12 寸劇(第三者視点)
これは恋咲く季節の作中のお話です。別の話ではありません。
初めての三人称です。変なとこあったら言ってくれるとうれしいです。
学校から帰る途中道端に段ボールがあった。歩いてきた少女はなんとなく目についたそれを覗く。
「捨て犬?」
そこには小さな子犬がいた。捨てられたばかりなのか結構元気だ。うるんだ瞳で見上げてか細い声で鳴いている。その姿は守ってあげたいと思わせるものがあった。しかし少女は悲しそうにするだけ。
「ごめんね。うちは動物飼えないの」
少女は小さく呟く。しゃがんで子犬を一撫でして立ち去った。
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それから少し経った後。
1人の少年が同じく段ボールの前で立ち止まった。
「お前、捨てられたのかのか? ひどい飼い主もいるもんだな。今何も持ってないんだ。あとでご飯持って来るから待ってな。ごめんなそれくらいしかできなくて」
ひと時子犬をなぜた少年は名残惜しそうに去っていった。
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少女はあの子犬のことがどうしても気になった。そのため晩御飯の後、家からミルクと水、食べれそうなものを持ってきた。
帰る時のようにそこには段ボールがあった。その前では少年がしゃがんでいる。
「あちゃ~。飲みもんがない。盲点だったな。買ってくるからちょっと持ってろ」
立ち上がろうとする少年にあわてて話しかける。
「待って、飲み物なら持ってきてるから」
少年は少し驚いてこっちも見る。
「あなたもこの子のことが気になったの? うちはお母さんがアレルギーで飼えないけどどうしてもほっとけなくて…」
「いっしょ。俺はマンションで飼えないんだけど」
少女は段ボールの前にしゃがんで子犬にミルクをあげる。
2人は少し何も話さず子犬の様子を眺めていたがなんとなく気まずくなって少年が話し始める。
「ひどい飼い主もいるもんだよな。ちゃんと責任もって買わないといけないのに」
「うん。でも、同情しかできない自分が嫌になるよ」
少女は泣きそうな顔で子犬に笑いかける。割れ物も触るよう優しく撫ぜる姿は本当に子犬のことを大切に思ってるのが分かる。
「そんなことないんじゃないか。今日ここを通った人はたくさんいるけどご飯やってるのは俺たちだけ。気づいた奴もいるはずなのに行動しない。こうやってこいつのために行動しているあんたは少なくとも俺はエライと思うし、同情だけなんかじゃない。それに少ししかあっていないこいつを大切にしているのが分かる」
「あ、ありがとう。それなら君も一緒だね」
最初は驚いた少女が照れくさそうにお礼を言う。最後の言葉に少年は面食らう。少女はしてやったりという顔をしている。それにつられて2人は笑いあう。
「なあ」「ねえ」
2人は同じタイミングで話し出す。
「そっちからどうぞ」
「いや、そっちから言えって」
無言になった。先に根負けしたのは少女だった。
「もう私から言うね。あのさ、この子の飼ってくれそうな人探そうと思うの」
「なんだ。俺も同じこと考えてた」
「遅くなったけど俺は高峰大翔。そこの高校の2年生。あんたは」
「私は大海里桜。私も同じ高校の2年生。会ったことないから気づかなかったんだね」
「これからよろしく。里桜」
「こちらこそ、頑張って飼い主見つけようね」
2人は子犬と遊んでからその場を去った。
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<省略>
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最初の日から1週間たった。あれから2人は頑張ったがまだ飼い主は見つからない。今日も学校帰りに子犬がいるところに行った。しかしそこにいたのは空っぽの段ボールと子犬を抱える男の子だった。すると男の子は2人に駆け寄ってくる。
「お兄さんたちでしょ。この子のお世話してくれたの。本当にありがとう。お兄さんたちが頑張っているって聞いて僕もお父さんにもう一度お願いしたの。そしたら飼っていいって。本当にありがとうございます」
そうして頭を下げる。2人はあわてて顔をあげてもらう。
「そんなことより今度はちゃんと大切にしてやるんだぞ」
「そうだよ。家族みんなで仲良くしてね」
「うん」
男の子は元気よくうなずく。もう一度ありがとうと言うと走り去っていった。
「良かった…」
「飼い主のところに戻るんだな」
2人はまだ男の子が走り去っていった方を見ている。少ししてから少年が少女の方を見る。
「って、おい! なんで泣くんだよ」
「あれ、うそ、私なんで泣いてるんだろう? うれしかったからかな。寂しいのかな。分かんないや」
そういって泣く少女の頭をポンポンと撫ぜる少年。少女が泣き止むまで少年は何も言わず頭をなぜ続けた。
「ありがとう、大翔くん。もう大丈夫だよ」
「そっか。……あのさ、なんていうかこれからもよろしく」
少女はきょとんとする。その様子に少年は焦る。
「子犬の飼い主が見つかったから接点がなくなるだろ。だから改めてこれからもよろしくってことで」
「ああ。それならこちらこそよろしくね」
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すごくありがちでベタな感じですけど寸劇ということで許してください。