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三話

主人公の母、登場です。


 それは、クリスを案内することを聞いた次の日の事だった。


「それじゃあ、すぐに戻ってくるから」


「うん。あきらちゃん、急ぎすきて怪我とかしないようにね?」


 エプロンを脱いだ俺は、調理場で料理を準備しているお袋に一声かける。申し訳無さそうに声をかける俺に、お袋はやんわりと、それでいてどこか含みのある笑みを浮かべた。それが、様になっているのだから困る。


 俺のお袋――陣ノ原 愛莉あいりは、どういうわけか見た目が20代で通じそうなくらい若く見える。既に40代を越える二児の母であるにも関わらず、だ。更に言ってしまうと、この見た目20代の母親は、この店の看板『娘』としてそれなりに人気がある。娘と言う歳ではないのに。


 理由として、背丈が150と少し程度しかなく、茶色っぽいセミロングのフワフワした髪、小顔で可愛らしい顔立ちに垂れ目気味な大きな瞳、ついでに特筆したくは無いが体格のわりに胸がでかいことが人気に拍車をかけている。一部でいう、ロリ巨乳というやつだ。どこか天然気質の可愛らしい、見た目20代のロリ巨乳。

 これは、身内贔屓でもなんでもない。ただ単なる事実として、認められていることだ。……個人的には認めたくないのだが。


 このどこかポワポワしている俺のお袋は、体が弱い。それも、俺を生むこと自体が結構危険だった程に、だ。それでも俺を生んだお袋は、それ以降体調を崩しがちになっている。今は大分落ち着いてきてはいるが、それでも長時間労働は避けたい。

 親父がいない今、俺が高校進学をやめて店を継ぐことを決めた理由の一つでもある事は、否定出来ない。

 だが、それは罪滅ぼしとかそういう理由では無い。全くない、とは言えないのかもしれないが、それでも、俺自身この店が好きだったことが何よりの理由であることは胸を張って言えることだ。だから俺は、この選択に後悔はしていない。


 小さな包みと水筒を持ち上げた俺は、振り返り声をかける。


「言われなくてもそうする。……それよか、良い加減『ちゃん』付けは止めてくれ。……それと、無茶しない事。少しでも気分が悪くなったら、連絡しろよ」


「はーい」


 と、満面の笑顔で答えるお袋。全く反省の色の見えないその答えに、俺は小さく溜め息を吐く。本来なら、そういった態度や返事の仕方すら止めてほしい。何故ならこの母親、こういったことを客がいる時でも度々やってしまうからだ。それ故に、見た目20代のロリ巨乳の母親目当てでこの店に来る客も少なくはない。一々そういった手合いを相手取るのは、それはもう面倒なのだ。

 何より、16にもなって『ちゃん』付けは死にたくなる。


「俺達がついてっから、安心していってきな」


「そうそう。悪い虫がつかねぇように見張ってるからさ」


 そういって声をかけてくれるのは、常連のじいさんやおっさん達。この人達もお袋目当てで来ているふしがあるものの、それ以上にこの店の味を愛してくれている人達だ。なにより、爺さんや親父の代からこの店に通ってくれている、かえがたい理解者達。

 だからこそ、チャカすような言葉をかけられてもも信頼をおける。この人達がいてくれれば、ちょっとは大丈夫だと。

 

「そんじゃあ、行ってくる」


 苦笑を零した俺は、裏口から店をあとにした。


 ガチャリと、しっかりと裏口に鍵をかけた俺は、停めてある自転車に跨る。時刻は午前11時30分。昼時のピークに入り始めた頃。 


 勢い良くペダルを踏み込む。目指す場所は、星群第一高校。


 


 そもそも事の始まりは、一本の電話からだった。


「………は?」


 開店から一時間後の、午前10時半頃。そこそこ客入りが良くなり始めた頃に、突如茜からの電話がはいる。が、その内容を聞いて、素っ頓狂な声をあげてしまう。


『だーかーらー!お弁当忘れてきちゃったから代わりに作って持ってきて、って言ってるの』


「……おばさんに持ってきてもらえばいいじゃねぇか」


 さも当然のように言う茜に、呆れと共に言い返す。が――――


『私だってそれが出来ればそうするわよ。でも、今日から三日、お父さんと一緒に旅行に行くって言ってたの忘れちゃってて……。だからお弁当も作ってなくって……』


「学食で食えばいいだろ」


『今月ピンチなのよぉ。だからお願い!』


 電話越しに頭を下げている茜の姿が思い浮かぶ。正直、これからがピークの時間帯であること、それと学校という場所に近づくこと自体が俺にとって躊躇われる。俺はもう一度断ろうとして。


「こっちは大丈夫だから。あきらちゃん、行ってきなさい」


「お袋……」


 と、お袋に遮られた。表情はいつもと同じように、だけど視線だけがいつもと違っていた。


「分かってて言ってるだろ……」


「うん。それでも、行ってきなさいな」


 お袋は、個人的な感傷で俺が学校という場所に近づこうとしないことを知っている。それを、恐らくは自分のせいだなどとお袋は考えているのだろう。こうなると、行かないわけにはいかない、な……。


「――――分かった。適当に何か作って持って行ってやるから」


『ホント!?』


「ああ。中身は文句を言うなよ」


『もち!それじゃあ校門前に着いたら連絡頂戴!』


「ああ、分かった」


 携帯を閉じ、溜息をひとつ。気は進まないがやるしかない。だがそこで、ふと考える。


「なぁ、お袋……」


「なぁに?」


「女子の弁当って、何入れりゃいいんだ?」


 そう問いかけた時のお袋の何とも言えない表情は、暫く忘れられそうもない。



「はぁ~。これでお昼は何とかなりそう」


 茜は携帯を閉じてほっと一息吐く。一時はどうなるかと焦りを感じていたのだが、やっぱり持つべきものは幼馴染ね、と考えていた。中身に関しても、彼女は特に心配はない。燦の料理の腕前は、昔から知っていて折り紙つきだからだ。


「お帰り、茜」


「おー、どうだったよ?」


 教室に戻ってきた茜を出迎えてくれたのは、同じクラスの明良達。次の授業前の休み時間のためか、のんびりしている。茜はごく自然にその輪の中へと溶け込む。茜を含め五人で輪を作るのは、彼等にとって既に声をかけるまでも無いほどに当たり前になっていた。


「うん、バッチリ。燦、作ってきてくれるって」


「良かったね、茜ちゃん」


「うん!」


 美耶子の言葉に、茜は笑顔で答える。そんな彼女は、どんなお弁当にしてくれるのだろう、と期待に胸が膨らませている。燦のお弁当が食べられると思うだけで、午後の授業は十分に乗り切れそうだ、などと現金な考えを浮かべていた。そんな茜を見ていた明良は、意地悪い笑みを浮かべる。


「しっかしお前もそそっかしいというか、抜けてるっていうか……」


「あ、アキ五月蝿い!もう、余計なお世話だよ」


 クツクツと笑いを浮かべる明良。自業自得とはいえ、何処となく気恥ずかしさを覚えた彼女は、プイと顔を背ける。そんな二人を見て、琢磨がうぅむと唸る。


「だが、ジンさんの弁当が食べられるのは羨ましいな」


「あ~、それは言えてるわ。俺も今度頼んでみるかな。つーか茜、お前少し分けてくれよ」


 琢磨の発現に便乗した明良だったが、茜は両手を胸の前でクロスさせ、バッテンを作った。


「イヤ!燦のお弁当はボクのものなんだから!アキにあげる分はありませ~ん。あ、でも、美耶子とクリスには分けてあげるから」


「ふふ、有難う」


「本当?嬉しいなぁ」


「うわ、ケチくせぇ!男女差別はんたーい」


 愚痴る明良を半ば無視して二人に声をかける。随分前から味を知って美耶子と、最近その味を知り始めたクリスの二人は、喜色満面といった様子だった。


「あ、そういえば」


 と、何かを思い出したかような様子のクリスは、茜に向き合う。


「皆は明良のことを名前で呼ぶのに、どうして茜は『アキ』って呼んでるの?」


 右手の人差し指を顎の辺りに当てながら可愛らしく小首を傾げたクリス。その一つ一つの動作がとても絵になっているなぁと思いつつ、あぁなるほどと茜は一人得心がいった。チラリと時計を見る。幸い、休み時間終了までには、ほんの少し時間が残っている。


「ほら、前にも話したと思うけど。そもそも私と燦――ジンさんは所謂幼馴染っていうやつでね、幼稚園位からの付き合いなんだ。家も近い事もあって、このメンバーの中じゃ一番付き合いは長いかな。

 で、小学校に上がってアキと知りあったの。ボクは昔からジンさんの事を燦、って呼んでいたからそのまま名前で呼んで、アキとは名前が一緒だからあだ名で呼んでいるってわけ」


「そんでそれから一緒につるむようになってな。中学からは琢磨と美耶子とも知り合うようになってな。それからだよ。俺等五人で行動するようになったのって」


「へぇ、そうだったんだ。……ん?」


 そこまで話し終えると、再び考え込むクリス。だが先ほどとは違い、何処か困惑している様子だった。


「どうしたのクリスちゃん?」


 見かねた美耶子が優しく訪ねると、クリスはおずおずといった感じで口を開いた。


「えっと……。もしかしてジンさんって、私達と同い年……?」


「あぁ、そうだが」


「え、えええっ!?皆『さん』付けしてるし、大人びた雰囲気だったから年上だと思ってたよ!」


 躊躇いがちに言葉を紡ぐクリスに、何を今更といった感じに答える琢磨。するとクリスはこれでもかというくらいに驚いた。そしてすぐにオロオロとしはじめる。


「ど、どうしよう。もしかして、態度にでちゃってたかな?」


 その言葉に、四人は「あぁ、なるほど……」と考えがシンクロした。何に対してそこまで気にしているのかと思えば、そんなことか。そう思い明良と茜が彼女を落ち着かせる。


「あ~、気にすんなって。どうせアイツも、そんな細かいことでどうこういうような奴じゃねぇし」


「だね~」


「そ、そうかな?」


「おう。そもそも『ジンさん』って呼ばれるようになった理由が、小学生の時のクラスの連中が言った、『なんか兄ちゃんみたいなやつだなぁ』から始まって、最終的に『さん』付けに落ち着く形になったからなぁ」


 二人の言葉を聞いて安心したのか、ホッと一安心した様子のクリス。そこで丁度、タイミングを見計らっていたかのように始業のチャイムが鳴り響いた。それと同時に教師が入ってきたので、そこで一度話はお開きとなった。

 やがて席についた彼等は、他のクラスメイト達と同じように授業を受ける体勢に入る。次の授業は古典の時間だ。


 初老の男性教師の授業が始まりを告げる。外国人ということもあり苦手意識のある古典の授業を受けていたクリスは、やがてふと疑問を思い浮かべた。


(そういえば、ジンさんが同い年なら――――どうして学校に通っていないんだろう?)


 何気なく疑問に思った彼女だったが、すぐに思考の奥底へと埋没していく。今は少しでも、この難敵じゅぎょうを乗り越えられるように集中しなければ。





主人公は性格や目付き、背丈は父親似。それ以外は大体母親似です。


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