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恋咲く季節  作者: 銀 歌月
第一章 うつり変わる季節
10/19

9 二人目

 食堂から出て林道の休憩所を目指す。

 林道は中等部と高等部を分ける木々の中を通る整備された道のことをいくつか前の卒業生がそう呼び始めたことで広まった呼び名だ。正式な名称はない。途中に休憩所があるが遠くあまり行く人はいないが落ち着いた雰囲気で隠れた名所となっている。


 半分以上の道のりを進んだときにふと思い出す。

「あっ。飲み物忘れた」

「あっ」

「そういえば」

「完全に頭になかったすね」


 3人とも、思わずといった感じで声を出す。立ち止まり今まで歩いてきた道を振り返る。


「私、買いに行ってくる。何がいいですか?」

 飲み物を聞いてそのまま戻ろうとすると腕をつかまれた。その先をたどると暁だった。


「待って。僕が行くよ。先輩に行かせるわけにはいかないし、これでも運動部だから」

「それなら俺もいくっす。先輩たちは先行っていてください。飯食うだけだしお茶でいいっすよね」


 中等部組が答えを待たずに走る。私なんかが行くよりかは早くなるだろうが、誘ってもらったのはこっちだから行こうと思った。しかし、もう追いつくのは無理だろう。図らずも攻略対象である夏瀬先輩と2人きりになってしまった。


「今日は時間あるし、ゆっくりでいいよ!」


 夏瀬先輩が走っていく背中に声をかける。その声を聴いて少しだけ速度が遅くなった。さすが中等部サッカーのトップの2人。この短時間で小さくしか見えない。


「飲み物はあの2人に任せて先に行こう。せっかくだから結愛ちゃんの話聞きたいな。そういえばなんか大人数で食堂に来ていたね。けっこう目立っていたけど」


 どうやら先輩はあの団体を見ていたらしい。たしかに食堂にあんなに大勢で行くことはないから目立っていたんだろう。ほんとなんでああなったんだろう。まあ、抜け出せたからいいかな。


「最初は私を含めて3人で部活見学一緒にしようって。そこに男の子が1人声をかけてきて、一緒に行くのはいいんですけど女子の中に男子1人で大丈夫か聞いたんです。そしたら近くにいた男子が声をかけてきてくれて、5人で行こうとしたらいろんなとこから声があがちゃって。結局行きたい人みんなで行くことになって、クラスの大半で行くことになりました」

 苦笑してあの団体の理由を話す。あんなことになるなら初めから部活見学なんていかなかったし、もし最初に話していたのが私たちでなかったら絶対について行かなかったのに。


「へえ、みんな結愛ちゃんたちと行きたかったのかな? 人気なんだね。でもそれなら僕たちと来ちゃってよかったの?」

 先輩はどうやら勘違いをしているらしい。人気なのは私たちじゃなくて梅霖くんだ。私はそのとばっちりを受けただけでしかない。

「違いますよ。最初に話しかけて来た男子が人気なんです。フランスから来たらしく祖父に日本人がいるクウォーターって言ってました。留学生は珍しい上に綺麗な子だったのでみんなお近づきになりたかったんじゃないですか」


 つい少しきつい言い方になってしまう。あの人のせいであんな多人数になってしまったのだ。仕方ない。

 いや、梅霖くんのせいではない。きっと偶然が重なっただけの結果だ。でもそう思わないと、これから1年はあのクラスにいるのにスタートからクラスの大半を恨んでしまいそうになる。うまくやる必要はないが面倒なことは避けたい。なのに、目立ってしまったこともイラつきに拍車をかけているのだろう。自分でもどうすることができない理不尽な感情に嫌気がさす。


「そんな子がいるんだ。僕もあってみたいな。部活まわるなら明日はもう噂になってたりして」

 先輩が少しおどけて言う。夏瀬先輩の持つ空気は魔法みたいだ。相手に無理やり踏み込むわけではない。ちゃんと線引きしてそのギリギリのラインで相手に合わせてその場を明るくする。きっと先輩はそんなこと考えずに無意識でしているのだろう。だからみんなに頼られる。サッカー部のキャプテンでいつもみんなの中心にいる。明るいところにいるはずなのに、私が敬遠しているタイプな人のはずなのに先輩の空気は嫌いになれない。一緒にいて苦痛ではない。


「あっ、でも結愛ちゃんはその子と一緒に食べなくてよかったの? 最初に話しかけられたんでしょ」

 不思議そうに聞いてくる先輩に他意はない。純粋に疑問に思っているのが伝わってくる。その雰囲気につい本音が出てしまった。


「嫌いなんです。にぎやかなの。まさかあんなに多くなるなんて思ってなかったですし。それに、梅霖くんはなぜか危険っていうか近づきたくないっていうか」

 呟きにも聞こえる言葉に隣を歩く先輩の足が止まる。どうしたのか振り返ると少し不安そうな顔をしていて聞いてきた。こんな空気なのに子犬みたいで笑いそうになってしまった。

「にぎやかなの嫌いなの?」

 ごまかそうとおもっったがすぐにその考えを改める。嘘はつきたくない。なぜだかそう思ってしまった。


「はい。にぎやかなのも騒がしいのも苦手です。それなりの付き合いはできますけど踏み込まれるのは嫌なんです。

 ……でも、なぜか先輩の明るいところは好きです。ちょっとしか話していないけどなんかそばにいて心地いいというか、どういっていいかは分かんないけど」


 最後は自分でもどう言っていいか分からなくなり言葉が出てこない。

 そこで先輩が黙っているのに気付いた。


「先輩?」

 声をかけると驚いた顔をしたあと照れくさそうにする。

「よかった。嫌われたかと思ってあせちゃったよ。僕も結愛ちゃんの雰囲気好きだよ。なんか神秘的で綺麗な感じがする。でも話すと楽しいし、かわ…あっ、休憩所もうすぐだったんだね。手前で止まっていたなんてなんだかおかしいね」

 途中で声が小さくなったと思ったら焦って何かを隠すように早口になる。

 先輩の言葉に前を見るともう休憩所が見えていた。


 歩き出す先輩の隣に並んで歩く。なぜか2人とも無言になっていた。


 休憩所に着くとそこには誰もいなかった。今日のお昼は自由だし入学式初日からここに来る人なんて私たちぐらいだろう。

 4人掛けの木のテーブルに向かい合って座る。他愛もない話をしているうちに暁たちが来た。止まったり、私に合わせてゆっくり歩いたからかそこまで待つ必要はなかった。


 そのあとは普通に4人で話しながら食べた。しいて言えばおかずの交換をしたくらい。あと明智くんが私が暁のお弁当をいつも作っているのを知ってうらやましかったくらい。そこまでのことではないと思うけど。


 帰り道、中等部の2人は近道して部室に行くからと言って林?の木の隙間から歩いて行った。先輩も懐かしそうにしていたから運動部では有名な近道なのかもしれないが私は迷いそうで怖いな。

 先輩とも途中でわかれる。高等部の部活棟に行く近道は中等部の方よりも少し校舎に近いところにあった。

 改めて今日のお礼を言う。

「夏瀬先輩。今日は楽しかったです。ありがとうございました。」

 本当に和やかな雰囲気で過ごせた。クラスのみんなといたらできなかっただろう。

「僕も楽しかったよ。ありがとう。また今度一緒に食べよう」

 また誘ってくれる先輩に機会があったらと返す。



「それとさっき言って言えなかったことが分かりました」

 別れの挨拶をしようと口を開いたら今までずっと考えていたことが分かった。その勢いで口から出たのは挨拶なんかじゃなかった。

「さっき?」

 先輩は何の話か分かっていないのか不思議そうにしている。

 なんていっていいかわかんない感情。それに一番あてはまる言葉。


「にぎやかなのは嫌いだけど先輩は特別です。さっきはなんていうかわかんなかったけどそれが一番しっくりきます。それじゃあ、さようなら」


 笑って小さく頭を下げる。そのまま歩き出す。ずっとあったもやもやがとれて気分がいい。先輩の近くは楽なんだ。何も考えずに自然でいられる。タイプは違うけど私にとって江梨香みたいな存在。攻略対象だけど、たまに話すくらいならいいかな所詮知り合いレベルだし。





上げて落とす。

夏瀬先輩は友達にもなれませんでした。せいぜい親しい先輩で一緒にいて大丈夫な人ぐらいの認識です。クラスメートの比較的仲がいい方ぐらいかな。


これでストックが切れました。これから少し更新がゆっくりになります。

そしてお気に入り登録1000件突破しました。うれしくてにやにやしています。親に不思議がられました。一応受験生なのに…

これからもよろしくお願いします。

そして、読んでいただきありがとうございます。

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