15 星と夢
遅くなりすぎましたが更新します。
準備とかいろいろあってなかなか書けませんでした…
これからも不定期更新になってしまうと思います。それでも読んでくれる方に感謝してます。
天文学部の部室にいたのは里山先生と数人の先輩、秋月蓮だった。
そういえば里山先生は天文学部顧問と言っていた。しかし秋月くんの方は予想外だった。
「ん? 確か小春だったな。お前も入部希望か?」
ドアの音に気付いた先生が振り返る。振り返る動作がなぜか様になっている。
クラスの方に気をとられてあまり気にしていなかったが先生も結構な美形だ。ただ纏っている空気があまりそれを感じさせない。なんていうか覇気がないとでもいえばいいのだろうか。決して貶してるわけではなく、そう思っただけだ。好きな人は惹かれるんだろうな。確かダルデレ?という部類だと思う。
乙女ゲームには教師が攻略対象がいるらしいが『恋サク』にはいない。実際に教師と生徒の恋愛はタブーだからか。相変わらず、変なところにこだわってるな。
先生のことなんてどうでもいいか。それより早く答えよう。
「いえ、今日はどんな部活があるか周っているだけです」
「ふーん。説明って言っても何にもねえぞ。たた調べたり、星見に行ったりするだけだ」
面倒そうにしながらも答えてくれるらしい。
「どうな風に活動しているか知りたいだけだから気にしないでください。邪魔ならすぐに帰りますよ」
むしろこの場から逃げたい。できるだけ美形と関わりたくない。これまでのスタンスを変えるつもりもないし、ゲームが始まるのならなおさらだ。
担任とクラスメートだから仕方ない時もある。しかし、部活までゲームの関係者と一緒というのは嫌だ。
「ちょっと待って。先生も何してるんですか。せっかく来てくれたんだからちゃんと歓迎してください」
帰ろうとしたら男子生徒に止められた。ネクタイの色から3年生とわかる。
「せっかくだからクイズしていかない? 新入生のために用意してたんだけどここまで来る人少なくて、さっきからこっちの子ばかり答えていて勝負になってないんだ」
先輩が目で指した方を見ると秋月くんのほかに1年生が3人いた。一人は内気そうなおさげの女の子。あと二人は地味な男の子だった。
先輩が見てたのは秋月くんだったから圧勝してるのは彼なんだろう。新入生主席だから当たり前といえば当たり前か。しかもここにいるってことは天文学に興味があるってことでなおさらだ。
でもクイズに参加するなんて意外だった。
「そしたら少しだけ参加させてもらいますね」
ここで断るのも変なので参加することにした。女の子の隣の椅子に座る。先輩の一人がボードを渡してくれた。これに答えを書くのだろう。
「じゅあ、改めて問題です。このなかで半径が一番大きいのはどれでしょうか? A水星、B太陽、Cスピカ、D火星。さあ、クリップに書いて」
おどけたように言う先輩の声を聴きながら答えを書く。新入生獲得のため必死なのだろう。
先輩の合図で一斉にクリップを見せる。
私と秋月くんの答えはC、ほかの人はBの太陽。まあ予想通りの答えだ。
「分かれたね。じゃあ理由を聞いてみようか。あっあと選んだ星の説明も」
太陽を選んだ人たちはそれ以外にないといった感じの理由。3人に聞き終わった後私の番だった。
「うろ覚えなんですけどスピカの方が太陽より4倍くらい大きかったと思います。スピカについては別名が真珠星で、おとめ座の一等星だったとしか覚えてません」
あまりちゃんと調べたわけではないので自信はないがたしかそうだったと思う。前世から星を見ることが好きだったのでなんとなく調べたことがあった。スピカという音の響きが気に入って調べたんだと思う。
この問題を考えた人は意地悪というかマニアックというか。観測されている一番大きい星はおおいぬ座のVY星だ。これくらいなら知っている人も多いだろう。しかしそこはスルーされた。あまり聞かないスピカ、ほとんどの人が知っている水星、火星、太陽。簡単に考えてスピカと太陽の2択になる。そこでより身近な太陽を選んでしまう。ひっかけだと思いスピカを選ぶこともあるだろう。しかしひっかけだと考え付く人は裏の裏で太陽かもしれないと考えてしまう。無駄に心理戦だ。
問題について邪心していると秋月くんの番になった。先輩は一年生が答えているときは何も言わない。
「スピカの半径は太陽の4.5倍ほど。水星、火星については地球より小さいから論外。太陽よりスピカが大きい時点でその中で一番大きいのはスピカになる。スピカはおとめ座のα座、おとめ座の中で一番明るい恒星で全天21の1等星の1つ。春の夜に青白く輝いている。日本ではその清楚な輝きから真珠星などと呼ばれているな。表面温度は約2万度だったと思う」
圧倒されてしまった。私の曖昧な知識なんかと違ってちゃんと調べているのだろう。それより秋月くん(兄のほう)がこんなに話すの初めて見た。すごく星が好きなのだろう。
純粋に羨ましいと思った。私には声優になるという将来の夢がある。そのための努力はしてきたつもりだしこれからもしていくのだろう。でもそれはある意味惰性からだ。前世の自分を忘れたくなくて否定したくなくて。
今の私は小春結愛だ。それ以外の何物でもない。でも小春結愛という人格を作ったのは前世の自分の記憶だ。それなのにこの世界で過ごす時間が増えれば増えるほど前世の記憶は薄くなっていく。私は『恋サク』の世界において異物である。なのに今の私の人格の元となった前世の記憶が薄れていく。置いて行かれる。世界から不純物としておいて行かれそうで怖い。まるでこの世界に私の居場所はどこにもないみたいだ。
前世で好きだったものをまた好きになるのは記憶を持つのだから当たり前だろう。でも声優までなりたいと思ったのはきっと、前世では考えられないぐらい頑張るのもきっと、怖くて前世の記憶に縋り付いているからだ。
変わっていない。弱くて本当に情けない。
だから純粋に星が好きなのだろう秋月くんは私には眩しくて羨ましかった。




