16話 ついに現れる白いあれ
明人と関わるイベントはもう少し後なので黒歴史はお待ちください
そして無駄なフラグ回収
※綾のツッコミ役登場回。決して本格的に非日常サイドに移行することはありません
「如月 綾ー、脳内会議はっじまっるよー!」
「ですし」
「おすし」
「今日の課題はこれ! ずばり炎滅姫の本にどう対処するか!」
「無理じゃない? もう一般生徒にも出回ってるみたいだし」
「そうそう。 無駄な努力はしない」
「うん、なら仕方ないね! 結論はずばり、諦める! これにて会議終了!」
脳内会議が終わり現実世界に戻ってきた一言。
「…………いやもうちょっと頑張ろうよ私」
確かに諦めるしかないかもしれないけど、もうちょっと試行錯誤するとかさ……。
一昨日に助けた炎滅姫を書いた少年に肉体言語でお話をしてこれ以上拡散させようとするのは物理的に阻止した。
これ以上広まるのを防ごうとするならば、配られた本の回収をしなければならないが出来るならそれはしたくない。
配られる前に奪うのならともかく配られた本はその者の所有物なのだ。
つまり諸悪の根源である少年から強奪するのはいいが犯罪は駄目、ぜったい。
「やっぱり注目されるね綾」
「…………」
食堂でうどんを食べてる私と定食を頼んだ花梨の間に気まずい雰囲気が流れる。
私はどんよりとしたオーラを放ち花梨は地雷踏んだと今更ながら気付いたようだ。
「何が嫌なの? ただモデルにされただけでしょ?」
モデルどころか実はノンフィクションだとは花梨も夢に思わないだろう。
花梨が呼んだのとは別の炎滅姫(一般人向け)には闇の雫は闇の敵となっている。
非日常を知らせないようにとの少年の計らいだろう……だがな!
「なんで私の名前だけ変更なしなの」
「さぁ」
なぜか私の名前だけ配慮されずにフルネームの本名だった。
一人だけモザイク回避されたみたいで何かのイジメかと思える嫌がらせだ。
理由を聞こうにも当の少年は今頃病院で治療を受けていることだろう。
ハートマークのついた手紙を少年がトイレに行った隙に誰にも気付かれないように机の中にいれ、校舎裏に呼んだカイがあったというものだ。
放課後にも布教しようとしていたのか聖典とやらがロッカーに入っていたが、少年が学校に戻ってくる前に処分する予定である。
「あれ、綾ちゃんに花梨ちゃんやん。 座ってええ?」
「いいよー」
未来ちゃんがザル蕎麦を乗せたトレーを空いてる部分に置き、私の横に座る。
しかし茜ちゃんほどじゃないけど未来ちゃんって少し小柄だよなぁ……胸とか可哀想になるくらいだ──
「綾ちゃん?」
突如ギュッと私の胸が未来ちゃんの掌に納まった。
しかも少しずつ力が加えられ……って痛いっ!?
「い、いたいよ未来ちゃん!」
「少し大きいからってええ気になって……」
「いや私のはCだから普通だよ! 大きくないよ!」
「じゃあウチのはチッパイどころかナイパイって言いたいん!?」
「なんでそんな話に!?」
女の子の胸には夢が詰まっているのよ。
ママの言葉だが、ない胸にははたして何が詰まってるのだろ……
「にゅぎっ!? つ、潰れる!」
「ええ加減にしような綾ちゃん?」
涙目……というか号泣しながら謝ると未来ちゃんはようやく胸から手を離してくれた。
「うう……痛いよぅ」
「自業自得や」
未来ちゃんが初めて私を冷たい目で見る……あ、でもちょっとだけ気持ち…………いやいや、ないから!?
新しい扉が垣間見えた気がしたが、決して開けないように気をつけよう。
はぁ、と溜息を吐いて未来ちゃんはそういえばと辺りの人たちを見ながら言った。
「なぁ綾ちゃん、気になったんやけどなんで注目されてるん?」
…………まさか未来ちゃんが私にそんな嫌がらせをするなんて。
あれだろうか、(炎滅姫wwwwww炎滅姫ってwwwwww)って草生やして私のことを遠まわしに馬鹿にしてるんだろうか。
「少年のせいで私の身体はもうボロボロよ!」
「ライ○ダーシステムの不具あ……って何言ってんのさ綾」
むしろ花梨が何言ってんだろうかと疑問に思うが、未来ちゃんは理解できないといった様子で不可思議そうにしていた。
なんだろうこの反応。
「少年?」
「炎滅姫を書いた人だよ。 未来のところでも噂になってない?」
桜木学校で結構有名になってるみたいだけど。
そう付け加えられた情報にわかってはいたものの心にダメージを受けた私に気付かず未来ちゃんは「んー?」と首をひねり
「何の話なん?」
「え?」
「2組ではそんな話まったくないんやけど」
あれ、どういうことだろうか。
あの少年の戯言だと全校生徒に配るとか言ってたみたいだが……運悪く1年2組だけ配り損ねたのか?
それにしては名前すら知らないようだが、一体なにがあったのだろう?
「炎滅姫って本に書かれてるヒロインが綾をモデルに書かれてるのよ」
「ちょっ、花梨!?」
「別に隠してもすぐにバレるでしょ。 いいじゃん別に減るもんでもないし」
減るのよ、私のSAN値がっ!
「へー、どんな本なん?」
「私は誤植版しか呼んでないから、他の人から聞いた修正版だとねー」
誤植版とは闇の雫を狩る人達──つまり裏社会を知る人達にしか配られなかった炎滅姫だ。
一般人に知られちゃまずい情報が盛り沢山なので、普通の学生には修正が入っている。
だから花梨には正式版が修正版に比べて誰かの名前をそのまま使っているという点を説明し、誤植版と伝えたのだ。
「えー、でも『まそっぷ』とか書いてないよ?」
「いや誤植だからって必ずそれが入ってるわけじゃないからね!?」
というやり取りがあったが、無理のない説明だったので花梨は素直に騙されてくれたようだ。
しかし花梨に正式版を見せた脳筋には後でお仕置きしなくては。
「挿絵はないんやな」
「ライトノベルじゃないんだから……」
カバーも赤いシンプルなそれにタイトルとして『炎滅姫』と書かれているだけだ。
文字だけは金色で無駄に仰々しいのだが、色にまでケチをつけても仕方がないので我慢しておく。
ペラペラ炎滅姫のページを捲る未来ちゃんは最後あたりまで流し読みしたあたりで一言。
「綾ちゃんの二つ名がタイトルなのに前半部分全然関係ないやん」
「…………え、あ、うん。 そうだね」
確かに私が登場するのは後半の闇の雫と戦ってピンチになるシーン……というか最後のほうだ。
この薄い本は主に少年の主観によって進むのでそれまでかかわりのなかった私はまったく出てこない。
「未来は読むのが早いのか」
「細かいところ何が書いてあるのかは分からんけど、大まかな内容なら1ページ2、3秒で十分やでー」
文字がビッシリ詰まってる本とかならまた話は変わるんやけど。
そう付け加えて未来ちゃんは蕎麦をすすった。
「ウチの特技はともかく、それって本名入れて大丈夫なん?」
「いやいや大丈夫じゃないから! 同意してないから! 認めてないからっ!」
「えー、アタシは大丈夫だと思うよ。 彼も学外には配らないって言ってたし」
「でも第三者に配るならやっぱり認めないからっ!」
どうにかして皆から強奪抜きにして回収を……
「別にええやん。 アキトみたいに毎日変な行動してるわけやないんやし。 あくまでフィクションやろ?」
「いや確かにそう言われてるけど……毎日?」
「うん。 今朝やってな」
『おい篠原。 この学校は染めるの禁止って知ってて銀髪にしてきたのか?』
『ふん、貴様は勘違いしている』
『教師を貴様呼ばわりするとは良い度胸だな。 理由を言え。 もし納得できなければお前を生徒指導部に連れて行かねばならん』
『その前に一つ聞いておきたい』
『なんだ』
『我の髪は何色に見えるのだ?』
『銀だろう。 白に近い銀だとかワケの分からない言い訳はいいからさっさと──』
『やはり銀か。 …………ふっ、我の中に眠る禁じられた力が目覚めかけているということか』
『…………』
『これから我はこの封印を強めるために一度本拠地に戻らなければならん。 教師よ、また明日会お──何をする教師』
『生徒指導部に連れて行くだけだ』
『なっ、やめ……離せ人間! 我にはいかなる拘束も効かぬっ!』
「…………」
おわた。
「ということがあってやな……なぁ花梨ちゃん、綾ちゃんの口から半透明の白い靄が出てるんやけど」
「芸が細かいなぁ綾は」
「え、大丈夫なん……?」
「他の人だったら心配するけど、綾だしなぁ」
「ただいまママ……」
家に帰るとママがエプロンで手を拭きながら応えた。
「あらお帰り。 お客さんが来てるわよ」
「お客さん?」
いったい誰だろう。
学友ではないようだし……
「ママの友達?」
「んー……近いわね」
とりあえず来なさい。
そう言われてママに手を引かれてリビングに入る。
『やぁアヤ!』
「…………」
犬と猫、その中間の白い小動物が机の上にお座りしていた。
額には赤色の宝石が埋め込まれており、どこかカーバンクルを思わせる幻想生物だった。
「…………調子が悪いみたいだから私、今日は早めに寝るね」
「もう綾、現実逃避しないの。 いい? この子は……」
『アヤ! 僕と一緒に魔法少女として世界の平和を闇の雫の手から守ろう!』
…………あ、もしかして今朝のあれって正夢!?
『アヤ、何が嫌なんだい?』
「全部」
『全部!?』
次回、『魔法少女承認!』