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1章-4 日記を持つ意味

だから、何回説明すればお分かりになるんですか?王子。



あれから1時間半。

王子と私の日記でのやりとりは続いた。

その内容といえば、全然進歩していない。




議題「何故、俺の日記にお前が書き込むことができるのか」




朝起きてからこの日記を見つけるまでの私の行動を逐一報告。

途中に出てくる「大学」の意味も通じないから、大学の説明もしなくちゃいけないし。

カルチャーショックとかの問題じゃない気がする。

そんな状態だったから、もう相手が王子でも話し方は砕けきっている。

ある意味、このやりとりで文字だけの相手と急速に親しくなった気がする。


『だから、骨董品屋でこの日記を手に入れたのよ』

『それは分かった。だがお前は何故この日記を見れる?鍵がかかっていただろう?』


あ、新しい質問だわ。


『うん、かかってたわ』

『どうやって開けたんだ?この日記の鍵はチェレリアの王族しか持っていないはず。

それも次期国王候補しか・・・・』

『そんなこと言われても・・・私はおばあちゃんから先祖代々大切にしてきた鍵だって伝えられて』

『先祖代々・・・・?』

『そうよ。何でも今から約150年ほど前にそのご先祖様は当時日本に来ていた王子様に・・』

『お、お前まさか!!!!』


って!

私がまだ説明している途中で、更に文字を被せてきたわ!この王子。


『プリンセス オトカワの子孫か?!』

『・・・・プ、プリンセス オトカワ・・?』


オトカワしか当たってないけど・・・


『チェレリア王族では有名だぞ』

『有名たって、別にプリンセスじゃ・・』

『でも鍵を受け継いできたオトカワだろう?初代チェレリア国王の初恋のプリンセスだ』

『・・・・・初恋のプリンセス?!』

『なんだ。そんなことも知らないのか。子孫なのに』

『だって、私が聞いてるのは・・どこぞの国の王子様が一緒になることは叶わなかったご先祖様に二人が想い合っていた証にと鍵を渡して・・・』

『その王子が初代チェレリア国王だろう』


・・・・・嘘でしょ?

ファンタジーすぎる。

いや、日記で既に王子様と会話しているところから現実的じゃないけれど・・。


『おい、プリンセスオトカワの子孫』

『ちょっと!乙川 華澄です!!』

『・・ならば、カスミ』


ならばって何だ。ならばって・・・


『何ですか?王子』

『・・ケナンでいい』

『え?王子なのに?』

『お前が今更それを言えた義理か?既に言葉が砕けきっているだろう』

『ごめんなさい。なんかもう親近感が沸いてしまって・・・・』

『まぁいい。お前がチェレリアの人間だったら即刻捕まっていただろうがな』


・・・やっぱ本当に王子なんだ。


『で、カスミ。これからどうするんだ。チェレリアにはいつ来れる?』

『・・・・・いつになっても行く予定はないですけど・・・』

『は?何を言ってるんだ。お前、対の日記を持つものとしてチェレリアを助けに来るのは使命だろう!』


そっちが何を言ってるんだ!!!!


『意味が全くわからないんですけど!』

『なんだ。子孫なのに知らないのか』

『いや、子孫でも知らないからね!!!てかなんか納得して話してきちゃったけど、何で私が子孫ってわかったのよ?』

『この日記の鍵を持っていたからだ』

『それだけ?』

『それに先祖代々と言っただろう?チェレリアでは有名な話しだ。初代国王の初恋は。オペラにもなっている』



*****

初代チェレリア国王。

当時はまだ王子だった。その名をラムズ。

周りの国に支配されていた当時のチェレリアを救い、独立させ、一つの国として建てた。

いわばチェレリアの英雄であり国王。

そのラムズは、今では少なくなったが魔法を使える人間だった。


ある日、ラムズはこの国の立ち上がりを起こった出来事を記していこうと2冊の何も書かれてない本を用意した。

1冊には代々国の王となったものがこの日記を受け継ぐように記し、もう1冊にはチェレリアの助けとなる魔法をかけ、鍵をとりつけた。


・・・チェレリアには100年に一度、国の近くに住む闇の魔女が目覚め、国に災いをもたらすといわれている。

それはチェレリアが独立する前からこの辺りで起こっていたことだった。

それを心配したラムズはその魔女が目覚める100年のときに魔法のかかった対の日記を持つものをチェレリアの救世主として呼ぶこととした。


だがその日記の話しはチェレリア国、いやそれ以上にこの世界に伝わり。

己こそが伝説の救世主に。と日記を巡る小さな争いをも生んだ。

救世主になれば英雄になれるだけでなく、裕福な暮らしも保障される。

それを知ったラムズはこの国の人間たちに期待は持てない。遠く異世界の国から選ばれし者をチェレリアの救世主にしようと称えた。


そしてラムズは魔法で救世主がいる世界の扉を開けた。

その扉の先で辿り着いた場所が「日本」


その国は、身に纏うものも違えば、髪の色も目の色も違う。

魔法を使えるものなどいない。

何もかもがラムズにとって新鮮だった。


日本に来てから数ヶ月後。

ラムズはある女性と知り合う。

それがカスミのご先祖にあたるプリンセス オトカワだ。

ラムズとプリンセスは急速に距離を縮め、恋に落ちた。

だが、住む世界も違えば身分も違う。人種も違う。

お互い想いあっているのにも関わらず結ばれぬ運命。


ラムズは願った。

いつか、来世でもいい。

この人と寄り添い、暮らしたい。


その願いと二人の証に、ラムズは対となる魔法の日記と鍵をプリンセスに託した。

いつの日か。

彼女がチェレリアに来れることを祈って。


*****


『これがチェレリアに伝わる初代国王の初恋だ。まぁどういう経緯で日記だけ手元を離れたかまでは知らないが、結果として子孫のお前に日記も戻ったんだ』

『そんなに奥深い話しだったとは・・・』

『本当に何も知らないんだな。だが、もう説明した。これで分かっただろう?お前がチェレリアに来る意味が』

『・・要するに、その魔女の目覚める100年後に今時期が重なっていて、そのタイミングで私が日記を手にしてるから救世主になれと。』

『そうだ。なかなか賢いな』

『いや、でも私にも生活がありまして』

『問題ない』

『何が問題ないのよ?問題ありありよ!!』

『いつでも帰れるからだ。その日記と鍵を持つかぎり』

『どういうこと?』

『・・・ラムズは魔法が使えたが俺は使うことができない。おれ自身がどうこうすることはできないが、その日記にはもう既にラムズの魔法がかかっている』


そうして王子は説明してくれた。

魔法がかかっているこの日記がチェレリアと日本を繋ぐ扉になると。

でも。

スイッチとかないし、魔法っていっても呪文とかわかんないし。

光ったりするわけでもないし。

どう扉になるか分からない。


『それで、どうやって開くの?この扉』

『それが分かったらとっくにお前を呼んでる』

『・・・分からないのね?なら行くことはできないわ・・』

『駄目だ。お前は必ず来るんだ』

『そんなこと言ったって!!』

『時間がないんだ!!!・・・今も国では飢えや病に苦しんでいる民がいる。動物も、植物も・・・。父上だって・・・・』


ダン!!


大きな音が日記からしてきた。

最初は何の音かわからなかったけど・・・

その音は王子が悔しさに日記を叩いた音だって理解するのにそう時間はかからなかった。



『・・・・カスミ』


少し時間が空いて、私の名前が日記に書かれた。


『この扉の開き方は俺が探してくる。きっと方法があるはずだ。




だから。お願いだ。

次期チェレリア国王としてお願いする。





       華澄。我がチェレリアを、俺に力を貸してくれ』





願いを架けるその文字は、震えていたのだろうか。

微かに歪んでいた。



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