1章-6 いざ、扉の向こうへ
『それにしても、随分あっさりと見つかったもんだな』
・・・それ、あなたが言う?
家に帰ってから、パン屋のおばさんに渡された小さな箱を開けてみれば金色に輝く鍵が入っていた。
その鍵には日記と同じ紋章がついていて、すぐにこの日記に関する鍵だと分かった。
そのことをケナンに報告すると、上記の言葉。
『昨日、「この扉の開き方は俺が探してくる」って言ったの誰?』
『仕方がないだろう!俺は忙しいんだ』
『私だって忙しいわよ!まっすぐ帰りたかったところを、お前も探して来いとか誰かさんがすぐに意見を変えるから探してきたんでしょう?!』
『それにしても、お前の世界にあるとはな。扉の鍵が』
聞けよ!!!!!
あ・・駄目だわ。
私、この王子と関わりだしてからキレやすくなったし、言葉遣いが悪くなった気がする。
日々エスカレートしてるわ。
このままじゃ、駄目駄目。
平常心。平常心。
『それで?王子。この鍵が扉の鍵だなんてどうして分かるのかしら?』
『なんだ。お前。気色悪いぞ』
『・・・・(平常心。平常心)気のせいですわ。それで、何で扉の鍵って・・・』
『なんか悪いものでも食べたか?』
『食べてませんわ』
いけない。ちょっと、ムカつきすぎて文字が・・・
『文字が震えているぞ?どうした?腹いたいのか?』
ちげーよ。
腸が煮えくり返りそうなんだよ。
って、どうしたの私!
今までこんなことなかったのに。
『どうした?華澄ー。腹痛いのか?』
・・・・いいや。
全ての元凶はこの王子。別に国を救えばその後関わり合うこともないんだし。
『だから、何で鍵が扉の鍵だってわかるんだって言ってんの』
『お。調子が戻ったみたいだな』
『絶好調です。おかげさまで』
『それで鍵だな。お前が俺が何もしてなかったみたいに言っていたが、俺だって調べることはしてたんだ』
『何を?』
『先日、その日記が扉だと言っただろう?お前がまず、この日記を開くために使った鍵。お前のご先祖から受け継がれていた鍵だな。それとは別にこの扉を開ける鍵がその金の鍵だ』
『これが?』
『そうだ。その鍵を日記の鍵穴に差込み回してみろ。そうすれば扉は開く』
『・・・でも、前例がないんでしょ?』
『お前が初のチェレリアの救世主だからな。
・・・・もしかして、不安か?』
『べっ・・別に怖いとかそういうんじゃ』
本当は怖かった。
もしもこの日記が本当に扉なら、いよいよ私は別の世界へ行くことになる。
もうおとぎばなしだからー・・・とか言っていられない。
この鍵を手にした途端、急に現実味を帯びてきて。
この先に何が待っているのか。
本当に私で大丈夫なのか。
危険と・・・隣り合わせだということも。
この扉を開ければ、もう元の自分には戻れない。
不安で、持っているペンがカタカタ言う。
『震えているな。ペン先が僅かに日記に触れているぞ』
『別に、お腹が痛いわけじゃないから』
『分かっている。・・・・安心しろ』
『え?』
『この国に来たら、俺が全力でお前を守ってやる。怖い想いもさせないさ。
だから安心してチェレリアに来るんだ』
どくん。と心臓が鳴った。
『ケ・・ナン・・』
『大事な、大事な、救世主様だからな』
ずるいな。こんな我儘で俺様王子でも・・頼もしいって思わせてしまうなんて。
『・・わかった。もう大丈夫』
『華澄。金の鍵を日記にさせ。そして唱えるんだ。』
【我、華の紋章より導かれし 救世主。
彼の国が危機より襲われんとき
異世界の扉を開きて 救い給う。
チェレリア国の救世主として いざ、ここに参らん】
詠唱が終わると、目の前にあった日記はみるみると私の部屋を壊すんではないかと思うほどに大きくなった。
チェレリアの紋章が刻まれた大きな門となった日記。
ささったままの金色の鍵を引くと扉が重たそうに開く。
開いた扉の先に見えるのは白く霧ががかった靄。
でもうっすらと人の影が見える。
金色の髪?
背の高い・・・男の人。
白い王族の服を着て、こっちに手を伸ばしているの?
「華澄」
低くて、かっこいい凛とした声。
「ケナン・・・?」
「華澄」
呼ばれてる。
この扉を越えれば、チェレリア。
私は今から救世主となる。
【お守りだよ。華澄。私たちを守ってくれるお守り】
――おばあちゃん。
ネックレスとした受け継がれてきた鍵をぎゅっと握り締める。
――私、行ってきます。
扉から抜いた金の鍵もいっしょにネックレスヒモに通した。
――ご先祖様が愛した人の国。守ってくる。
首から二つの鍵を下げるとチャリンと音がした。
前を見ると、靄は晴れていた。
「華澄!!!来い!!」
差し出された手を取ると、力強く引っ張られ・・・・
私はチェレリア国へと旅立った。