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11話 魂の姉妹

ようやく泣き止んだ茜ちゃんは鼻を赤くしながらもゆっくりと私から離れる。

そして見惚れるような微笑みをこちらに向け、私はそれにドキリと…………


「違う……違うよ綾。女の子、女の子なんだよ私も相手も……」


確かに男にモテるより女の子にモテたいと思うことはあるが、ガチでモテても困るだけだ。

言ってしまえば実際出来たら修羅場で困っちゃうのが目に見えているハーレム願望に近い。


え?前世の私は救世の英雄だからハーレム作れたのかって?

そりゃあ作れ……もとい、作らされましたよ。

正妻以外は政略結婚で他国の姫様と年齢美醜問わずエンゲージさせられましたよ。

本当に10歳児が嫁いで来たときどうしようかと思ったよ。

例によって子供はちゃんと作らされたが、私はロリコンじゃない。


「あの」


「なに?」


「お姉様って呼んでいいですか!?」


「…………どうしてこうなった」


ガチは困る。

そういえば花梨がマリア様が……なんとかっていう本を見てたっけ。

なんでも後輩のヤケに密着してくる女の子から無理矢理貸されたらしいが。

読みながら顔を青くしてたっけ。ひょっとしてグロ漫画なのだろうか。


「私には綾というちゃんとした名前があるよ」


だから敬意を篭めた呼び方をしたいだけならせめて綾さんとかにして欲しい。


「では綾お姉様と!」


遠まわしの抗議はまるで通じなかったみたいで、接頭に名前がついただけだった。


「いや私達同い年……」


「魂の姉妹ですね!」


「話聞けよ」


頭がお花畑になっている茜ちゃんはキャッキャッはしゃぎながら私の腰に抱きついている。

ちなみにここは教師が屋上に確認に来たので咄嗟に隠れた貯水タンクの裏だ。

表側と違い日光が直接当たる場所であるここでそのようなことをされれば当然……


「暑い」


「ええ! 茜達ラブラブですからね!」


「本気で言ってるのそれ!?」


「え、冗談ですけど」


良かった!

本気で言ってなくて本当に良かった!

マジだったら一瞬だけ屋上から蹴り飛ばしてやろうかと考えたよ……どうせ魔法で助かるんだろうけど。


「ところでその和傘、何なの?」


というか何で出来てるのだろうか。

魔力が一点に集中していたことから明らかに『向こう』での杖と同じような機能があるようだが。


「これですか? 『死霊使いの傘』ですよ」


「…………安直すぎる」


厨二病じゃなかったのでその分だけ安心したが、その名前はどうにかならなかったのだろうか。

そもそも茜ちゃんは死霊使いなのか。


「とは言いますが、杖に合った真名をつけないと最大限の効果が発揮しないんですよ」


「そうなの?」


そういえば異世界に言った最初の頃、武器屋で『アイスソード』っていうのが並べられてて興奮しながら全財産使って買いそうになったっけ。

ミィに杖で殴られ気絶してたので、結局買えなかったが。


「この杖、というか傘の材料が材料なので合うのが死霊使いしかなかったんですよ」


「参考までに聞くけど、何使ってるの?」


「まずこの傘の骨組みをみせてください」


ふむ。

白くツヤがあって頑丈そうだ。


「殺人鬼の骨から作られてます」


「…………ほわっつ?」


「殺人鬼の骨です」


何かを殺せば殺す程、人間は内に厄を溜め込むらしい。

誰しもが厄を浄化する機能は持っているが、短期間に強い意志を持った生き物を何匹何人も殺せば浄化が追いつかないほどに厄は溜め込まれる。

だから短期間で何人もの人間を殺した殺人鬼は体内に強い厄を溜めているとか。


「ですからその強い厄の染み込んだ骨を使えば闇魔法を使うのに最適な素材となるんです」


「…………」


「あ、ちなみにこの傘布は同じように殺人鬼の……」


「やめて。 想像ついたからやめて」


「ふぇ? はぁ……模様は溶かしたルビーで作りました」


そこだけは殺人鬼の血とか言われなくて良かった。

茜ちゃんに和傘こと死霊使いの傘を開いてもらうとそこには幾何学模様の赤い紋様が描かれている。

…………うむ、分からん。

だいたい私は魔法とか完全に使う専門で研究する側ではないのだ。

だから使っていた魔法も人から教えてもらったものが大半だ。


「どうやって遺体なんて取り寄せたのよ……」


「お父様に頼んだらすぐに届けてもらえましたが」


すぐに?

ちょうど死刑になった死刑囚でもいたのだろうか。

まさか娘の頼みだから死刑の執行を早めてもらったとかじゃないだろうな。

というかそんなことが出来る茜ちゃんのお父様って何者だ。


「というか遺体ですか? 遺体の厄はすぐに周囲へと撒き散らされるので、鮮度が大事なのです」


「だから?」


「普通に生きてましたが」


「怖っ!?」


茜ちゃん、ひょっとして自分で生きてる殺人鬼を解体したわけじゃないよね!?

…………怖くて聞けないから、話を逸らそう。


「ところで茜ちゃんのお父さんって何してるの?」


「茜のですか?」


うーん?と首を傾げて茜ちゃんは不思議そうな顔をした。

何かおかしいことでも言っただろうか。


「お父様はここの校長ですが」


「そういえば」


花梨が言っていた。


『今年は校長の娘が入学してるから、その子を人質にとって校長を脅せば……』


…………とんでもなくロクでもないことを言っていた。

校長の娘とは確かにこの子、茜ちゃんなのだろう。

というか娘の頼みごとだからって死刑囚をデリバリーするって、何者なんだ。


「そうだ! 綾お姉様も今晩一緒にどうですか?」


「何に? 今夜は空いてるから別にいいけど」


闇の雫(ダークティアーズ)狩りです!」


「…………お腹痛くなってきたから帰っていい?」


正確には胃が痛くなってきたのだが、どちらにせよ同じだ。

どうして知り合った人はこうも私を非日常へと誘うのだろうか。


「大丈夫ですよ綾お姉様! 白石さんを倒した綾お姉様なら十分活躍できますですっ!」


「白い……? 誰?」


白石って一体誰のことだろうか。

私の記憶にはそのような人物は存在しない。

…………あ、あれか!何度かされたナンパを物理的に断った時の!


「え? 綾お姉様は4組ですよね?」


「うん」


「白石さんと同じクラスだと思うんですけど。 ホラ、この前決闘した大男のことですよ」


あ、脳筋君のことか。

まぁ闇の雫(ダークティアーズ)とか言っているので繋がりはあるんだろうなと思っていたが。

詳しく聞いてみると脳筋君と茜ちゃんは同じチーム……というより茜ちゃんは脳筋君のリーダーらしい。

茜ちゃんの父親が総司令官、茜ちゃんは前線指揮官といった役割だとか。


「だから茜が言えば綾お姉様は無条件でエリートチームに入れるのですよ!」


「いやないから。 バイオレンスな日常とかないから」


頼むから私に闇の雫(ダークティアーズ)を倒せとか言わないで欲しい。

何度も言うが私は地球で殺し合いをする気はない。


「でもエリートチーム、『ラインクロス』に入れば学費免除に卒業後、桜木グループの重鎮が約束されているのですよ?」


「ぐっ……」


やばい、ちょっと心が揺れた。

物欲的な意味でも厨二的な意味でも。

学費免除はもちろんのこと、巨大企業である桜木グループの重鎮というのも魅力的だ。

世の中に多くの発明品を出しているのが桜木グループで、その規模は世界でも有数なのだ。

だが最近新商品が出ていなく、また桜木高校を共学化したことから経営が苦しいのではないかといわれているが、茜ちゃん曰くそれは違うらしい。

出る杭は打たれるという諺が如く世界中から多くの妨害行為を受けた桜木グループは一時的に大人しくしているだけのようだ。


「ですがそれももう少しです。 新技術は既に10を超え、新商品は100を超えているのです。 これを同時に放出すれば……ふふふ」


「…………」


前世でも私は超金持ちだったが、商品を作って売るという作業はしたことがないので茜ちゃんの黒い笑みはある意味珍しい。

なんていうか、相手を陥れようと本心を隠しながらというのは見慣れているのでどうということはないのだが……ぶっちゃけ茜ちゃんのは怖い。


「それでも私、戦いはちょっと」


「そうですか。 残念です」


どうやら茜ちゃんは無理に私を闇の雫(ダークティアーズ)狩りのチーム、『ラインクロス』に入れようとは思っていないようだ。

そもそも試合で脳筋君を倒せはしたけど実戦ともなると話は別だろうし。

校舎の中に戻りながら結界はどうしようと考えていると茜ちゃんは鋭い目で校庭を見下ろしていた。

本人は真面目のようだが、小柄な少女が精一杯何かを凝視しながら考え事をしているようにしか見えない。

具体的にいうと微笑ましい。


「やはりこの地点に戦力を集中させたほうが……」


「…………ねぇ茜ちゃん」


「はい何ですか綾お姉様?」


「まさかとは思うけど闇の雫(ダークティアーズ)との戦場って今夜は……ここ?」


「はい。 あ、でも安心してください! かなり激しい戦いになると思いますが、せいぜいクラスから何人か消えてたり施設の一部が破壊されて工事中になってたりするだけですから!」


いやそれ安心できない。

しかし校舎が危ないとくれば……不味いのは篠原 明人と私の矛盾だ。

私の記憶では少なくとも校舎がいつのまにか破壊されたりしたことはない……。

つまりだ、私は出来る限り前世の記憶の通りにしなければならないのだが、このままだと施設のいくつかが破壊されてしまうのは確実らしい。

ならば私のしなければならないことは一つ。 そう、唯一つだ。


「茜ちゃん」


「はい?」


「私を闇の雫(ダークティアーズ)狩りチームに入れてくれるかな」


「あ、綾お姉様? なぜ泣きながら……」


ちくしょう!

「異世界からの侵略者、ねぇ」

「ししし、篠原 明人ぉ!?」

「憂鬱だなぁ」

次回『疑問』

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