1章-5 扉を開ける方法
誰か、異世界への扉開ける方法知りませんか?
「はぁ~・・・・『チェレリアに来るからには、お前も扉を開ける方法を探して来い』って!!
何であんなにあの王子は偉そうなのよ?!それが人に物を頼む態度なのかしら?!」
大学からの帰り道。
昨日、王子から言われた言葉を思い出してすごく憂鬱になっていた。
{チェレリアの救世主}
どうして私なのか、きちんと説明されたってまだ実感が沸かない。
実際、私はこの世界で私の暮らしを満喫してるし。
おとぎばなしのようなファンタジーなことや人を目にしてるわけじゃない。
単に、この日記が変わってるってだけで。
あとは何にも変わってないから。
救世主なんてそんな大それた肩書きを持っていても、ただの学生。
この世界では普通の人間。
確かに「救う」ことを決めた。
でも、責任感っていうか実感みたいのがまだないから扉を開ける方法だって積極的になれない。
ファンタジーやおとぎばなしは好きよ。
でもそれは「お話」だから。
想像なんていくらでもできるし、想像してるのが楽しいの。
こうやって帰り道に自然を眺めて、可愛いパン屋さんで買い物して。
外国にいるようなそんな雰囲気にワクワクして。
この石畳の坂を上れば、新しくできた骨董品屋さん・・・・・
「ってあれ?」
骨董品屋さんが、ない。
っていうか、建物すらない。
跡形も・・・ない!!!
「えっ?!私、ここで日記を買ったよね?」
間違ってないはず・・・・
確かに、パン屋さんの坂を上って辿り着いたんだもん。
あの日、パン屋のおばさんだって言ってた。骨董品屋さんができたって・・・
確かめに行こう!
パン屋のおばさんならわかるはず!
「骨董品屋?」
「うん!あったでしょう?丘の上に」
「あそこは長いこと空き地のままだったはずだよ?」
「・・・うそ・・だって、おばさんが教えてくれたんだよ?」
「うーん・・私は記憶にないけどねぇ・・」
な・・・何で?
確かに日記を買ったのはあの骨董品屋。
そんな1日や2日でお店って潰れちゃうものなの?
そもそもお店の存在自体知られてないって・・・・おばさんが教えてくれたのに・・?
「そういえば!!骨董品屋については分からないけど変わった人が華澄ちゃんを訪ねてきたよ」
「え?」
「若い、背の高い男の人でねどこかの芸能人だと思ったよー」
おばさん、目がとろけてる・・・。
ってそんな知り合いいないんだけど。
「ほらこれ」
そう言っておばさんがお店の奥から持ってきたのは、布に包まれた小さな箱。
「なぁに?これ・・・」
「分からないけど・・・その人が言うには、大切なものだって言ってたね。
何でも”救世主の探し物”とかなんとか・・・・」
「えっ?!」
きゅ・・・救世主?!
「お、おばさん!その人、どんな人なの?!」
「んー?だからかっこよくてねぇ・・「金髪だった?!」
「え?いや、金髪ではなかったけどね・・・」
どういうこと?!
チェレリアの人間がこっちに来る方法はあの日記しかないはず!
誰かー・・・・チェレリアを知っている人が日本にいるってこと?!
とりあえず・・・・
「おばさん、ありがとう!!!」
バタバタバタ・・・・・
渡された小さな箱を掴み、全速力で家まで駆けていった。
これで何かが変わるはず!
********
「どこに行ってたんだ?サエル」
机に向っていたケナンは、自室の扉が開く音が聞こえるとすぐに声をかけた。
その相手は執事のサエル。
ケナンを幼少期から面倒を見てきた、王子が唯一心を許せる相手だった。
「いえ大した用ではございませんよ。それより、王子。また日記をご覧になっていたのですか?」
「あぁ。あいつとの連絡手段がこれしかないんでな」
「華澄様ですね。チェレリアの救世主となる方・・・・・殿下は、随分ご執心なのですね。華澄様に」
「・・・・・はぁ?!」
「だってそうでしょう?毎日、日記を開いては見、開いては書き、見・・・の繰り返し。日記を付ける前はあれほど城からお一人でも飛び出そうとしていたのに」
「今だって、飛び出して行きたいさ!でも、それよりも救世主を仲間に魔女と戦ったほうがよい選択だと思っただけだ」
「・・殿下は、華澄様のお顔を拝見されたことがあるのですか?」
「あるわけないだろう?!文字だけのやりとりなんだ!どうやって顔まで・・・」
「容姿は重要ですよ」
「・・・何にだ」
「救世主となるのにですよ」
「・・・・何故外見が必要となる?救える力があればいいだろう?!」
「いーえ。救世主は美しくないとファンタジー要素が半減するではありませんか」
「ふぁ・・・ふぁ・・?」
「いえ。こちらの設定の話しです。申し訳ありません。気にしないでください。
・・・でもきっと、問題ありませんよ。華澄様はお綺麗な方です」
「何故、そのようなことが分かる?」
「・・勘、です」
そう言うと、サエルはさっと踵を返しケナンの部屋の扉の前で一礼をする。
「では。殿下、私は執務がありますので、これで」
「あぁ、何かあったら呼ぶ」
「はい。あ・・・それと殿下」
「何だ」
「いよいよ、ですね」
「は・・?」
サエルはにこりと微笑み、部屋を出て行った。