをささっと終え、座ると担任がお決まりの質問をした。


「如月さんに質問がある人はいるかな?」


これは全ての生徒に聞いており、私より前に自己紹介をした数人にも聞いたが誰も質問する人はないかった。

だから私相手に質問するなんて奇特な人はいないだろう。


「ここにいるぞー!」


「えっ」


勢いよく挙げられた手に思わず目を向けると「お前本当に高校生?」と問いたくなるような巨漢がいた。

その傍には眼鏡をかけた性格の悪そうなもやし男がクックッと笑っていたが、そんなことはどうでもいい。


「如月ぃ! 貴様の動き、只者ではないと見た! 決闘を申し込むっ!」


「…………えっと?」


「今日の昼前、闘技場にて俺様は待つ!」


「あの、私了承してないんだけど」


「がっはっはっはっ! 楽しみだわい!」


どうしよう、話が通じてない。

というかこれ質問じゃなくて一方的な要請では?

だいたい闘技場って……前世でも(どこの創作の学校だよおい。 作った奴は厨二病か何かか?)とお前が言うなといったことを考えてたそれだ。

特に興味がなかったので使用も観戦も一度もしたことがない。


え、使用はともかくなんで観戦しなかったのかって?

…………皆がおおはしゃぎで決闘を見に行くのを見て「ふっ、子供だな」って言ってたからだよ。


「白石君の質問……質問? が終わったところで次の……」


先生が場を仕切りなおして次の人に自己紹介の番を進めようとした時、その事件は起こった。


『ふはははは! 我こそはシン=エターナル! 新世代のぅ、神だっ!』


「「「…………」」」


シン=エターナル……そんな外国人、この高校には存在しない。

奴の名前は私にはすぐに分かった。

その声は前世で一番縁の深かったもの……篠原 明人そのものの声だったからだ。


『ふん! 驚きすぎて言葉も出ぬか』


いえ違います、あなたの言葉が痛すぎて何て声をかけたらいいか分からないだけだと思います。


同じクラスだったらそう苦言を申したであろうが今は隣……あれ、ここ四組で篠原 明人って二組だよね?

まさかこれって…………一年生全員に聞こえてるの?


「いやあああぁぁぁぁぁぁっ!?」


「ど、どうしたの綾? ……綾? 綾ぁーっ!?」


思わず無駄に長い髪を振り回して全ての接触を断つかのように蹲りながら耳も塞ぐ。

痛い!何が痛いかというと胸が痛いっ!


『違うっ! 我が名はシン=エターナル!』


「おいおい、誰だよこの重度の厨二病患者(・・・・・・・・)

「男女共学化の第一ケースでこんな変態(・・)を入れて大丈夫なのか?」

「ちょっと男子。 そんな変質者(・・・)はいいから今は如月さんのこと心配なさいよ!」

「いやでもよ、原因はシン=エターナルとかいうイカレた男(・・・・・)だと思うんだが」


突き刺さる言葉の槍にホロリと涙が出てくる。

ついにはグスグスと鳴き始めた私を心配して親切な女子が「大丈夫?」と背中をさすってくれる。

でもね、自覚がないと思うけど君のその変質者発言で傷ついたのもまた事実なんだ……。


「もうやだぁおうちかえるぅ」


そしてにねんせいになるまでおやすみするの。

へんたいがいせかいにいくまでひきこもるの。


「…………えっと斉藤さんは如月さんと仲が良いみたいだけど、何か原因に心当たりはあるかな?」


「あの先生。 綾は今朝から妙に不安定で……あ」


「心当たりが?」


「もしかしてあの男かもしれません……そう、あの変態!」


ぶっ殺す!と背景に文字が貼られてそうなくらいに燃え上がっている花梨に担任は首をかしげて聞いた。


「あの男?」


「背中にトラのプリントをしたサングラスをつけ指貫グローブを装着した厨二病……まさかこのシン=エターナル……」


「もうやめて!?」


またもや出てくる黒歴史の名前に思わず花梨に抱きついて訴える。

もうこれ以上その名を出さないで!とっくに私のライフポイントはゼロよ!?


「っ! やっぱりあの男なんだね!」


確かにあの男のせいなんだけど、もとはと言えば因果応報というか自分のやったことなのでただ前世のせいにするのはちょっと……。

そんなことを考えていると気付けばクラス中の皆が席を立ち上がり殺気立っていた。


「あの、生徒諸君の皆さん? 今はホームルーム中なんですけど……座っていただけません?」


「先生は自分の生徒が傷つけられて何も思わないんですか!?」


「いや自分の生徒ったって会ったのは今日が初め……なんでもありません」


クラスの殺気が一気に自分に向けられたので前言撤回を即座にした担任は冷や汗を流しながらいまだに泣いている綾を見る。


「…………み、みんな落ち着くんヒィッ!? い、いいか? 僕達がよってたかって一人の生徒に暴力を加えるとそれはただのイジメだ。 そんなことをしたら僕の初めての担任としての評価が……コホン、皆の内申に響いてしまう。 だから殺るなら公式の場で頼むよ」


「例えば?」


花梨が冷めた目で担任を見ている。

まるで機械的に豚を屠殺するかの如く冷酷さがその瞳には宿っていた。

少しいけない世界への扉が開きかけたが担任は気をなんとか持ち直して言った。


「新入生歓迎会……それのスポーツで決着をつけるんだ!」







あれ、これ不味くない?

桜木高校のスポーツってテニヌ並のスポーツを冠した格闘技だったような気がする。

前世の私に干渉したら今世の私が消える可能性があるから今まで干渉してこなかったのに、ここで自分の記憶にないことをしたら最悪それらが無駄になってしまう。

というか私は何を今まで混乱していたんだ。

桜木高校に入学し、前世の流れを遵守するということは自身の過去と向き合うということ他ならないだろう!?


こんなところで蹲っている場合じゃない……立ち上がれ!

黒歴史かこを乗り越えるんだ!


「かりんちゃんもうだいじょうぶだよ」


「…………綾、アタシの膝に座ってよっか?」


なんで!?


「だいじょうぶなの!」


「はいはい。 座ってようね」


相手にされていない。

なぜだ、なぜ花梨はこう仏の如く慈愛に満ちた笑みを浮かべて膝に乗せるのだ。


このままでは前世の私がフルボッコにされてその貧弱な精神力によって引き篭もってしまう!?

いや待て、よく考えたらまだ篠原 明人の名前はバレていない。

まだセー…………


『だから違うというておろうが! 我の名前はシン=エターナルっ! その篠原 明人というのは……ふっ、すまない少し取り乱した。 それは俺の身体の持ち主の名だったな……つい我が真名を名乗ってしまった。 許せ』


…………フじゃないね。


「なんでほたるすぐしぬん?」


「節……じゃなくて綾! しっかりして綾、目が虚ろだよ!?」

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