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恋咲く季節  作者: 銀 歌月
第一章 うつり変わる季節
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16 真っすぐな

 クイズはそのあとも同じように続いた。秋月くんは相変わらず凄かった。私や他の人も答えることは答える。だが圧倒的な秋月くんの知識には敵わなかった。

 クイズが一区切りつく。今日は入学式もあって昼からずっと部活だからそろそろ終わりらしい。


 なんとなく片付けを手伝っていると先輩が話しかけてきた。


「小春さん。どうだった」

「楽しかったです。知らなかったこととか知れて勉強になりましたし」

「そう、よかった。最初はどうなるかと思ったけどみんな結構詳しくて説明することの方が少なかったよ」


 少し話すと先輩はほかの人のところにも話を聞きに行った。会話の最後は少し苦笑いだった気がする。まあ、秋月くんの説明のおかげで先輩たちの出番が少なかったからだろう。


 片付けがある程度終わると残りは部員でするからと新入生は返された。挨拶とお礼を言っていると秋月くんに話しかけられる。


「好きなのか」

 何のことか分からなかった。首をかしげる。少し戸惑ったような気配が伝わってきた。さっきの星の説明での饒舌で忘れていたが秋月くんは普段はあまりしゃべらない。つまり、こちらが相手の言いたいことを察することが必要がある。


 人によっては無愛想と思われるかもしれない。しかし、幼いころから家族の仲を取り持ってきた(今はそんなことしなくても十分仲良し家族)私には彼が伝え方が分からないだけということが分かる。

 人によって得意不得意があるのだ。秋月くんは人に自分の思い伝えるのが少し苦手なだけ。

 私だって苦手なものぐらいある。料理は好きだが片付けが苦手だ。掃除が苦手なわけではない。掃除は人並みにできる。でも、なぜか気づいたら部屋には物があり散らかっているのだ。


 話が逸れたが秋月くんの言葉は『好きなのか』。流れから考えて天文学や星座についてだろう。

 これを勘違いする人はいないと思う。しかし、ゲームの主人公は持ち前の人の話を聞かない、思い込みが激しい、一途などという主人公補正を存分に発揮させて勘違いするのだろう。不思議でたまらない。普段は察しがいい気立てのいい娘なのに攻略キャラが関わると勘違いが多発して自滅していることが多い。乙女ゲーム主人公の宿命なのだろうか。


 どうでもいいことを頭の片隅で考えながら秋月くんと向き合う。


「星は好きだと思う。興味もあるし夜空を見上げるのも好きかな。でも、なんていうか雰囲気が好きっていうかそこまで深く知りたいとは思わないから所詮“にわか”だけど」

 最後に苦笑を付け加える。これは距離を置くための保険。

 秋月蓮くんのルートは天文部や星が重要になってくる。そこから2人の距離が近づいていき、弟の耀くんとの問題というか勘違いを主人公が解決するのが攻略の最大の鍵となる。


 ここまでくれば分かると思うが秋月兄弟も前世のゲームで攻略した。好きな声優が2人の人間を演じているのだ。違う性格の2人を同じ人がしているのに魅せ方がそれぞれ違って演技力と技術の高さに感動したのを覚えている。

 ちなみに好きな声優が2人出ていたから『恋サク』を買ったのだ。1人は秋月兄弟の声優、もう一人はゲームでは小春結愛の義兄になる小春悠斗の声優だ。

 ゲームで攻略できたのはこの2人が演じている3人のキャラだけだった。今思うとせっかく買ったのにもったいないことをした。


 さっきから話が脱線しすぎている。イケメンばかりに会うから無意識に現実逃避でもしているのか。自分のことながら現実を受け止められないなんて情けない。



 少し黙っていた秋月くんが話す。

「詳しかった」

 言葉の前に着くのはきっと『それにしては』だろう。

 詳しいのは調べたから。だってなんかカッコイイではないか星の名前を知っているなんて。しかも、今はネットで簡単に調べられる。

 記憶力がいいから覚えていただけでしかない。


 あぁ、眩しいな。何かに打ち込める人。

 あぁ、羨ましいな。純粋な人。

 今私の前にいるのは夢に向かって真っすぐな人。


 私みたいな中途半端な存在では

「本当に好きな人にはどうあがいても敵わないよ」


 こぼした言葉は自嘲気味に、でもなぜかしっかりと静かな廊下に響く。

 思わず視線をそらす。真っすぐに見つめてくる目は今の私には辛かった。


 また、明日と言って歩き出す。

 私は今、いつも通りに笑えていたのだろうか―――




 背を向けた方から息をのんだ声が聞こえた。



 

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