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18話 お仕置き

少し加筆修正。誤差程度です

魔法少女のお供である小動物ルーと「仲良くする為にお互いを知りたい」と伝え、訝しがるママを尻目に部屋へと戻った私はルーに自分のことを話し


た。

自分がこの世界に転生したこと、かつての自分がいること、そして一昨日の闇の雫(ダークティアーズ)の戦いを。


「ということがあったんだけど」


『…………』


なぜ私がこんなことをルーに言っているのか。

話は簡単でちゃんとした魔法の知識がある人物からのアドバイスが欲しかったのだ。

私は確かに勇者で殆どの魔法が使えるオールラウンダーだ……が、魔法を新たに作ったりするような知識はまるでなかった。


いわば機械と似たようなものだ。

私はあらゆる機械の組み立て方は知っているが、部品の一つ一つがどういう役割をしてどう作られているのか全然理解できていない。

なので魔法使いとしては真っ当とは言えず、知識に関してのみ言えば下級魔法使い以下だろう。


だからこそルーから意見が欲しかったのだが──


『…………あ、ミケルケルナースセンターですか? ちょっと新しい魔法少女の精神に疾患がプギュラッ!?』


「待て小動物」


思わず小動物の顔を鷲掴みにして持ち上げる。

プラーンとぶら下がる身体がシュールだが、そんな場合ではない。


『だってありえないよ! 転生時の浄化すら耐えられる記憶保護魔法なんて聞いたことない!』


「やっぱり知識がありそうだし、教えて正解かな?」


精神病患者扱いしたのは許せんが。


「絶対に他の人には話したら駄目だよ」


『いや話さないけどさ……それ本当なの?』


机の上におろすと信じられないと言いたげなルーがこちらを見上げていた。

…………


『?』


前足と胴の間に手を差し込んで持ち上げてみる。


「ふ……」


『ぶびゃ!?』


「ふかふかー♪」


思わず抱きしめてクルクルと回りながら頭をなで上げる。


「ちょっとやばい。 か、かわいぃ……」


若狭湾に沈めるとか言ったけど、無理だ!

これは首輪をつけて私の部屋で飼ったほうがいい!


『お、落ち着っ! 呼ゅ……ぅが!』







「あら、ルーはどうしたの?」

「何か寝た。 とりあえずベッドにおいてきた」






魔法少女就任翌日、私は不貞腐れたように何も話さないルーを鞄に入れて家を出た。

朝食の席でも何も話さなかったけど、何を怒ってるんだこいつは。

あ、ルーのご飯はツナ缶だった。生でそのままだったので知的生命体としてギリギリアウトだと思う。


『それでちゃんと詠唱を予め決めて──』


「あ、花梨おはよう」


「ん?んー、今日は早いね」


小動物が何やら魔法少女について解説してたが華麗にスルーして花梨に挨拶する。

バッグの中にいるので外の状況が分からないのかそのまま説明を続行するが無視する。


「昨日の帰り道は大丈夫だった?」


「何が?」


花梨に突然昨日の帰路を心配されたが、何かあったのだろうか。

昨日から花梨は入部したバスケットボールに通っており、新入生だから基礎トレーニングをしているらしい。


「なんでもね」


「うん」


「シン・エター「また!?」…………ねぇ綾、最近よく人が喋ってる途中に遮るけど失礼だよ?」


「…………はいすいません」


正論に思わず頭を下げて謝り、その時手から鞄が滑り落ちた。


『ぷびゅっ!?』


「?」


小動物の潰れた声に花梨は不思議そうに辺りに何がいるのかと探す。

が、もともとどうでもいいらしく気をとりなおして口を開いた。


「で、彼が進路指導部に行ったことは未来から聞いたでしょ?」


「そうだね。 ……まさか」


「うん。 まさかの脱走だって」


…………く、黒歴史関係なく人として駄目なんじゃないだろうか私の前世は。

あれ、それってめぐりめぐって私も人として駄目ってことになるのか?


「ただ脱走の仕方が問題だったから今日から一週間の停学」


「えー!?」


脱出の仕方が問題って篠原 明人は本当に何をやったんだ!?

いやそもそも停学って……あ、ごめんなさい前世で何度かお世話になったことがありました。

あまりにも黒歴史すぎるので記憶から消去してた。


「どどど、ど問題!?」


「落ち着きなよ」


「これが落ち着いてられるわけないでしょ!」


思わず両手で持った鞄を振り上げて抗議……


『ぷぺ!?』


「あ」


電信柱に勢いよくぶつかった鞄から漏れ出る蛙のような声。

今度は花梨も一瞬だけ目を細めたが、特に追求することもなく落ち着いて話した。


「生徒指導の先生が出て行った隙に授業中にやるような寝る体勢を形だけ作ったんだって。 脱出がばれないように座ってた椅子にカーテンを盛って


その上から制服をかぶせることによって偽装したとか」


「いやそれ近づいたらすぐにバレるから。 近づかなくても視力か観察力があれば気付かれるから。 そもそも生徒指導室ってそんなに大きくないか


ら入った時点で人間じゃないって分かるから」


「だよね? あの男子本当に何考えてるんだろ」


たぶん何も考えてないと思う。


「それで問題っていうのが……制服を即席の人形に使ったでしょ? 髪の部分はズボンで代用してたらしくて」


「…………まさか!?」


いや、ありえん。

いくら馬鹿でも前世とはいえ私がそんなことを……

だいたい髪を真っ黒のズボンで代用って代用しきれてない以前に今の奴の髪は銀じゃ……あ、馬鹿だ。


「なんとYシャツにパンツっていう格好で学校から出ようとして用務員の人に捕まったんだって」


「あああああああああ」


は、恥が! 私の恥が!

いや待てまだ救いはある!

その現場を花梨が見て偶然知ってただけの可能性──それも誰とも帰らずにボッチだったから目撃者は花梨のみという奇跡的な可能性が!

間違ってもバスケットボール部員から聞いたなんて部単位で知られているような展開はないと信じたい!


「どこで聞いたのそれ!?」


「え? 学校のホームページにのってたけど」


神は死んだ。







その日の放課後、私は茜ちゃんに会うために生徒会室へと向かった。

基本的に茜ちゃんは屋上か生徒会室にいるので暇だったら是非会いに来てほしいと言われたからおそらくどちらかにいるだろう。

頬を赤く染めて「合鍵です……」と鍵を手渡されたのは背筋が凍る思いをしたが、私の反応を見てクスクス笑ってたのでたぶん冗談だろう。

…………そうであってほしい。


「馬鹿ですか? アホですか? 痴呆なのですか!?」


「……ごめんなさい」


「ごめんですんだら警察はいらないのです! 貴方は契約書の内容も覚えてないのですね!?」


「……仰るとおりです」


生徒会室に入る前に聞こえてきた罵倒に今日は帰ろうかなと日和見してしまうが、そういうわけにはいかない。

こういう面倒事──特に殺し合い関係──は後伸ばしにすると余計面倒になったりするのだ。

意を決してノックをしたら茜ちゃんの怒声が止み、しばらくして「どうぞ」……ではなく


「合言葉を言って下さい」


「聞いてないよ!?」


「綾お姉様? 入ってもいいですよ」


ひょっとして普段は生徒会に入室するには合言葉が必要なのだろうか。

中に入るとやはりというべきか例の少年が正座して頭に『僕は愚者です』と書かれた紙が貼られている。

こちらに気付いた少年は立ち上がり


「綾さん!」


「誰が立っていいといったですか。 『永久の咎人、十字架を背負いて膝をつけ。 グラビティ・エリア』」


「ぐはっ!」


茜ちゃんは……確かこれ加重力魔法だっけ。

闇属性の中でも中級に属する魔法で、発動時の燃費は最悪だが持続性に優れて……


「いやそんなことはどうでもいいや。 茜ちゃん、もしかして少年は?」


少年が膝をつくどころか重力に耐え切れず地面に磔にされているが、気にせず話しかける。


「はい。 綾お姉様のお察しの通り、この前の闇の雫(ダークティアーズ)との戦いを本にしやがったことで厳重注意しています」


「やっぱり」


どうぞ、と座るように促されたので無駄に長い髪に気をつけながらフワフワの高級な椅子に座った。

いったいどこに金かけてんだと突っ込みたくなるが、そもそも茜ちゃんの親がお親だし生徒会室からしておかしいので気にしないことにする。

生徒会室の片隅に台所があったり『茜の部屋』って書かれたネームプレートがある扉なんかない。

やたら生活感溢れる痕跡が所々にあろうとも気にしない。


「処分はどうするの? 契約書違反ってことはクビか懲罰か罰金だろうけど」


「こんなでも既に桜木グループの庇護下に入っているのでクビになってその辺で問題を起こすほうが不味いです」


つまりもう桜木グループの人間だと周囲には思われてるから下手に野放しに出来ないと。


「罰金といってもそもそもこの方は奨学金制度で入学してますから……」


「え、頭良いの?」


自分で凡人だとか炎滅姫に書いていたが奨学金申請できるくらいなら十分頭が良いのではないか。


「判定はギリギリでしたけど。 というわけで懲罰にしたいんですが、どうしましょう」


「せ、生徒会長。 これ既に懲罰。 懲罰だと思みゃ!?」


「うるさいです」


さらに増した重力に成すすべもなく潰れた声を出す少年を哀れに思いつつ、ふと気になったことを聞いてみる。


「生徒会長?」


「はい。 とはいっても実質権力だけで何も活動してませんが」


「いやそれ逆。 学校の制度で許されるの逆だけだから」


何も活動してないのに権力だけとかふざけてんのかてめぇ、と思うものの親が校長なので仕方がないか……?


「綾お姉様、私が『ラインクロス』のリーダーであることは内密に」


「…………少年がいるけどいいの?」


「大丈夫です。 聞こえてませんし」


はいつくばってる少年を見ると何か薄い膜のようなものが張られている。

見たことがない魔法なのでよく分からないが、茜ちゃんの言葉から察するに音を遮断しているのだろう。


「そういえば綾お姉様、この前の魔法のことで聞きたいことがあったのですが」


「な……なに?」


きた、というべきか。

この前の夜に私をジッと見ただけで何も聞かれなかったので間を置いた理由が分からない私は緊張した。

私はこれを聞くためにここへ来たのだ。


「どちらなのですか? 『魔法』の能力者か『魔法』を扱う魔法少女なのか」


「…………」


魔法の、能力者…………そういうのもあるのか。


「『魔法』の能力者にしては威力があったのでおそらく魔法少女だとは思うのですが」


「え? う、うん」


昨日から魔法少女です。

変身アイテム飲み込むのつらかったなぁ……何度も吐きそうになりながら飲み込もうとしたし。

最終的にはサラダ油と一緒に飲んだ。

気持ち悪くて夕飯を吐きそうになったが耐えた。


「…………綾お姉様、他の能力者の方々に自分は魔法少女だと伝えないようにしてください」


「え? そりゃあ伝えないけど」


だって自分で「私は魔法少女です!」って宣言するなんてどんな羞恥プレイだ。

まだ「私は勇者です!」って言うほうがマシだ。


「基本的に能力者と魔法少女は仲が良くないので」


「そうなの?」


「能力者は数がいますし魔法少女みたいに完全に管理されているわけでもないので人道に反することをする方もいるのです。 だから魔法少女側が能力者のことを見下していて、それが長年続き……」


「うんもういい。 そういう裏事情は言わなくていいから」


「そうですか?」


いやだって深く関わりたくないし。

ツナ缶:魚と肉は焼くものと綾が思ってるので実は偏見。向こうの世界では生とか自殺行為だった

ミケルケルナースセンター:少女時代から始めることが多い魔法少女のメンタルをケアする部署もある病院。小動物に相談しても全然気が晴れないのでこの時だけ女神様が出張る。でも主人公は行かないのでどうでもいい設定

学校のホームページ:やたらコンテンツが充実してる二次元版ホームページ



『そう、今の私は平成のマリア様!』

「今の私だと絶対に眼鏡娘になっちゃうよ」

「…………朝ピー?」

次回、『交わる過去と未来』

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