17話 魔法少女承認!
なんか魔法少女側の固有名詞が少し出てますが、憶えなくていいです
本筋にはまったく関わらないので
私、ママ、小動物の二人と一匹がリビングの椅子に座って向かい合っている。
小動物は皿に盛られているママが買ったらしいドッグフードをモグモグ食べている。
お前には知的生命体としてのプライドはないのか。
「それでママね、綾が産まれるまで魔法少女やってたのよ」
「…………AHAHAHAHA! NICE JOKE」
「何でいきなり外人かぶれになるのよ」
たまに分からないわこの子、とママが憂いを帯びて言うがそれはこちらの台詞だ。
魔法少女やってたなんて普通子供にカミングアウトする?
私ならそんな黒歴史、絶対に教えない!
「腹話術? 上手いねママ」
「え」
『え』
明らかにママと小動物の声が重なって聞こえるが、これは腹話術だ。
でなければ世の中が間違っている。
『ヨリコ。 アヤになんて説明をしてたの?』
「ワタシも話したのは今日が初めてなのよ」
ヨリコ、とはワタシのママの名前で第一主婦……とにかくそんな話は今まで聞いたことがない。
「パパは知ってるの?」
「当然よ。 ママとパパの馴れ初めが第三次聖魔戦争の時で──」
「いやもういい。 お願いだから話さないで」
「あらあら」
あらあら、じゃないよっ!
お願いだから非日常関係の話を私に聞かせないでほしい。
いったい私の人生、どこでケチがついたのだろうか。
中学校までは平穏な日常を過ごす毎日で、魔法の魔の字もない日々だったというのに!
…………まぁどこでケチがついたかというとたぶん前世のどっかだろうけど。
『少し怠慢だよヨリコ。 君がアヤの教育係になるって言ったんじゃないか』
「え、なにそれ」
『知らないの? ヨリコとマサノブの子であるアヤは産まれ付きすごい魔力をもっていたんだ』
…………そういえば前世に比べてやたら魔力多いなぁ、と思ってたけど血筋が原因で転生特典じゃなかったのか。
なんかこう、一度死んだ人物が奇跡の力を手に入れるってのはよくある話だからそういうもんかと思ってた。
「だからミケルケル王国からはワタシに保護要請がきてたのよ」
「ミケ……?」
『ミケルケル王国。 僕の出身国さ』
頭がいっぱいいっぱいになってきた。
そんなに一片に情報を渡されると憶えられる憶えられない以前に拒絶反応が出てしまう。
「でもアヤはワタシの子なんだからアタシが育てたかったし、断ったのよ。 変わりに魔法少女として育成する約束をして」
「…………高い魔力持ってたら危ないの?」
『闇の雫は魔力に引き寄せられるのさ』
「え?」
『魔力を持った生物を自分達の領域に引きずり込んで、死ぬまで魔力を吸い取るんだ。 だからアヤは保護対象だったんだ』
そんなに危ない生き物だったのあれ!?
そういえば一昨日闇の雫と戦ってた時、やけに私に向かって攻撃が集中してたような……おかげで殲滅しやすかったけど。
「ワタシも綾に魔法を教えようと思ってたのよ? でもそろそろ教えようかな、って思ってた頃に綾が自分で魔法使ってるんだもの。 驚いたわ…………」
「それだけ?」
『先天的に魔法が最初から使える人は歴史上存在するからね。 ただアヤは幼い頃にも魔法を使おうとして失敗してたみたいだけど』
っ……!
「魔力が多いとそういう子が出来やすいんだって。 だから綾もそういう子なのかなと思ってたのよ。 …………まぁ勇者の生まれ変わりとか言い始めた時はどうしようかと思ったけど」
「うっ」
や、やっぱりそっちは妄言だと思われてるんですね。
いやむしろ妄想だと思われていたほうが都合が良いかもしれない。
私はこの世界に再転生してから参考にしたくていくつかの転生ものの小説を読んだことがある。
そのほとんどが神様チートものだったりしてまったくといって参考にならなかったが、学んだこともある。
つまりは「なんでこいつらわざわざ転生したことカミングアウトするの?」である。
嘘はつきたくない、という理由もあるのだろうがそもそも人間なんて秘密の塊だ。
友達だから親だから家族だからといって秘密は全て一つ残らず話さなくてはならないなんて理屈はおかしい。
転生したことを話すことはデメリットはあっても一切利点が存在しないのだ。
私にとって親子関係にヒビが入るかもしれない無駄な情報と言い換えてもいい。
(まぁ……)
この小動物には後で転生について話してみようか。
思ってることとやろうとしてる事が違う?
だって小動物に転生情報伝えても別に壊れる信頼関係なんてないし、バラそうとするならバラせばいいだけだ。若狭湾とかに。
『うっ……寒気が』
「あらあら、風邪?」
『僕達は風邪にはならない……はずだよ』
おっと、さすが小動物。
危険察知力も見た目通り鋭いようだ。
「やるかどうかは別として、魔法少女って何をすればいいの?」
「簡単な話よ。 世界の平和を守ればいいの」
「…………凄い曖昧だね」
「まぁ原則として人間同士の争いには介入しないってあるから敵は人外か天災ね」
救助活動をしたりも魔法少女の仕事に入るらしい。
「じゃあママもレスキューしてたの?」
「ワタシは魔法少女としては破壊特化だったから、そういうの向いてなかったのよ」
『ヨリコは稀代の破壊魔法少女だったんだ。 回復魔法を使えば逆にダメージを与えちゃうくらい適正が偏っていて……』
「ルー?」
『…………』
ルー……小動物の名前のようだが、どことなく美味しそうなのは台所から漂ってくるカレーの匂いのせいだろう。
『と、とにかくアヤには魔法少女をやってほしいんだ。 最近闇の雫の動きがこの京都を中心として活発になっている』
へー
『もう魔法少女も引退したり殉職したりで減る一方なんだ』
ふーん
『だからより強い魔法少女の登場をミケルケル王国の皆が待ち望んでいるんだ。 膨大な魔力を身に宿したアヤならそれに相応しいんだ!』
はー……あ、このカレー美味しい
『…………ねぇヨリコ、アヤが急にカレーの味見を始めたんだけど』
「昔からそうなのよこの子。 嫌なことがあるとすぐに別のことをして気を紛らわせるの」
『嫌な事!?』
これが嫌な事じゃなくて何だと思ってるんだろうこの小動物は。
だいたい殉職って……闇の雫に拉致されて魔力を死ぬまで吸収されて魔力枯渇症状になって死ぬんでしょ?
絶対やだよそんな死に方。
まだ魔王軍がやってた捕虜に魔物の種を植え込んで魔獣化させて軍に組み込むほうがマシだよ!
…………よく考えたらどっちもどっちだった。
『アヤ、何が嫌なんだい?』
「全部」
『全部!?』
何もそんな驚いた声を出さなくても。
誰が好き好んで命のやり取りなんてするんだ。
「だいたい闇の雫と戦ったところで私に何の得があるの?」
『魔法少女を引退する時、その功績に応じて一つの奇跡を──』
「あ、さらに胡散臭くなった」
『ええぇぇぇぇ!?』
いやだって一つの奇跡の代わりに戦わせるってまんまキ○ウベェじゃないか。
誰かがやらなきゃいけない仕事だってあたりも殆ど同じだし、誰だって自分がやりたくないのもそうだ。
『そ、それだけじゃないよ! なんと功績に応じてM$が進呈されてミケルケル王国でショッピングが出来るんだ!』
「いやそれ当然。 当然だよ小動物」
働く代わりに金がもらえるとか当たり前すぎて「むしろ何?」って聞きたくなる。
むしろアニメの魔法少女達は年齢の時点で労働基準法違反だし、ボランティアで命を張ってるあたり頭が弱いのではないだろうか。
「でもお金かぁ……退職金も豪華みたいだし」
どのみちこれからも茜ちゃんに誘われて闇の雫狩りを続けることになるかもしれないから、渡りに船かもしれない。
昨日倒した分が加算されないのは残念だが、どうも給料は歩合制みたいだしとりあえず登録だけでもしておけばいいかなぁ。
「うんいいよ。 なってあげる」
『…………ねぇヨリコ。 僕こんなに俗物的な女の子を見るの初めてなんだけど』
「綾はちょっと成長が早いだけで女は皆こんなもんだから」
逆に男だと何歳になっても浪漫とか求めてるのがいるけどねぇ。
『と、とにかく契約してくれるならこれを!』
「なにこれ?」
小動物がどこからともなく取り出したのは──本当にどこから取り出したんだ──無色透明の丸い結晶だった。
もしかしてこれが魔法少女お約束の変身アイテムなのだろうか。
『よく分かったね』
「って本当に変身アイテム!?」
ま、まぁ妙なものじゃないだけマシなのかな。
渡された結晶をマジマジと見ると、魔法が内包されているのが分かる……うん、術式はまったく分からんけど。
元魔王の茜ちゃんに見せれば何か分かりそうだ。
『それはマジカルクリスタル、魔法少女がそれを飲み込むことによって力を発揮するんだ』
「…………飲み込む?」
このビー玉サイズの結晶を?
なんか飲み込むにしては少し大きいような気がするんだけど。
「というか本当に飲み込むの? 変身グッズを?」
『だって体内にあったらいざという時に持ってないなんてことはないじゃない』
「いやそうだけど……!」
『子宮に入れる旧タイプのもあるけど、そっちにする?』
「誰だそんなの考えたの!?」
エロゲーじゃないんだから少女にそんなエグい方法とらせるなよ!
『女神様だけど』
「その女神絶対清らかじゃない。 絶対汚れてる。 間違いない」
女神っていうと清らかなイメージだが、絶対ない。
「何か勘違いしてるみたいだけど、普通にお腹から入っていくのよ?」
「え、そうなの?」
「なんかこう、お腹に沈んでいくのよ。 不思議な体験だったわぁ」
そうか……それは悪いことを言ったかもしれない。
女神様もちゃんと考えて作った──
『でも出す時は性行為しながら特殊な魔法使わないと取れないけどね。 ただその場合稀に回収できないケースが……』
「やっぱり変態だわその女神」
『なんで!?』
どうでもいい補足
ミケルケル王国……住民は小動物と同じ姿をしている。統治者は女神。それだけ
第三次聖魔戦争……魔法少女側の光の陣営ミケルケル王国と闇の陣営の戦争第三回目。綾ママはその時夫をどこからともなくゲットしたらしいが……?
マジカルクリスタル……変身アイテム。旧型はエロゲタイプ。人生聖女プレイとかやってると回収されないので女神様は困っていた。なんでかはお察し
「シン・エター「また!?」…………ねぇ綾、最近よく人が喋ってる途中に遮るけど失礼だよ?」
「どどど、ど問題!?」
「馬鹿ですか? アホですか? 痴呆なのですか!?」
次回、『お仕置き』