死贄
超短いです。
立田時頃の前方には血と鉄の存在が居た。
血に濡れた妖しい刀があった。
刀を持った黒と白の女が居た。
女はバイクに跨がっていた。
バイクのエンジンは何をしなくとも呻き声に似た音を立てている。
呻き声に似た音は不快極まりなく、魂のどこかで吐き気を催した。
時頃の体を恐怖が支配する。
この場から逃げ出したいが動かない。
今すぐ走り出したいが、女から目を離す事が出来ない。
声を出したいが声帯が麻痺している。
全身から血の気が引き、手足は痺れ、呼吸は浅い。
何もかも行き届かない。
女がバイクを動かした。
此方に向けて動き出す。
止まっていた時が動き出す。
黒と白の女が、漆黒のバイクが、妖しい刀が此方に向かってくる。
感覚すら無いまま、体を切り裂かれ、意識を刈り取られ、全身から力が抜けた。
時頃はアスファルトの道路の上に倒れた。
「これで五人目くらい、か? 立田の血筋は根絶やしだ」
女の声は時頃に届かず、聞こえたとしても理解などできない。
彼は生贄であり、憎むべき者。
古に栄えた神に捧げる人身御供にして、千年の昔に復活を間近に迫った主を封印した仇である。