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恋咲く季節  作者: 銀 歌月
第一章 うつり変わる季節
9/19

8 黒猫(シリル視点)

初の別視点です。

 「でも、混んでいるのにここでお弁当は邪魔だよ。早く食べて部活に行かないといけない人もいるだろうし。

 それに、一緒に食べる人ならいるから気にしないで。部活見学は悪いけど私抜きで行ってくれるかな。合流できるかもわかんないし、適当にまわるから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ごめんね」


 そう言って長い黒髪をなびかせて歩いていく。その姿をみんな残念そうに眺めている。

 彼女、小春結愛ちゃんを初めて見たのは入学式の前の体育館だった。


 ++++++


 フランスからわざわざ日本に来たのは小さい頃祖父から聞かされていた日本の話が好きだったからと桜を見てみたかったからだ。

 そのために、桜が有名なこの学園に入学した。


 少し早く来ちゃったみたいだ。まだ体育館にいる人数は少ない。

 誰かと話すにも知り合いもいないし、きっと僕の容姿では気おくれするだろうな。自分で言うのもなんだけど僕はそこらの女子よりもきれいだから初めは緊張する人が多いんだよね。慣れてくるまでみんな反応が面白い。いつもは気にならないどころか利用させてもらっているけど、時々普通がよかったって思うときがある。


 さっきもらったパンフレットでも見ておこう。他にすることもないし。

 パンフレットをかばんから取りだそうとするとき落としてしまった。拾おうとすると同じく手を伸ばした人がいたて驚き少し動きが止まってしまい相手の方が先に拾う。立ちあがり拾ってくれた人物を見る。


 素直にかわいいと思った。

 艶のある腰の少し下まである黒髪と同色で大きめの瞳にそれらとは対照的な白い肌、小さな顔の中に納まる整ったパーツはなんていうか守ってあげたくなる感じのかわいさだ。

 僕の顔を見て一瞬驚いたみたいだけどすぐに笑って渡してくれた。


 へぇ、驚くだけで照れたりしないんだ。男子でも時々顔を赤くするのに珍しいな。

 中等部からの持ち上がり組は何人かで固まっているから同じく受験組かなと思ってお礼を言った後に聞いてみたら違ったみたいだ。しかも、人付き合いが苦手と返してきた。意外だな愛想も良いみたいだし、この容姿だからさぞかし人気そうだけど。女の子に嫌われているのかな?



 互いに自己紹介をする。小春結愛というらしい。名前で呼んでいいと言ったけど男子を名前で呼ぶのは慣れていないからと断られた。僕も梅霖と言われることは少ないから慣れてないけどまだ親しくもないのにしつこくすると嫌われるかもしれないから諦める。



  少し話していると結愛ちゃんの後ろから1人の女子生徒が歩いてきた。

「結愛、誰なのそれ」

 初対面でそれ呼ばわりされてしまう。僕の方を一瞥しただけで結愛ちゃんの方を見てみる。面白そうだから結愛ちゃんが答える前に話す。

「結愛ちゃんの友達?僕は結愛ちゃんの恋人こーほの梅霖シリル。シリルって呼んでね」

 そういいながら結愛ちゃんの肩を抱く。別に候補だったら嘘ではないし、どんな反応するかな。


 すぐに離れられた。結構勢いよく離れたからいくら冗談でも少し傷つく。これぐらい向こうでは普通なのに。

 でも顔が赤くなっている。話すときはうまく距離を置かれたけど、スキンシップには慣れていないみたい。白い肌が色づいていて少しドキッとしてしまう。


「あんたバカ? 何言ってんの」

 友達ちゃんにバッサリ斬られてしまった。

 友達は相田江梨香というらしい。さっきにやり取りで分かったが結構きつい性格だった。


 結局先生が説明に入るまで3人で話し続けた。



 ++++++


 入学式が終わり教室に移動する。

 担任は放任主義らしい。自分の紹介の後すぐに一番前の人に自己紹介させた。

 最初は江梨香ちゃんだった。すごく簡潔な挨拶だ。その次の人はもっとひどかったけど。静まり返った空気の中で笑いをこらえるのが大変だった。


 6番目が結愛ちゃんの番だった。少し短いけど無難な挨拶をする。ただ、最後の笑顔で男子の大半と数人の女子がやられたみたい。自分の笑顔の威力を自覚しているのだろうか? 僕は分かっていて使っているけど無自覚だったら質が悪いな。


 せっかく部活一緒にまわろうというのなら誘ってみようかな。面白そうだしなんかアンバランスなところがあって気になるもんね。


 他に面白そうな人は結愛ちゃんの友達の江梨香ちゃんとその後ろの席の秋月くん。2人とも他人に対する興味が薄いのかな。きっと自分の興味のあることにしか関心がないんだろうな。

 あと、僕の2つ後ろの席の花宮さん。男子みたいなとこがあり、なぜか僕を見て顔をしかめていた。結構綺麗な顔しているのにもったいないな。まあ、ある意味モテそうだけど。

 結愛ちゃんを入れて、面白そうなのは4人。他の人は僕の容姿にそれなりの反応を示していたしまだ様子見ってところ。楽しいクラスになるといいな。



 説明が終わり先生が出て行ったあと準備をして結愛ちゃんの方に行くと2人の女子と楽しそうに話していた。

 まあ、都合がいいか。案の定、話しかけたら顔を赤くしてすぐにOKを出してくれる。

 でも、なぜかクラスの大半で行くことになってしまったが。


 ++++++


 食堂は混んでいてこんな人数で座れるところは空いていなかった。

 最初に話していた3人に謝ると気にしないでいいと言われたからありがとうと笑っておく。一応、僕のせいでもあるし。

 ふと、返事をしなかった結愛ちゃんの方を見ると無表情だった。心ここに非ずといった感じ。しかし、みんな僕の方を見いていて気づいていない。結愛ちゃんにしてはよかったのかな?


 運よく席が空いてそこに行く。座ろうとすると僕の近くにだれが座るかで争いになる。さすがにこれは苦笑いするしかない。個人的には結愛ちゃんの近くがいいけどそっちは男子の倍率が高そうだしな。

 少し気になって見てみると、立ち止まり携帯を確認した後反対側の入り口を見てほっとしていた。


 たしか松島さんていう人に話しかける。あの人のせいでこんなことになったんだよな。


「えっ! でも1人で食べるよりみんなで食べようよ。その方が楽しいよ。せっかくここまで来たんだし気にしなくてもいいんじゃない? それに部活見学のグループも決めたいし」


 結愛ちゃんの言葉は周りがうるさくて聞こえなかったが松島さんの元気な声は聞こえた。その声に反応して少し静かになる。どうやら、1入別のところで食べるらしい。そんなことになったら誘った意味がなくなる。


「でも、混んでいるのにここでお弁当は邪魔だよ。早く食べて部活に行かないといけない人もいるだろうし。

 それに、一緒に食べる人ならいるから気にしないで。部活見学は悪いけど私抜きで行ってくれるかな。合流できるかもわかんないし、適当に周るから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ごめんね」


 申し訳なさそうに言う。どうやらお弁当を持ってきているらしい。あんなこと言われたら止めづらい。

 でもいったい誰と食べるんだろう。


 迷いなく反対側の入り口の方に歩いていく。行き先を見ると中等部の男子生徒が2人と3年生の先輩がいる。


「待って! 小春さん」


 松島さんっていう人が呼び止めようとしたが、結愛ちゃんは気づかないで歩いて行った。

 そのまま、中等部の生徒の1人と親しそうに話す。後ろの2人が少し顔が赤い。何したんだろう? 結愛ちゃんは気づかずに後ろの2人に話しかける。楽しそうだ。


「響君?」

 松島さんが呆然とつぶやく。どうやら今話している先輩は響というらしい。あとで聞いてみようかな。


 そのまま食堂から出ていく。

 あーあ、せっかく僕が声をかけたのにクラスのみんなに邪魔されるなんてついてない。こんな風になるなんていくら僕でも想像できなかったよ。まあ、同じクラスだし機会はいくらでもあるか。



 ++++++



 彼女は、話してみると猫みたいだった。

 それなりに僕の話を聞いてはくれるけど、どこか警戒していて容易に近づかせない。まるで私は関係ありませんって心の中で言っているみたいだった。どうやら最初の評価は間違いだったらしい。嫌われているわけでなく自分からうまく距離をとっていて相手に踏み込ませない壁を作っている。今までもこんな感じでクラスメートに接してきたのだろう。きっとみんなで騒ぐよりも1人でいる方が好きなんだろうな。

 あと本人が気づいているかは分かんないけど気まぐれっぽい。さっきまで興味津々で聞いていたと思っらふとした拍子につまらなそうにする。うまく隠しているけどほんの少しだけ間が空いてしまう時がある。趣味で演劇をしていて小さいころからいろんな人を見てきた僕だから気づけたけど普通は気づかないくらいに変化しかない。


 さながら黒猫ってところか。ぜひ仲良くなりたいな。


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