12話 疑問
厨二病成分薄めで半分説明会です。
そんなのどうでもいい人は飛ばしてもらっても(たぶん)大丈夫です。
茜ちゃんに闇の雫狩りのチーム、『ラインクロス』に入ることを告げたその日の放課後……私は生徒会室にいた。
なんでも代々この高校の生徒会は『ラインクロス』のメンバーが勤めているらしい。
(戦闘集団なのに雑務をやらせていいのかな……あ、そっか。 将来桜木グループの重鎮になれるからか)
デスクワークの知識が丸々ないというのも困るからだろう。
…………ちなみに今は戦闘準備をしている最中なのだが、どうしたものだろう。
「ねぇ茜ちゃん」
「はい何でしょう綾お姉様」
「なんでここに私と茜ちゃんの二人しかいないの?」
私はきっとここで作戦会議のようなものを行い、時間の一時間前くらいに解散すると思ったのだ。
なので皆に顔を見られてどう言い繕うか悩んでいたのだが、それは無駄となった。
「だ、だって人がいっぱいいると怖いですし」
「…………」
そういえばこの子、私には好感度振り切れていたのですっかり忘れていたが、人間不信だったっけ。
「でも茜ちゃんは指揮官なんでしょ?」
「大丈夫です! ちゃんとボイスチェンジャーで男のものに変えて無線で連絡してますから!」
妙な方向で努力している茜ちゃんに頭痛を感じながら、生徒会室の机の上に置かれている一枚の紙を手に取る。
「闇の雫…………異世界からの侵略者、ねぇ」
異世界というと思い出すのは当然、前世で過ごしたあの異世界だがそれはないと信じたい。
「はい。 闇の雫には通常型、寄生型、能力型の三つがあるんです」
「…………そう」
人から『僕の考えた格好良い設定』を話されているみたいであまり気分が良くない。
なので説明を断って資料から情報を得ている……いや茜ちゃん、そんなしょんぼりしなくてもいいじゃない。
「ふーん。 出現する場所は分かってるんだ」
「はい。 能力者の中に未来を予言するものがあって……」
「いやもういいから! そういう非日常設定はいいから!」
またもや増えた……もとい、知った非日常に頭を抱えながらも資料をペラペラ捲る。
そしてとある資料で捲る手が止まり、首を傾げた。
「これ何?」
「なんでしょう綾お姉様」
「いやさ……」
今、私が見ている手元にある資料は多くの名前がリストにされているものだ。
各名前とセットでA・B・C・D・Eの五段階評価で身体能力が示されている。
「それはこの学校の生徒達でラインクロスに入隊していない方々ですよ。 ようは一般人です。 もしランクが高ければスカウトもありえるのです」
「ふーん」
一人一人身体能力のランクだけを見ていくが、その殆どがDやEといった低ランクのものばかりだ。
一般人ならこんなものだろう……大した興味を持たずに流し読みしていると、とある一点で目が留まった。
「ランクC以上が殆どでBも多い……戦闘センスは最高値のA!?」
身体能力が非常に高い一般人もいたものだ。
そう思いながら名前をチェックし……
「ぶっ!?」
「お、お姉様!?」
「ししし、篠原 明人ぉ!?」
そんなに能力高かったのか、前世の私は。
「ああ、彼ですか」
「…………」
勇者アキトは知ってのとおり、未来の篠原 明人だ。
そして魔王であった茜ちゃんは当然、彼のことを知っているはずである。
しかし茜ちゃんは興味がなさそうにしているので私はつい気になり聞いてみた。
「知ってるの?」
「はい。 身体能力が高いのでスカウトしたこともありますよ」
「…………え?」
スカウトしたことがある?
待って欲しい、私はそんなの知らない。
「…………詳しく聞いてもいい?」
「いえ闇の雫について簡単に説明してラインクロスに加入してくれないかと面接で言ったことがあるのですが」
「ですが?」
篠原 明人は入試の面接でスカウトを受け、こう言ったらしい。
『ふっ、我はシン・エターナル。 魔界において最強を欲するがままに手にした男よ。 ラインクロスなどと下等な組織に属するほど腐ってないわ』
「どうも白石さんより頭の出来がよろしくないようなので、てきとうに誤魔化しました」
魔法も見せたのに「人間にしてはなかなかの魔力だな」とかほざき始めますし……茜ちゃんはそう愚痴を言いながら髪の毛を弄っていた。
どうやら拗ねているようで、篠原 明人にはあまり関わりたくないように見える。
そのようなことがあったなんて憶えてない……恐らくノリノリで厨二してたので、ノリが良いくらいにしか思ってなかったのだろう。
だが一体どういうことだ?
これではまるで篠原 明人の身体能力が高かったからスカウトしただけで、彼女が前世で彼と会ったことは関係がないかのように聞こえる。
一歩踏み出して質問してみるべきか──そう考えた私は真実を知る為に一つの質問をした。
「勇者アキトだっけ? この人も同じ名前だねそういえば」
その呟きに茜ちゃんは僅かに嫌そうな顔をしたが、なんでもないかのように答えた。
「そうですね」
「…………え、それだけ?」
「はい、それだけですが」
むしろ他に何を言えばいいのですか?
そう付け加えた茜ちゃんに私は混乱しながらも尋ねた。
「いやほら、何か関係性があるとか……」
よくよく考えればこの質問は少々どころかかなり際どい。
私は茜ちゃんにとって、当然のことだが異世界の情報を彼女から聞いたものを除いて知らないことになっている。
なので関連性は名前のみ……それだけで関係を疑うのは飛躍しすぎなのだ。
それすら私は気付かずに聞いてしまったが、茜ちゃんは特に疑うことなく答えてくれた。
「え、ありえないですよそれ」
「なんで?」
「だって茜が勇者アキトに殺されちゃったのは前世の話ですよ? 茜が生まれてから10年以上たっていますので、|10年以上前の過去の人間《・・
・・・・・・・・・・》が同じ容姿でこの異世界にいるわけないじゃないですか」
「…………」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
しかし私は何とか情報を得ようと動きが重くなった口で何とか質問をする、
「お、同じ容姿なんだ?」
「はい。 ですが他人の空似でしょう。 それにもし仮に勇者アキトが何かしらの方法で不老を得たとしてもまたありえないのですよ綾お姉様」
待って欲しい。
どういうことだ?
いや当たり前だ。
しかしおかしい。
なぜだ?
納得と疑問、交互に行われる思考の中で混乱したまま私は茜ちゃんの言葉を聴き続ける。
「私の前世の世界からこの世界に移動するには世界間を移動しなくてはなりません。 世界間の移動というものは本当に、本当に難しいのです。 世
界から自力で出ることは神でもなければ不可能なんです」
「え?」
待って欲しい。
ちょっと待ってくれ。
だが私は前世で確かに異世界へと召喚された。
それはどういうことだ?
「茜ちゃん……っ!」
「はい?」
思わずそのことを問いかけようとして、息を呑んだ。
今までの質問すらギリギリなのに、それは間違いなくアウトだ。
もしもアキトが異世界に召喚される前に茜ちゃんが彼を殺してしまえば私は最悪消えてしまう。
重要なのは私が真実を知ることよりも、篠原 明人と私の間の矛盾を出来うる限り減らすことだ。
目的を履き違えるな……私のするべきことは知ることではない。知らせないことだ。
「な、なんでもないよ」
「そうですか?」
茜ちゃんにとって前世が過去のことなのは当たり前のことなのだ。
私が自分の前世の時代に転生したから過去に生を受けたのだと思うように。
主観による時間軸が決定的に違うのだ。
だが茜ちゃんの観点からすれば確かにその見方はどうしようもなく正しい。
「そろそろ時間ですね」
「え? ……あ、闇の雫だね」
頷いて茜ちゃんは手元に置かれたマイクのついた機材のスイッチを入れ、マイクに向かって話しかけた。
「皆さん、そろそろ闇の雫が出現します。 各自戦闘体勢に入ってください」
「はぁ……はぁ……」
前もって借りたブロードソードを地面に突き刺し、それに寄りかかるようにして荒くなった息を整える。
「も……無理……」
闇の雫は雑魚だった。
魔族より下等なのは当然として、私の見立てでは前世での一般兵士レベルの強さだろう。
まぁ真っ当な生物ではないので初見殺しな攻撃がいくつかあったが、魔物との戦闘経験がある私には想定範囲内である。
が…………真剣の殺し合いはこっちに産まれてから初めてだし、全力で動き続けるには十分な体力はなかった。
なんとか最後の闇の雫を殺すまで保てたが、息は切れ切れだ。
それにしても……既に戦闘は終わり、遠目にチラホラと喜び合っている人間達が見える。
だが戦場において勝利の場で必ずしもあるものがなかった。
それは敵の死体だ。
闇の雫は黒い球体にランダムで手や口、眼、足……人間のパーツがついた化け物だ。
その位置や数は完全にランダムだが、どれもがある程度戦闘出来るように位置は調整されているらしい。
闇の雫の死体がないのは奴らは倒せばその場で霧散し死体を残さないからだ。
私は基本情報を思い返しながらこの後どう行動すればいいのか考え、茜ちゃんに指示を仰ごうとした時それは起こった。
『綾お姉様お疲れ様です!』
「「「「「「…………」」」」」」
ところで話は変わるが、私が今使っているのは周波数を合わせて電波を受信する簡単なタイプの無線機だ。
周波数さえ合わせれば同時に複数の無線機で指示を受けてることができるので、皆戦闘中はこれの電源をONにしてイヤホンで聞いている。
なので戦闘終了直後で戦闘態勢解除の指令があるまで待機が任務の彼らは茜の言葉を聴いている……つまりだ。
「お姉様?」
「あの新人? 今まで見なかったけど滅茶苦茶強かったな」
「というかリーダーがお姉様って……あの子より年下ってことだろ? 年下の男にお姉様なんて呼ばせるなんて変な趣味でもあるのか?」
「そもそもお姉様って何があったのよリーダー……」
「…………」
向けられる複数の視線に汗がタラリ頬を伝わり落ち、茜ちゃんの口を閉じようとし
『綾お姉様は今すぐ生徒会室に来てください。 気になることがありますので』
「だよねー」
小声で同意し、痛いほどに突き刺さっている視線を出来るだけ気にしないようにしながら校舎へ向かう。
実は私は戦闘中、戦線が崩壊しそうだったので魔法を使って自分に出来る最速の戦い方を実行したのだ。
たぶん私はこれから魔法を使えることを問い詰められるのだろう。
この世界は異能力や気があっても魔法は存在しない。
「憂鬱だなぁ」
お家帰れないかなぁ……。
考えてみれば魔王にとって当たり前の話ですよね。
綾にとっては盲点でしたが。