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恋咲く季節  作者: 銀 歌月
第一章 うつり変わる季節
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7 食堂にて

 食堂に到着する。ここに来るまでも騒がしかった。

 だいぶ人数が多くなってしまったのとお昼時に時間が重なったのでなかなか席が見つからない。さすがに20人以上一緒に座れるところは空いていなかった。

 こっそり溜息をつく。こんなことなら、江梨香について行って美術部に部室で食べればよかった。美術部の先輩とは面識はあるしこんな大勢で食べるよりかよっぽどましだ。



「すごい多くなちゃったね。本当は3人で行くはずだったんでしょ?ごめんね、僕が声かけたから」

 梅霖くんが申し訳なさそうに私たちに声をかけてくる。

「そんなことないよ! 1日目からみんなが仲良くなれてちょうどいいしね。それにシリル君のせいじゃないよ!」

 あわてた様子で答える真紀ちゃんは本当にそう思っているようで、全然気にしていない。

 その言葉で笑顔になった梅霖くんを見て何人かが幸せそうに溜息をつく。


 私は今どう見えているのだろうか。冷めた顔をしているかもしれないし、呆れているのが顔に出てたらどうしよう。幸い、みんな梅霖くんの方を見ている。でも、うまくやっている自信がない。部活を見学する前から疲れてしまった。何やっているんだろう。こんな大勢の中心に近いところにいるなんて、私らしくない。梅霖くんはだめだ。このままでは相手のペースに巻き込まれてしまう。


「でも、さすがにみんなで座れる場所はないね。何組かのグループに分かれるしかないか。それにこんな大勢で周ったら先輩たちも困るだろうから先に分かれた方がいいかも」

 花宮さんの言葉で思考の海から戻される。

 確かにこんな人数で言っても体験なんてできないだろうし、時間がもったいない。こんなことにも気づかないなんてやっぱり疲れているのかな。


 花宮さんの隣にいた松島さんが反応する。

「花凜ちゃんの言う通りだね。でもできるだけ近くがいいよね。じぁないと何のためかわからないもん。あっ、あそこ今空いたよ。その隣のテーブルも両方空いているしあそこなら大丈夫なんじゃないかな。足りなかったり椅子を持ってくればいいし」

 松島さんが指をさした先にあるのは6人掛けのテーブルが3つ空いているところだった。

 何人かがそこに行って席をとる。足りない分は近くの空いている席から椅子をとってきていた。こういうことは行動が速いなら教室でのぐだぐだは何だったんだ。


 歩こうとしたらメールが来た。止まって確かめると暁からだった。


[部活の奴らほとんど食堂で食べるらしくてついていたけど混んでいてこの中で弁当はちょっと。中等部の方の入り口にいるからよかったら一緒に食べない?]


 入口の方を見ていると確かにサッカー部の人たちの中で暁がこっちを見ていた。

 助かった。きっと私が面倒そうにしていたのに気付いたのだろう。だからわざわざこんなメールをしてくれて一緒に食べようと言ってくれるのだろう。自分の付き合いもあるのに家族思いの優しい子だ。



 誰がどこに座るか、主に梅霖くんの近くをだれがとるかでもめている人たちをスルーし、もう席を決めている人に話しかける。話しかけたのは、松島さんだった。

「あの、私お弁当持ってきているし、食堂混んでいるから外で食べるね。部活は適当に見ていくから気にしないでみんなで楽しんでね」


「えっ! でも1人で食べるよりみんなで食べようよ。その方が楽しいよ。せっかくここまで来たんだし気にしなくてもいいんじゃない? それに部活見学のグループも決めたいし」

 松島さんの元気な声で何人かがこっちを見る。


 私は人ごみが嫌いだ。楽しいかどうかはその人次第だ。私は1人の方がいい。だいたい自分たちだけでなくほかの人のことも少しは考えようよ。勝手に椅子を移動させるのって地味に迷惑なのに。些細な言葉にいくつもの反論が頭を過る。どうやらだいぶ疲れているらしい。

 そんなことを出さないようにしながら答える。


「でも、混んでいるのにここでお弁当は邪魔だよ。早く食べて部活に行かないといけない人もいるだろうし。

 それに、一緒に食べる人ならいるから気にしないで。部活見学は悪いけど私抜きで行ってくれるかな。合流できるかもわかんないし、適当に周るから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ごめんね」




 口をはさまれる前に暁の方に行く。誰か呼ばれた気がするが気づかないふりをする。視線も感じるがもうこれ以上ここにいたくない。

 暁の周りには2人残っていた。きっと今日お弁当を持ってきたサッカー部の人だろう。1人はたしか中等部のサッカー部キャプテンだったはずだ。もう一人は高等部のサッカー部キャプテンで攻略キャラの夏瀬響なつせひびき先輩。短めの色素の薄い髪で前髪はピンでとめて落ちてこないようにしている。年より幼く見える童顔だが頼りになるらしい。所謂ショタキャラだ。

 それなりの面識はあるがそこまで詳しいわけではない。しかも響ルートはプレイしていないからよくわからないが人なつっこかった気がする。


 ひとまず2人は置いておいて暁に話しかける。

「ごめんね。助かったよ、暁」

 いつのまにか抜かされていた身長のせいで上目使いになる。昔はあんなに小さかったのに。


「大丈夫。こっちも混んでる食堂で弁当食べるのは遠慮したかったし。ちょうどよかったよ」

 本当に何でもないように言う。

「ありがと」

 暁の言葉に自然に笑顔になる。さっきまでいらいらしていたけど、そんなことも忘れてしまう。今までに何度救われたかわかんない家族の優しい言葉はいつも私を安心させてくれる。きっとこれがなかったら両親の離婚阻止は無理だったと思う。


「明智くんも久しぶり。えっと、夏瀬先輩でしたよね。すいません。お邪魔しちゃって。暁の姉の結愛です。いつも弟がお世話になったます」

 2人の方を見て改めて挨拶する。明智くんは暁の親友でもあって家に来ることもあったし中等部でも何回か話しているが、夏瀬先輩との接点はなくサッカー関連で見かけるくらいだった。私が桜坂学園に入った年の中等部のキャプテンだったはず、暁の様子を見ると結構親しいようだ。


「気にしなくていいよ。ここで弁当食べるのは勇気がいるしね。せっかくだから暁君の子供のころの話聞かせてくれる? いつもはぐらかされるんだよね」

 夏瀬先輩は興味津々で聞いてくる。たしかに人なつっこい。誰とでもすぐ仲良くなれて裏表がないタイプみたいだ。


「結愛先輩。お久しぶりです。最後にあったのは試合の時だから3か月ぶりっすね。響先輩、暁の話聞くのはいいけどここでは邪魔になるので早く移動しませんか」


「そうだね。大輔の言う通りだ。夏瀬先輩、姉さん、せっかくだし林道にある休憩所行かない? あそこ遠いからなかなか行けないし」


 明智くんに暁が賛同する。いつまでもここにいるわけにもいかないし、早く移動しないといけない。


「それじゃあ。よろしくお願いします」

 笑って少しだけ頭を下げる。

 やっとこの人が多い空間から抜けることができる。持つべきものは優しい弟だ。




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