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第1章 東京大空襲編 第2話 午前零時八分

本編スタート。

動画が終わったので、スマホを胸の上に伏せた。


東京大空襲の記録映像。パニックサバイバルゲームをやっていたら状況が酷似しているとかで、なんとなく何回か見ている。焼けた橋と、道端に並べられた黒いやつ。何がどう黒いのかは、あまり考えないようにしている。

ハードモードをどう切り抜けられるのかと、ゲームに重ねて考えながら我ながらゲーム脳と思う。


画面の向こうの話は、画面の向こうで終わる。


わたしはいつも観客だった。


二年前まで、都内の中堅メーカーで営業をやっていた。同期が産休に入り、先輩が育休に入った。だが会社は、代わりの人間を入れなかった。


穴は残った人間で埋まる。


月の残業は百時間を超え、駅のホームで足が動かなくなって辞表を出した。上司は「まあ、しゃあないよな」と言った。


五秒もかかっていない。


こっちは辞表を出すまでに、二年かかったというのに。


それから日雇いを回している。母には「転職活動中」としか言えていない。LINEの未読は、もう二週間分たまっていた。


休みの日は、安いゲームと攻略サイトで潰れる。好きなのはFPS、パニックアドベンチャー、サバイバル系だ。画面の中でなら、何十回でも死んで覚えられる。


現実より、よほど親切な仕様だ。ゲームーオーバーしても困りもしないから全力でやり切れる。


寝る前、布団の中でだけ愚痴アカウントを開く。夕方に書いた投稿に、また反応がついていた。


〈女は黙ってても飯奢ってもらえるし、就活も優遇されてる。結局、男だけ損〉


いいねを押した。


ちょっとだけ気が晴れて、そのあと、ちょっとだけ空しくなった。毎回そうだ。


人生も所詮、一種のゲームだろ。難易度がハードなだけで、そう思うが実際にはゲームのようには動けない。


考えるのが面倒になって、画面を消した。ベッドに入り、眠った――はずだった。


*


「ふみ! ふみ、起きなさい!」


激しく肩を揺さぶられ、目が覚めた。


鼻を突く煙の臭い。梁のある低い天井が、橙色にゆらゆら光っている。耳を刺すサイレン。地響きのような爆音。


寝起きにしては、演出が過剰だ。


すると、脳内にこの身体――ふみのデータベースが瞬時にロードされた。


ここは昭和二十年三月十日、東京・深川。目の前の女はこの身体の母親。自分は十歳の「ふみ」という名前の女児。


知識としては、すべて頭に入っている。だが、そこに「母親を愛している」とか「家族が大切だ」といった人間的な感情は一ミリもない。ただの初期ステータスとしてインポートされているだけだ。


「……は?」


夢だ。


それも、タチの悪い超リアルな明晰夢だ。


柱時計は零時八分。サイレンと爆音の重さからして、昭和二十年三月十日、東京大空襲の真っ只中。


よりによって深川で、自キャラが十歳の女児かよ。難易度調整ミスってるだろ、この夢。


呆れた。呆れながら、少し血が騒いだ。


普段からサバイバルゲームの攻略サイトと戦史の資料ばかり読んでいる。この状況は、わたしにとって超高難易度クソゲーそのものだった。


死んだら目が覚めるだけかもしれない。だが、せっかくここまで臨場感のある夢なのだ。途中でバッドエンドはシャクだ。


朝まで生き残って、完全クリアしてやる。


部屋の隅では、四つか五つくらいの男の子が布団の上で泣いていた。弟だ。茂というらしい。


「ふみ、あんたは茂の手を引いて。離しちゃだめ」


母親らしい女の人に、そう言われた。


「お母さん」


自然とそう呼べた。出てきた声は高い。それでも、営業で培った「相手に聞かせる声」を作った。


「ここは危ない。すぐ逃げよう。消火は無理。風が強すぎる」


結論から短く。これで通らない相手は、今まで一人もいなかった。


「何を言ってるの! 家を守らなきゃいけないの! 隣組で決まったでしょう! 逃げたら非国民だって、あんたも聞いてたじゃない!」


ダメか。


消火義務の固定観念に縛られた、思考停止イベントだ。


正論は弾かれる。損得を並べても、「家よ、家なのよ」で終わるだろう。


攻略法は相手を選ぶ。


そんな当たり前のことを、わたしはこのとき、まだ知らなかった。


ふと視界の隅に、青白い画面が浮いているのに気づいた。見慣れたおーぷんのスレッドだ。夢だからか、念じるだけで書き込める。


母が土間のほうへ駆けていった。バケツを見に行ったのだろう。


その間に、わたしは頭の中で掲示板に書き込んだ。


*


1 T.Sakura1999@おーぷん 1945/03/10(土) 00:11:02.12 ID


起きたら昭和20年3月10日の深川にいた。

柱時計は0時8分。B-29の爆音とサイレンがフルボリュームで鳴ってる。

めちゃくちゃリアルな明晰夢だが、難易度設定がバグってて草も生えない。


*


返ってくる書き込みは、夢が作ったにしては気の利いた連中だ。


〈子供の感情を利用しろ〉


そのレスが、目に留まった。


なるほど。この母親NPCを動かすキーは、論理ではなく幼女の情か。


茂がわたしの寝間着の裾を両手でつかんだ。泣き腫らした目で、まっすぐこちらを見上げている。


わたしは、その手を握った。


熱かった。思っていたよりずっと熱くて、ずっと小さい。


夢にしては、熱すぎる。


一瞬、そう思った。


だが、夢だと決めた。決めないと、足が動かない気がした。


戻ってきた母の前で、わたしは目を潤ませた。十歳の声帯をフルに使う。


「お母さん、ここ、こわいよぉ……わたし、死にたくない……」


泣き落としの実行。


効果はてきめんだった。母の顔から血の気が引き、持っていたバケツが土間にがたんと落ちた。


「……わかった。とにかく出るわよ。茂の手、絶対離さないで」


よし、フラグ回収。


頭の奥で、スレに書き込む。


*


14 T.Sakura1999@おーぷん 1945/03/10(土) 00:19:05.83 ID


よし、正論がダメならイベントフラグ(幼女の泣き落とし)を試す。

サブキャラ(弟)の泣き声も利用して心理誘導を強行する。


15 名無しさん@おーぷん 2026/03/10(火) 00:19:30.51 ID


鬼畜プレイで草。


16 T.Sakura1999@おーぷん 1945/03/10(土) 00:20:11.20 ID


フラグ回収成功。母親NPCの動作モードが「消火」から「避難」へ上書きされた。

これよりステージ1「燃える路地の脱出」へ移行する。


*


玄関の戸に手をかけた母の背中ごしに、もう一度、柱時計を見た。


零時二十分。


戸が開いた瞬間、熱風が顔にぶつかってきた。強い北風が火の粉を雪みたいに横殴りに飛ばしていく。見たことのない下町の路地が、昼間のように赤かった。


「さて、次は路地攻略か。朝までノーコンティニューでいくぞ」


わたしは茂の手を握り直した。

小説とかほとんど素人でプロットらしきものはAIと壁打ちで作ってみた。

全然先を練り切れてないので見切り発車しました。反応あれば続けます

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