1章-3 ケナンの日記
『俺の日記に無断で書き込んだ奴は誰だ』
それが王子からの最初の質問だった。
カチャリ・・と音を立てて開いた日記。
表紙をめくると、一枚の写真が出てきた。
「・・・か、かっこいい!」
ブロンドのサラサラヘアに蒼い目。
白い学ランのような洋服を着た男の人の写真。
童話に出てくる王子様のような人。
もしや、この日記の持ち主ってこの人だったの?!?!
よく分からない興奮を覚え。
テンションがあがってしまった。
ドキドキ・・
こんなかっこいい人の日記だなんて!
何が書いてあるんだろう?
次のページをめくるのが緊張してしょうがない。
『チェレリア国第四代次期国王候補 ケナン・ホープ・チェレリア』
「チェ・・チェレリア国?」
『お父上がこの日記を置いて失踪してから早4年。
この国の衰退は早い。
おかしすぎる。この飢饉も国の荒廃も。
何か別の力が加わっているようにしか思えない。
俺はどうすればいい?!
悠長に政治をしている場合なのか?!
近頃ではモンスターらしきものまで街に出たというではないか。
俺がこの国を終らせるわけにはいかない。
明日すぐにでもサエルに相談しよう。』
お・・・おとぎばなし??
だってそうとしか思えないような内容。
モンスターとか。
国の荒廃とか・・・。
何より、この日記の持ち主って次期国王だったの?!
「なんか・・・かなり切羽詰ってる内容だけど・・・」
『何なんだ、サエルのやつ?!
俺が街に出て何が悪い?!
もう政治がどうのこうのじゃない。動かなくちゃいけないんだ。
父上の失踪の理由も探らなくてはいけない。
政治なんて大臣たちに任せておけばいいだろう?!
王子である俺が、この国を立て直さなくちゃならないんだ。
もう、待ってられるか!!
一人でも出て行く』
「えっ・・・えっ・・ちょっと、何かよくわかんないけど冷静になろうよ!」
私は必死になって日記に声をかけていた。
なんか国の危機みたいだけど。
この国の主たるものがこんなに荒れていたらまずいんじゃ・・・
ペラ・・・
ページをめくれば、まだ日記は記されている。
『もしも俺に何かあれば、アリアがこの国を担う。
まだ少女のアリアに任せるのは心配だが、あいつも王族。
いざとなれば大丈夫だろう。
アリア、兄は父上を探しに行く。
四年もの間信じて待ってみろという大臣たちの言葉はもう聞き飽きた。
もっと早くに動くべきだった。
俺なら心配いらない。
なんとかなるだろう。俺の剣術だってサエルに劣らずだ。
必ず父上を連れて帰る。待ってろ、アリア』
「ってえー?!この王子、かなり行動派だわ。かっこいいけど、一人は危険よ」
このときはまだ第三者の気分で客観的に日記の内容を見ていたから、一つの物語を読んでいる気分だった。
でもなんとかこの王子を止めたくて、次のページを開いた。
「次のページには何もかかれてない・・・これを書き終えてお父さん探しに行ってしまったってこと?
でも、なんか危険な気がする。
お父さんの失踪って、そんな簡単な理由じゃない気がするわ。
だってなんか、怪しいわ。一国の王様がそんな簡単にいなくならないんじゃないかしら?」
そう思ったときには、私はペンをとっていた。
そして日記の続きに焦る気持ちを抑えながら王子へのメッセージを書いた。
『待って!一人は危険よ!!探しに行くことはいいことだけど、誰か連れて行くべきだわ。
お父様の失踪には何か危険が潜んでいる気がするの。』
こんなことを書いたって、この日記の持ち主はどこの国かも知らない国の王子で。
日記は私が持っているんだから王子に伝わるわけもない。
それにこの日記の持ち主が今も生きてるかわからないし、いつの時代のものかも分からない。
それでもこの日記の内容には惹かれるものがあって。
今の持ち主は私で。
だから、書き込むのだって自由だし、こう書き込むことによって王子を助ける自己満足みたいなものになっていた。
だから次に日記を開いたとき、そのときは凄く驚いた。
「え?」
朝起きて、それとなく日記を開けてみた。
私が書いた最後のページをめくってみると、信じられない光景が飛び込んできたの。
『俺の日記に無断で書き込んだ奴は誰だ』
こんなこと私書いたっけ?
ううん。書いてない。
じゃあ、元から書いてあったけ?
・・・書いてなかった気がする。
昨日この日記の鍵だってきちんと閉めたし。
鍵は私が首から下げて寝てたし。
まさか。
まさか。
いや、まさか。
これって、王子が?
ちょっと待って。夢よ。おかしいわ。だって、こんなこと。
ほっぺを叩いたり、つねったり。
顔を何度も洗ったり。
コンタクトも洗浄したり。
そこまでやったけど、このページにはさっきから変わらない。
『俺の日記に無断で書き込んだ奴は誰だ』
という文字。
「じゃあ・・・そのまさかだとして、これに返事をしたらまた何か王子からも返事があるってこと?」
私はもうすっかり大学のことなんて忘れていた。
だって、それどころじゃなかった。
私にとっては人生の中で一番一番優先しなくちゃいけないと思われるようなことが起きたんだから。
『あなたは・・・ケナン王子?』
ペンで一言書いてみた。
王子の書いた文字の下に。
数分後。
『そうだ。お前は誰だ?どうして俺の日記に文字が浮かび上がる!?まさか、お前は魔女か?!』
「し・・・信じられない・・・」
返事が返ってきた。
何これ、一体どういう仕組みなの?!
私は、日記を持ち上げたり逆さにしたり。
振ってみたり。
けど何か起きるわけでもなく、何か装置がついてるわけでもない。
そんなことをしているうちに、更にまた文字が書かれていた。
『お前は誰だと聞いている』
これはちゃんと、お返事するべきだよね。
この不思議な現象も加えて。
『私は乙川 華澄。日本に住む、20歳の学生。
私は魔女じゃないわ。不思議なのはこの日記で・・・・・・』
これが私と王子の交換日記の始まり。