14話 新たなる色と名
二章開始です
私は今、リビングのソファー……に座っている方々の前で床に正座していた。
なんでこうなったんだっけ、と思い返すものの心当たりはない。
「どうして!? どうしてなの綾!」
「えっと……花梨?」
「どうしてアタシに隠し事なんて水臭いことしてたの!? 危険だから? 関係ないから? アタシ達、友達でしょ!」
…………いったいどれの話なのだろうか、と考えてしまう私は友達として色々と手遅れだ。
本当に転生していたことなのか魔法が使えることなのか、はたまた篠原 明人と自分との関係性なのか。
「綾ちゃん、ウチ悲しいんよ」
花梨に続いて悲しそうに語る未来ちゃん。
「ウチやって綾ちゃんみたいなりたい!」
「え、えぇー」
だから何の話なんだろう。
「ゴミが……」
「待って茜ちゃん、何かキャラが違うよ!?」
「黙れ劣等種。 貴様の行いが世界を腐敗させているとなぜ気付かん」
いったい小動物茜ちゃんはどこへいったのだろうか。
今ここにいるのは魔王茜ちゃん……何があったんだ。
「スッゲー! 我も仲間にいれ……」
「篠原 明人は黙ってて!」
「なら我輩が!」
「脳筋君も息しないでよ!」
「ぬぅ!?」
野郎どもはどうでもいい。
だいたいなぜいるここは私の家だぞ。
花梨は……まぁ何を怒ってるのか良く分からないが問題が深刻でも後で話せば何とかなるだろう。
問題は未来ちゃんと茜ちゃんだ。
特に後者あたりの性格を何とか戻したい。
とにかく今は……一番簡単に何があったか聞きやすそうな順から聞いていくことにする。
「花梨、なんで怒ってるの?」
「この期に及んでまだとぼけるの!? もう皆知ってるんだよ!」
「皆?」
何を知っているのだろうか。
クエッションマークが乱舞する私の様子に花梨は鋭い目を向けた後、テレビの電源をつける。
『魔法少女☆綾! 日本の平和は私にお任せよ!』
「…………」
画面の中ではフリフリのヤケにスカートが短いドレスを着た私がノリノリでステッキを振り回し、闇の雫と戦っていた。
しかもその肩には魔法少女には必須アイテムというべきかお供の小動物である……犬と猫の中間あたりの不思議な白い生物が乗っている。
『ファークルス、来て!』
「魔法少女なのに剣を召喚したよこの子…………で、誰?」
「誰って綾ちゃん以外いないやん」
「大丈夫だよ綾。 最近の魔法少女は攻撃魔法じゃなくて止め以外は肉弾戦オンリーな子だっているんだから具体的に言うとプリキ……」
「いやそれはどうでもいいから。 私はこんなの身に覚えが……!」
「綾ちゃんもうええんよ? 皆知ってる。 だって綾ちゃん学校の皆を助けるために皆の前で変身したもんな……」
「なにその名シーンっぽいの。 だから記憶に……」
「ふん、魔法少女度なら我だって負けておらぬ」
「茜ちゃんはちょっと黙ってて!」
「我輩だっ」
「うっさい脳筋! 心臓動かさないでよ!」
「ぬぅ!?」
いったい何が起こっているのだろうか。
篠原 明人はコチラをキラキラした目で「我と契約して魔法少じ……少年にしてよ!」とか言っていたけど、無視することにする。
「アタシだって魔法少女やりたい!」
「ウチやって!」
二人の主張に困惑しながら何とか情報を集めようと慌てて家から出ようとした時、誰かが帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりママ! ちょっとでかけ……て……く…………」
そこにいたのは間違いなく私のママだ。
しかし様子がいつもと違う。
「ママ、何なのその格好!?」
「え、魔法少女よ」
「おかしいでしょ!?」
「えー? だって綾に魔法を教えたのはママじゃない」
いや何の話!?
「だからって年齢考えてよ! もう少女って年じゃ……」
「何か、言った?」
「え」
「何か言ったかしら?」
ゴゴゴゴゴゴ、と空気が震え凄まじい圧迫感が私を襲った。
やべ、言葉間違えた。
「そんな子は……お仕置きしちゃうぞ♪」
「やめてママ痛々しいか……」
最後に見たのはステッキを振り上げるママの姿だった。
「戦士系魔法少女!? それって魔法少女じゃなくて魔法戦士なんじゃないの!?」
ガバッとベッドから跳ね起きる。
部屋の外からはチュンチュンと雀の囀る声が聞こえ朝であることを感じさせる。
「…………夢?」
夢だったのかあのわけの分からない空間は。
いや本当に夢でよかった。
特に茜ちゃんの魔王化とママの魔法少女化とか。
誰が得をするジョブチェンジなんだあれらは。
とにかく今日は登校日だ。
遅く出れば花梨がいつもの待ち合わせ場所で待たせてしまうことになるのでそろそろ準備しないといけない。
私はベッドから出て背伸びをすると洗面台へ向かうべく部屋を出た。
睡眠時間はちゃんととったにも関わらずやけに眠いが、一昨日の戦闘の影響だろう。
一日間をおいて遅い来る疲労なんて人体は不思議に満ち溢れているなと眠い頭で思った。
いつもの時間に家を出ると予定通り通学路で花梨と会えたので、それからはゆっくりと登校する。
両手で持っている鞄がどことなく重いのは私の体調が良くないからだろうか。
というか本気で眠い……この勢いは授業中で寝てしまいそうだ。
「ねぇ綾」
「なぁに?」
重たい瞼を揉み解して僅かながら眠気を覚まさせる。
「アタシ達……というか綾さ、やけに見られてない?」
「…………?」
言われてみると一部の生徒達がやけにこちらを見てヒソヒソ話しているような?
「気にすることないんじゃないかな」
「綾がそう言うならいいけど。 何かあったらすぐアタシに良いなよ」
「うん、ありがと」
何かあったら、といっても私を見ている彼らの様子は嫌悪とか負の感情の類ではないので大丈夫だろう。
どちらかというとプラス方面……私、何かやったっけ?
「あ」
「今度はなにがあったの?」
何かを見て驚いた花梨に重たい瞼と格闘しながら聞くが、当の本人は何も答えてくれない。
いったい何を?疑問に応じるがままに視線の先を辿ると……奴がいた。
「「…………」」
トラのプリントがされた制服、サングラス、指貫グローブ……奴の名は
「篠原 明人ぉ」
「いやどうしたの綾。 そんな憎憎しげに呟いて」
最近、親友が特に理由はないらしいがとある男に色んな意味で夢中なことに若干不満な花梨は溜息を吐いた。
「どうして」
「うん」
「どうして篠原 明人の髪が銀になってのよ……!!!」
奴の髪、それは日本人なので当たり前だが黒色だった。
しかし昨日の臨時休校を挟んだ今日、奴の髪はなんと銀に変色していたのだ。
(あ、そういえばそんなこともしてたような……ちょっとしたらやめた気がするけど)
心当たりがある私だが、そんなことはどうでもいい。
重要なことは奴が突然銀色になって登校しているという事実だ。
「おはよう綾ちゃん。 今日もええ天気やな」
「未来ちゃん未来ちゃん未来ちゃん!」
「ぅぇっ!?」
早朝の挨拶を爽やかにしてくれた未来ちゃんに待ってましたと言わんばかりに私は飛びついた。
「何あれ! 何なの! どうなってるの!?」
「え?」
未来ちゃんは首を傾げ、私の指した人物を見て「ああ」と納得した。
「明人な。 ウチも昨日花梨ちゃんの家から帰ったらああなってて驚いたわ」
「未来とあの男って何か関係あるの?」
「幼馴染やで。 昨日はお母さんからお裾分けって明人の家に持っていった時にあったんや……まぁ明人、その時黒いローブ着てやけに線香臭かった
んやけど」
わ、私の厨二病がまたもや花梨に知られた……。
この調子だと全校生徒にも知られてしまう……。
「やめて……もうやめて」
「綾ちゃんどうしたん?急に道路脇にしゃがみこんで」
「あー、たまに綾って突然自閉するんだよね」
後ろで二人がヒソヒソと何か話し合っているが、今の私は貝だ。
あ、アリさんおはようございます。
今日も黒々として暑そうなのに頑張って働いてますね。
「うふふふ」
「…………なぁ大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫。 たまに発光したり手から炎だして手元の虫を苛めたりするけど大丈夫」
「それ大丈夫なん!? ってほんまに炎出してるーっ!?」
うふふふ……ほら、熱いでしょ?ねぇ熱いでしょ?
学校につき未来ちゃんが2組に入る時、やけに私に心配そうな声をかけていた。
きっと皆が私を見てヒソヒソ何かを言っていたのでそのことを心配していたのだろう。
まったく未来ちゃんは私の天使だ。
あと2組で別れる時、クラスに銀髪が見えたのは気のせいだと思いたい。
「視線増えてるね」
「え? う、うん」
花梨の言葉に私は追従するようにして見回してみると、確かに増えている。
どうも今日は疲れているようだ。
戦いの経験がない花梨よりも観察力や察知力が落ちているのはその証拠だ。
四組に入ると同じように2、3人が反応し、私を見てヒソヒソ話し出す。
「…………」
「本当に大丈夫綾? 何か心当たりないの?」
「ないけど……」
私はこの学校で目立ったことはしていないし、する予定もない。
なぜなら私が目立つということは篠原 明人が私に注目するということだからだ。
前世と今世の差異は出来る限りなくしたい。
「ぬ、委員長に斉藤ではないかぁ!」
「おはよう白石」
「おはよう脳筋君」
おう!と脳筋君が元気良く返事し、豪快に笑った。
「それにしてもやるではないか委員長!」
「なにが?」
最近皆が私に分からないような話の切り出し方をしてくるのだが、ひょっとして流行っているのだろうか。
まるで『やる』といえば私は何か凄いことをしでかしたみたいではないか。
だがそれはありえない。だって私は新入生歓迎会の野球で三振した後、一度もグラウンドに出ていないから。
「さすがは『|炎滅姫《プリンセス オブ フレイムデストラクション》綾』と呼ばれるだけはあるな!』
「…………ほわっつ?」
「うぬ、だから…………」
『|炎滅姫《プリンセス オブ フレイムデストラクション》綾』
…………どうしてこうなった!?
「燃え尽きろ」
「面倒だね……塵も残さないよ!」
「良かったじゃん綾。 『炎滅姫』って何か格好良いし」
じかい、『ぷりんせす おぶ ふれいむですとらくしょん』