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序章

完全なオリジナルとしては初めての作品ですので、至らぬ事もあるでしょうがお付き合い下さい。


 俺は、少女に手を引かれ走り回る。

 

 向日葵が辺り一面を覆い尽くすその様は、照らす夕陽も相まってまるで金色の絨毯を思わせた。香る花の匂いに酔いそうになりながら、俺は手を引かれるままに彼女を追う。やがて俺たちは、開けた場所に出る。


「すげぇ……」


 思わずそんな言葉が零れる。

円形に開けたその場所からは、360度全てを金色の向日葵が覆い尽くしていた。子供ながらに、俺はその光景に魅入っていた。


「ねぇ、『アキラ』」


 少女が俺を呼ぶ。その声に振り向き――――今度こそ、言葉を失った。

 落ちる夕陽を背に立つ、向日葵よりも尚美しい金色の髪の少女。呆ける俺をよそに、彼女はやわらかな笑みを浮かべた。


「約束して。いつか、いつかきっと――――」



 この光景を、俺は生涯忘れることはないだろう。



「有難う御座いました」


 また一人、店をあとにした客に頭を下げながら挨拶をする。この一連の動作にも、もう随分と慣れたものだ。お世辞にも接客に向かない無愛想な俺にしてみれば、これは格段の進歩と言えるだろう。

 レジカウンターを離れる前に、ザッと店内を見回す。元々それほど大きくはない店なので、店内の状況を把握する事は、それほど難しい事ではない。現に、テーブル席についているのは二組で計5人。どちらも常連さんだ。


(この分なら、あと10分もしないうちに帰るだろうな……)


 テーブルに置かれている食事の残りの量から、大体のあたりを付ける。

そうしている間にも、体は思考とは別にしっかりと動いており、先ほど去った客の座っていたテーブル席、そこに置かれたままの食器類を腕に乗せている。この動作も、最初に比べて様になったものだと思うし、これが一番難しかったかもしれない。

 今でも、当初何度か皿やらグラスやらを割ってしまった事を思い出し、軽く自己嫌悪。


(さっさと運んで、出来る仕事を片付けておくか)


 思いたったらすぐ行動。特に、他にも来客が来る可能性がある以上、スピードと正確さは重要になってくる。従業員自体、俺とお袋。それと大学の帰りや暇な時間に時々手伝ってくれる姉しかいないのだ。やる事はまだまだある。

 テーブルを清潔な布巾で丁寧且つ素早く拭き、メニューやらの位置を整え、次の来客に備える。ついでにと、側を通ったときに頼まれた珈琲のおかわりを注ぐ。この常連さんたちは帰る前に、必ずコーヒーを一杯飲んでいく。これも、見慣れた光景だ。


「お会計3170円です」

「はいよ。――――御馳走さん。また明日来るよ」


 お釣りを手渡した際に、笑顔でそう言ってくれる。最早見慣れた光景とはいえ、こうやって言ってもらえるのは素直に嬉しい。

 だから俺は、この無愛想な顔で出来る限りの笑顔浮かべ、誠意を込める。


「はい、有難うございます。明日も美味しい珈琲、用意して置きますから」


 常連さんを見送って、少し。この店の中には、俺と厨房で働いているお袋の二人しかいない。元々静かな店内は、すっかり静まりかえってしまった。その光景に、少しだけ。ほんの少しだけ、寂しさを覚えるのもまた、何時ものこと。


「……さっさと片さないとな」


 そんな気持ちを、また明日訪れる常連さん。それと、まだこれから来るかもしれない客をもてなす事を思い浮かべ、思考を切り替える。

 こんな俺でも、出来る限り最高の接客を。

 なら、今は感傷に浸るのではなく、快適な空間を作ることに全力を注がなければ。一連の動作でテーブルの上を素早く片付けた俺は、ふぅ、と短く一息を吐いた、その時。


 カロンカロン――――と、扉に付けられている鈴の音が鳴る。来店の合図だ。


「いらっしゃいま――――って、お前等。また来たのか」


 勝手知ったると言った様子で入ってきた学生五人組み。この街の中では一応一番頭の良い学校に通っている男子二人、女子二人の彼等は、中学時代の俺の友人でもある。もう一人の女子は――見覚えが無いな。


「何よ。随分と失礼な言い方ね」

「そうだぜー。一応、俺達は今客なんだからな」


 そう言って文句を垂れてくるのは、黒髪をそこそこ伸ばしツンツンにはねさせる、活発な印象を与える二枚目の『楠 明良あきら』。身長は168と大きくも無く小さすぎるわけでも無い。若干気にしているらしい。そして、肩ほどまで伸びる茶髪を後ろで小さくポニーテールに纏めるこれまた活発な印象を与える少女『飯塚 茜』。この面子の中では小学生からと一番長い付き合いになる、所謂幼馴染というやつだ。


「もう、二人とも失礼だよ」


「毎度の事とはいえ、スマンな。『ジン』さん」


 そういって苦笑を浮かべるのは、残る二人。明良とは対象的に、少し長めの黒髪にメガネをかけた理知的な雰囲気を与える『服部 琢磨』。明良よりも背は高く、大体175くらいはあるだろうか。その隣にいるのは、この面子の中では一番背の低い『西條 美耶子みやこ』。腰の辺りまで伸ばしたストレートの黒髪に大きな瞳をした少しおっとりとした少女。彼女は中学の頃、明良と琢磨が所属していたサッカー部のマネージャーを務めていた縁で知り合った。 


 初めの頃こそ、その性格の違いから反発しあっていたようだが、サッカーを通して次第に親しい仲に。プレーでチームの中心になる明良と、的確な判断で司令塔となる琢磨のコンビは、なかなかのものだった。今では、琢磨と美耶子の二人は、若干感情的になりやすい明良と茜のストッパー役が、すっかり板についている。ついでに言うと、琢磨と美耶子は付き合ってたりする。……リア充め。


「いいさ。何時ものことだし、気にしてない。それより――――後ろの彼女は?」


 先ほどからキョロキョロと店内を物珍しそうに見ている少女。その顔は良く窺えない。


「おお、そうだった!」


 ポンッと手を叩く明良を見て、思わず溜め息を吐きそうになる。コイツは時々どこまでが本気か分からないから、今も忘れていたのかどうか、正直判断を付け難い。


 そんな明良を放置して、琢磨と美耶子が説明してくれた。


「実は今日、内のクラスに転校生が来てな」

「折角だし、仲良くなるチャンスになるからって。それで連れて来たの」


 なるほど、と相槌を打つ。しかし惜しい事をしたな。


「事前に伝えておいてくれたら、歓迎の準備の一つも出来たんだが……」

「あー、その手があったかぁ……」


 あちゃー、と額に手を当てる茜。まぁ、過ぎたことだし、な。


「とりあえず、このまま立ち話もなんだし、そろそろ紹介してくれないか?」

「おうっ。『クリス』、見てるとこ悪いがこっちきてくれ」

「ん、なぁに?」


 鈴の音が鳴るような、というのはこういったのを言うのだろうか。それほどに高く澄んだ声で返した彼女が一歩前へ出る。


 ――――俺は、その姿を一目見て言葉を失う。


 日本人が染めたような色では決して出せない、艶やかな金髪を腰よりも少し短い位の位置まで伸ばし、その先を赤いリボンで結っている。顔立ちも非常に整っていて、小顔に大きな瞳、スッとした鼻筋、血色の良い唇をした掛け値無しの美少女。特に、瞳はアメジストを思わせる綺麗な薄紫で、吸い込まれるようだ。


「紹介するよ。彼女はクリスティナ=ラグレーン。フランスからこっちに住んでる親戚のうちにきたんだと。 クリス。こっちは『じんのばる あきら』。俺等の親友で、ここの店員。俺等はジンさんって呼んでる」


「初めまして。私はクリスティナ=ラグレーン。宜しく。クリスって呼んでね?」


 彼女――クリスは眩しい笑顔を浮かべ、手を差し伸べてくれる。だが、俺はほんの一瞬だけその手を掴むのを躊躇ってしまう。


 彼女の声が。笑顔が。その仕草が。俺の、恐らく初恋の少女に、あまりにも似ていたから。チクリ、と胸の奥が疼く様な気がした。


「……陣ノ原燦だ。俺のことはジンで構わない。宜しく、クリス」


 逡巡も束の間。俺は、この感情を読み取られないように、出来る限りの笑顔でその手を握り返した。


感想・指摘等宜しくお願いします。



※10/18 最後の方を僅かですが改訂しました。

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