13話 日常ガールズトーク
一章と二章の間の小話です
私の予想に反し、茜ちゃんから呼び出されたが魔法について問い詰められることはなかった。
あまりにも数が多かったので火の中級魔法で一掃したから気付かなかったということはないだろう。
後処理で無線機に向かって様々な指示を出してたのでその暇がなかっただけかもしれないが。
茜ちゃんの言っていた「気になること」とやらも私をジッと見ただけだったし。
「どうしたの綾? 今日はいつにもまして萎びれてるけど」
「花梨……」
闇の雫との戦いが終わってその翌日、学校は臨時休校だ。
昨日私が参加したことにより校舎への被害は最小限に抑えられたものの0ではない。
なので一般人に怪しまれないように最低限の処置をするべく今日は工事しているのだ。
告知そのものは入学式にされているが、当時の私は祝日でも記念日でもないのになぜ休みにするのか分からなかったが……非日常が理由だったらしい。
「……またプロレス漫画増えてるね」
「ぐっ……」
花梨の部屋には彼女の趣味であるプロレス関連の書物やDVDが多く置かれている。
私にはいったいプロレスの何が良いのかまるで理解できないが、とても好きらしい。
「まったく。 実用性皆無の格闘技に一体何の意義が……」
花梨には聞こえないようにボソッと呟くと私はベッドの上にゴロンと寝転がった。
以前このことを本人に言ったところ大喧嘩になったのだ。
いやだってプロレスって実戦で使えないし、異世界だともっと使えないんだよ?
オーガとかトロルとかにプロレス技とかまずかけれらないし、だいたい関節極めても魔法が飛んで来るし。
競技としたの魅力はあるのかもしれないが、その魅力が分からない私にはまるで田舎の農夫が喧嘩しているようにしか見えなかった。
「そういえば綾さ、昨日は調子悪かったの?」
「ん? なんで?」
「だって野球すぐに休んだでしょ。 まぁいつものことだからあんまり心配してないけどさ」
あー、そういえば体調不良を申し出たんだったっけ。
だがあまり褒められた話ではないが、私はいわゆるサボリ魔だ。
基本的にスポーツは水泳やダンスを除いて殆どを休むかサボるかのどっちかだ。
「だってさ花梨、皆弱すぎるんだもん」
「自重しようよ綾」
小学校時代の私は凄かった。
ドッチボールでは文字通り指先一つで球を受け止めたり、サッカーではコートの真ん中からシュートしたり。
転生したからといって思考能力はその年齢に準じたものとなっている小学生の私には自重の二文字はなかった。
そして中学校に上がると同時に受けた部活勧誘……あの思い出からもう二度とスポーツで本気を出さないと心に決めたのだ。
「球技面白くないもん」
「でも授業はちゃんと出ないとさ」
球技は私にとってやりたくないスポーツの一つだ。
競技中に投げられたり蹴られたりする球は私からすれば欠伸が出るほどの遅さだ。
接触時の一瞬の駆け引きに関しても負けたことがない……殺し合いで磨いた私にスポーツの駆け引きなど幼稚でしかないのだ。
(あ、こいつフェイント狙ってる)とか(本命はあの人かぁ)とか、視線の動きとか挙動のブレで丸分かりだった。
そも野球なんて変化球を投げようが剛速球を投げようがあれだけバッターとピッチャーの間に距離があればまず打ち漏らすことはありえない。
「歓迎会って銘打ってたけど当の私が全然楽しめないっていうね」
「運動部に入ればいいじゃない」
呆れたように花梨が言うけど、それだけは遠慮したい。
「やだよ。 自由時間削られるし」
運動部といえば文化部と違い登校日は毎日練習することで有名だ。
だいたい篠原 明人の持っている『イメージの動きを完全に再現する』という才能は失っていないのだ。
私がもし本気でスポーツを極めようとするならばプロの動きを観察し、筋トレでもしてたほうが余程強くなれる。
「だいたい絶対に部員に嫉妬されるから嫌」
「相変わらず自信満々だね……」
「帰宅部だった時でもあったんだもん。 やってらんないよ」
小学校の頃、体育の授業では本気で身体を動かしていたのでその頃の情報が漏れたのだろう。
中学校時代の運動部員からの私への対応は三つに別れる。
嫉妬するか、疑うか、求婚……うん、二つだ。
というかよく考えたら篠原 明人が真面目にスポーツやってたらもはや英雄だったのではないだろうか。
異世界でも確かに英雄だったが、聖剣二刀流とかやってたせいで身体がボロボロになって36歳で老死したし。
一方地球だとスポーツでモテモテになって世界でも有名人に。
医療技術的に長生き出来てセレブ生活を堪能できる。
…………どうしてこうなった。
人生について深く思い悩んでいると花梨の部屋のドアがノックされる。
「どうぞー」
「ただいま」
「おかおかー」
ゆるいやり取りの後に入ってきたのは未来ちゃんだ。
私が花梨に新しく友達になった未来ちゃんについて話したところ今朝から一緒に遊ぶことになったのだ。
午前中は二人がランジェリーショップでキャイキャイ騒いでるのを一定の距離を保ちながら見てました。
経験上捕獲されたら最後、着せ替え人形扱いになる私は小動物どころか手負いの猛獣のような警戒を抱いていたことだろう。
「アイスぷりーず」
「綾ちゃんタレてんなぁ……」
「いつも休日の綾はこんな感じだよ」
うるさい。
ベッドでゴロゴロしながら花梨の少女漫画を見る。
思い出したのでマリア様がなんたらって本を読んでみたが、あんまり面白くない。
後輩から借りていた花梨だが、趣向はともかく面白かったので自分で買ったらしいのだが私には伝わらなかった。
「はい雪○大福」
「わーい」
世の中には抹茶味やらチョコ味なる軟弱なものが売りに出されているらしいが、私は断じてバニラ以外は認めん。
「じゃあ次は何を賭ける?」
「んー、好きな人暴露もたいして盛り上がらんかったしなぁ」
今、私達はゲームをして最下位は罰ゲームをするという遊びをしている。
最初は負けたら好きな人を教えるという罰ゲームでやったのだが──
『あれ、私の負け?』
『ふっふっふっ、そうやで綾ちゃん! さぁ!』
『アタシ達に話すといい!』
『そうは言っても……あ、花梨と未来ちゃんは好きだよ?』
『いやそういうことじゃなくて好きな異性のことだよ』
『パパ?』
『家族禁止や!』
『んー……………………いない、かなぁ。 サンドバックにしたい男の子ならいるけど』
『なんやて? 冗談で誤魔化そうったてそうはいかんで!』
『いないのはいないよ。 だいたいそういう二人だっているの?』
『今はアタシじゃなくて綾が答えなきゃいけないんじゃ……まぁいいけどさ。 アタシは……あれ、いない?』
『…………よく考えたらウチも男の子の知り合いって明人以外おらんなぁ』
『三人ともいないじゃん』
というやり取りがあり、非常に盛り上がらなかったといえよう。
というか女子三人も集まって恋話一つもできないなんて……。
その後初恋の話になり、似たような会話が繰り返されたので今となっては誰もが異性の話を避けていた。
自分達の男っ気のなさに花梨と未来ちゃんはショックを受けたからだろう。
私は単純に興味がないからだが。
あ、補足するとサンドバックにしたい男の子とは勿論篠原 明人だ。
やっちゃ駄目だからやらないけど。
「あ、そういえば昨日帰り際に聞いたんだけど」
ふと思い出したようにクッションを胸に抱いて花梨は言った。
「何を?」
「屋上にね、黒い雷が落ちたんだって」
「えー、そんなわけないやん」
未来ちゃんは手を振り「やんなぁ?」と私に笑いかける。
「…………」
対する私はゴロリと寝転がり、大福についているスティックを口にあてながら視線をそっと逸らした。
「そ、そだねー」
「確かにアタシもあんまり信用してないけど。 だいたい屋上には焦げ目もなかったって話だし」
それは正確には雷が屋上に落ちたんじゃなくて屋上から放たれたからです。
「噂といえばウチもこんな話聞いたで」
あ、未来ちゃん昨日のスポーツを通して何人かと知り合いになれたらしい。
若干関わりたくなさそうだったが、根気良く話しかけると会話を続けてくれたとか。
『綾ちゃんが友達になってくれたからウチ勇気出せたんよ』
…………下心ありで友達になった私にはとてもじゃないが直視できない澄み切った瞳であった。
「なんでもな」
やっと普通の青春を送れる未来ちゃんの第一歩。
その一片を知れることをまるで母お……父親のような心境でついつい見詰めてしまう。
「この辺りには自称『勇者様の生まれ変わり』が住んでいるそうなんやで!」
「…………へ、へー」
棒読みで返事をしながら足元の布団を手元に寄せ、それを全身でかぶり外部の情報をシャットアウトする。
……つもりなのだが当然たかが布団でシャットアウトできるのはせいぜい視界くらいで話し声は十分に届いてしまう。
「綾……」
「ちゃ、ちゃうねん」
「や、なんで綾ちゃん関西弁?」
ウチのが移った?
そう困惑する未来ちゃんとは逆に事情を知っている花梨はジト目を向ける気配がした。
「なぁ未来」
「やめて花梨やめて花梨!?」
「いやどんだけやめてほしいのよ」
「…………?」
思わず変な日本語を使ってしまうほどに私は混乱しながらも花梨をとめる。
未来ちゃんは訳が分からなさそうにしていたが、取り乱した私の様子を見て深く聞くのはやめてくれた。
しかしまさか8年以上前の話を今もまだ知ってる人がいるなんて……人の噂は75日って本当じゃなかったのか!
『魔法少女☆綾! 日本の平和は私にお任せよ!』
『ファークルス、来て!』
「アタシだって魔法少女やりたい!」
次回、新たなる色と名