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1章-2 鍵と日記

「んー!!これで今日の授業は終わりだぁ!」


午後15時。

私が大学で取っている今日の科目は全部終わり。

一週間で今日だけ早めに帰れる日なのだ。


「華澄ー!今日買い物してかない?」

「今日はごめん。まっすぐ帰るー」

「えー!じゃあ今度は必ずね」

「はいはーい」


友達からの買い物の誘い。

特に用事があったわけではないけど、なんとなく今日は気乗りしなかった。

それよりも、空は綺麗に晴れてるし。

気温もぽかぽかしているし。

散歩するにはちょうどいい。

いつもの道じゃなくて遠回りして一人でのんびり帰りたいって思った。


私の通う大学は自然に囲まれていてとても環境がいい。

門を出て、少し歩けば外国のような舗装されてない道に。

レンガ造りの家。

近くに流れる川は木漏れ日できらきらしてて。

歩いてても楽しい。

その道を少し行けば、木造のパン屋さん。

そのパン屋さんでおやつ代わりにクルミ入りのベーグルを買うの。

一人で見つけたお散歩の楽しみ。


「華澄ちゃん、いつもありがとうね」

「いいえ。おばさんのベーグル美味しいんだもん」

「ありがとうね。小さなパン屋だからなかなか人目にもつかなくて」

「えぇ?こんなに素敵なパン屋さんなのに?内装なんて外国風で私、好きだわ」

「あはは、ありがとう。華澄ちゃん、じゃあおまけにもう一個あげるよ」

「えー?!いいの?!ありがとう!」

「そういえば、この先に新しく骨董品屋さんがオープンしたみたいだよ」

「骨董品?」

「うん。珍しいものまで扱ってるみたいだかね、行ってみると楽しいかもしれないよ」

「ありがとう、おばさん。今日は時間あるし、行ってみる」


パン屋のおばさんに言われたとおり、少し坂を上ると小さな赤い屋根のお店が見えてきた。

外装からは骨董品屋というよりは、アンティークショップって感じの可愛いお店。

木の扉を開けてみると、カランと鈴の音がする。


「いらっしゃい」

「あ、こんにちは」


中にいたのは、おじいさん。

お店の雰囲気とだいぶ違うからびっくり。


「何か、お探しかね?」

「ううん・・・何が売っているのか見に来たの」

「そうかい。じゃあゆっくりするといい」

「ありがとう」


店内を見渡すと、小さなガラス細工の小物から大きな壷までいろんなものが売っている。

どれくらいの値打ちがあるのか、見ただけじゃ素人の私にはちょっとわからない。

でも少しわくわくする。


「お譲さん、ここには古いものだと江戸時代から伝わるものもあるんだよ」

骨董品に夢中になっていると、おじいさんに突然話しかけられた。

「そうなんですか?例えばどんなもの?」

そう聞くと、おじいさんはガラス戸の戸棚を開けて古い本を取り出した。

「それは?本?」

「これは日記じゃ」

「日記?」

おじいさんからその日記を受け取ると、少し重い。

皮で出来た表紙に金色の紋章が入っている。その隣に留め金があって鍵穴があった。


「それはどこかの国の王家の紋章じゃろうな」

「じゃあ、王様の日記ってこと?」

「おそらくは。だが、鍵がない。中を見ることは叶わんがな」

「鍵・・・・」


この鍵穴・・・どこかで・・・・


「わしも調べてみたんじゃ。その紋章の王家がどんな王族だったのか」

「わかったの?」

「いいや。わからん」

「え?」

「その紋章はこの世界には存在しないのじゃよ」

「存在しない?」

「おそらくは、この世界とは別の世界の王族の紋章なんじゃろう」

「嘘!そんな物語みたいな話・・・」

「お嬢さん、おとぎばなしのようなことが起こっても不思議じゃないんだよ。

何が起こるかなんて、分からんのじゃから」

「じゃあどうして、この世界に別の世界の日記があるの?」

「それはお嬢さん。何かの縁で引き寄せられたのじゃろう」

「おじいさん、この日記、どこで手に入れたの?」

「それはトップシークレットってやつじゃよ」


おじいさんはどこか不思議な雰囲気をしている。

この日記がなんなのか、何故私にこの日記の話をしたのか。

それはこのときの私は知る由もない。


「・・・おじいさん、この日記、売り物?」



それはおじいさんの不思議な雰囲気のせいなのか。

変わった出来事はおとぎばなしとしか思わない私だったのに。


いつの間にかその日記を手にして。

私は家に帰っていた。







『おとぎばなしのようなことが起こっても不思議じゃないんだよ』


帰ってからおじいさんの言葉を思い出していた。

机の上に置かれた日記。

きらきら輝く王家の紋章。

変わった形の鍵穴。


「おばあちゃん・・・おとぎばなしが、現実になっちゃうかもしれない」


今は亡きおばあちゃんの写真に話しかける。

ずっと大切にしてきた鍵。

おばあちゃんから貰った鍵。

この鍵は変わった形をしていて、ぴったり合う鍵穴なんて見たことなかった。

どんな場所に行っても、どこにも。

だから、先祖代々伝わる鍵だっていっても何のための鍵なのか。

伝わるうちに話がおとぎばなしみたいになっちゃって、本当はただのアンティークなんだろうなって、アクセサリーでファッションの一つとしか思ってなかった。


でも。




カチャリ・・




この鍵は、固く閉ざされた王家の日記を簡単に開けてしまった。


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