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1話 邂逅しない過去と未来

二話を12時に予約投稿。

そのうちこの前書き消します。

突然だが、私は勇者だった。

えっと、頭大丈夫? とかつて幼馴染に言われたのでそれ以降誰かに話したことはない。

実は五歳頃に両親にも言っていたらしいのだが、よくある子供の戯言だと相手にされなかったらしい。


しかし私が勇者だったのは間違いのない事実だ。

とはいえ、前世ではという但し書きがつくのだが。


「準備は出来た綾?」


「うん大丈夫だよママ」


母の柔らかな笑みに頷き返し、昨日のうちに必要な物をいれた学生鞄を両手で持ち上げる。

片手でも十分というか裏技を使えば小指でも持ち上げられるのだが、母は鞄の持ち方にうるさいのだ。

転生して15年と半年、いまだに母のこだわりどころが分からない。

時折母はひたすら両手で持つことを私に強制する……なんでもそれが女の子らしいのだが。

前世が男だった私には理解が出来ないが、そういうものなのだろう。


「…………か弱さのアピールも十分のようね」


「え? 何か言った?」


「なんでもないわよー」


微笑み手を振る母だが、この誤魔化すような癖はいつものことだ。

経験上問い詰めても決して答えてくれないので時間の無駄を省く為にいつもスルーすることにしている。


「…………? いってくるね、ママ」


「はーい、いってらっしゃい」


我が家を出て少し肌寒さを感じるが先月に比べだいぶ暖かくなり快適な気温だ。


「マナ濃度もなかなか」


ホクホクとポカポカする胸に頬を赤く染めてすぐに通学路を歩き出す。

前世では勇者をやっていたが、現世では極々平凡な新米女子高生だ。

たまに魔が差して魔法で物事を解決しようとしてしまうが、それでも秘匿意識は十分あるし今までばれたことは一度もない。


その危険は何度か幼少の頃にあったのだが、その時は幸運が重なりなんとかなった。

転生した最初のほうは赤ん坊だったので殆ど覚えていないが、自意識が芽生え始めた2歳前後辺りで前世の記憶を少しずつに思い出したらしい。

善悪の判断すら出来ない幼児がその記憶を手にしたところで上手く立ち回ることは不可能で、両親からはよくある英雄願望だと思われていた。


というのも私にはその頃の記憶がまったくないのだ。

どうも前世の記憶を思い出したのだが手に入れたのは記録の塊で記憶ではなかったようなのだ。

だから当時二歳の私は前世が勇者だということを覚えているのではなく知っている状態であり、考える能力は皆無なくせに中途半端に知識があるので結果微笑ましい子供の出来上がりだ。


(私でも二歳児が自分は勇者の生まれ変わりだとか言ってたら微笑ましいとしか思えないかなぁ)


自分でもそう思うのだから両親からもそうだったのだろう。

まぁ当時のことを聞くと一足早い厨二病でもあったといわれるのは間違いない。

というのも二歳児の私は勇者の生まれ変わりであることを信じてもらえず、前世で覚えた魔法を使おうとしたのだ。

これこそが人生で初めての魔法バレ…………の可能性があった出来事だ。

幸いにも二歳児の私には魔力はあったが魔法を使うだけの想像力と構築力がまるで足りていなかったので使えなかったのだ。

そしてムキになって両親が買ってくれたオモチャである魔法少女のステッキを振り回しながら魔法の名前をよく叫んでいた……らしい。


今でもこのことを考えるとベッドに飛び込んでジタバタしたくなる。


「おはよ綾!」


パンッと軽く背中を押される感覚とともにかけられた声は馴染み深いものだ。

少し前からこちらに気付かれないように忍び寄ってるのを気配で気付いていたのだが、そんな様子を微塵も見せず振り向くと快活な少女がいた。

根っからのスポーツ少女の彼女は斉藤 花梨という名で私の幼馴染だ。

女の子にしては短いその髪は花梨が中学校の部活でバスケットボールを始める際邪魔だからという理由でばっさり切ったものだ。


え、私?私は腰どころか太ももまで伸びてる超ロングヘアーだよ。

ママが髪を短くするのを許してくれないんだ……。

一度気付かれないだろうといつもより短めに髪を切ったけどすぐに気付かれ、パパの育毛剤をぶちまけられそうになったのはトラウマだよ。


「おはよう花梨。 今日も元気そうだね……無駄に」


「む、無駄とは何だ! 綾みたいに冷めてるより元気なほうがいいじゃない」


「確かにそうかな」


花梨の反論に納得の声をあげるが、やはりこういうところが冷めてると言われる所以なのだろう。

しかしそれは仕方のない話だ。

なんせ転生してから約15年とはいえ、精神年齢は50超えのオッサン……もといオバちゃんなのだ。

若者からみれば冷めていること冷めていることこの上ないだろう。


とはいえ私も肉体に引っ張られてるのかたまに子供っぽいこともしちゃうけどね。


「桜木女子高等学校、どんなところなんだろね」


「もう女子高じゃないよ。 受験前に花梨も聞いたでしょ?」


「そうだった。 今年から桜木高等学校になるんだっけ」


世間の不況の波に勝てず桜木女子高等学校は共学化した……というわけでは別にない。

一般的にはそういう認識が強いものの本当のところは桜木高校の校長と一部くらいしか知らないだろう。

なぜならば桜木高校が資金繰りに困っているという話は一切聞いたことがないのだから、別に理由があるに違いない。


「桜木高校、か」


「どうしたの綾? なんか最近アンニュイだね」


花梨に言われるまでもなくそんなことは分かっている。

自分以外の新入生達がチラホラと通学路に姿を現す中、去年までとは間違いなく異なる点が存在する。

それは男の存在……共学化による初の桜木高校男子新入生だ。


「ああ、綾って男子苦手だっけ」


男子新入生達に目を向けていたのに気付いたのか花梨がさりげなく男子との間に立って存在を隠してくれる。

ありがたい、この幼馴染が男だったら間違いなく惚れていたところだ。


…………ああ、そうだよ前世が男なのに今世では男が苦手なんだよ!

っと、興奮のあまり男思考が溢れてしまった。

ママに悟られるとお仕置きという名の羞恥プレイをされるので反省反省。


「美少女だもんねー綾って」


ジト目を向ける花梨に「顔を変えてもらいたいくらいだよ」と言えば嫌味かこの野郎と肩を掴んで頭をシェイクされた。

いや花梨も十分可愛いんだけど、スポーツ少女で男気あふれる彼女は基本的にモテるということはあまりない。

もちろん彼女に惚れる人物は数多くいるが、私に対するそれのように対して親しくないのに告白されるなどということは皆無だろう。

長く付き合えば付き合うほど彼女の良いところが自然に伝わる少女なのだ。

野郎じゃなくて女の子にならモテモテなのだが……私にとって羨ましいから代わって欲しい。


「苦手ならさ、なんで桜木高校を受験したの?」


アタシは一緒の高校に行けて嬉しいけど、と付け加えた花梨に鬱々とした気持ちが蘇ってくる。


「理由が……理由があったんだよ」


「理由?」


「うん、そうなん……だ…………。 …………」


花梨に向けた視線、その先にとある男子生徒を見つける。

言葉が途切れるようにして止まり、ある一点を凝視している私を不自然に思った花梨がその先を辿り首をかしげた。


「彼がどうかしたの?」


「…………」


見つけた。

いや、ついに見つけてしまった。

今まで会いたくない見たくないの一心だったのだが、時は残酷でついに視認してしまった。


「おーい綾? ……まさか『あれ』に見惚れたの?」


「それはないよ」


「だよねー」


ここだけ聞くと見ず知らずの男子を勝手に評価して話の杯にしている人格的によろしくない人物なのだが……いやまぁ女子って少なからずそういう生き物だけど。

だが彼の姿を見れば誰だって私達と同じ評価を下すだろう。


「たしかにうちの制服って改造オーケーだけどさ、あれはなくない?」


桜木高校の制服はシンプルだ。

女子は紺のブレザーに赤と黒のチェック柄が入ったスカート。

これだけなら極々平凡なブレザータイプの女子制服なのだが、桜木高校はこれに加えて改造することを許可されている。

理由はよく知らないが現校長が学生だった時代に自らその制度を作ったそうだ。

なのでやりすぎはさすがに注意を受けるが、フリルをつけたりアップリケをでカスタマイズするくらいなら大丈夫なのだ。

よくあるのはハートマークのアップリケで、桜木高校女子生徒達は各々のセンスが普段から問われる。


そして今年から作られた男子制服も女子と同様の紺のブレザーで、同じく改造OKだ。

彼が『あれ』とすら花梨に言われた原因は彼のカスタマイズにあった。


「トラ……」


「トラだね」


私の呟きに花梨が反復するが、それどころではない。


(篠原 明人……あなたは)


思わず涙が零れ出る。

前世との因縁……それが深い相手との邂逅に心が耐えられなくなったのだ。


「あ、綾!? どうしたの?」


「ううん、大丈夫。 大丈夫だよ花梨」


花梨が慌てて私の肩を心配そうに持ち顔を覗き込むので安心させるように笑いかけるが、彼女は納得していないらしい。

すぐに原因が彼、篠原 明人であることを察した花梨はその男子生徒を睨みつけながら再び私に聞いた。


「本当に大丈夫? あ、もしかして中学校の時にあの人に何かされたの?」


「違うの。 本当に大丈夫だから心配しないで。 ね?」


見ると篠原 明人は曲がり角を進み既に見えなくなっている……。

彼が見えなくなると同時に不安定だった心は安定を取り戻した。


「というかあの人は一体何なの? 背中にトラのプリントしてるしサングラスつけてるし指貫グローブをつけてシャドウボクシングしてたし……登校中なのに、ってどうしたの綾!? いきなり崩れ落ちて!」


篠原 明人、私こと神崎 綾の前世であり、異世界に召喚された勇者だ。

だが現段階ではただの厨二病患者で、私にとっては黒歴史をまざまざと見せられるので極力視界にすら入れたくない人物でもある。


「答えは得た。 大丈夫だよ花梨……私も、これから頑張っていくから…………」


「あ、綾? あやーっ!?」


私の目的……そう、桜木高校に入学した目的はただ一つ。

奴こと篠原明人が異世界召喚を果たされた後に残る黒歴史の遺物を一つ残らず消し去ることだ!

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